昨日も取り上げたワンガリ・マータイさんですが、環境分野の活動家としては史上初のノーベル平和賞を受賞した人です。逆に言えば、これまでは環境分野の活動と平和は、直接関連していなかったわけです。
マータイさんは、環境が破壊されれば、食料や水や資源を巡って紛争が起きると言います。事実アフリカなどでは、泥沼の地域紛争が起こっています。平和のためには、未然に紛争を防ぐ取組み、すなわち環境の破壊を防ぐ努力が必要だと説いているのです。
環境を守ることが平和にもつながるという主張とその行動が世界に認められ、初めて環境と平和が密接に結びついていることへの認識も広がりました。この観点からノーベル平和賞になったわけです。地球の未来のためだけでなく、戦争を起こさないためにも、環境破壊を防がなくてはならないのです。
こういうと、なんだか遠いアフリカ大陸の話で、日本人には対岸の火事のように感じるかもしれません。しかし、ことはアフリカの局地的な紛争にとどまりません。世界的な環境破壊や気候変動で、食料の需給が逼迫することも十分ありえます。気候変動による世界的凶作は、すぐにでも起こりえます。
途上国や、中国、インドの億単位の人の生活レベルが向上し、爆発的に食料を消費し始める潜在的リスクもあります。環境破壊から世界的な穀物価格の高騰を招けば、国際的な軋轢も生みます。食糧争奪戦が始まり、まさに平和を脅かすわけです。世界的凶作が、物価高騰、不景気、社会不安などとなって生活も直撃するでしょう。
日本ではあまり取り上げられませんが、水資源の減少も深刻な問題です。途上国の環境破壊による貧困や、大規模な難民の流出が周辺諸国への貧困の輸出となり、政情不安やテロの温床にもなります。地下資源の生産減少や、資源の奪い合いも起こります。一部は既に現実となっています。
生産能力の停滞となって、世界的に原油価格が高騰すれば、我々も当然影響を免れません。食料自給率以上に、肥料も、農機具の燃料も、物流も、工業製品の材料から生活用品まで、全て石油と直結しているのです。エネルギー問題が、日本の周辺国との軋轢に発展する可能性もゼロではありません。
極端な話、60年の平和が破られることだってないとは言えません。明日食べるものが無ければ、平和などという声はかき消されるのが現実なのです。現在は想像も出来ない事態ですが、日本だけは戦争を起こさず国民が全て餓死を待つと考えるのはナンセンスです。もちろんテロやそのほかの形で襲ってくることもありえます。
途上国で起こる環境破壊は、先進国の消費が大きく影響しています。私達日本人は、1日に3000万人分の食料を食べずに捨てているという推定もあるそうです。ずいぶん大きな数字に思えますが、一日に1億人が3食食べると考えれば、10分の1くらいは無駄にしているのも実感でしょう。
今さら指摘するまでもありませんが、日本は食品も穀物も飼料も肥料も、木材や資源、もちろん石油も、あらゆるものを輸入し、過剰に消費しているのです。事実そのために、ものすごい勢いで熱帯雨林が減少しています。また耕地の砂漠化が深刻な地域もあります。
自然環境の保護や、温暖化の防止、省エネルギー、省資源といった取り組みは、どうしても中長期的な課題のように感じてしまいます。ところが、まさに平和を維持するための活動でもあり、すぐに起こるかもしれない危機の回避でもあるのです。しかも、決して我々の子や孫の世代の危機ではありません。
一方で、すぐに変えられるとは限らず、変えても結果が出るのに時間がかかる問題も少なくありません。そういう意味では、一刻も早く取り組まなければ、いつ突然、危機的状況が襲ってきて、臍を噛むことになるかわからないのです。一人でも多くの人が、こうした問題意識と危機感を共有出来るといいなと思います。
参考
The Official website of Prof.Wangari Maathai(英語)
Wangari Maathai Foundation(英語)
The Green Belt Movement(英語)
Posted by cycleroad at 06:30│
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そういえば思い出しました。ノーベル平和賞受賞者ワンガリ・マータイさんと若者の交流会、という大きな看板が昭和女子大の正面入り口に掲げてありました。調べてみると、「マータイさんといっしょに私たちの地球を考えよう」という看板だったようです。 世田谷の三軒
ワンガリ・マータイさんの「もったいない」【三太・ケンチク・日記】at June 11, 2005 09:15