November 08, 2005

パッと見には一石二鳥の名案

埼玉新聞埼玉県の中央から少し東寄りに上尾市という市があります。


その上尾市が、駅前の放置自転車をリサイクルし、災害など緊急時用の自転車として利用することを決めたというニュースが出ていました。地元の埼玉新聞だけでなく、他紙何紙か取り上げています。尾市の交通防災課では「環境に優しい乗り物として自転車を推進。いざという時に手軽に使える道具として活用したい」と話しているそうです。

ノーパンクタイヤパンクレスタイヤ

しかし、典型的なお役所仕事と言われても仕方ないでしょう。リサイクルと言うと聞こえはいいですが、駅前に放置されていたような自転車ですから、災害時に使おうとしても役に立たないケースは容易に想像つきます。放置自転車を処分するにも費用がかかるので、災害時の緊急自転車として利用すれば一石二鳥と考えたのでしょう。しかし、そもそも役に立ったという話は聞きません。

こういったニュースは、市の職員が記者クラブへプレスリリースを投げておくと、各紙が取り上げてくれる、いわば官製ニュースです。話題性があって取り上げられるのでしょうから、ニュースとしての価値はともかく、中身は、その意味や効果に首をかしげたくなるものもあります。単なる行政の宣伝としか思えないもの、行政側の思い込みで市民からすれば、笑うしかないようなものも少なくありません。

記事を見てみますと、防災備蓄庫三十三カ所に六十六台の配備だそうです。同市では昨年度、約二千台の自転車を撤去し、うち返還分を除いても千四百台です。状態の良い自転車は修理して安価に販売したり、海外に譲渡したりし、残りを他に利用できないかと考えた末、災害時の活用という結論だそうです。

放置自転車の処分という面では、台数的に焼け石に水です。今後、市の指定避難所や町の自主防災組織などへ順次配備する予定とはなっていますが、備蓄スペースから言っても、いくらでもないはずです。毎年配備するものでもありません。

シール剤埼玉県内の2003年の放置自転車の年間撤去台数は約十八万五千台だと言います。少しでも有効利用したい気持ちはわかりますが、果たして、大地震や水害などの時に有効に使えるでしょうか。

ただでさえ、格安粗悪なものの多い放置自転車、しかも残りです。保管しておいても、錆たり劣化して使えない可能性は高いでしょう。そして災害時の劣悪な道路環境で、そもそも格安粗悪なママチャリが使えるでしょうか。災害用にまで放置自転車を再利用するより、災害用には実用性を優先すべきです。

実際に使えなければ意味がありません。地震でガラスや瓦礫が散乱している中を、放置されていた自転車に乗って果たしてどれだけ実用的に使えるか疑問です。どうしてもと言うなら、せめて、パンクレスタイヤ加工くらいするべきでしょう。

連日取り上げている東京自転車展にもいくつか出展されていました。ゲル状物質を充填してパンクレスタイヤにするシステムは、結構以前から、時々見かけますが、普及度はどんなものなのでしょう。一般には、まだそれほど普及が進んでいるようには思えません。少なくとも、私の周囲のスポーツバイクに乗っている人の中では聞きません。やはり、パンク修理の手間より、タイヤが重くなり、乗り心地が悪化するのを嫌う人が多いのでしょう。

ママチャリなどのシティサイクルを通勤用に利用している場合などには、パンクの心配がないのはメリットだと思います。もちろん非常用には持って来いでしょう。最近、大手スーパーで、災害用折りたたみ自転車として、パンクレスタイヤを装着した商品を見た事があります。

個人で災害用だけに自転車をストックする人が多いとは思えませんが、災害時を考えて、パンクレスにする人は出てくるかもしれません。ほかにも、充填するわけではありませんが、パンクした穴を自動的にふさぐシール剤なども展示されていました。

リヤカー牽引自転車自治体が災害用自転車を備蓄するなら、連絡用より、リヤカー付き自転車なども必要なのではないでしょうか。怪我人の搬送から援助物資の運搬まで用途は広いと思われます。以前に取り上げた、強い足の力を使って浄水する、災害用の移動式緊急用造水自転車などもあると助かるかもしれません。

いずれにせよ、本当に使えるものでなければ意味がありません。また、備蓄せずとも街中にあふれており、いざという時、転用できるものなら、わざわざ備蓄する意味もありません。倒壊家屋からの救出用工具とか、簡易トイレとか、ほかにも備蓄スペースを有効に活用出来るものは多いはずです。

内閣府は、「放置自転車を災害用に使うケースは聞いたことがない」としているそうですが、当然でしょう。つまり、放置自転車では、災害時に役立たないからです。災害のために備蓄するならば、災害用に考えられた自転車、そして備蓄に耐えうる自転車にしなければ意味がありません。放置自転車で代用できると考えるのは甘すぎますし、むしろ無責任です。

意味ある方策なら、とっくに他の自治体も取っているはずです。ちょっと聞くと、いいアイディアのようにも聞こえますが、放置自転車対策に取り組むポーズを取るだけのものにも聞こえます。無駄で役に立たない施策でないか、単なる思いつき、市民にアピールしたいだけの政策になっていないか、厳しくチェックされるべきでしょう。

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◇ ◇ ◇

先週の飛び石連休は終わってしまいましたが、今月はもう一日、祝日があります。しかし、週の真ん中だと連休の感じがしません。飛び石連休という言葉をあまり聞かなくなるくらい、ハッピーマンデーが定着しつつある中で、なぜ文化の日と勤労感謝の日は月曜日にならないのでしょうか。関東などでは、土日に天気が崩れるパターンが続いていますので、外へ出かけるにはいいのかも知れませんが..。

