
左の写真は、ドイツ・KOKUA社の
LIKE a BIKEという製品です。木の飾り物ではなく、幼児用の遊具です。


多くの人が生まれて初めてまたがる遊具は、もしかしたら左のような木馬かもしれませんが、そのうち前後に揺らすだけでは飽き足らなくなり、三輪車とか四輪の車輪のついた遊具へ移行するのは時間の問題でしょう。その後、補助輪付き自転車を経て、自転車へと進んで来たという人も多いと思います。
ところが最近は、自転車の練習の為に、子供を補助輪のついた自転車(コマつき自転車)には乗せない親御さんも増えているようです。私も先日、家の近所で、ずい分小さい子供に補助輪のない自転車にまたがらせている人を実際に見かけました。

以前その理由を書きましたが、補助輪付きの自転車などを使わないほうが、ずっと容易に自転車へ移行出来るという理由からでしょう。つまり、いきなり2輪というワケです。このLIKE a BIKEは、ペダルもチェーンもついていません。子供がまたがって、地面を蹴って進むわけです。単なる木製の遊具にも見えますが、小さいうちから、またがって遊んでいるうちにバランス感覚が養われ、スムースに自転車への乗り換えられるようにも意図されているわけです。
KOKUA社のサイトによれば、このLIKE a BIKEは、自転車の始祖を元に開発されたものだそうです。自転車の始祖とは、ドイツで発明された
ドライジーネです。確かに、世界で一番最初の自転車と言われているドライジーネも足で蹴って進むだけの自転車です。人生で最初に乗る自転車は、人類の最初のタイプの自転車を、ということでしょうか(笑)。


ところで、このLIKE a BIKEも木製ですが、最近、木製のおもちゃが見直されているようです。ハイテクな玩具やキャラクター一辺倒のオモチャに対する反動もあるでしょうし、積み木などのシンプルでオーソドックスな遊具が、子供の知性や創造性を育むのに有効ということもあるでしょう。頑丈で壊れにくく、木の触感やぬくもり、素材としての安全性などを評価する見方もあるようです。

子供の乗り物なら、スピードは出なくても堅牢で安全なほうがいいですから木製でも構いませんが、自転車になると、そういうワケにもいきません。まさか木製の自転車なんて..とお思いの方が多いでしょうが、実は木製の自転車も存在します。もちろん大量に販売されるようなモデルとしてではありませんが、木工で自転車を作る人もいるのです。
以前、「
ものづくりネット」というサイトで紹介されていた記事を読んで知ったのですが、大阪のクラフト作家で、安田將晃さんという方が、木製の自転車を作っています。デザインから設計、制作まで全てハンドメイドで作っているのが、「キノピオ」という自転車です。自らも大の自転車愛好家である安田さんが、充分な強度を保ちつつ、独特の踏み応えと木の質感やぬくもりのある作品として作り上げました。
同サイトの安田さんのHPへのリンクは切れてしまっていましたが、最近情報をもらったので見てみると、
キノピオの新たなサイトが出来ていました。「出かける椅子」というコンセプトで、ツーリング仕様まであります。木製のリム職人についてなども載っていますので、興味のある方はサイトを見てみて下さい。
木の自転車を作るのはクラフト作家だけではありません。
カネモク工業という会社は、工業製品としての木製自転車を作っています。以前デパートで限定販売したこともある製品が下の写真ですが(下の左の3枚)、現在も相談を受け付けています。イタリアの
ティノ・サーナ社という木工会社のオーナーも大の自転車好きで、木材加工技術を駆使した木製自転車があるそうです。(下の一番右の写真)
日本にも木製自転車組立キットを製品化しようという
プロジェクトに取組む工房などもあるようですし、以前に
家具職人の作った木製自転車(ページ中ほど)を載せたこともありますが、木工技術を持つ人が木を使った自転車を作る例は、世界各国に意外とあるようです。


