サイクルロード 〜自転車への道

「ほっとけない、世界のまずしさ」と言うキャンペーンが行われています。先週くらいから取り上げられる機会も増えているようで、多くの人がブログでも書いています。

サイトを見ていただくとわかりますが、このキャンペーンが、従来型の募金を集めるだけのものでなく、人々に関心を向けさせ、考えさせ、声を上げさせるという趣旨で展開しているのには、今まで以上の意義を感じます。ただ、結果としてどのように人々に伝わっているかという点については、残念に感じる部分も多いです。

ホワイトバンドをつけることを呼びかけるのは、まさにシンボリックに人々の注目を引くための意義として理解できます。しかし、それ自体が目的になってしまっている人も見受けられます。キャンペーンに参加しました、というレベルの関心でしかないのが残念です。

３秒に１人の子どもが亡くなると感覚的に訴えるのも、手段として間違ってはいないと思います。インパクトのある数字を持ってくる意味はわかりますが、感じ方もそれぞれです。数字だけで言えば、一方で３秒に８人誕生するわけですが、このサイトは、元となるデータ、数字的な根拠の説明が脆弱です。

このキャンペーンを批判したい訳ではないのですが、単にユニセフへのリンクを置くだけや、「百人の村」を部分引用するなど、粗雑な部分も多く見受けられます。幼児の死亡だけでなく人口の爆発の問題も深刻な貧困問題で、その意味では片手落ちです。

また、何よりも、問題が幼児の死亡率の高さにのみフォーカスされてしまい、世界の貧困の構造的な問題からは、ピントがずれてしまっています。貧困の悲惨さを示す数字の一つではありますが、メッセージの本質を象徴していません。かわいそう、だけが先行してしまいます。

そのせいもあってか、いろいろな人の書くことを見ていますと、メッセージの核心が伝わっていない場合も多い気がします。ライブイベントは、何か目的があったほうが盛り上がるとか、もっとコンサートをやって欲しいなどという、あらぬ方向になっているのも見受けられます

情報の受け手のレベルも問題なのでしょう。募金では間に合わず、政策を変えさせる必要があると言っても、もともと政治に興味も知識もなく、選挙にすら行かないような人も多いのに無理な相談なのかも知れません。また、そういう人の主張は、いかにもうわべだけです。



貧困問題について、関心がないばかりか、知識もない人も多いようです。問題を考える前提となる最低限の常識的な教養にすら欠けていると言わざるを得ない人もいます。一般常識としての地理や世界の歴史は当然ですが、貧困の構造的な問題を理解するための知識、様々なことについての基本的な認識すら不足しています。とても途上国の債務問題の根深さやフェアトレードなど、構造的な問題の本質の理解まで行きません。

例えば、民族紛争やイデオロギーの背景、宗教間の憎悪と原理主義の蔓延、資源の分布と簒奪の歴史、統治形態と利権と腐敗の構造、教育の普及と言論の制限、民主主義の成熟度と人々の絶望、資本の移動と投機的マネーの動き、所得レベルと人口の移動、先進国の人手不足と移民の問題なども関係してきます。

エイズやその他の疾病、水資源と衛生状態、識字率の低さや差別の問題、安全保障上のバランスと依存関係、環境破壊としての農業と砂漠化、国際政治を動かしている要素と力関係、各国の援助や国連等の活動と実態、深刻な人権侵害と武器の流通など、様々な問題も絡んでいます。

もっと以前の問題として、日本の場合は、受験のためだけの教育の弊害や、政治的無関心について考えなければいけないのかもしれません。

単にサイトの文章を引用しているだけで、他の人の参加を呼びかけているだけのサイトも目に付きます。ただかわいそうとか、私も考えなければ、という程度の感想になってしまっているのが多いのも、せっかくのメッセージの意義に比して残念ではあります。

打算的な意味ではなく、貧困の問題はテロや紛争となり我々にも負担となってはねかえってきます。原油や穀物の価格として生活にも直結するでしょう。世界的な景気とマネーの動きは、日本の雇用や所得にも影響を及ぼします。貧困の問題もグローバルな問題であり、決して募金活動の問題でないことも理解する必要があるでしょう。

一時的な関心で、義憤に駆られて、だけでは持続しません。決して慈善的精神や博愛的興味のレベルの問題ではないことを理解したうえで、行動しなければなりません。本当の解決のためには、募金ではなく政治や外交に反映させてなくてはならないのです。まず政治にも関心を持ち、勉強することから始めなければならないでしょう。

偉そうにいろいろ書きましたが、このキャンペーンの主張の本質にあるものには異論はありません。ただ、問題の本質を捉えることなく上っ面だけのメッセージを発し、「ファッション」や「流行」として腕輪だけをつけさせるようなやり方には疑問を感じるのです。

追記：
この記事を書いた時点で、このキャンペーンに対する批判は皆無でした。私は、あえて疑問を呈したわけですが、後日、私がこのキャンペーンの主催者に違和感を感じた理由の一端が明らかとなり、多くの批判が巻き起こりました。詳しくは、こちらの記事を参照して下さい。

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