November 01, 2021

強制でなくそっと背中を押す

「ナッジ」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。


ナッジ(nudge)という単語は、(合図のために)ヒジでそっと突く、押すといった意味です。行動経済学・行動科学の分野で使われると、『望ましい行動をとれるよう、人を後押しするアプローチ、手法』ということになります。2017年に、シカゴ大学の教授が行動経済学でノーベル経済学賞を受賞して注目されました。

何かを禁止したり、強制したり、大きな経済負担を負わせたりするのではなく、自由な選択の中で、人々をより良いの行動に導こうとする、または手助けするような方法のことを言います。ちょっとしたきっかけを与えることで人々に行動を促す手法とも言えます。

簡単な例では、コロナ禍でよく見る、店の入り口やレジの前の床に貼られた足跡のマークがあります。何も言われなくても、自然と足跡の上に立って前の人との間隔を空けるでしょう。ソーシャルディスタンスを取れとか、間隔を空けない人には退出してもらうなど、強制・禁止するよりスマートで効果的です。

たくさんの応用例がありますが、最近欧米などでは、気候変動対策にも用いる事例が出てきました。例えば、都市交通を少しでも脱炭素化しようという試みです。EVも化石燃料車よりはいいですが、本当に効果を上げようとするならば、環境負荷のひくい自転車の活用を推進しない手はありません。

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産業や経済、雇用などが絡むと、政策としてはEVに行きがちですが、発電は完全に脱炭素していません。製造時にも大量の温暖化ガスを排出します。平均して1・2人の移動に大きな車体は無駄です。自転車や電動アシスト自転車、e-Bike に替えたほうが環境負荷が小さくなるのは自明です。

そうした観点から、都市交通の脱炭素化を推進しようという自治体は、自転車の活用を促し、一方でクルマの利用を減らそうとしています。やり方はいろいろあります。例えば、法令で曜日とナンバーなどを決めて、都市部へのクルマの乗り入れを制限するところがあります。手っ取り早く強制的に減らすことが出来ます。

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都市部への乗り入れに対して課金する、いわゆるロードプライシングという方法もあります。クルマに関連する税金を大幅に上げるなど、経済的に抑制しようと考えるところもあります。ただ、こうした強制的なやり方はドライバーの反感を買いますし、業界団体との軋轢を生むなど、必ずしも政治的に容易とは限りません。

クルマから自転車へ、人々を自発的に乗り換えさせることが出来れば波風も立ちませんし、クルマメーカーや業界団体も文句は言いにくいでしょう。これまでも、自転車の活用、クルマからの乗り換えを促すため、さまざまな手法が使われてきました。

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今般パンデミックという要因で、自転車の利用者は大きく増えたわけですが、まだ乗らない人のほうが大多数です。そこで注目されるのが電動アシスト自転車です。普通の自転車だと疲れるとか、坂がキツい、汗をかくなど、さまざまな理由で敬遠する人でも、電動ならラクですし、体力的なハードルも大きく下がります。

でも、いかに電動アシスト自転車がラクか、アップダウンがあっても快適か、乗ったことがないので知らない、実感として理解していない人は、まだまだ多いはずです。そして、普通の自転車より値段が高いのがネックです。購入に踏み切らせるにはハードルとなります。

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電動アシストのカーゴバイクだと、もっと値段が上がります。欧米では、子どもを乗せるのに電動アシストカーゴバイクを利用するのは珍しくありません。ただ、値段的にさらにハードルが高いということになるでしょう。高い買い物をして、後悔したくないと考えて躊躇します。

そこで、ナッジです。電動アシスト自転車や、電動アシストカーゴバイクなどを無料で試せる、貸出ライブラリーを設置するところが増えています。多くは自治体やNPOなどが運営し、地域の住民なら誰でもライブラリーの中から選んで、好きなタイプを借りることが出来ます。

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単なる試乗ではありません。ある程度の期間借りることで、実際に通勤や買い物、子どもの送迎など、日常生活に取り入れてみることが出来ます。短い時間の試乗では、なかなかわからないこともあります。購入した場合を想定して生活の中で使ってみてわかること、納得する部分もあるに違いありません。

例えば、ある家庭では、2人目の子どもを託児所に預ける年齢になりつつありました。もう一台、クルマを買って、夫と妻が別々に送迎することを検討していました。そんな時、この電動アシスト自転車貸出ライブラリーのことを知り、カーゴバイクを借りて、自転車で送迎する生活を試してみることにしました。

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結果として、クルマでなくカーゴバイクを買うことにしました。2台目のクルマの使用頻度は低く、コスト高ということもありましたが、子どもを乗せても安定してラクにペダルがこげましたし、使い勝手に納得できました。カーゴバイクも未知で躊躇がありましたが、実際に試してみることで購入を決断出来たのです。

クルマでなく、カーゴバイクを購入するという決定を手助けしたわけで、まさに、ナッジです。このように、使ってみれば、電動アシスト自転車は便利でラクだと実感し、活用に踏み切る人は少なくないでしょう。カーゴバイクなら、子どもや荷物を運べるなど、クルマの代替となるケースも多いに違いありません。

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アメリカ・バーモント州の非営利法人、“Local Motion”では、無料で試した人で、追跡しうる中の少なくとも17%は購入に踏み切ったと言います。なかなか電動アシスト、特にカーゴバイクを試す機会はないので貴重であり、これをきっかけに試してみようと考える人も少なくないようです。

同様の取り組み、無料の貸し出しライブラリーを展開する自治体は、各地に広がっています。細かい仕組みは多少違いますが、バーモント州以外にもコロラド州デンバーニューヨーク州バッファローカリフォルニア州コントラコスタなど各地に見られます。

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アメリカ以外に、少し探しただけでもイギリスのウェールズオーストラリアのキャンベラニュージーランドのオークランドなどで見つかります。まだまだ多くの地域にあると思います。似たような仕組みで、電動アシスト自転車の活用を進めようとしている自治体は増えています。

一部には営利企業、自転車メーカーや地域の販売会社が同様の手法をとるところもあります。電動アシストカーゴバイクなどを扱う会社は、実際に試してもらえば、売り上げにつながる可能性があります。単なる試乗ではなく、一定の期間貸し出して、使ってもらう手は十分にあるということでしょう。

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いずれもライブラリーの中から自由に選んで、無料で一定期間、生活の中で試せます。購入は強要されず、試してみるだけてもOKです。まさに、活用の判断、購入の決断を助ける仕組みです。環境負荷の低い選択を促すため、そっと背中を押します。本人が決断するので、納得感、満足度も高いはずです。

単に貸し出すだけで、実効性があるのかと訝る人もあるでしょう。しかし、法令や罰金、課金などの強制的な手法は、直接的ですが、導入がなかなか進まなかったり、市民の反発を買ったりします。むしろ、そっと押すナッジというやり方のほうが、遠回りのようで、案外効果的かも知れません。




◇ 日々の雑感 ◇

総選挙が終わりました。経済回復や苦境にある人の救済もですが、まず今のうちにやるべきコロナ対策、医療体制の再構築などを急げるのか、今迄と同じで遅々として進まず後手後手を繰り返すのかが問われると思います。

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