April 20, 2021

自転車違反金は導入すべきか

自転車に違反金の導入が検討されています。


自転車にはクルマのような反則金、いわゆる青キップのような制度がないため、摘発されるといきなり赤キップで犯罪としての前科が残ります。このため、実際に起訴されることが少なく、実質的な抑止力となっていないのが問題でした。クルマとの不公平さも指摘されるところでしたが、新しい制度の創設が検討されています。


自転車に少額違反金 取り締まりの新制度創設へ 14歳以上検討

自転車に少額違反金警察庁の有識者検討会は15日、自転車運転の取り締まりについて、新たな違反金制度の創設を求める中間報告書をまとめた。自転車運転が摘発されても起訴される割合が極めて低い現状を踏まえ、少額の違反金を支払わせる枠組みを作ることで、多くの違反者の責任を問うことを求めた。

警察庁は新制度の創設に向け、道路交通法の改正を視野に検討を始める。検討会は立ち乗り二輪車「電動キックスケーター」などの普及で交通環境が複雑になることを見据え、自転車の違反者に対する取り締まり強化の必要性を指摘した。

新制度では交通違反をした自転車の運転者に違反金の支払いを求める。刑事罰とはせず、前科はつかない。対象は14歳以上を目安に検討し、運転免許証やマイナンバーカード、学生証といった身分証明書などで本人確認する見込みだ。自転車には運転免許制度がないため、車やバイクのような点数制度は作らない。

警察は2006年以降、信号無視など悪質な自転車運転の摘発を強化しており、20年の摘発は2万5465件で06年と比べて40倍超に増えた。摘発の際は大半のケースで刑事手続きに入ることを示す「交通切符」(赤切符)を交付。検察が略式起訴すれば裁判所が罰金などを科している。しかし、道交法違反罪で実際に起訴されるのは1〜2%にとどまる。

罰金となれば前科として残るため、検察側は極めて悪質な違反以外は他の犯罪とのバランスを考慮し、起訴することに消極的になっているとみられる。

車やバイクと異なり、自転車には「交通反則切符」(青切符)の制度がない。車やバイクの場合、一時停止をしないなど比較的軽い違反をすれば、青切符を切られて反則金の納付を求められる。しかし、刑事罰ではないため納付すれば前科はつかない仕組みになっている。

報告書は赤切符の制度による自転車の取り締まりについて「刑罰的な責任追及が著しく不十分なものにとどまっている」と指摘。現在の制度に代わるものとして「少額の違反金など、違反の抑止のために実効性のある方法を検討すべきだ」と訴えている。(2021/4/15 毎日新聞)


自転車に少額違反金自転車利用者のマナーの悪さ、交通ルール違反の多さの問題は、たびたび指摘されるところです。危険でもあり、クルマのドライバーや歩行者として、苦々しく思っている人は多いでしょう。この状態を改めるため、少額の違反金制度を導入しようということのようです。

おそらく、趣旨には多くの人が賛成するのではないでしょうか。危険という点では、交通ルールを遵守しているサイクリストにとっても脅威であり、自転車乗りの中でも賛同する人は多いかも知れません。もし、危険な違法自転車が減るならば、多くのサイクリストにとってもメリットがあります。

しかし、異論もあるでしょう。まず、実効性が伴うのかという疑問があります。どうやって本人確認するのかという点です。記事には「運転免許証やマイナンバーカード、学生証といった身分証明書などで本人確認する」とありますが、携行していない場合はどうするのでしょうか。

反則金を払いたくないと、身分証明書を持っていないと主張する人も出てくるでしょう。住所氏名を尋ねられて虚偽の申告をしても、確認のしようがありません。もしくは確認に相当な手間がかかります。この点をクリアするため、免許証や許可証のようなものを発行し、携行を義務付けるようになる可能性があります。

これは膨大な行政の手間を発生させます。どういう形になるにせよ、発行・照会機関などが必要になるでしょう。そして大きな利権を生みます。わざわざ警察官僚の天下り先を作るようなものです。違反金制度に実効性をもたらすためとは言え、大きな経費がかかり、私たちが余計な負担をすることになります。この点が問題です。

すでに実例があります。クルマの運転免許関係は利権だらけです。例えば交通安全協会、全国組織もあれば各都道府県ごとにもあります。その職員の多くは退職した警察官や警察官僚の天下りです。免許をお持ちの方なら免許更新の際に、あたかも義務かのように加入を求められ、お金を支払ったことがあるのではないでしょうか。

