September 24, 2006

飲酒運転がなくならない理由

ここのところ連日のように、飲酒運転がニュースになっています。


福岡で幼い子供3人が犠牲となった事故以来、酒の席や飲酒した上での行為に日本の社会が甘いことを指摘する声も多く聞かれます。警察庁の長官も全国で飲酒運転の取り締まりを強化し、運転者や同乗者、酒を勧める者、飲食店に対する意識改革も含めて徹底的に飲酒運転対策を進める決意を表明しています。

しかし、私はこれらの対策やその考え方、実は間違っているのではないかと思うのです。もちろん、取り締まりや啓発などの対策が全く無駄だと言うつもりはありません。ただ、こうした様々な対策を打ち出すこと自体、問題の本質を見誤らせている気がするのです。

公務員が懲戒免職になったり、家族を突然失った遺族の悲しみや憤りを見聞きすれば、引き起こされる事態の重大さや、一瞬にして人生が変わってしまうことは想像に難くありません。普通の神経の持ち主なら、飲酒運転の引き起こす悲惨な結末を見て、あらためて自戒するに違いありません。一部では代行運転業者の売上げが伸びているという話もあります。

しかし、飲酒運転は減るどころか、むしろ増えているように見えます。社会的な注目から、通常よりニュースになりやすいとか、厳しい取締りにより摘発者が増えたなどの事情もあるかも知れませんが、これだけ問題になっているのに飲酒運転をする人が後を絶たないのも事実なのです。

連日マスコミを騒がせ、これだけ大きな話題となっているのに、それでも飲酒運転で事故を起こし、捕まる人も絶えないことに、あきれる思いでいる人は少なくありません。何故これだけ注目されているのに飲酒運転をするのか、その神経が理解できないと言う声もよく聞きます。

実は、ここにこの問題の本質があると思います。つまり、報道を見て飲酒運転はするまいと誓った人でも、酒を飲めば、その決意は鈍り、決意したことすら忘れてしまい、自ら制止する意志も働かなくなってしまうということです。ふだんは飲酒運転をしないつもりでいても、肝心の飲んだ時に、飲んだことによって飲酒運転を制止できなくなってしまうわけです。飲酒しなければ飲酒運転は起きませんが、飲酒すると飲酒運転は防げない恐れがあります。

飲酒運転が危険で重大な結果を招くことは分かっていても、酒を飲むと正常な判断が出来なくなってしまうのですから、ある意味、本人には防ぎようがありません。飲酒運転が問題になっていようと、懲戒免職されようと、飲んでしまえば止められない人もいるのです。おそらく酒を飲まないことしか方法はないのでしょう。

飲酒運転で行政処分を受けた人への調査によれば、「酔っていないと思った」「飲酒量が少ない」「飲酒から時間がたった」「自分は酒が強い」「自分だけは大丈夫」という過信が目立つと言います。ふだんから認識の甘い人もいるでしょうが、酒を飲んだことが過信を助長する部分もあるはずです。

たとえ意志が強く、酒にも強くて飲酒運転をしない自信がある人でも、正常な判断が出来なくなるまで飲んでしまえば、やはり可能性は否定出来ません。よく言われる、「飲んだら乗るな」は、飲んで判断力が奪われる前までの話です。ちなみに「乗るなら飲むな」は純粋に意志の問題ですが、飲酒の魅力に抵抗し難いことも多いでしょう。

飲酒運転への厳罰化は、シラフなら心理的抑止効果はあっても、飲んで忘れてしまう人もいるでしょうから根本的解決にはなり得ません。既に充分厳罰だとは言いませんが、現に今までも厳罰化の方向へ進んできましたし、罰だけでは防げないことも自明です。

同じように、飲食店がタクシー料金の一部を負担してくれても、本人が酔っていれば有効とは限りません。友人に強く制止されても、本人がその気なら、電車で帰るフリをして騙すことだってするでしょう。同乗者の制止も有効だと思いますが、その人も酔っていればどうしようもありません。やはり根本的な解決にはならないのです。