木製自転車と言っても、それぞれ様々なタイプがありますが、プロのレーサーからも支持されているビルダーとして有名な、東京の
アマンダ工房の千葉洋三さんも木製自転車を作られています。千葉さんは、海外のオリンピックチームからも依頼を受けたり、北極圏まで単独走行した冒険家から、スケートの清水宏保選手までも利用者という世界的にも有名な名匠で、作られた木製自転車は、一昨年のハンドメイド・サイクル ショーにおいて最高得票で部門、総合のグランプリに選ばれたそうです。木製とは言え、プロの自転車のビルダーが作る自転車ですから、性能的にも単なる工芸品の域を超えています。

一般的な木材は、比重から言えば金属より軽いわけですが、強度を考えれば、金属のフレームのような中空にするのは難しいため、ひどく重くなりそうな気がします。加工はともかく精度を出すのも困難で、ホイールも木製ですが、完全な真円にはできないそうです。たわみや歪みを考えても、自転車には最も向いていない素材に思えます。
ところが、総重量も、なんと9.1キロだそうです。もちろんロードバイクとして、最近の素材のものに比べれば重いですが、木製であることを考慮すれば意外なほどの軽さです。さらに実際に乗ると、速くて疲れにくいと言います。木が自転車特有の振動を吸収してくれるので、非常に快適なのだそうです。新素材にも世界に先駆けてチャレンジきた千葉さんが、素材としての木の良さを生かして作った自転車は、ただ珍しいから木を使ってみたわけではなく、乗って楽しく快い自転車を目指しているのです。
この千葉さんが作られた木製自転車のノウハウを、一般公開するアイデアもあるそうです。全国の中学生に、地元の山で出た間伐材で、木製の通学用自転車を作ってもらうという夢も持っていると言います。将来、木材を使って自分が納得できる自転車を自分の手で作る人が増え、木製自転車が珍しくなくなる時代が来るかも知れません。
先日も書きましたが、間伐材の利用が進めば、森林の保護にもつながります。
実際に木材で作られた自転車に、どれほどの需要があるかはわかりません。やはり一般的な自転車の素材としては難しいものがあるでしょう。でも、地域の木工工芸品としてなら、あるいは可能性を見出せるかも知れません。私もサイクルショウなどで見た記憶がありますが、漆塗りの自転車とか、
京友禅の柄の自転車などが試作されたこともあります。工芸品としてのデザインや彫刻などに加え、疲れず乗って楽しい素材となれば、愛好者の興味を集めそうです。
最近のチタンやカーボンといったハイテク素材が開発されるのも素晴らしいことですが、一方でクロモリなど以前の素材の良さが見直される動きもあります。より新しく優れた合成材料に置き換わっていく傾向は、私達の身の回りで、自転車ばかりではありません。でも、千葉さんの言葉を借りれば、「木は人間にとって最高のパートナー」です。自転車の素材も、ドライジーネの時代にまで遡れば木製だったわけですし(笑)、木材という素材を見直してみるのも面白いかもしれません。
韓国には、「木の自転車」というグループ(バンド)もあるんですね、なんて書いていたら、サーバーの調子が悪く、サイトが表示されないなどの現象が起きています。原因は不明ですが、エラーが出るようでしたら、時間を改めてアクセスしてみて下さい。すみません。
ところで、安田さんの事は、ずいぶん前に記事を読んだ記憶はあったのですが、「キノピオ」の新しいサイトは知りませんでした。先日、fu_rさんに教えていただきましたので記事にしました。fu_rさん、ありがとうございます。
ご覧いただいている方でも、こんなサイトがあるよ、など情報を教えてやろうかという方がいらっしゃいましたら、関連が無くても結構ですので最新記事のコメント欄にでも書いていただければ幸いです。もちろんメールやトラックバックでも結構です。自転車好き同士、他のご覧いただいてる方とも情報をシェアできますし、記事にさせていただくかも知れません。お礼はこの欄での挨拶だけで恐縮ですが..。