August 26, 2020

より相応しい素材を使う理由

工業製品の材料はだいたい決まっています。


もちろん、単一の素材とは限りませんが、製品の用途やさまざまな条件によって、鉄鋼、非鉄金属、プラスチックなど化学系素材、ゴム、ガラス、皮革、繊維などの中から最適な素材が決まってきます。何かの工業製品が、一般的に何で出来ているかは、常識的に判断できるでしょう。

しかし、意外な素材で出来ている場合もあります。例えば腕時計、ベルトの部分は皮革なども使われますが、本体は金属で出来ているのが一般的でしょう。外装にプラスチックや樹脂系の素材が使われているものもありますが、一般的に金属で出来ているというイメージがあります。

竹製ですが、何か。竹製ですが、何か。

少し前に、当時外務大臣の河野太郎氏が、韓国の康京和外相と握手を交わした際に、金時計がこれみよがしにひけらかされていたと、Twitterで批判されたことがありました。河野大臣の時計が何であろうと、いちいち気にしない人が大半だと思いますが、些細なことでも批判する人はいるものです。

これに対し、河野太郎氏は、同じTwitterで、「竹製ですが、何か。」と返したことが話題となりました。金属製などと違い、アトピーがひどくならないため愛用しているのだそうです。ASEANの50周年式典で記念品として配られた時計だと言います。



金属以外に樹脂などはあっても、竹製の腕時計は聞いたことがないので、金時計と思ったのでしょう。ちなみに、アマゾンで調べてみると、意外に竹製や木製の腕時計が売られています。そうとは見えないデザインもあって、価格もリーズナブルです。探せば、意外な素材の製品はいろいろありそうです。

竹製腕時針
竹製腕時計
木製腕時計
竹木製腕時


実は、竹製の自転車もあります。このブログでは過去に何度か取り上げたことがあるので、読まれた方もあると思います。でも、特に自転車が趣味でない一般の人は、竹製の自転車と聞くと驚くのではないでしょうか。もちろん、メジャーではありませんが、昔から根強いファンがいるようです。

クロモリやアルミだけではなく、カーボンやチタンなど、近年の自転車フレームには最先端の素材が使われています。竹製と聞いて、竹ぼうきの柄とか、竹竿などを思い浮かべると、いかにも頼りなく、体重をかけたら割れたりしそうに思えます。でも、竹製のフレームは、決して奇をてらったものではありません。

Ghana Bamboo Bikes InitiativeGhana Bamboo Bikes Initiative

実は竹という素材は、自転車のフレームに向いており、樹脂で固めるなど適切な処理をすれば、フレームとして十分以上の強度や耐久性を発揮します。中空なので軽いのも長所です。しなりがあってフレームとして硬すぎず、適度な衝撃吸収性があり、乗り心地が良く疲れにくいなど、自転車のフレームとして非常に優れています。

自転車での走行中には、路面から細かい振動が伝わります。長い距離だと乗り手の疲れにもつながるわけですが、これをよく吸収するため疲れにくいのです。ハイテク素材が全盛の中、あえて竹を使うビルダーがいて、ファンがいる理由の一つでしょう。竹だと加工しやすいのも利点で、自作キットも売られています。

Ghana Bamboo Bikes InitiativeGhana Bamboo Bikes Initiative

先進国ではマニア向けですが、近年は、途上国や新興国でも竹製フレームの自転車が注目されるようになってきました。竹と言うと、日本も含め、中国や東南アジアが産地のように思いますが、実はアフリカ中部にも自然の竹林が分布しています。自生していないのは北米やヨーロッパ、アフリカの北部などです。

アフリカ中西部に位置するガーナも産出国の一つです。ガーナと言うとカカオ豆が有名で、ダイヤモンドや金なども産出しますが、竹の産地でもあるのです。アフリカ全体では、世界の竹資源の12%を占めますが、利用は進んでおらず、工業製品材料としての出荷額では1%しかありません。

Ghana Bamboo Bikes InitiativeGhana Bamboo Bikes Initiative

ここに目をつけた人たちがいます。ガーナに住む、Bernice Dapaah さんらのグループです。彼女たちは竹で自転車のフレームを製造する、“Ghana Bamboo Bikes Initiative”を立ち上げました。竹の自転車で母国の人々の移動を助け、同時に貧困からの脱出、女性の雇用、子供たちの教育に役立てるための組織です。

サブサハラのアフリカでは、電車やバスなどの公共交通がなく、タクシーや自家用車などの移動手段を利用できない人が何億という単位で存在します。貧困に苦しむこれらの人たちにとって、自転車は非常に有用な移動手段となります。クルマを手に入れるのは無理ですが、自転車ならば可能性があります。

