February 11, 2006

地道に回り道する王道が近道

白山スーパー林道昨日の北國新聞にこんな記事が載っていました。


まず最初に、記事の引用を掲載しておきます。


スーパー林道を自転車で走りたい 京大サイクリング部、管理事務所に要望書

石川、岐阜両県にまたがる自動車専用道路、白山スーパー林道が県外のサイクリング愛好家から注目を集めている。景観美と白山国立公園を有する林道の自転車開放を求め、昨年末から京大サイクリング部有志が運動に乗り出した。

メンバーは開放の要望書を提出、署名活動も行い「林道の魅力を自転車で体感したい」と実現に向け意気込んでいる。運動を始めたのは、京大四年の大塚俊介さん(22)を代表とする七人の部員有志。白山スーパー林道は紅葉や渓谷美、白山の眺望など魅力が多く、飛騨―北陸地方を結ぶ貴重なルートでもあることから部内で開放を望む声が上がっていた。

大塚さんらは▽道路が全区間二車線で対向車との事故の危険性が低い▽自転車は環境に負担がかからない▽国立公園や自然はすべての人が享受すべき―などといった理由を盛り込んだ要望書を昨年末に石川と岐阜の白山林道管理事務所に提出した。

さらに部のホームページで署名活動を展開。林道が自転車に開放された場合の地元自治体への経済効果や、比較として富山県の有峰林道など他の山岳道路での自転車事故の調査も行っている。三月に管理事務所を訪れて署名と二度目の要望書を提出する。

大塚さんは「汗をかいて自然をじかに感じながら走るのが自転車の楽しみ。この運動を多くのサイクリストに知ってもらい、各地で通行規制が緩和されるきっかけになるといい」と話している。

県サイクリング協会によると、白山スーパー林道は山岳道路で有料道路でもあるため、採算性など各種課題は残るが、環境面や自然を楽しめる利点から「前向きに開放を進めていくべきだ」と理解を示している。両管理事務所はカーブや急勾配(こうばい)が多いなどの理由で「規制の解除はできない」とした上で「気持ちは分かるし、興味を持ってもらえるのはうれしいこと」(石川管理事務所)としている。(北國新聞/2006年2月10日)


林道と言ってもオフロード車やマウンテンバイクでしか通れないような道ではありません。白山スーパー林道は幅員が6.5メートルもあって完全に舗装された有料道路です。誰でも一度くらいは名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。

残念ながら、私はクルマでも通ったことがないのですが、景色は抜群でしょう。大学のサイクリング部でなくても、自転車で登りたい気持ちは理解できます。多くの観光道路から自転車が締め出されていることについての疑問も同感ですし、個人的に運動の趣旨には共感します。

ただ一般の人からすれば、そんな標高の高い所まで、また標高差の大きい道路を自転車で登るなんて、まず考えられないのが実際のところではないでしょうか。挑戦するような人も滅多にいないと思うでしょう。日本の場合は、大多数の人が自転車で山道を登るなんてナンセンスだと思っているのが実情で、街中の歩道を走るママチャリに多少毛の生えた程度のイメージしか持っていません。坂道は基本的に降りて押すものと思っています。

実際に、峠道を自転車で登っている人を見ることも少ないでしょうし、あっても「よくこんな所に自転車で来るね」とよっぽどの変わり者を見たように思うに違いありません。せいぜい競輪選手か何かのトレーニングなど、特殊な事情と考えるでしょう。自転車ロードレースの山岳ステージを見たことも無ければ、周りでそんな趣味の人もいない人が多いはずです。結局、それだけ少数派ということだと思います。

記事の論調も、「スーパー林道を自転車で走りたい人がいる」、ことがニュースであり、県のサイクリング協会も理解は示すだろうが、実際に開放されることは考えにくい、というスタンスのように読めます。個人的には、この京大生諸君の意気込みは買えます。

しかし、冷たい言い方をするようですが、世間一般からすれば共感すらされていないのかも知れません。かえって気楽な学生のワガママか若気の至りと考えられるのがオチでしょう。私も心情的には賛成したいのですが、あくまで客観的に見ると疑問と言わざるを得ません。

白山スーパー林道彼らのサイトにある主張を読みますと、純粋にこの道路を走ってみたい気持ちも、首を傾げたくなるような自転車の規制が多いということにも、私は共感できます。

