
駅まで5分乗るだけという人から、1日に何百キロも走破する人まで、一口にサイクリストと言っても様々です。
買い物など日常の足として使うだけの人を何と呼ぶかはともかく、どこでも自転車で行ってしまう自転車大好きサイクリストも多いことでしょう。しかし、数多いサイクリストの中でも、「冒険サイクリスト」「荒野のサイクリスト」と呼ばれるような人は、そうはいません。自転車雑誌などで取り上げられたこともあるので、ご存知の方も多いかも知れませんが、
安東浩正さんは、極寒のシベリアを自転車で単独横断したことでも知られる冒険サイクリストです。
「植村直己冒険賞」を受賞したこともある冒険家ですが、自転車による冒険にこだわっています。冬季のシベリア横断は約1万5千キロを8ヶ月ですから、1日平均60キロです。それも氷点下40度を下回ることもある極寒の地で、氷の上や道なき道を行くわけですから想像を絶する世界です。ブリザードで何日も動けないこともあるそうですし、村すら存在しないような土地も多く、1週間も人に遭わなかったりするそうです。
地図にもないルートを探しながら進み、自転車を担がなければならないこともあると言います。道のりの9割以上は辛くて、「何度、自転車を捨てたいと思って座り込んだことか。」と振り返っています。氷点下数十度の雪原で、ブリザードが吹き荒れる中のテントでも眠らなければなりませんし、イザとなったら自転車にくくりつけて運んでいたスキーで、自転車を捨てて歩いて雪原を脱出する覚悟もしていたんだそうです。
凍結しているとは言え、間宮海峡、つまり海も自転車で渡ったそうです。狭いところで幅は8キロなので、渡った人は少なくないと言いますが、潮の流れも強く、全てが凍っているわけではありません。事実、真冬の海に転落したりもしたそうですから、普通の人なら溺死か凍死は免れません。誰が助けてくれるわけでもありません。
また、自転車ですから、食料だっていくらも持って行けません。その都度現地調達ですが、お金で食料が買えるような村は数百キロごとにしか存在せず、現地の遊牧民とか漁民とコミュニケーションがとれなければ、餓死も免れません。もちろん普通の人なら一生食べることのないようなものであっても、平気で食べられなくてはなりません。
日本で、冬の自転車は寒いとぼやいている(笑)普通のサイクリストからは隔絶した世界です。まあ、冒険なんて一般人には縁のない世界ですし、考えもよらないでしょう。家族もいるし、そんな危険なことは出来ないと言う人がほとんどだと思います。しかし、安東さんは、危険を冒すことが目的ではないと言います。冒険すなわち危険ではないと言うのです。
もちろん自然が相手ですから全く危険がないわけではありませんが、危険を冒すリスクは出来るだけ減らし、周到な準備をした上で、自分の限界に挑戦するのだそうです。普通の人が初めから安東浩正さんと同じことは出来ません。でも安東さんも、冬に鉄道でシベリアを通ったり、アラスカの冬季に走ったりなど経験を重ねた上で、何年もかけて挑戦しているのです。自分の限界を把握して、少しずつステップアップさせることが大切と言います。
一般の人から見れば危険に見えますが、本人にしてみれば、ほとんど危険を感じる場面はないそうです。一般の人とは経験のレベル、限界のレベルが違うということでしょう。そう考えると、いわゆる冒険家のする冒険ばかりが冒険ではありません。人それぞれのレベルでの冒険、新しいチャレンジがあるわけです。むしろ日常生活に流されて、冒険しようとする気持ちを失っているかどうかの違いかも知れません。思えば、子供の頃は、隣町まで行くのだって冒険でした。大人になった今だって、それぞれの冒険があるはずです。
幸い、私達も自転車に乗っています。自分の限界や経験を踏まえた上で、自転車に乗って新しい冒険に出かけることが出来ます。走り慣れた道で距離を伸ばしてもいいでしょうし、未知の街へと出かけるのもいいでしょう。ふだん自転車で出かける圏外に出れば、ワクワクする新しい冒険の始まりです。徐々にステップアップすれば、海外だって自転車で旅することが出来るかも知れません。
安東さんも、最初は、あちこち海外をバックパッカーとして旅をしていたそうです。それが、たまたま海外で自転車を買って乗り始めたら面白くて、海外を自転車で走る旅行にハマってしまったと言います。安東さんはチベット高原とかシベリアなどを冒険されていますが、普通の人は必ずしも自然環境の厳しいところへ行く必要もないですし、単独行でなくてもいいわけです。
自転車だと自分自身の力で進むことができる達成感があります。人との距離が近いので、他のどんな旅の手段より、人に出会える可能性が高く、その意味では丁度いい、ジャストスピードの乗り物でもあります。車輪をちょっと外して袋に入れてしまえば、そのまま電車や飛行機にだって乗れます。なにも自分の限界に挑戦するとリキむ必要もありません。新しいチャレンジ、ちょっとした冒険を始めてみるのもいいかもしれません。




安東さんの著書は、上段一番左のみ。



ゴールデンウィークが近づいています。社会人なら、さすがに8ヶ月休む訳にはいかないでしょうが、G.Wや夏休み、お正月休みを利用して出かける手もあります。自転車だけなら交通機関の混雑とは関係ないですし、テントを使う気になれば宿泊の予約も不要です。連休はどこへ行くのも混んでますが、自転車なら、思い立ったときに、自由に気が向いた方面に出かけることも出来ますね。
Posted by cycleroad at 11:00│
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