知られていないポテンシャル
東京に唯一残っている都電の荒川線で、自転車を電車内へ持ち込むサイクルパスの実験が行われたそうです。
「サイクルパス」は「サイクルトレイン」とも呼ばれ、ヨーロッパなどでは当たり前のように行われているサービスですが、自転車を分解したり、折りたたんで電車に持ち込む「輪行」とは違い、自転車をそのまま積み込むことが出来るので、誰でも、どんな自転車でも気軽に利用できるのが利点です。日本では、利用客減少に悩む一部のローカル線や、都市部で試験的に導入する例がありますが、まだまだ少ないのが現状です。
今回は市民グループが都電を一台貸切にして実験したそうです。私も昔、荒川線の沿線近くに住んでいたことがあるので、何度も利用したことがありますが、乗ってみると車内は意外に狭いです。長さはありますが、なんと言っても、幅が普通のバスよりも短いのです。時間帯によっては、けっこう混雑していますので、通常運行の都電に持ち込んだら、かなり邪魔になりそうです。
実際の荒川線でのサイクルパスの実現性はともかくとして、電車に自転車を載せるというスタイルは、日本ではあまり馴染みがありません。そうした可能性を人々に知らしめるだけでも、こうした実験には意義があると思います。クルマの利用抑制や、都市交通の未来について考えるきっかけにもなるでしょう。
都電に限って言えば、荒川線しか残っていませんし、距離も僅か12.2キロです。その距離を53分もかかりますので、突然の雨でも降らない限り、自転車を持込むメリットは少ないかも知れません。広く都内や近郊の鉄道網にサイクルパスが広がれば、電車と自転車を組み合わせて移動するメリットが出てきますが、なんと言っても多くの路線は昼夜を問わず混んでいます。自転車の持ち込みなんて現実的ではないと考える人が大多数に違いありません。
しかし、ヨーロッパの例などを見ると、決して無理ではありません。例えば
ドイツ鉄道(DB)には、自転車持込スペースが確保されていたり、専用ラックや自転車専用車輌が連結されていたりします。もちろん、自転車を持ち込む人は一部ですが、当たり前のように自転車積載への配慮がなされています。混雑した車内に持ち込むのでは気がひけますが、あらかじめスペースが確保されているのであれば、一定の需要も見込めます。
近郊区間の列車だけでなく、インターシティ(IC)と呼ばれる都市間の特急や、ユーロシティ(EC)と呼ばれるヨーロッパ各国の都市間特急でも、全部ではありませんが自転車を持ち込めます。例えば、ドイツのボン駅まで自転車に乗って行き、そのままオランダのアムステルダムまで鉄道で行って、日帰りサイクリングをして帰ってくるなんてことも簡単です。専用車輌なら、行き帰りのサイクリスト同士の交流も楽しそうです。
ヨーロッパの国々の駅は、構造がシンプルで高低差がなく、階段や改札を通らずに列車脇まで平面的にアクセス出来る駅も少なくありませんが、日本では、ホームまでの移動が大変というのはあるでしょう。しかし、混雑時は別として、駅にエレベーターなどの設置が進み、列車内に自転車専用スペースやラックの設置、専用車輌の連結に社会的コンセンサスが得られれば、日本の都市部でのサイクルパスの実現も不可能ではありません。
私もヨーロッパの鉄道を何度か利用したことがあります。知っていたせいもありますが、自転車が駅や列車内にあっても全く違和感はありませんでした。さすがにアメリカで、混雑時のニューヨークの地下鉄に、自転車を
そのまま持ち込んでいる女性を実際に見たときは驚きましたが、当然、周りの人は驚いていませんでした。日本でも見慣れれば、当たり前の光景になるはずです。
スポーツ系の自転車に乗るサイクリストなら、サイクルパスが実現すれば便利になるでしょう。首都圏で言えば、例えば埼玉に住んでいる人が湘南まで電車で行ってサイクリングしたり、多摩地区に住んでいる人が房総半島まで行ってから走り出すことも出来るわけです。もちろん輪行すれば今でも可能ですが、サイクルパスなら手軽ですし、社会的にも認知度が上がり、持ち込み易くなって利用者も増えるでしょう。
むしろ、専用ラックや専用車輌が連結されるようになるほど需要が見込めるかの問題と言えそうです。日本人の圧倒的多数は、自転車で遠くまで出かけることを想定していません。せいぜい最寄り駅まで、近所の買い物程度です。重くてスピードの出ないママチャリしか乗ったことがないので、何十キロも自転車で行けると思っていませんし、行きたいとも思っていないのが実情でしょう。
一般に普及する多くのママチャリは、歩道を低速で移動するために作られた日本独特の自転車であることを多くの人は知りません。当然、長い距離を移動するのも困難です。しかし、あえて言いますが、「本当の自転車」は、ママチャリしか乗ったことがない人は誰でも驚くほど軽快で、速く、長い距離をラクに移動出来る乗り物です。
つまり、混雑や駅の構造の問題もさることながら、欧米と違って自転車を実用的な交通手段として認識していないことこそが、サイクルパスの実現を非現実的なものにしているのではないでしょうか。欧米との違いは環境だけでなく、ママチャリ文化とバイクカルチャーの違いと言えそうです。歴史やスポーツとしての人気もあって、言ってみれば自転車の社会的地位も圧倒的に高いですし、自転車を歩道走行させるような交通行政の違いもよく言われるところです。
