May 09, 2006

ただ造ればいいわけじゃない

サイクリング今年のゴールデンウィークは、日にちの並びが良くなりました。


海外へ出かけた方は過去最高になったようです。日本から海外への年間の渡航者数は、ここのところ1600〜1800万人で推移していますが、海外から日本への入国者数はその3分の1程度でしかありません。当然国際収支もこの観光分野においては大幅な赤字です。

自分達が出かける海外旅行に比べて、外国人の訪日については、一般的に関心が薄いのも確かです。歴史的に見ても、政策的・制度的な観光の振興は、製造業や商業、科学技術などと比べて著しく軽視されてきたのも間違いありません。

しかし最近は、いわゆるインバウンドの観光客が、旅行業や宿泊業などに留まらず、国内の産業に非常に裾野の広い需要を喚起し、大きな経済効果をもたらすことが理解されるようになってきました。観光に関する直接消費だけでも20兆円、雇用効果は180万人と推計されています。

二次的な経済波及効果を含めれば、50兆円、雇用は400万人に及ぶ21世紀のリーディング産業でもあると考えられています。 経団連も「国際観光立国に関する提言」をまとめていますし、政府もその実現を目指して、観光立国懇談会や観光立国関係閣僚会議を立ち上げ、「観光立国行動計画」を策定するなど、官民をあげて観光立国を目指す気運が高まっています。

イギリス全土に日本人にしてみれば、果たして日本へ来て面白いのだろうか、と思わないでもありません。しかし、日本にいると気付きませんが、今世界中で日本に対する興味は高まっており、世界的な日本ブームと言ってもいいくらいだそうです。潜在的訪日希望者数も増えています。もちろん西洋の国ばかりでなく、中国をはじめとするアジアからの訪日客も増えています。

その背景として、アニメやゲーム、ファッションなど最近の日本のカルチャーに対する興味が大きいこともあるでしょう。しかし、スシやテンプラを挙げるまでもなく日本の食文化や、武道や歌舞伎といった伝統芸能からハイテク技術に至るまでの様々な要素、他のアジア諸国とも違う東洋的神秘を感じさせつつ、非キリスト教国ながら西洋的価値観も融合する独特の国として、世界の人々の興味を惹くのでしょう。

よく日本へ来る中国人が一番見たがるものは、意外にも富士山だという話を聞きます。豊かな自然にも恵まれていますし、日本に世界遺産は12もあります。また独特な歴史的建造物も多く残り、温泉や食材も豊富です。我々には何の変哲もない農村風景が、水と緑に恵まれた美しい異国の景色と感じる外国人もいるでしょう。六本木や秋葉原、浦安だけが観光スポットではないわけです。観光立国のためには、そうした多くの観光資源を魅力あるものとして整備すると共に、旅行しやすい環境を整えることも考えなくてはなりません。

ところで、先日取り上げたイギリスの持続可能な輸送や交通を推進する団体、SUSTRANS(サストランス、またはサストラン)は、その意味でも多くの示唆を含んでいます。SUSTRANSが整備を進める全英自転車道ネットワークは、イギリス国内の人々がサイクリングに利用するだけのものではありません。

サイクリング網

海外からイギリスへ来訪する外国人に対して魅力的な交通手段を提供することも、その役割として計算されています。インターネットやガイドマップなどを通して世界にアピールし、イギリス旅行のプランニングを誘っています。ひるがえって日本のサイクリングコースに海外向けの案内のある道路が果たしてどれだけあるでしょうか。

サイクリングネットワーク

日本の自転車道は、単にサイクリングを楽しむだけのコマ切れで互いに連携していないものが多いのに対し、全英自転車道ネットワークは、実際に1万6千キロもの自転車道を整備しネットワーク化することによって、まさしく交通手段として使えるように展開されています。

サイクリング網

サイクリング自体をイギリス旅行の魅力としてアピールするだけでなく、海外からの旅行者に現実的な移動手段の一つとして提案しているわけです。人口の5割が1マイル以内でアクセスできるほど網羅されており、その利便性も見逃せません。

全英自転車道ネットワーク

イギリスと言えば、ロンドンだけでも魅力のある観光スポットはたくさんあります。例えば大英博物館だけでも広くて見応えがありますし、私などは一日中見ていても飽きません。でも、イギリスの本当の良さは田園地帯にあると言われます。