実は任意で、まったく入会する必要はありません。入会しても何の意味もない証拠に、警察官で加入している人は皆無だと言います。さらに、こうした組織が運転免許講習などを独占受注しています。そして、5年ほど在職するだけで数千万の退職金ほかが支払われます。過去には横領などの不祥事も起きています。

交通違反の取締りの問題もあります。俗に「ネズミ捕り」と呼ばれる、ワナのようなスピード違反の取締りに疑問を感じている人は多いでしょう。それ以外の違反についても、警察は否定しますが、警察官にノルマが課されていたことが明らかになった事例もあります。恣意的な取締りがあると指摘されています。

交通反則金はいったん国庫に入りますが、それが交付金として各公安委員会に配分されることになっています。道路の設備などに使われ、人件費として使われることはないと言いますが、お金に色はついていません。この交付金の歳入予定額は予算に計上されており、予定通り集めるためにノルマが必要なのは明らかでしょう。

自動配送ロボット歩道通行自転車安全教室

自転車に違反金制度が導入されれば、交通違反の一定の抑止効果が得られるのは確かだと思います。しかし、国民から吸い上げられた違反金が、天下りした警察官僚の懐を肥やすことになるのも容易に推察されます。こうした利権を増やすことになるのが問題です。

違反金徴収のためには、免許証のようなものが必要になる可能性がありますが、自転車に免許証がある国というのは聞いたことがありません。全ての国の事情を知っているわけではありませんが、日本と同じような赤キップに当たる制度はどこでもあるものの、免許があって反則金制度がある国というのは無いのではないでしょうか。

ちなみに、中国は除きます。中国には至るところに監視カメラが設置されており、顔認証で個人が特定されます。歩行者が信号無視しただけでも、場合によっては街頭のモニターで顔が暴露されたり、罰金が科されたりします。中国では自転車の違反金も容易に徴収できるでしょう。監視国家と言われる所以です。

違反金を導入する前に、交通ルールの教育を徹底すべきとの意見もあるでしょう。自転車の法規を正確に知らない人は多く、知らずに違反してもめることもありそうです。14歳以上にするという区切りの根拠も不明です。子どもから金を取れとは言いませんが、小中学生でも危険な違反者はたくさんいます。

個人的に思うのは、違反金制度の導入の前に、自転車の車道走行を徹底すべきではないか、ということです。例えば、車道を逆走すれば違反ですが、歩道ならば違反になりません。違反キップを切られるのはイヤだからと、歩道走行する人を増やす可能性もあります。

これだけ自転車の違反が多く危険な状態なのは、そもそも、自転車を歩道走行にしたのが原因だと思います。自転車を歩道走行させているのは日本だけです。日本以外は当然のこととして車道走行で、車両の一種として走行します。一定の秩序が出来ており、わざわざ危険な違法行為をする人は多くありません。

マナー向上 width=

日本でも、もともと自転車は車道走行でした。それが、高度経済成長期にクルマとの事故の増加が問題とされ、道路整備が追い付かないことを理由に、緊急避難措置として自転車を歩道走行させたのです。そして交通行政の怠慢で、実質的には50年にわたって、そのままにしてしまいました。

50年以上も続けていれば、歩道走行が当たり前になってしまいます。歩道だったら右側だろうが駅前広場だろうが関係ありません。歩いているのと同じ感覚で、特に交通ルールを意識することなく走っているのです。これが、自転車のルールが守られない状況を形成したのは明らかでしょう。

日本の交通行政の痛恨の失敗です。近年になって、警察も方針を大転換させましたが、まだまだ歩道走行が当たり前のようになっています。この点を正さずに、秩序を形成するのには無理があります。ルールを守らせるためとは言え、このままの状態で違反金をとろうというのは間違っているのではないでしょうか。

そもそも、自転車のルールが守られないような状態にしたのは警察であり、いわば無法状態にしておいて、今度はそれを理由に違反金をとるのは、理不尽だと思うのです。マッチポンプと言われても仕方ありません。それに、自転車が歩道も車道も走行できる状態では、取締りも徹底できないのではないでしょうか。

