July 10, 2021

消費エネルギーを何に使うか

室内でペダリングする人が増えています。


国によりますが、近年、海外では室内用のエアロバイクが売れています。コロナで巣ごもりを強いられたり、密になるのでスポーツジムに行けないといったコロナ要因もありますが、その前から伸びています。特にアメリカやイギリスなど肥満大国と呼ばれる国では、自宅でのフィットネス需要で市場規模が拡大しているのです。

以前も取り上げましたが、この分野では、“Peloton”の影響が大きいと言えるでしょう。2012年にフィットネス関連のスタートアップとして創業した若い企業ですが、今やアップルやネットフリックス、テスラなどに比肩するほどの知名度、ブランド価値を持つと言われるほど注目され、急成長している会社です。

単調な室内でのペダリングのモチベーションをアップさせたのが人気の理由でしょう。“Zwift”などもそうですが、オンラインでつなぎ、自宅にいながら人気インストラクターのライブ・クラスに参加したり、バーチャルのレースで競ったり、仮想世界をサイクリングしたり出来るようになりました。

RE:GENRE:GEN

さて、この分野に、新たに参入した企業があります。イギリスはバーミンガムを拠点とする、“Fit-Tech”を掲げるスタートアップ企業、“Energym”です。“RE:GEN”というエアロバイクを提案しています。『ワークアウトをクリーンエネルギーに転換する世界初のスマートフィットネスバイク』という触れ込みです。

簡単に言えば、発電できるエアロバイクです。エアロバイクをこぐ力を、発電機によって電力に変換します。エアロバイクをこげばフィットネスにはなりますが、エネルギーとしては、言ってみれば無駄になっています。このパワーを電力として生かそうというわけです。

部屋の中でエアロバイクや、ローラー台、トレーナーなどを使ってペダリングする人なら、労力のロスと感じることもあるでしょう。例えば、もう2時間ペダリングしたから、外乗りならば40キロは進んだだろう、仮にリッター8キロのクルマでガソリンが157円なら、785円分だなどと暗算したりするかも知れません。

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せっかく汗をかいてペダリングした仕事量を電力に換えられるならば、たしかに有効利用ということになるでしょう。電気代の節約になれば、それもモチベーションになるかも知れません。電力だけでなく、“Sweatcoin”という暗号資産(仮想通貨)会社と提携し、商品購入の割引などに充てることも出来るというのもウリです。

ペダル式ポータブル発電機
人間の筋肉で一番力が出るのは足ですから、ペダル型の発電機というのは理にかなっています。ですから昔からあります。特に災害などの非常用グッズとして売られているものが多いでしょうか。ペダリングによって発電をするというアイディア自体は珍しくありません。

私は以前にも、これと類似したジェネレーターを載せたフィットネス用のエアロバイクを見た記憶があります。それも、ペダリングによる発電で、金銭的なメリットを得るというコンセプトでしたが、ほとんど注目されませんでした。とくに新しいとも感じませんでした。

実は、最初にクラウドファンディングサイトでこの製品を見た時には、話題として取り上げるのを見送りました。あまり資金が集まっていませんでしたし、それほど話題にもなっていなかったからです。過去に似たものを見たのも理由です。しかし、改めて最近見たら、28人から目標金額の3倍を集めて資金調達に成功していました。

この“RE:GEN”、世界初のスマートフィットネスバイクというのは、少し誇張にも思えますが、暗号資産に変えて商品購入の割引に使えるなどの点は新しいと言えるでしょうか。せっかくトレーニングするわけですから、それが何らかの形で有効活用できるならば、悪い話ではありません。

RE:GENRE:GEN

ただ、せっかくのスタートアップ企業の意欲的な製品にケチをつけるわけではありませんが、個人的には多少、疑問があります。これまでも、自転車型の発電機を使って人力で発電するというイベントなどは世界中で行われてきました。同様の事例は数多くありましたが、イベントとしてはともかく、あまり実用的ではありません。

つまり、労多くして功(益)少なし、という例が多いのです。たくさんの人で何時間も一生懸命ペダリングして、ようやく使える電力が少し得られる感じです。自分で発電した電気で何かを光らせる、動かすというのは、それなりに注目されたり、エコなどの意義はあるでしょうが、あまり現実的ではないという例がほとんどでした。

その理由は、効率が圧倒的に悪いのです。自転車を改造して、例えば直接、脱穀機を回すなどなら、途上国などで有用な事例はあります。しかし、いったん電力に変換して、その電力で何かの電気製品を動かそうとすると、全く現実的ではなくなります。エネルギーのロスが大きすぎて実用的でないのです。

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災害時などの非常用の足漕ぎ発電機も、実際に使ってみるとわかりますが、非常に労力がかかります。機種によっても違いますが、一般的な家庭用の製品だと、一生懸命こいでも、一台のスマートフォンをフル充電するのに、2時間以上かかる計算です。もし一人でこいだら、その倍はかかるでしょう。

それだけペダルが重いのです。自転車で道路を走っているぶんには2時間でも平気です。しかし、発電するためには相応の負荷がかかります。走行時はペダルをとめ、惰性でも進みますが、発電は違います。言ってみれば、坂を上るようなものです。2時間、坂を上り続けるのは相当キツイはずです。

大汗かいて、たぶん4時間以上こいで、スマホ一台分の電力です。非常用のペダル型発電機はコンパクトなため、余計に効率が悪いので、エアロバイク型なら、もう少し効率は高いと思いますが、人力発電というのは、あまり高効率でないのは間違いありません。