昨今の環境意識の高まりで、自転車が見直されてはいます。自転車が化石燃料を使わず、温暖化ガスを出さないのは誰でも理解しています。しかし、実は現実的な交通手段と認知していない人、実感していない人が、まだまだ大多数です。自転車だけでも遠くへ行けますし、鉄道と組み合わせれば、さらに範囲や利便性が高まります。
鉄道会社にしてみれば、必ずしも利益に直結しないかも知れませんが、クルマの利便性に対抗してアピール出来るメリットがあります。環境負荷への配慮として社会的な貢献も評価されるでしょう。自転車積載専用車両と言っても、難しい開発が必要なわけではなく、多少の改造ですみます。車椅子だけでなく、
ハンドサイクルを積むことは障害者への支援にもなりますし、ベビーカーもそのまま載せれば
育児への配慮になり、イメージもアップします。
東京都心など、公共交通の便が非常によく、列車やバスと徒歩だけでも移動出来る地域では実感できませんが、少し郊外へ行けば、公共交通のカバーする範囲は限られます。いきおいクルマも使わざるを得ません。しかし、鉄道と自転車を組み合わせれば、十分実用的な交通手段になりえます。そう多くの人に実感してもらえれば、サイクルパスの実現にも大きく寄与するのではないでしょうか。
ヨーロッパの鉄道もいいですが、サッカーもいいですね(笑)。すごいシュートやらテクニックやら、やっぱり上手いし、見応え充分です。寝不足になるのも仕方ありません。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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サイクルロード 〜千里の自転車道も一ブログから〜:知られていないポテンシャル
ヨーロッパじゃ当たり前なんだよなあ。日本がいかに自転車後進国かということだ。自分の国で石油資源を生み出してないのに石油に頼りすぎ。まあ、日本が欧米のようにサイクルトレインを導...
サイクルトレイン【ぐうたりん】at June 13, 2006 02:19
路面電車に自転車持ち込みするのはヨーロッパでさえ一般的ではないのに、これではどこでも持ち込めるって言う誤解を与えないかと新聞を見て思いました。
いいな、いいな。自転車を電車に積んで行きたい!
輪行なんてとてもじゃないけど大変そうです。軽くっても、あんな大きなバッグ私は肩にかついで駅をウロウロする自信はありません。
あ〜、自転車文化もサッカーもがんばれニッポンです。
こんにちは
荒川線>事故が起きたのでは?
皆さん心配です。
いいなー
電車、できれば新幹線にも在来線にも、私鉄にも
自転車積めたらいいのになー。
きっと行動範囲も広がるだろうし、頭や心の視野も広がるだろうに。
交通工学的には、自転車・歩行者対策遅れているというか無頓着な日本ですね。
税金の使いどころはここだと思うのは私だけ?
いい情報ありがとう<m(__)m>
maksim727さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、都電に自転車専用車輌を連結するなんてのは、いろんな面から、あまり現実的ではないでしょうし..(笑)。
昔は2両編成の荒川線も走っていたと思うのですが、最近はどうなんでしょう。
キルワニさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
たまに朝早くなど、電車の先頭車両や最後部に自転車を分解して抱えて乗っている人がいるなんて、一般の人は知らないでしょうから、駅をウロウロしていたら、それだけで変な目で見られるかもしれませんね(笑)。
きっといるはずだと思うのですが、もしかしたら読んでらっしゃるかも知れないので書いておきます。
・ 『 鉄道会社に勤めているサイクリストの皆さん!機会があったら会社に提案してみてくださいね!!』
kazuponさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ほんとですね。話題にした途端、滅多に起きないような事故が起きました。都電はともかく、ローカル線への自転車の持ち込みでも、ただ手で支えたまま乗る線もあるようですが、やはり急停車の時などは危ないですから、専用ラックがあったほうが良いですね。
SNOWさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
世の中的には、鉄道に自転車を積むなんてことを考えたこともない人が多いでしょうけど、新幹線で東京を朝出て、ちょっと鴨川ぞいを走って帰ってくるなんて出来たら楽しいですね。料金はともかくとして..。
全く同感です。個人的には自転車・歩行者対策に道路特定財源を投入すべきだと思ってます。ドライバーにとっても対人事故のリスクが減るわけですし。
はじめまして。(淀屋橋でかまいません)
世界の鉄道利用者の半分が日本人だと言われている中で、自転車も含め大型の手荷物を荷物専用のスペースに搭載する発想がでてこないのか、不思議でなりません。
路面電車・通勤電車などは実現が難しいし、コンセンサスが得られないとは思います。
しかし、日本を代表する新幹線などは飛行機と同様に荷物専用のスペースが用意されてしかるべきだし、JR特急などは国鉄時代より編成両数が減っているので荷物車を連結する余裕があるはず。
せめて予約可能な列車には荷物を搭載する専用スペースができてほしいなぁ、というのは僕だけでしょうか?