Ghana Bamboo Bikes InitiativeGhana Bamboo Bikes Initiative

これまでにも何度か取り上げましたが、サブサハラで貧困に苦しむ人たちにとって、自転車は生活を劇的に改善します。農畜産物を出荷したり、工場に通ったりして現金収入を得る可能性が出てきます。水道もないので、水を運ぶのが重労働ですが、自転車があれば大幅にラクで、時間短縮できます。

近くに病院もなく医者もいません。街へ病人や怪我人を運ぶ手段もありません。もちろん舗装路もなく、悪路を数十キロから百キロ以上走る必要があったりしますが、自転車があれば傷病人を診療所に連れて行ける可能性があります。サハラ砂漠以南のアフリカでは、救急車は自転車という地域も少なくないのです。



竹の自転車なら、ガーナでも安く製造でき、現地の人でも手に入れられる可能性が出てきます。海外からフレームを輸入する必要はなく、安定的に生産できます。製造に電力も少なくて済みますし、溶接や高度な加工技術も必要ありません。まさに途上国向きのフレーム素材でもあるわけです。

もちろん、フレーム以外のパーツまで竹というわけにはいきませんが、フレーム素材にガーナに豊富にある竹を使うだけでも、大きなコストダウンになります。自国生産なら人件費も安くなります。これまでガーナ国内でほとんど利用されていない竹を有効活用する意味でも、これを使わない手はないでしょう。

Ghana Bamboo Bikes InitiativeGhana Bamboo Bikes Initiative

Ghana Bamboo Bikes InitiativeGhana Bamboo Bikes Initiative

自転車は、排気ガスを出しません。竹で製造しても環境を破壊することはありません。竹は成長が速く、そのぶん温暖化ガスを吸収します。金属加工と違って、エネルギーを無駄に使うこともなく、土壌汚染もありません。国連の掲げる持続可能な開発目標に貢献することも出来ると、Dapaah さんは考えています。

Ghana Bamboo Bikes Initiative”で竹製自転車を製造するにあたり、雇用も創出しています。地元の農村地域の人に製造技術を教えていますが、その半分は女性です。特に働き口の少ない女性の収入を増やしたいと考えているのです。今後5年間で、雇用者数を250人まで増やすのが目標です。



自転車が売れるたびに、その利益で農村地域の子どもに自転車をプレゼントしています。地域の子どもは、学校に行くのに歩くしかないので、何時間もかかります。この時間を短縮して、勉強する時間を作り出したいのです。このことが子供たちの将来を開き、貧困からの脱出につながることを知っているからです。

竹がエコで持続可能な素材というだけでなく、こうした、いわゆる社会的企業の運営を可能にしているわけです。その意味でも、Dapaah さんは竹が奇跡の植物だと感じています。これまでの5年間で、3千台以上の自転車を販売し、欧米への輸出も始めました。今後5年間で1万台の自転車を子供たちに寄付する計画です。

Ghana Bamboo Bikes InitiativeGhana Bamboo Bikes Initiative

Ghana Bamboo Bikes InitiativeGhana Bamboo Bikes Initiative

話は違いますが、香港や中国本土の都市などへ行くと、ビルの工事現場の足場に、竹を使っているのを見ます。低層の個人宅などではなく、高層ビルでも竹の足場です。日本では考えられないので、初めて見ると驚くと思います。高層の竹の足場を、職人が平気で歩いています。

足場が自立する必要はないので、竹でも十分ということなのでしょう。日本人には信じられませんが、向こうでは当たり前です。最大の理由は安いからです。十分な強度もありますし、竹は軽いので、運んだり組み立てるのもラクです。さらに、錆びにくいのも利点です。



安い竹で十分ならば、わざわざ金属の足場を使う必要はないでしょう。竹が豊富に手に入る場所ならば、竹を使わない手はありません。竹の足場なんて前時代的な感じがしますが、わざわざ先進的な素材を使う必要はなく、その場に最適な素材を使うほうが合理的と言えます。

ガーナでは、自転車のフレームに、まさに竹が合理的と言えます。私たちは、より新しい素材、最先端の素材のほうがありがたく感じてしまいます。しかし、よく考えれば、安くて優れた性質を持つ従来からの素材で十分ということもあるでしょう。素材に対する常識を疑ってみることも必要なのかも知れません。




◇ ◇ ◇

米国ウィスコンシン州でまた警官による黒人男性の銃撃が起きました。ケンカを仲裁しただけで武器も持っていない男性を背後からなぜ7発も撃つのか、これだけ問題になっているのに警官は何を考えているのか不思議です。

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