April 03, 2006

夢から覚めた現実的未来都市

これから未来に向けて、都市はどのような姿になっていくのでしょうか。


多くの人が漠然とイメージする未来の都市と言えば、天を突くような超高層ビルに、空中を行き交う空飛ぶ乗用車、チューブの中を走る鉄道など、SF小説か未来を舞台にしたハリウッド映画にでも出てくるような都市をイメージする人が多いのではないでしょうか。

しかし地球環境のことや持続可能な社会、エネルギー問題などが言われるようになってきた昨今、科学が進歩して空を飛ぶクルマが技術的に可能になっても、必ずしも普及するとは限りません。むしろ、現在より省エネルギーで地球環境に優しくエコロジーな都市が現実のものとなっていきそうにも思えます。

自転車交通システムそう考えると、一見、退歩したようにも見えますが、今より自転車が見直され、未来の都市交通の主役となっても不思議ではありません。以前、ベロシティという構想について取り上げ、なんとか実現出来ないものかと考えましたが、案外未来の都市の姿に近い部分があるかも知れません。

ベロシティは夢の構想ですが、アメリカはコロラド州にあるバイシクル・トランスポーテーション・システム社(Bicycle Transportation Systems, Inc.)は、さらに一歩現実へと踏み込んでいます。

同社は、交通や輸送の未来を担うのは自転車輸送システムだと主張しています。パース図のような自転車専用の高架道路による自転車交通網を提案しており、その技術的な特許まで取得しているようです。Transglide 2000と名づけられたこのシステムは、パッと見た限りでは、ただの、ちょっと小奇麗な屋根つきの遊歩道のようにも見えますが、これが未来の交通システムです。基本的には自転車専用の高架道路で、相互方向に分離された筒状の通路内に風が流されています。ベロシティとも共通の考え方です。

未来のシステムこれによって実現するのは、路面電車やバス、そしてクルマよりも結果として速い移動速度、低いコストで鉄道並みの大量の輸送能力です。初期投資としての建設コストや維持運営経費が圧倒的に安く、継続的な助成金も不要で大きな利益を生み出すと提案しています。当然環境にも優しく、高度なテクノロジーの開発や実現を待つ必要もありません。

ふだん、特にスポーツタイプの自転車に乗っている方なら、追い風に乗れば、軽くこいでも速い速度で長い距離をラクに移動出来ることは実感としてわかると思います。このシステムは、走行レーン内に追い風を起こすことによって走行抵抗の90パーセントの効率アップを実現し、快適な乗り心地を提供すると共に平均時速40キロメートルでの移動を可能にするそうです。この外で1キロ乗るエネルギー量で10キロ乗れると書かれています。

TransGlide 2000

TransGlide 2000の小さなサイズと単純なデザインからは、想像できないようなパフォーマンスです。もちろんシステムは自動化されて一箇所でコントロールされ、人件費をはじめとする営業経費を下げるためにモニターで完全に監視されます。

既存の道路に併設して輸送能力を増やすことも可能にしますし、都市交通としても経済的かつ公害が少ないので住民も受け入れやすく、便利で最も健康によい輸送機関と言えます。他の輸送システムより支える重量が小さいのも、建設コストやスペース的に有利でしょう。

TransGlide 2000

このシステムで、人々は自分の自転車に乗るか、備え付けの自転車を借りることになります。もちん自分の自転車は電動アシスト付きでもリカンベントでも構いませんし、車椅子のユーザーならハンドサイクルも可能だと書かれています。

そして自分でこがずにベロタクシー、すなわち自転車タクシーに乗って移動することも出来るわけです。また自転車による貨物輸送サービスも提供出来ると指摘しています。送風によってラクに移動できるので、メッセンジャーばかりでなく、もう少し重い荷物でも運べるということでしょう。

TransGlide 2000

ベロシティに比べると非常に現実的な絵です。アメリカでの反応は別として、果たして日本での実現性はあるのでしょうか。この4月から道路公団も分割民営化され、それぞれ高速道路会社になりました。将来的に日本でも民間の「専用サイクリングレーン会社」なんかが出来てもおかしくありません。

しかし、土地の権利関係の調整も難しそうですので、民間でのレーン建設は困難な気もします。やはり自治体などがメインとなりそうです。でも自治体が採用するには、あまりに突飛で可能性が無いように思う方も多いのではないでしょうか。

場所をとらずに

ここからは私の勝手な推察です。全く実績がないにもかかわらず、大規模な交通システムとして採用するのも、特に地方自治体には敷居が高そうです。しかし意外と糸口はあるかも知れません。例えば日本には、全国で9路線の新交通システムが存在しており、来年には東京の足立区と荒川区を結ぶ日暮里・舎人(にっぽり・とねり)線も開通予定です。