アメリカでは州によって殺人罪を適用するなど厳罰化されています。小さい頃からの教育や周囲の意識も飲酒運転に厳しいと言う人もいますが、それでも実際には事故の多くの割合で飲酒が関係していると言います。結局、罰則や教育、宗教や道徳、社会的な意識や倫理観でも完全には防げていません。

グループの中で順番に飲まない人を決めておく取り組みも行われていて、これが有効と言う人もありますが、常に帰る方向が同じグループとも限りませんし、一人で飲む人だっています。有効な場合もあるでしょうが、やはり完全な対策となり得ないのは明らかです。

酒を一切売らないわけにもいきませんし、クルマを一切なくすのも無理です。そう考えると、やはり機械的に酒を飲んだらクルマが動かないようにする以外、本質的な解決策はありません。その他の対策では根本的に解決できない以上、とにかく物理的に飲酒運転が出来ない状態を目指すしかないでしょう。

飲酒運転を抑止する力を失わせるのが飲酒であるという飲酒運転問題の本質からすれば、最終的に飲酒する人の自制に依存するような対策はナンセンスだと思います。飲酒運転したくても出来ないようにするしかありません。

酒を飲んだらエンジンがかからない装置は既にあるようですし、最近では日本のメーカーも開発を検討しています。技術的にも充分可能なのだろうと思いますが、なかなか普及が見込めないことが、商品化が進まない理由のようです。

メーカーが最近商品化を進めているハイテクを利用した車間距離監視装置とか、障害物回避システムといった新世代の安全装置より、考えようによっては、飲酒運転防止装置のほうが、よっぽど緊急性や必要度が高いと思います。しかし、飲まない人にまで飲酒運転防止装置の費用負担させることへのメーカーの懸念もあるようです。

当然のことながら飲酒運転をしない人もたくさんいるわけで、飲酒運転する人は一部です。しかし、明らかになる事例は氷山の一角と考えるべきで、飲酒運転をしていたり、する可能性のある人はその何倍も多いはずです。社会的に考えても、事故による人的損失や、取り締まりの費用、服役囚の遺失納税額から刑務所の経費に至るまで、全体では決して小さいコストではありません。

ならば、メーカー任せではなく、排ガス規制のように法律による義務化を目指すべきです。飲まないドライバーに費用負担させられないのなら、酒税を財源にすることも考えられます。全てのクルマに導入しなければ意味がありませんが、数が増えれば単価も下がるでしょう。

自分は酒を飲まないから無関係と考える人もいるでしょうが、バスの運転手の酒気帯び事件や酒酔い運転のトラックに追突されたり、歩行者が命を奪われる事例を考えれば決して他人事とは限りません。

また、公共機関の少ない地域のことかと思えば、大都市圏でも事故や摘発は多いですし、終電の時間を気にしたくないなどの理由で、電車が使える地域でも運転して飲みに行く人は意外に多いらしく、やはり他人事ではありません。

飲酒運転は技術によって根絶できるし、法律で飲酒運転防止装置を義務付け、物理的に飲酒運転を阻止する以外に完全な解決は期待できません。私は、結局これが近道であり唯一の道だと思います。飲酒運転は、ペストとか天然痘といった伝染病と同じで、科学技術をもって根絶すべきもの、また出来るものなのではないでしょうか。

いつ自分や自分の家族が飲酒運転による事故に巻き込まれないとも限りません。誰もが無視できない問題ですし、悲惨な事故が起きるたびにクローズアップされるものの、月日が過ぎれば、関心も薄れてしまいます。現に昨日今日始まったわけでもないのに、なかなか解決できていません。

