自転車泥棒をヘリコプターとパトカーで追跡するという逮捕劇が繰り広げられたようです。
スポニチの記事より引用します。
群馬県警がヘリで盗難自転車追跡
盗難自転車に乗って逃げた男を、ヘリコプターで追跡して取り押さえる前代未聞の“大捕物”が、29日に群馬県伊勢崎市で繰り広げられた。伊勢崎オートレース場の駐輪場から逃走した自転車を、県警ヘリが4キロ近く追跡。地上で連絡を受けた伊勢崎署員が容疑者を逮捕した。
伊勢崎署に窃盗容疑で逮捕されたのは住所不定の男(34)。容疑を認めており、取り調べには素直に応じているという。同署によると、伊勢崎市宮子町の伊勢崎オートレース場の駐輪場に、盗難届が出ている自転車があるのを署員が発見。そのまま張り込んでいたところ男が現れたため、職務質問をしようと声をかけると、自転車に乗って逃走した。
緊急配備のためすぐに無線で連絡。付近をパトロール中だった県警ヘリが、無線を聞いて現場上空に急行した。ヘリは桃ノ木川サイクリングロードを走っている自転車を発見。4キロ近く追跡し、約15分後にヘリからの連絡を受けた署員が男を取り押さえた。乗っていた自転車は、8月31日、同県みどり市のデパート駐輪場で盗まれたパート女性(62)のものだった。
伊勢崎オートによると、9月29日は川口オートの場外発売があり、入場者は約1500人。自転車も相当の台数が止まっていたが、同署は「盗難自転車に関しては、車体番号や特徴などの情報を端末で管理し、署員にチェックを徹底している。特に駅の駐輪場など台数の多いところでは、すべての自転車をチェックしているといってもいい」と説明。ヘリでのパトロールは定期的に行っているという。
川沿いに伸びるサイクリングロードに逃げこんだのは、パトカーが通れないため逃げ切れると踏んだのでしょうが、男を逮捕した伊勢崎署では「まさか容疑者も自転車を盗んだくらいで、ヘリに追い掛けられるとは思わなかったでしょう」と話しているそうです。
ヘリまで動員したカーチェイスで自転車泥棒を逮捕したという話は、確かに聞いたことがありませんが、実際には、同県警のヘリが、たまたま運良く付近の上空にいたのと、ヘリとパトカーの無線の周波数が同じだったから起きた連携だったようです。
過去にも警察署長や芸能人が自転車を盗んだとか、自転車を盗んで何百キロも行脚していたとか、ときどき自転車盗がニュースになります。今回も派手な逮捕劇だったわりには、全国紙やテレビのニュースでは、あまり取り上げられなかったようなので、残念ながら自転車泥棒の抑止には貢献しそうにありません。
ところで、近ごろ治安の悪化が取り沙汰されるとは言え、日本は他の先進国と比べると、まだまだ犯罪件数は少ない方と言えます。が、実は自転車盗だけは例外的に一番多いのだそうです。なぜ先進諸国と比較して、自転車盗だけ発生件数が多いのでしょうか。
海外では頑丈なカギやチェーンで厳重に施錠する人も多いですが、日本のママチャリのカギは頼りなく見えます。しかし日本では圧倒的にママチャリの数が多いので、タイヤをロックするだけのカギが普通になっています。ワイヤーで他の固定物につなげて施錠する人は少数なので、盗みやすい面はあるのでしょう。
自転車の普及率が高く、台数は多いですが値段は安く、盗まれてもすぐ諦める、使い捨て感覚の人も少なくありません。盗難か放置自転車としての撤去か確認もせず、撤去でも取りに来ない人が大勢いると言います。こうした日本独特の事情も、自転車盗だけ圧倒的に多くしている原因には間違いないでしょう。
ただ、日本での犯罪の発生件数は、犯罪白書、すなわち警察発表の数字で議論されているという前提は見逃せません。自転車盗などの場合は特に、実数とは別に、警察の受理や立件方針も犯罪の認知件数に大きく影響します。事実、さしたる理由が見当たらないのに平成12年だけ、全国で自転車盗が半減していたりします。
