杉やヒノキが規則正しく植えられた植林地の濃い緑も、日本人にとっては見慣れた風景です。植林は戦後始まったのかと思えばそうでもなく、実は日本の植林の歴史と言うと、古事記や日本書紀にも記述があるほど、かなり昔にまで遡るそうです。例えば、我が国で古来行われてきた「たたら製鉄」という方法は、その過程で大量の木炭を消費するため、植林は古くから必須の事業だったようです。
そんな長い伝統のある日本の植林事業ですが、最近危機に瀕していると言われています。林業従事者は高齢化し、木材市況も低迷、林地の地価も長期にわたって下落し続けて、タダ同然でも買い手のつかない場所があります。そうした要因によって、間伐が必要なのに出来ない人工林は、民有林だけでもその95%以上、550万ヘクタールにのぼります。多くの人には、あまりピンと来ない林業の危機ですが、実は様々な被害に直結しています。
間伐が行われないと、スギは植物としての危機感もあって大量の花粉を出すわけで、今や国民病のようになった花粉症も、間伐が出来ないことから来る大きな被害と言えます。しかし、それだけではありません。最近、植林地帯の土砂崩れや地すべりが問題になり始めています。本来、地すべりや土砂崩れを防ぐ目的もあって植林されるのに、不思議な気もします。しかし、間伐が行われないと下草に光が当たらなくなって枯れてしまい、土がむき出しになって、雨で土が流出し、やがて木の根も露出し倒木や立ち枯れに至るのです。
その結果、風雨が引き金となって土砂崩れや地すべりが起きるわけです。ほかにも、土壌の流出が河川を汚濁し川の生態系に影響を与えたり、ダムの底に堆積してその機能を失わせたり、河口まで運ばれて沿海の漁業にまで打撃を与えています。森林の保水能力も低下し、災害を引きおこし、農業用水などの水系にも影響しています。こうした危機が今まさに始まり、進行しつつあるのです。
伐採され出荷されたとしても、人手不足により、その場所に新たな植林が行えないと、5年ほどで根が枯れてしまい、やはり土壌の流出が起きるそうです。いずれにせよ皮肉なことに、せっかくの植林を持て余し、数十年経って環境を守るどころか破壊し、地元の生活や経済を脅かし、災害によって人命にまでかかわるという、植えた時からすれば予想外の状況になっているわけです。
最近、企業のテレビCMや新聞・雑誌の広告などで、植林事業への取組みをアピールするところがあります。自社のイメージアップを狙っている部分も当然ありますが、それでも、もちろん悪いことではありません。海外で砂漠の緑地化に取り組むところもあり、地球規模での温暖化防止や、途上国援助としても有意義な事業であることには間違いありません。しかし残念なことに、必ずしも上手くいっているとは限らないようです。
例えば、植林する木の種類がうまくマッチせず、砂漠でも育ちやすい種類の樹木だと、逆にその成長の速さが災いし、周囲の水分を吸い上げてしまって、かえって環境が悪化したり、結局数年で立ち枯れてしまうこともあるようです。仮に順調に育ったとしても、数十年後の市況や間伐の手間の確保までは、予測する術もありません。
考えてみれば、原生林を切り倒してしまえば、植林しても100%元に戻るとは誰も思っていません。でも何となく、植林すれば、環境的には原状復帰されるような気がしてしまう部分もあります。しかし一旦破壊された自然の復元は、そう簡単なことではありません。もちろん植林をしないよりはましですが、決して免罪符にはなりません。まず自然の破壊を防ぎ、環境への負荷を小さくすることが本筋です。
最近のバイオテクノロジーなどの進歩も目を見張るものがありますが、まだまだ自然を復元するなどと驕るべきではないのも明らかです。決して植林を否定するものではありませんが、植林の前にもやるべきことがあります。今一度思いを新たにし、私達も身近なところから自然環境の保護に謙虚に取り組みたいものです。
ゴールデンウィークと時期をずらし、実は先週から関西方面へ旅行して来まして、先ほど帰宅しました。いろいろ楽しみ、リフレッシュもしました。たまにいつもと違う地域へ行くのは、ふだん気がつかないようなことが意識されたり、いろいろ刺激を受ける部分がありますね。
Posted by cycleroad at 23:30│
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杉のサイトを2つ御紹介【fu_r Notizen】at May 24, 2006 12:40