誰もが驚いたのは、たった一人の不注意で約140万世帯が影響を受ける大停電になってしまうほどの、都市の脆さではないでしょうか。東京電力の創業以来、管内での停電としては87年の280万世帯に次ぐ2番目の規模の停電だそうです。
死傷者の出るような事故につながらなかったのは幸いでしたが、電車やエレベーターが停まったり、信号が消え、銀行のATMや企業のコンピューターにも影響するなど、各地で混乱が続きました。お盆の真っ最中で、交通量や利用者が少なかったから救われた部分もあったかも知れません。

これ程の大規模停電はともかく、近年では停電の発生自体が少なくなっていたこともあって、改めて現代社会が、いかに電力に依存しているか見せつけられました。貴重な教訓とすべきだとの声も上がっています。しかし、約3時間ほどで全面復旧したこともあって、多くの人はすぐに忘れてしまいそうです。
確かに、たった一箇所の接触事故が原因とは驚くものの、稀にはこんなこともあるだろう、そんなに滅多に起きることではない、で済ます人も少なくないでしょう。ちょうど3年前の8月14日に発生したアメリカ北東部とカナダの広域にわたる大規模停電の時にも、似たような論調がありました。
あの時は、アメリカの電力自由化の弊害、送電網の老朽化と脆弱性、許容量、送電方法の違いやバックアップ体制などを指摘し、日本では起こりえないと話した専門家も多かったと思います。しかし、日本でも電力の需要が増大し送電線が増える一方で、基盤整備はこの二、三十年進んでいないと警告する専門家もいます。
送電システムが巨大化していることもあって、小さな事故が影響する範囲も広域化し、また復旧、再送電のための手続きも複雑になっているようです。今回の事態を見ても、アクシデントに対しても万全と楽観できる状況ではないのも確かです。
この2日前にも、首都圏では激しい雷雨で停電が相次ぎました。JR山手線も3時間以上止まり、10万人以上に影響が出ました。大地震はむろんですが、落雷、突風、大雨による土砂崩れなどの自然災害、今回のような事故などにより、都市が麻痺する可能性は常にあると考えるべきでしょう。
必要なのは、災害に対する備えばかりではありません。未だに日本の発電の5割以上は火力発電です。最近も原油が高騰しています。中東情勢や、中国が世界市場でなりふり構わぬエネルギー獲得に走っていることもあって、原油のみならず原子力発電の燃料となるウランの値段もここ数年で数倍にも高騰しています。

東京電力の原発のトラブル隠しを発端にした電力危機もありました。安定しているように見える電力供給ですが、将来いつ支障をきたすかわかりません。そう考えると、停電に備えるだけでなく、停電に強い都市も考えていく必要があるのではないでしょうか。
エレベーターに閉じ込められる事例も多発しました。昨年の首都圏の震度5の地震の際にも閉じ込めが多発して問題になりましたが、停電の場合も、せめて最寄階へ止まって扉を開けるまでの電力をバックアップするような仕組みを是非とも確保すべきです。そうした基準も設けるべきでしょう。
新しいビルなどに取り入れられる場合もありますが、光ファイバーや鏡面加工されたダクトなどを使って太陽光を、もっと照明に使うのも停電対策として有効でしょう。例え停電しても、昼間なら困りません。地下鉄や地下街などの公共の場所では、停電しても真っ暗にならないに越したことはありません。
空調もそうです。エアコンによってビル等から外へ廃熱すれば、周囲の温度が上がってしまいます。緑化などを進めて、都市そのものを涼しくすることも考えたいものです。日本の気候で今さら冷房を使うなとは言えませんが、いざという時、せめて窓をあけて涼をとれるような街が望ましいのは間違いありません。
家庭の冷蔵庫も徐々に大型化してきました。今では野菜室などが当然のように備わり、野菜でも卵でも干物でも、以前は冷蔵してこなかった食品が冷蔵庫に入るようになってきました。もちろんその結果、衛生状態も向上してきた面は否めませんが、電力を余計に使うようにもなったのも確かです。
昔は、魚はパック詰めではなかったですし、買ってきた日に食べるので冷蔵庫には入れませんでした。豆腐も売りに来て、その日の分を買うものでした。納豆もワラに包まれていましたが、冷蔵しなかったと思います。野菜や果物はもちろん、冷蔵庫に入れるものは、ずっと少なかったはずです。

確かに冷凍食品や加工食品も便利ですが、いつの間にか、諸外国に比べても大きく依存するようになっていることが指摘されています。食生活そのものを見直す必要があるとも言えますが、冷蔵庫にあまり依存しすぎていると、災害や停電時に困るのは間違いありません。
屋上に給水タンクがあるマンションでなくても、上水道の途中に配置されている加圧ポンプも電力ですから、長時間となれば断水する可能性があります。携帯電話が充電してあっても、基地局の電力供給の問題から、今回もつながりにくくなりました。家庭の中でも、どんどん電力依存度が高くなっています。
費用の面から簡単ではありませんが、景観から言っても送電線の地下化は進めたいところです。事故や災害に対して強い電力網の構築にもつながります。信号機を大幅に省電力化するLED(発光ダイオード)化は進んでいますが、一部欧州で見られるような、信号の必要な交差点を減らす発想は遡上に上がっていません。
電車が止まる事態に対して、皆がクルマで移動し始めたら大渋滞になってしまいます。実は、意外に遠い距離でも自転車で行けるものです。クルマ100台が道路に占める面積と自転車100台では、その違いは明らかです。渋滞を考えたら道路のキャパシティから言っても、自転車は有力な都市交通なのです。
満員電車に乗るよりは、と最近、普段から自転車通勤する人も増えています。もっと道路の整備、自転車専用レーンなどの設置を進めて、多くの人が安全に自転車を利用できるようにすることは、交通面の有効な対策です。いざと言う時の交通手段としても自転車の活用は視野にいれるべきでしょう。
いろいろ挙げましたが、電力を使わない生活に戻るのには無理があります。今後、依存度を減らすのも難しいかも知れません。しかし、いざという時、別の手段によって当座をしのげる、災害やアクシデントに強い都市づくりは目指されるべきです。広い意味での停電対策は、省エネにもつながるのは間違いないわけですから。
昔は百目蝋燭(ひゃくめろうそく)とかが、茶箪笥の引き出しなんかにしまってあったものです。今は瞬電(瞬間的な停電)でも、コンピューターからデータが失われたり大変なわけですが、停電でテレビが見られない夜など、ちょっと懐かしく思えてしまいますね(笑)。
またもや、サーバーの問題から、コメントやトラックバックが受け付けにくい状態が継続的に発生しているようです。ご不便おかけして申し訳ありません。
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