もちろん、50年以上にわたって歩道走行にしてきたため、いきなり車道走行は怖いという人も多いでしょう。道路の整備も自転車の歩道走行を前提に進められてきたため、車道走行が危険な場所もあります。ドライバーも自転車は歩道を走るものと思っている人が大多数という調査もあります。

ですから、まず自転車の走行空間の整備を行うべきです。自転車レーンです。全国の主要道の8割には、すぐにでも設置できる余地があるという報告もあります。警察や国交省なども、今までのような歩道の通行帯ではなく、今後は車道への自転車レーンを設置していくとしていますが遅々として進んでいません。

自転車マナー啓発ルール違反

一定程度、自転車の走行空間が整備され、自転車の利用者が車両としての自覚を持って車道走行をすれば、諸外国のように自転車の走行に秩序が形成されていくでしょう。そうなれば諸外国と同じように、違反金制度など不要になります。秩序を形成するのに、違反金だけが方法とは限りません。

違反金制度を創設しても、違反をとられるのがイヤだからと歩道走行されたら、歩道のカオス状態は変わりません。取締りも難しいのではないでしょうか。自転車が歩道走行して、中には暴走する人がいる限り、歩行者が危険な状態も解消されません。

私は、海外でもあちこちの国で自転車に乗ったことがありますが、少なくとも先進国では、自転車の走行に一定の秩序やモラルが出来ています。もちろん違反者がいないとは言いませんが、わざわざ危険なのに違反をする人は多くないと思います。当たり前の車道走行だからです。日本のように歩行者感覚で乗っていないからでしょう。

つまり、きちんと車道に自転車の走行空間を確保し、全世界の常識である車道走行を徹底させれば、自ずと秩序が出来て、違反金制度などいらなくなると思います。事実、自転車の反則金を制度化している国は、私の知る限りありません(中国を除く)。

前半で述べたように、違反金を導入しようとすると免許や許可、照会などの制度が必要となり、いろいろと無理や無駄が出ます。せっかく自由な乗り物なのに、自転車に免許なんて世界の笑いものです。自転車の歩道走行から始まって、どんどん世界の当たり前からズレていくだけです。

警察庁の有識者検討会なるものが、どのような意図、あるいは目論見で違反金を導入しようとしているのかは知りません。しかし、あまり無理筋の方策を探るのではなく、まず本来あるべき姿に戻して秩序の確立を目指し、世界的な常識に沿った、ごく自然で当たり前の状態に持って行くのが正しい道なのではないでしょうか。




◇ 日々の雑感 ◇

水面下で交渉が進んでいたようで9月までにワクチン全員分が供給されそうです。後は、一刻も早く摂取が進むよう自治体に供給スケジュールを伝え、接種者の確保を支援するなど万全の体制・準備を整えてほしいものです。

このエントリーをはてなブックマークに追加

 デル株式会社


Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。



 楽天トラベル

この記事へのコメント
 こんにちわ。

 まずは、車両としての走行の徹底には、大賛成です。まずはここを徹底しないといけないと常に考えています。

 しかしながら、自転車を本格的に歩道に上げたのは、今上陛下が高校生のころ。現在の子供から見ると、2世代(以上)前からになります。その結果、小中学校では、歩道のみを走るように指導、左右構わず安全に思える側を走るように指導している状態(子供が小中学校の時先鋭に確認しました)。先生の先生、親の親の世代から、正しい交通方法を知らないことになります。

 ここで、罰金を取って取り締まりといっても、自転車三人乗車の場合のように、安全だと思える・利便性の追求から、大反対も起きることでしょうし、身分証明を隠すことも多発することでしょう。

 ご指摘のように、取り締まりの際、一番問題になるのは個人の特定と証拠の確保になると思います。以前、こちらでも任意保険証の所持を義務付ける案をご提案したと思いますが、現状は、そのような甘いレベルでは、改善不可能なように思います。

 現状の技術を見ると、生体情報での個人特定が一番費用対効果が良いように思えます。例えば、日本人全員の指紋データベース(一度でも違反摘発経験のある者のデータベースでも有効でしょう)で個人特定するわけです。

 監視社会は嫌ですが、現状は、自動車のドライブレコーダーのデータを5Gで吸い上げて、顔認証で、自転車の違反を摘発する必要があるレベルに来ていると思います。
Posted by ひでさん at April 22, 2021 09:51
いつもの内容と違って、かなり感情的になられていませんか。警察に関する説明は真実ですか?。根拠のない憶測ではありませんか?さも事実の様に記載するのはいかがなものかと思いますよ。責任問題になりかねませんからね。
Posted by 事実を知る者 at April 22, 2021 10:36
cycleroadさん,こんばんは.