管理人さんへ
コメントの書き込みが反映されるまで少し時間がかかったので、同一趣旨のコメントが二つできてしまいました
まことに申し訳ありませんが、最初のコメントを削除していただけないでしょうか。
お手数おかけしてすいません。
淀屋橋さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
なるほど、言われてみれば、そうした議論は聞きませんね。確かに新幹線などに大きな荷物を積むスペースは用意されていません。デッキくらいしかなさそうです。不備ですね。そう言えばドイツのICEなどには、車輌の中ほどにスーツケースでも積めるラックがあったような気がします。荷物用車輌が連結された場合は、その前で係りの人に荷物を預けてタグをもらうような形になるのでしょうか。
鉄道には詳しくないのですが、ヨーロッパなどとは駅の構造や停車時間の長さ、運行時刻の厳密さが違うのが原因のような気もしますね。
しかし、世界の半分が日本人利用者ですか。知りませんでした。日本の鉄道は正確無比ですが、サービス面にはいろいろ改善の余地がありそうですね。
淀屋橋さん、消しときました。よくあることですのでお気遣いなく。
かえってサーバーのレスポンスが悪くてすみません。
お手数おかけしてしまってすいませんでした。
僕も輪行します。輪行時の手数料が取られなくなった、と喜んでいる方が多数派のように思うのですが、僕はそうは思ってません。
自転車に限らず、デッキのほか客室内の通路が荷物のスペースとなっていて、人間が移動するスペースがふさがれています。これはおかしい。とりわけ指定席の利用時には。自分のリザーブした席に移動するのに、なぜ他の客の「荷物」を掻き分ける必要があるのかが分からないのです。置いてはいけないスペースってあると思います。
人間のスペースを確保するために荷物を隔離する、というのも有りかと。現状でもスペースを占有する以上料金を取るべきだ、それができないなら、荷物を隔離するべきだと思います。
そろそろ人間として鉄道を利用したいです。
長くなりましたので二分割。
>確かに新幹線などに大きな荷物を積むスペースは用意されていません
先ほど書いたように、通路が荷物で塞がれているのはスペースがないからだと思います。通り道なので開けておくスペースのはずです。
>スーツケースでも積めるラック
日本の列車にもついているものがあります。「スーパーあずさ」で見ました。自転車一台おけるかどうか、スーツケースなど考えると、実用に耐えない大きさだと思います。ぶっちゃけスキー板用のスペースなのかもしれません。
>その前で係りの人に荷物を預けてタグをもらうような形になるのでしょうか
各人の自由にすると、破損や盗難が怖いですよね。だから荷扱いは係りの人が行う、というのが一番いいと思います。空港のように一括取り扱いでもいいかもしれませんね。列車到着前に積み込みの準備ができます。
淀屋橋さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃるように、あまり大きな荷物を持って乗る人が少ないので成り立っている部分はありますね。たまたまスーツケースを持った団体などが乗合わそうものなら、通路などが占領され、車内販売などのサービスの恩恵も受けられなくなったりします。確かに、荷物によって専有スペース以外の部分が一部の人に占領されるのは問題ですね。
輪行にしても、今は輪行する人が全体から見れば少ないからいいですが、増えてくれば当然問題になってくるでしょう。
航空機利用の場合のように、あらかじめ時間前にチェックインする形が取れるとは限らないでしょうから、規定以上の手荷物を持った団体が改札に殺到した場合に、果たして捌ききれるのかは疑問ですが、何らかの手立てを考える必要に迫られることもありえますね。
いずれにせよ実際問題としては、(少なくとも現状では)鉄道会社の考えに依存する部分が大きそうです。荷物用のスペースを設けるだけの安定的な需要があるのか、実際にお客に要望の声があるのか、スペース設置による座席の減少と売上げとの兼ね合い、あるいは連結を増やす場合の経費などが問題になってくるのでしょう。
航空機と違って、途中下車などもありますし、お客の乗り降りも多いです。そもそも一編成の人数も多いですから、列車だけでなく、駅の施設的な問題も関わってくるかも知れません。(例えばチェックインカウンターとか。)
環境のためにも、自家用車の利用を控え、鉄道利用を促進するためには荷物のことも当然問題になってくるとは思いますが、利用者側の意識も含めて、いろいろ変えなければならない点は多いのかも知れませんね。
私が始めてサイクルとレインに触れたのは、鹿島鉄道でした。今もやっているのでしょうか。
霞ヶ浦のアサザの花がきれいな季節ですね。
takeyanさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私は未だ利用したことがないのですが、今でもやってます。数少ないサイクルトレイン、特に関東では唯一ではないでしょうか。
霞ヶ浦のアサザもいいですね。まだ出かけるには、ちょっと早そうですけど。
リンク貼らせて頂きました。^^
齋藤電鉄ryuさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
わざわざご連絡いただき恐縮です。北米などには、自転車が路側帯を走行できるフリーウェイが実際にありますよ。
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