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1回のトレーニングで、13インチのラップトップ、2.6台分のフル充電、スマホなら14台分とアピールしていますが、個人的には疑問です。1回のトレーニングがどれくらいの時間、強度なのか書いてないのでわかりませんが、そこまでの電力が得られるなら驚異的でしょう。

電力を貯めるバッテリーの容量は、100Whとあります。1回のワークアウトで簡単に一杯になる容量にするとは思えません。相当の余裕を持たせるはずです。どれだけペダリングすれば100Whになるのか、使ったわけではないのでわかりませんが、仮に100Whまでフル充電したとしましょう。

それでも、例えば1000Wの家庭用掃除機で使えば、6分で消費する量です。ホームオフィスの1日の電力を供給できると書いてありますが、具体的に1日分がどれくらいなのかは書かれていません。ただ、最近のラップトップやスマホ、タブレット端末などは、そもそも大きな電力は消費しません。

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そのあたりがミソだと思いますが、試しにスマホの充電で計算してみます。機種によって違いますが、スマホのバッテリーは、5000mAhくらいでしょうか。スマホの定格電圧は3.7Vですが、同じでは充電できませんので、供給する側は最低でもUSBの規格の5Vとなるでしょう。

すると、25Whということになります。最大容量まで充電したとしても100Whならば、スマホ4台分にしかなりません。最近は急速充電が当たり前で、10V、20Vとなれば、実際には1台か2台分くらいでしょう。スマホなら14台分とあるのは、計算があいません。

重箱の隅をつつくつもりはないのですが、ペダリングによる発電というのは実用的でないという認識からすると、このあたりが疑問に感じるわけです。1回のワークアウト、ホームオフィスの1日の電力という部分の曖昧さはありますが、100Whというのは、いずれにせよ大した電力ではありません。

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金額にすれば、よりイメージがわくかも知れません。電気料金は、基本料金と従量料金があり、利用量で段階的に変わってくるので一概には言えませんが、一般的な家庭であれば、1kWhあたり、20円から30円くらいでしょうか。つまり、100Whをフルに充電したとしても、2円から3円分ということです。

何回のワークアウトで100Whがフルになるかはともかく、その程度の電力です。それを言っちゃあおしまいよ、と思われるかも知れませんが、フィットネスを電力にしても微々たるものなのです。自分の力で充電した機器を使うという満足感は否定しませんが、あまり効率的とは言えないでしょう。

暗号資産の会社と提携と言われると、新しい感じはしますが、それでも金額的には同じです。暗号資産にして貯めておいて、仮に高騰して10倍になってもタカが知れています。商品の割引に使えるというのは、むしろ商品を買ってもらうためで、街で割引券をタダで配っているのと同じことでしょう。



無駄になるエネルギーならば有効活用したほうがいいのは否定しません。それがトレーニングのモチベーションになる人には、それも悪くないでしょう。しかし、ペダリングを電力にしても微々たるものにしかなりません。むしろ、別の商品を売るマーケティングのための仕組みなのでしょう。

この製品はCO2排出量を削減するとも書いてあります。しかし、これも減ったとしても微々たるものです。むしろ製造時の排出を考えたら大幅にプラスでしょう。そのあたりも誇大広告に近い気がします。Zwiftアプリとも互換性があるので、エアロバイクとして使うのに問題はないと思いますが..。

最近は、FinTech、EdTech、AdTech、AgriTech、FoodTec、など何々テックがあふれています。テクノロジーには違いないですが、ペダリングで発電するという、ありふれたアイディアで“Fit-Tech”を掲げるのも、多少胡散臭く思えてしまうのは、私だけでしょうか。

やはりペダリングが効率的なのは移動です。こちらは驚異的なエネルギー効率になります。もちろん、エアロバイクも有酸素運動になりますし、脚力や心肺機能などを鍛えます。ついでに発電するのは構いませんが、ペダリングのエネルギーで、健康をチャージしているということでいいような気がします。




◇ 日々の雑感 ◇

東京に4度目の緊急事態宣言、もはや日常です。感染者は増えていますが若い世代が多く、重症者は減少、病床逼迫の懸念は低いでしょう。後から検証したら、経済面から見ても今回は不要だったとなりそうな気がします。

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この記事へのコメント
 一般人が一気に出せるのは、400Wを1分くらいなので、エネルギーを他に転用するには、あまり実用的ではないですね。
 ただ、全体的な省エネを考えるなら、そのエネルギーで扇風機を回すという考え方もあります。体が発熱した分エアコンを強くするのではなく、風を当てて涼もうという考え方です。以前、こちらのサイトでも同じようなアイデアを見た覚えがあります(確か機械的にファンを回していたと思います)。蓄電池技術の発達した現在なら、機械式ではなく、数分間分の電力を蓄えて、風力・負荷を平均化し、クールダウンにも適応するというシステムもありうると思います。
 発生するエネルギー的には、漕いでいる間にほぼ消費してしまうというのが落としどころのような気がします。
 
Posted by ひでさん at July 12, 2021 14:32
ひでさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
何もしなければ、エネルギーは、ほぼ熱として放出されるか、摩耗するだけなので、エネルギーがもったいなく感じるのは確かですね。
どうせなら、何かに使おうという発想は自然と言えるでしょう。
ただ、機械式で扇風機を回すのはいいと思いますが、一旦電気に換えて蓄電するのは、やはりあまり効率的ではないと思います。
負荷を平準化するなら、フライホイールなどを使う手もありますが、そうすると慣性が生じるぶん、トレーニングにはマイナスになってしまいそうです。
Posted by cycleroad at July 13, 2021 16:29
 
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