特にイギリス南西部の田舎町などを訪れたことのある人なら、ロンドンだけしか見ないのは、あまりに勿体無いという意見に同意されるのではないでしょうか。世界中の人を魅了する風景ですが、多くは列車も通っておらず、私もそうした地域を旅したことがありますが、非常に交通が不便なところです。そのため自転車も現実的で有力な選択肢になるでしょう。

全英自転車道ネットワーク全英自転車道ネットワーク

全英自転車道ネットワーク(The National Cycle Network)の整備は、旅行者に利便を与えるだけでなく、地元の人にも利益をもたらします。前回書いたような、「通学路安全プロジェクト」以外にも、沿道の住民の住みやすさを考え、実際の生活に役立つ整備も進めています。また、旅行者を呼び込むことは、クルマだと単に通過されてしまう地域へも、沿道に観光や休憩などの経済効果をもたらすことにつながります。

全英自転車道ネットワーク

もちろんイギリス国内へも、大気汚染や地球全体の気候変動による被害を食い止めるためだけでなく、自らの健康のため、また旅行だけでなく、ふだんの生活でも環境負荷を減らす移動手段として、その積極的な利用を呼びかけています。そのための啓発活動やボランティア活動への参加募集、リサーチやモニタリングから沿道へのアート作品の展開まで、様々なプロジェクトが推進されています。

全英自転車道ネットワーク

外国人も都市の住人も地元の人も、旅行も買い物も通勤通学も、誰でもいつでも自転車を使うという選択をするためには、安全で便利な交通手段としての自転車道ネットワークは必要不可欠なインフラです。そして、その整備が利用者や住民だけでなく、地域にも観光産業にも利益をもたらし、地球の将来にも貢献します。日本で考えるようなレジャー用の単なるサイクリング道路の整備とは根本から考え方が違います。そう考えると、自転車道は戦略的に整備すべき社会資本であると共に、国家レベルで考えるべき将来への投資と言えるのではないでしょうか。



このゴールデンウィーク、主に私は東京近郊で自転車に乗ってました。ずいぶん距離も走ったので久しぶりに筋肉痛も出ました。この時期、時差ぼけや筋肉疲労が残って調子が出ない人も多いでしょうね(笑)。

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Posted by 人気ブログランキング・ブログ検索「ランブロ」管理人 at May 12, 2006 13:01
人気ブログランキング・ブログ検索「ランブロ」管理人さん、ご紹介ありがとうございます。検討します。
Posted by cycleroad at May 12, 2006 23:14
いつも楽しく拝見させていただいております。
イギリスと言えばフットパスが有名ですが、自転車道についてもきちんと計画して作っていたのですね。知りませんでした。
以前スイスに行った時、同様に自転車道が整備されていて(それにほとんどの電車や船にそのまま載せられる)、すごいなぁと思ったことを思い出しました。
http://www.myswiss.jp/cycling/index.htm
いつかは自転車でスイスを巡ってみたいなぁと本気で思っています。
イギリスも良さそうですね。ドイツにも行ってみたいし、どうしましょ。
私は札幌在住なんですが、ひとまず地元の自転車道からかな。
http://www.city.sapporo.jp/kensetsu/stn/human/ha/index.html
きっと大きな違いがあるんだろうなぁ。よし、いつか見比べるぞ!
Posted by にゃごべぇ at May 15, 2006 23:15
にゃごべぇさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね。やはりヨーロッパの国の社会的・文化的な成熟度を感じさせます。自転車を電車などに当たり前のように載せられる国も多いみたいですし..。
ヨーロッパで自転車と言ったら、オランダを忘れちゃいけませんよ(笑)。ベルギーもいいと思います。また雰囲気は違いますが、カナダなんかもオススメします。私もコツコツあちこちで自転車に乗っていますが、それぞれの良さがありますね。
私も親戚や仕事の関係などで、北海道へも時々行くのですが、自転車に乗れる機会が何故かなかなか取れないので、前から走ってみたいと思っています。国内でも行きたい場所はまだまだありますね。
Posted by cycleroad at May 16, 2006 01:28
 
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