自転車盗は、職務質問によって犯罪を発見すると同時に検挙できることも多く、言い方は悪いですが、手軽に取り締まれ、件数をコントロール出来る犯罪であることも否定できません。警察にしてみれば、同時に検挙率(犯罪の解決率)も向上する、その意味では得点の稼げる「おいしい犯罪」と言えなくもありません。
もちろん、検挙しやすいところから検挙しているというのは、穿った見方でしょう。記事の最後に同署では盗難自転車を端末で管理して、くまなくチェックしていると書かれていますが、犯罪を抑止するためにも、地道な取締りを続けている警察官の努力の結晶と言うべきなのでしょう。
自転車盗は立派な窃盗ですし、警察の取り締まり方針がどうであれ、これだけ発生が多いこと自体が問題です。身近で件数も多いと微罪のように感じてしまう青少年も少なくないはずです。その結果として、青少年の非行の入り口になっているのも間違いありません。
初発型犯罪、あるいは初発型非行と呼ばれていますが、重大な罪を犯す青少年も、いきなり凶悪犯罪に手を染めるわけではなく、万引き、オートバイ盗、自転車盗、占有離脱物横領等の比較的軽微な犯罪を繰り返し、深い反省をする機会を経ないことから、より重い罪を犯すようになっていく場合が多いのだそうです。
非行の動機や手口が比較的単純なのも災いします。この犯人は少年ではありませんが、「歩くのに疲れた」という動機です。最初は酔っぱらった時とか、ちょっと拝借などという軽い気持ちで犯罪に手を染めてしまうわけです。捕まらなければ遵法精神も衰え、次第にエスカレートさせる少年も増えるでしょう。
破れ窓理論として有名ですが、少年に限らず、小さな犯罪や身近な迷惑行為、モラルの低下を見逃すと、街の治安悪化や重大犯罪の発生につながると言われています。盗んだ自転車が乗り捨てられることにより、持ち主のいない自転車が増え、街に放置自転車があふれることも、もちろん問題です。
かけ忘れもあるでしょうが、面倒なので鍵をかけないという人もいます。古いので盗まれてもいいとか、盗まれても損をするのは自分だから勝手だ、という考え方の人も多いようです。しかし、その一台が小さな窃盗を助長し、青少年の将来に影を投げかけることにもなります。
ヘリは動員しないまでも、警察の取り締まりという大きなコストを発生させ、最終的には税金となって帰ってきます。治安の悪化や犯罪被害としても、結局は自分達の身や生活に跳ね返ってくるわけです。そう考えれば、災害などと同じように、治安の悪化や犯罪被害に対しても、私たち自ら「犯罪の予防」を考えるべきなのではないでしょうか。
自転車盗をする人間が悪いことは言うまでもありませんが、社会全体の問題として、決して他人事と片付るわけにはいかないのです。自転車盗の多さは、この問題への我々の関心の低さを表わすと同時に、将来の犯罪被害や治安の悪化、社会的コストの増大に対する予防が不十分であることを端的に示していると言えそうです。
全ての犯罪を摘発出来ない以上、重点を絞るのは合理的ですが、何を優先するかという問題もありますね。今なら飲酒運転の取り締まりでしょうか。後から統計を見ると、異様に飲酒運転が多かった年ということになるのかも知れません。
関連記事
余計なお世話がもたらす効果
検挙も重要だが、盗難防止に取組む注目すべき警察署もある
ギョッとさせれば効果も高い
施錠が基本ではあるが、ほかにもこんな盗難防止対策がある
自転車を盗む人たちの事情
自転車を盗んで売る犯人が増えた背景には、社会的な変化も
最強ロックの意外な落とし穴
頑丈なカギを使えば安心だけど、思わぬ落とし穴もあるわけで
Posted by cycleroad at 20:00│
Comments(2)│
TrackBack(0)
自転車が盗まれる→盗まれていいような安い自転車を買ってしまう→自転車を盗むことの心理的ハードルが低くなる→ますます自転車が盗まれる という悪循環が気になっています。
もっと安心して自転車に乗れる社会づくりのために、自転車泥棒については、社会全体で毅然とした態度を示していきたいものですね。