飲酒運転する人の罪は言うまでも無く、何の落ち度もないのに突然命を奪われる被害者の無念と遺族の苦しみも論を待ちません。しかし、その罪を非難しているだけでは、けっして解決しないことも事実です。今までも多くの人が犠牲になってきましたが、これから犠牲になる人を少しでも少なくするために、この根絶への第一歩を踏み出すべきだと思います。



飲酒運転は悪質な場合、自転車でも摘発する方針と聞きますし、歩道を走行する場合、自転車でも人に怪我をさせる恐れは充分あります。実際に自転車の酒酔い運転の逮捕者も出ているようです。自転車なら..と油断すべきではありませんね。
でも考えてみると、エンジンのない自転車の場合、飲酒運転を根絶できないかも..。

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この記事へのコメント
なんでもそうですですが、対策といえるものは・・・

どこかの議員さんではないが、『善処します』
『・・・ないよう、指示をします』

ではなく!

飲んだら動かないような、強制力が必要だと思いますよネ。
税金沢山納めている、ところの影響力など考えず
なんとかしろ!って
感じですネェ〜
Posted by kazupon at September 26, 2006 08:13
kazuponさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、利害関係のある業界団体などからの圧力というのはあるのかも知れませんね。しかし、飲酒運転は物理的に出来ないものになってしまえば、売上げへの影響などを考える必要もなくなるでしょうし、誰であっても被害者になりうる問題だと思えば、政治的な決断によって、法制化して欲しいところです。
代行運転やタクシー、駐車場など、プラスの波及効果が見込めるところも少なくないですし、飲む人が少なくなることもないと思うのですけどね(笑)。
Posted by cycleroad at September 27, 2006 19:15
トラックバック有難うございます。私もハード面からの歯止めも必要であるという記事は書いています。自動車税の優遇とか車検時期のステッカーみたいなものとセットでいけば、相当広がり、効果もあると思います。
ただし、その装置も、シラフの他人にやらせたりすると、意味のないものになります。
しかし、現状では、それを待っている訳にはいかないのではないでしょうか?今すぐにできることは、取締りの強化・罰則の厳罰化しかないのでは?
そうしておいて、ハード面の導入がプラスされれば、相当強力な歯止めになるのではないでしょうか。
世の中のことは、ハードとソフト両面で、やっていかないと、上手くいかないと思います。
今後も、何かよい案があったら、また教えていただけますか?よろしくお願い致します。
Posted by ヤボテンの花 at September 27, 2006 23:31
ヤボテンの花さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
なるほど、自動車税の優遇ですか。アメとムチというわけですね。
既に皮膚からアルコールを検出する装置まで開発されているという話も聞いたことがありますが、実用化に向けて抜け道をふさぎ、装置の信頼性を上げるところまで考えると、おっしゃるように時間がかかるかも知れません。
私も取締りの強化や厳罰化には何ら異存はありませんし、飲酒運転の悲劇が少しでも減ることを祈るばかりです。
こちらこそ、よろしくお願いします。
Posted by cycleroad at September 28, 2006 00:18
飲酒運転対策案で否定された
酒類販売禁止は
有効だと思います。

税収は減りますが、たばこ税を10倍にすれば問題なし

あと、自動車等のメーカーに飲酒運転禁止装置を実用化するように強く要求しましょう
Posted by 6 at December 12, 2011 16:16
6さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
飲酒運転は許されることではありませんが、飲酒するのは運転する人ばかりではありません。飲酒運転などしない人が圧倒的多数なわけで、酒類販売を一律に禁止するのはナンセンスでしょう。
酒税の分をたばこに転嫁するのは筋違いですし、たばこ税を7%上げるのも断念しているのに、1000%なんて論外です。経済性を無視した非現実的な議論と言わざるを得ません。
クルマメーカーに対する飲酒運転防止装置の義務付けは議論の余地があると思いますが、世論の後押しが少ない中、現状では進みそうにないですね。
Posted by cycleroad at December 12, 2011 23:35
 
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