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この記事へのコメント
こんにちは。
上尾市ではそんな試みがなされてようとしているのですか
災害時用というのは、冗談で言っているの?と思ってしまいます。
cycleroadさんのおっしゃる通り、地震でガラスや瓦礫が散乱している中を走れというのは無理があります。
ましてや災害時に最も大変なのは子供、お年よりの方です。
そういった方が災害時に乗ったら逆に危険です
(役所は大多数の人に向けての為に出した案だとは思いますが、大人が乗っても災害時は危ないですから)
Posted by road fun at November 08, 2005 09:39
(毎回の2度投稿申し訳ありません。)

ふと思ったのですが、自転車って購入する際に防犯登録が義務づけられていますよね?
放置自転車に貼られた登録シールを見れば持ち主がわかるのではないでしょうか?
やっぱり放置する人はそういったシールを剥がして、わからないようにしてから放置するんですかねー
だとしたら、シールからICタグに変更して所有者が発見できないようなところに埋め込んでしまうのも一つの手ですよね
(自転車は大部分が鉄なのでそれがきるかは定かではないですが)
Posted by road fun at November 08, 2005 09:41
road funさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね。災害時の状況把握や連絡手段の確保も重要だとは思いますが、それには、もっと適切な手段もあると思います。首都圏のような大きな人口を抱える地域では、避難場所が圧倒的に不足して収容しきれないなど、その確保だけでも深刻な問題があります。もちろん、救急体制の確保からエレベーターの閉じ込め多発のような問題に至るまで、様々な課題も山積しています。
都会で、ただでさえ近所づきあいのない地域も多い中、個人情報保護法によって、避難に支援を必要とする独居の高齢者などの把握すら困難になってきています。
そんな中で、このような些末な問題をニュースとして流す担当者のセンスも疑いますね。
Posted by cycleroad at November 09, 2005 00:43
2度投稿でも3度でも、全く構いませんよ(笑)。むしろコメント欄が小さくてすみません。
防犯登録の管轄は警察ですが、自治体が照会し、その照合と連絡までは、事務的に手間がかかりすぎて出来ないのではないでしょうか。せっかく連絡しても、なかなか取りに来ない人もいますし、所有権放棄されれば意味ないですし。
廃棄する手間を省くために、シールをはがして放置する確信犯もいるでしょう。防犯登録のほかに、車体番号でも確認できるはずですが、そこまでやって犯人を捜しても、盗まれたと言われればそれまでてすし、やはりコスト的に対応できないでしょう。都道府県ごとの登録で7年間くらいしか保存されないなどの問題もあるようです。
今年の春ごろ、三鷹市で実際にICタグを貼って実証実験が行われています。技術的には問題ないでしょうけど、やはり同じことでしょうね。
Posted by cycleroad at November 09, 2005 00:54
放置自転車を扱っていますが、官の考えることはこんなものです。

全体から見ると、ほんのわずかでもリサイクルなり、役に立つことをやることによって、全体の大きな割合を占める自転車が、陰で捨てられていきます。年間100万台を超すと思われます。

放置自転車を災害用に備蓄することなど、何の意味もありません。
何時来るかわからない災害に備えても、いざとなれば、どこに何台あるかなんて確認するだけでも時間の無駄です。
それよりも、自転車なんてどこの家庭にもあるのですから、自転車に困ることなど無いはずです。

つづく
Posted by fiets at November 10, 2005 23:05
民にも問題があります。
放置自転車は、ほぼ半数が所有者に返還されます。逆を言えば、半数の人が、通知を受けながら取りに行かなかったという事です。
所有権を放棄したということです。

官にも民にも共通する意識があります。
自転車を大切にしないということです。
10年も20年も使える自転車(本来は耐久消費財)が、「使い捨て」へと意識が変わってしまったからです。

自転車を扱う人間として希望します。
質のよい自転車を、長く大切に使っていただきたい。

日本人の美徳が試されているのだと思います。
Posted by fiets at November 10, 2005 23:07
fietsさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
「再来」さんですね。日本全国では本当に膨大な数の自転車が捨てられているんでしょうね。駅前などに放置されたり、街外れの目立たないところに投棄されていたり..。
私も災害用の備蓄は無駄だと思いますし、僅かな台数を有効利用しているかのようにアピールしているところにも非常に疑問を感じざるを得ません。
全く悪いとは言いませんが、おかげで実は膨大な数の自転車が廃棄されているということには、目が向けられません。資源の無駄ですし、処理費用に投入する税金も馬鹿になりません。景観だけでなく安全や治安上も問題です。
海外に無償譲渡したりするのもよくありますが、廃棄するよりいいとは言うものも、果たしてどれだけ使えるものなのでしょうか。(続きます。)
Posted by cycleroad at November 11, 2005 21:14
(続きです。)
この次の日の記事でも取り上げたのですが、粗悪で安い自転車が流通し、余計に使い捨て感覚の人が増えるのを助長していますね。
おっしゃるように、手数料を払ってわざわざ引き取りに行くより、ちょうどいいから、ちょっと足して新しいのを買おうという人が多いのでしょう。
自転車を使い捨てするのは、資源的にも環境的にも問題ですが、使い捨てするような自転車に乗っても楽しくないですし、もっといい自転車があることにも気づいて欲しいですね。
Posted by cycleroad at November 11, 2005 21:15
災害用「ストック」なら、多分メンテは最悪でしょう。殆どが空気抜けてると思います。
パンクレスタイアじゃないと意味ないでしょうね。。
Posted by unclemac at December 07, 2005 10:48
unclemacさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、いいタイヤでも長い間には空気が抜けていきますし、メンテナンスもせずに長期間置いておいたら、ほかの部分も錆びたり、ゴムが固くなってひび割れするなど、整備しないと乗れないでしょうね。
Posted by cycleroad at December 08, 2005 12:08
 
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