自転車をとめてもカギをかけない人、実はかなり多いようです。
盗難防止の観点から言えば、犯人に手間をかけさせるため、カギは2つ以上かけると効果的と判明しています。最近はワンアクションで2つの錠前がかかる自転車も販売されおり、春のシーズンを前に売れ筋のようです。でもカギは、かけなければ何の意味もありません。しかし面倒なのか、忘れるのか、施錠しない人は意外に多く、結果として自転車盗を誘発しています。
自転車盗は、凶悪な強盗致傷事件や高額な窃盗事件が増加している背景がなかったとしても、いかにも軽い犯罪のように思えてしまいます。事実、発生件数もかなりの数です。警察も一件一件捜査するのは物理的に無理ですし、犯人は捕まる可能性も低いと考えるのでしょう。
一件あたりの被害金額も多くなく、道ばたに無防備にいくらでも駐輪しているという事情もあります。人家に侵入する空き巣などに比べれば、犯行も格段に容易で、心理的な垣根も低いこともあってか、少年による犯行が多いのも特徴です。
しかし、自転車盗は青少年が非行に走るきっかけになることが指摘されています。犯罪白書などによれば、非行に走った少年が更生できずに犯罪者になる率も少なくないわけで、多くの重大犯罪を重ねた最初は、一件の自転車盗という例も少なくないようです。
そう考えれば、たかが自転車泥棒と軽視することは出来ません。目の前にたまたまあった、カギのかかっていない自転車をふと出来心で盗んでしまったことから、一人の少年の将来が変わってしまうのであれば、決して小さな問題と無視するわけにはいきません。
もちろん、直接的には盗んだ少年が悪いことは間違いありませんが、カギをかけずに自転車を駐輪することの罪も考えてみるべきでしょう。他人の子が犯罪に走ろうが知ったことではない、という人もいるかも知れませんが、一人の少年を犯罪者に育ててしまうのであれば、社会的にも大きな損失です。
純粋に経済的に考えても、一人の人間が善良な市民として社会に生涯貢献する金額と、犯罪者となっての直接の被害から捜査、拘置抑留、裁判、服役、矯正を試みるための費用まで考えたら、その差は莫大です。結局は市民に税負担として跳ね返ってくるとも言えます。
少年でなくても、あると便利ですから、つい軽い気持ちで目に入った自転車を使ってしまう人も後を絶ちません。有名人とか公務員、警察署の幹部まで捕まってニュースになっています。カギを壊して盗む確信犯は別としても、自転車の無施錠が犯罪を誘発する可能性に目をつぶるわけにはいきません。
以前書いたような
「破れ窓理論」から言っても、たかが自転車の無施錠が小さな犯罪行為を生み、それが治安の悪化につながります。結局は市民に犯罪被害として跳ね返ってくるわけです。
ちょっと拝借されたとしても、いったん乗り捨てられたら探すのは困難です。仮に数ヵ月後、迷惑駐輪の撤去として連絡が来ても、その頃には、おそらく新しい自転車に乗っているに違いありません。個人的にも不便を被りますし、不要な出費を強いられることになります。
放置自転車をリサイクルして販売する動きもありますが、ほとんどは廃棄されることになるので、資源的にも大きな無駄です。迷惑駐輪に占める割合はわかりませんが、確実に撤去費用が増加する要因にもなるわけで、これも税金として跳ね返ってくることになります。
ただ、警察も決して座視しているわけではありません。自転車盗の減少のために、実に地道な努力をしています。防犯を呼びかける活動はもちろん、個別に捜査は出来ないまでも、盗品自転車発見のために駐輪場などをチェックしたり、不審な自転車は被害届を照会するなどの方法で、少しでも多くの自転車が被害者の元に戻るように努力しています。もちろん、職務質問等を通じて犯人検挙にも努めているわけです。
そんな警察の取組みの中で、
ちょっと新しい例がありました。福島県の桑折署では、盗難に遭う前に、施錠に問題のある自転車を見つけて、ダイヤル式のチェーン鍵を取り付けてしまうという活動をしています。説明書を付けた3桁のダイヤルキーのチェーンを、駐輪場などで施錠していない自転車に、勝手に取り付けられてしまうのです。
チェーンを取り付けられてしまった持ち主は自転車を動かせません。そこで説明書に書いてある通り警察に電話し、番号を聞いて開錠するという仕組みとなっています。駐車違反の時に付けられる黄色い違法駐車標章、俗に言うワッカみたいですが、罰金を支払わされるわけではありません。
昨年2月から始めたそうですが、著しい成果を上げていると報じられています。勝手に施錠するなと怒る人もいそうですが、当初心配された住民からの苦情もほとんど寄せられていないと言います。何より市民の意識が変わり、今では施錠に問題のある自転車を探すのが大変と言いますから凄い効果です。
一般に3桁のダイヤルキーでは簡単に破られる可能性も高いらしいですが、市民の意識が変わることにより、実際に同署管内の自転車盗難がほぼゼロになっているそうです。チェーン代は税金から支出されるわけですが、実に効果的な投資と言えそうです。
他の都道府県でもぜひ見習うべきと思うのですが、各都道府県警の間には見栄や面子があるのか、横の連携がうまく行かないのは捜査協力だけではないようで、その辺は残念な部分です。
各都道府県によって事情が違い、盗まれた自転車のうち無施錠の占める割合にもバラつきがあるようです。それでも盗まれる自転車の半数から7割が無施錠という高い割合なのは間違いないわけで、今後の広がりに期待したいところです。
盗まれた場合の被害金額は別としても、盗まれて不便な思いをすることを思えば、施錠しない人が多いというのは、今いち理解に苦しみます。忘れることもあるかもしれませんが、最初さえ気をつければ、すぐ習慣になり無意識にでも施錠するようになるはずです。
犯罪の抑止や青少年の非行防止という社会的な観点から言えば、自分が損するだけなのだから無施錠でもいいだろうという自分勝手は許されることではありません。警察の活動を待つまでもなく、自らカギかけを励行すべきであり、むしろルールと認識するべきではないでしょうか。