新交通システムとは、道路の上などに高架で建設された専用軌道を走行するゴムタイヤの車輌などによる鉄道システムです。騒音や振動も少なく、地下鉄などに比べれば格段に建設費が安く済みます。国の補助金を受けて自治体や第3セクターが運営しており、東京の新橋とお台場を結ぶ「ゆりかもめ」などが有名です。

しかし現実には、民間と違って経営能力や努力も不足しており、そもそも元々の利用予測が大甘過ぎるのは地方空港など多くの公共事業とも共通です。結果として、ほとんど全ての路線で赤字です。その特殊な構造から地下鉄など他の鉄道と相互乗り入れするわけにもいきません。

実際2005年度の決算が黒字で累積赤字が無いのは、観光客も多い「ゆりかもめ」だけです。愛知県小牧市の「桃花台線」では今年、新交通システムとしては初めて廃止されることも決まりました。この軌道を野ざらしにするのではなく、自転車交通システムとして利用できないでしょうか。

未来の都市交通

恐らく小牧でも一旦は民営化などの方策が模索されるでしょうから、ずっと後の選択肢でしょう。しかし、従来の鉄道タイプの交通システムと違って、運営経費が圧倒的に違います。運転手も車掌も駅長も、電車すら不要です。利用客によってダイヤを工夫する必要もありません。

本当は無料で利用できれば言うことなしですが、イニシャルコストの償却やメンテナンスも必要でしょうから、ある程度の利用料を設定するのは仕方ないにしても、鉄道に比べれば低額に抑えられます。今までの交通システムの代替交通手段としても検討の余地はあるのではないでしょうか。

アメリカなら州間のハイウェイにも併設可能とされています。そこまではともかく、都市部での交通として自転車が注目されるのは、ヨーロッパなどだけでなく、クルマの帝国アメリカにおいてすら例外ではないようです。もはや世界の趨勢と言えるのかも知れません。未来都市の風景としては地味です。SF小説やハリウッド映画には出てこないかも知れませんが、都市の未来は、案外こんな形にあるのかも知れません。



4月になり、新入生や新入社員、新しい環境での生活をスタートした方も多いでしょう。折りしも東京などは桜満開ですが、未来の都市でも相変わらず花見酒などのシーンは続いていくのでしょうね(笑)。

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 SF映画の未来都市。エアカーなんかが、びゅんびゅんと行きかう。ブレードランナー、マイノリティーリポートなどの映画。その景色は、子供のころSF小説好きだったので、それなりに説得力がある(?)。でも、エネルギー的には、これ以上消費を拡大してしまう方向では、個人...
未来都市。エアカーより自転車がいい!【しなやかな技術研究会β】at April 04, 2006 10:57
この記事へのコメント
初めまして!
車ばかり乗っている毎日ですが、自転車は大好きなのです・・・が、
行動が、どうも?自動車向き?なのか・・・
早く、遠くに行く生活の中でもっとうまく付き合いたいと考えています。
ところで、イメージ画のチューブの中を走るのは>どうもいただけませんネ〜私的には・・・
自然と一体になりはしりたいですネ。
勝手なことm(__)m
Posted by kazupon at April 04, 2006 10:26
う〜ん・・・どっちかというと車をチューブの中に入れてほしいです。なんで環境を重視してる自転車が自然の中で走れないのかな?なんて思ったり。ぼくは色白ですが太陽にあたるのが大好きなんですよ〜w今年からトライアスリート特有の変な日焼けもできると思うのですが・・・wまっ、いっか。
Posted by 沖縄の人 at April 04, 2006 14:11
kazuponさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私もクルマに乗らないわけではありませんが、うまく使い分けることが出来るとどちらも楽しめるし、有益なのではないでしょうか。
言われてみれば確かにそうですね(笑)。自然の中を走る爽快感は簡単に放棄できません。
でも、もし実現したとしても都市部だけ、それも都市部全部がチューブにはならないと思います。都市のクルマや人の多い部分ではラクでしょうし、自転車専用道という意味では安全、快適、雨でも無関係で、風のお陰で速いと来れば使う人も多いでしょう。
郊外は相変わらず自然の中を走ることになるでしょうし、都市でも高速道路と一般道路のように使い分けることになるのではないでしょうか。
Posted by cycleroad at April 06, 2006 08:20
沖縄の人さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
理念から言えばその通りですね。でも環境面から車道を覆うなら一部だけでは無意味になってしまいますし、全部覆うのは現実的には難しいでしょう。また、クルマは屋根も動力もある点ではチューブは不要です。もちろん排気ガス対策は進めるべきですが..。
今のように自然の中を走れなくなるわけではないと思います。実現しても一部ですし、チューブでない道も選べるでしょう。それとこの構想、パースで見る限りは屋根の部分は透明のようですから、日焼けは出来ると思いますよ(笑)。
Posted by cycleroad at April 06, 2006 08:37
 
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