しかし、一般の人の賛同まで得られるとは考えにくいですし、国立公園の観光のあり方を問うためという理由もやや説得力に欠けます。

単に自分達が走りたいだけと見られてしまう恐れがあります。学生を非難するつもりはありませんが、一般の人からは独善的と見られるのがオチでしょう。

たまに、高速道路は自転車に開放すべきだと言う人がいます。クルマは環境に良くないし、エンジンを持たない自転車こそ走りやすい道路を走るのが合理的である、などと主張します。本に書いている人までいます。気持ちはわかりますし、夢や理想を語るならOKです。

でも真剣に主張するのは、実際にはナンセンスです。一般の多くの人の共感は得られず、独りよがりと言われても仕方ありません。その人だってクルマによる流通の世話にもなっているわけですし、経済や公共の福祉も考えざるを得ません。実際問題として、良い悪いを論じるだけでは書生の議論であり、相手にもされないでしょう。

それと同じとは言いませんが、多くの人が納得出来る要望でないと通ることは期待できません。日本の現状が、未だ自転車についての理解も利用も乏しいことも背景にありますが、広く共感してもらえる主張でなければ、関心すら持たれないでしょう。やはり現状では、ごく限られた一部の人の権利を認めて規制を解除するより、双方の安全や大多数の通行の利便性を優先する判断を多くの人は支持するに違いありません。

また、何か事故や問題が起きて世間の注目が集まった時に、必ず施設管理者の管理責任が問われることも背景にあるでしょう。そのようなことが多いために、行政側としても規制を解除したくないに違いありません。規制する側からしてみれば、権利ばかり主張するが、義務や責任は負わないと考えるでしょう。当人は責任を転嫁するつもりがなくても家族やマスコミが問題にするケースもあります。日本人の意識や社会構造、歴史的背景にも起因する話ですから、難しい問題ではあると思いますが..。

この京大生諸君も、いくらサイクリング部とは言え、毎日白山へ行くわけじゃないんだから、もう少し現実的な提案をしたらどうかと思います。例えば、自転車に開放する日を要望したらどうでしょう。「白山スーパー林道ウォーク」として歩行者天国のイベントもあるようですから、「白山スーパー林道ライド」として自転車天国の日を設けて下さいと運動すれば、もっと多くの理解や賛同も得られ、ずっと可能性も高まると思います。

実際に郊外へ出かけて、峠道などを登ってみるとわかりますが、通行規制こそ無くても通りにくい場所はたくさんあります。暗くて狭くて舗装も悪いトンネルで、下るならまだしも登る時に大型車が迫ってきたら誰でも恐怖でしょう。そうでなくても、あんなに空気の悪い中を延々と登るのはつらいですし、トンネル開通前の旧道を自転車用に残してくれと思う場所もあります。

峠道のカーブでクルマが反対車線にふくらむのを防ぐために、センターライン上にポールが立っていることがあります。大抵道幅も狭く、自転車としても避けるに避けられず、クルマも抜くに抜けない、センターラインをまたげないという非常に危険な状態になります。大型車なら登りでスピードも落としたくないのでしょう、そんな場所でスレスレを平気で抜かれると肝を冷やします。

そんな、何とかして欲しい場所はたくさんあると思います。しかし、それを要望するのが果たして現実的でしょうか。そこを通る自転車が年間何台いるかと問われれば、少ないことは容易に想像がつきます。毎日通るわけでもなければ、生活上通るのが必要な理由もありません。全体から見れば、そんな必要性の低い改良に税金を使えとは、さすがに言えません。無謀でしょう。言っても無駄というものです。

個々の場所の議論はともかく、まず私は自転車に対する理解を社会に広めることが必要だと思います。決してママチャリが自転車の性能の標準ではないことも知ってもらうべきです。自転車が駅までの足以上に使えることも、スポーツとして楽しいことも、現実的な選択肢としての交通手段たりえることも、これからの時代に世界的に注目されていることも、全て実感として理解されれば、もっと有効に活用する人も増え、社会的なコンセンサスも形成されるに違いありません。

郊外の道を自転車で楽しむ人達が増えれば、道路の改良への理解もすすみ、大勢の人が納得するならば、実際の工事も行われるようになるでしょう。何だか、えらい遠回りのようにも感じます。しかし私は遠回りのように見えても、そうした理解や普及や世論の形成を経ずには、多くは実現しないのではないかと思います。

個々の道路の規制解除や改良要望の運動を否定するわけではありません。しかし、急がばまわれと言うこともあります。遠い道のりのようでも、臨界点を越えればブレイクし、加速して多くの場所で実現するかも知れません。結局、まわり道するしか仕方が無いような気がするのです。





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