私はこの国で,「自転車安全利用五則」なる物ほど無責任この上ないものは無いと思っております.自転車は車道左側と謳いながら,私の住む長野地区においても現実にはそれを骨抜きにする道路整備が続いてしまいました.広過ぎる歩道は自転車の通り道として使い物にならないのはご主張の通りです.

今日もテレビ朝日系の昼の番組で,表題の件について放送されていましたが,あの番組も出演者は自転車に関してはその専門的な知識や実走経験を持ち得ず,勿論世界の新しい自転車事情も知らない(?)事実上のド素人ばかりで,最後は自転車の乗り手にばかり責任と負担を押し付ける内容になってしまうので不満です.勿論「自転車保険」が全く役に立たないとは言いませんが,必要なのは貴兄も仰る通り,車道左側通行を基本とする自転車の交通ルールの正常化です.
Posted by マイロネフ at April 22, 2021 20:24
ひでさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
折しもEUが、AIの利用に関する規制案を公表しました。顔認証はAIを使うことになると思いますが、公共空間で顔認証システムを使った警察捜査を原則禁止としています。
「監視社会」につながる懸念から世界で議論になっているわけで、自転車の違反金であっても忌避される可能性が高いのではないでしょうか。
ITを利用した認証であっても開発や経費には大きな予算が必要ですし、登録照会機関などの天下り先が出来るのは必至です。
自転車の違反に苦々しく思っている人は多いでしょうが、やはり弊害もありますし、監視国家へ向かうとして、支持されにくいのではないかと思います。
Posted by cycleroad at April 23, 2021 14:01
事実を知る者さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
とくに感情的になどなっていません。警察関係者や、心情的に警察に肩入れする方は反感を持たれるかも知れませんが、一般的な市民感情からも、さほど離れたことを言っているとも思いません。

私は警察関係者ではありませんし、誰もそう思っていないでしょう。ですから、確実に事実かはわかりません。当然ながら私の言うことが絶対に正しいなどと言うつもりがない一方で、伝聞以上のことを知りようがないのは明らかです。確実に事実として知っていることしか書けないなら、何も書けなくなります。ただ、必ずしも根拠がないわけでも憶測でもなく、それなりに調べています。

交通安全協会が警察の天下り先で講習などの利権を独占していることは周知の事実ですし、違反の取締りについても、数々の報道がなされています。公安委員会交付金が、最初から予算化されているのも事実でしょう。一般的に言われていることを指摘しているに過ぎません。

貴殿がどれほどの事実を知っているのか知りませんが、都道府県によっても事情は違うでしょうし、ここでの指摘が事実でないと言い切れるなら、そのエビデンスを示していただきたいものです。明らかだと認められれば、喜んで訂正させていただきます。

そもそも単に意見を述べているだけであり、「さも事実の様に記載する」必要もなく、その気もありません。誰も、そんなことを思ってないでしょう。個人のブログで何が責任問題なのかも意味不明です。個人を攻撃しているわけでもなく、公権力への批判であり、言論の自由でしょう。

警察の肩を持つのは勝手ですし、気に入らない人もあるでしょうが、私は、私の意見として書いているだけです。批判されるのは結構ですし、いかがなものかと思われるのも勝手です。ただ、本旨とは外れた部分であり、そんなところにわざわざケチをつけても仕方ないのではないでしょうか。
Posted by cycleroad at April 23, 2021 15:17
マイロネフさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃるように、テレビ番組などでコメントする人も、大半は歩道走行している人でしょうから、正しい法知識や現状認識にも欠けている場合が多いですね。弁護士が間違えたことを言っているのを聞いたこともあります。

短い時間で車道走行の正当性や有効性を説明しても、視聴者には理解しにくい面もあるのだろうと思います。多くの人の理解を得るのは困難だと思いますし、番組進行もあるでしょう。一般大衆に興味を持たれる内容にならないということもあるのかも知れません。
実は、私もテレビへの出演を要請されたことがあるのですが、お断りしました(笑)。
Posted by cycleroad at April 23, 2021 15:36
 
※全角800字を越える場合は2回以上に分けて下さい。(書込ボタンを押す前に念のためコピーを)