October 27, 2006

本当に優先すべきは何なのか

健康や環境への意識の高まりから自転車が注目されている一方で、そのマナーについて厳しい視線が向けられています。


全国的にも自転車が関係する交通事故が増加しているようで、警察が自転車利用者に対する指導や取り締まりを強化する動きが各地で報じられています。いわゆる赤キップも辞さない姿勢の背景には、自転車利用者の交通マナーが悪化していることが指摘されています。

自転車が交通法規を遵守しないことで起きるクルマとの事故ばかりでなく、歩行者と自転車の事故も問題となっています。歩行者の危険を顧みずに歩道を疾走する自転車は、どこの街でも珍しい光景ではないと思いますが、実際に事故につながるような、信号無視や2人乗りなどで検挙された例も各地でニュースになりました。

そんな中、京都では自転車マナー向上のための条例を定めるべく検討を開始したようです。自転車利用者の交通ルール無視や、マナーの悪さを改善するのが目的と言います。中でも歩行者に対する障害や負傷事故等が問題視されているようで、都道府県レベルでは初めての試みと報じられています。

京都府内に現在約150万台の自転車があって年々増えており、観光地ということもあってレンタサイクルの利用も多いわけです。同時に自転車事故の死傷者が府内で毎年4千人前後に達し、自転車と歩行者との事故は最近10年で約4倍に増えているのだそうです。

京都府では今年の春に「地球温暖化対策条例」を施行し、環境にやさしく健康的な乗り物として自転車の利用を勧めている一方で、傘さし運転や右側通行、飲酒運転などのルール無視が目立ち、事故が減らないことから、より安全に自転車が活用される環境づくりに取り組まざるを得なくなったようです。

私も、歩道を我が物顔に疾走する自転車は許すべきではないと思います。もちろん悪気はない人もいるでしょう。確信犯的な人は別として、いつも自転車を利用していると、歩道で歩行者の脇をすり抜けたとき、歩行者がどれ程ヒヤリとするか、気が付かない場合もあるかも知れません。

しかし、わかっていても時間に追われてとか、携帯に気をとられてなど、やはり歩行者と事故にならないほうがおかしいくらいの状況があります。問題となるのも当然です。ただ、取締りの強化や条例化がすなわち事故の減少につながるかについては疑問もあります。

確かに一部悪質な利用者もいることは間違いありません。しかし、果たして取り締まりを強化すれば、みな歩行者を危険にさらさないよう、ゆっくり走るようになるのでしょうか。ルール無視の自転車が無くなったとしても、相変わらず事故が起きることも考えられます。構造的な問題、つまりスピードの違う歩行者と自転車が歩道に混在していることが、そもそも問題なのではないでしょうか。

車道に自転車レーン東京都も自転車総合対策を策定する計画があり、そのために行ったアンケート調査によれば、歩行者に接触・衝突したか、しそうになった経験がある人は52%、逆に歩道を歩いている時、自転車に接触や衝突されたか、されそうになった経験は67%の人があったと答えています。

道路交通法17条では、自転車は自動車と同じ車両に位置づけられており、車道と歩道の区別のある道路では、車道を通行しなければならないとされていますが、これを知らなかったと答えた人が46%にのぼっています。自転車にも交通法規が適用されること自体を知らずに乗っている人が多いことも問題ですが、現実的には、ほとんどの歩道が自転車通行可になっています。

実際に、週に1日以上自転車に乗る人に、道路のどこを走るか聞いたところ、約50%の人が歩道と答えています。車道と歩道を半々と答えた人が44%、車道と答えた人はわずか6%しかいませんでした。相当数の自転車が歩道上で歩行者と混在しているのは間違いありません。交通法規を守ったとしても事故が起きる可能性は依然として残るでしょう。

そう考えれば、大阪での取組みが、規制の強化や取締りでない点は評価できます。大阪御堂筋で自転車と歩行者の通行レーンを分ける実験が行われています。御堂筋の歩道を通行する自転車は1日あたり約8千台、7年前より約2千台も増えており、特に朝夕の通勤時間帯の歩行者との接触、衝突事故が懸念されています。

仙台の自転車社会実験通行人を対象とするアンケートでも、自転車と歩行者の通行レーンが分離されていないことを不満とする声が約8割にのぼったそうです。このため、今月10日から来月7日まで、実験区間の車道に幅約2メートルの自転車レーンを設け、交通の流れや安全面をチェックしています。

仙台でも同様の実験が行われています。車道の一部に自転車走行レーンを設け、安心して歩行できる道路整備策を探る試みだそうです。従来のように歩道をラインで区切る方法でないことがポイントです。結局、歩行者と自転車を物理的に分離しなければ問題は解決しないという考え方が少しずつ広がってきているようです。

そもそも今まで、あまりにクルマ中心の道路整備や道路行政が進められてきた結果、歩行者や自転車が隅に追いやられるのが当たり前のようになっています。確かに受益者負担の考え方からクルマの所有者が、いわゆる道路特定財源となる税を負担してきたのは間違いありません。しかし、今の道路構造から生まれる交通事故という人的被害、騒音や大気汚染等などの公害、温暖化ガスなどによる地球環境に対する影響まで考えれば、もっと大きな社会的なコストもかかっているわけです。

もちろん、物流や交通の面でクルマによる恩恵は誰しも受けています。裾野の広いクルマ産業のもたらす経済的な面も見逃すことは出来ません。何も、電車とバスだけにしようなどと言うつもりはありませんし、必ずしもクルマを減らせと言うのでもありませんが、もう少し道路のあり方を考えてもいい気がします。

第2名神を自転車で走行駐車禁止が強化されたとは言え、路上駐車しているクルマは、一部の所有者にのみ多大な恩恵を与えている一方で社会的には大きな損失です。場所によっては、もっとクルマの通行部分を規制してもいいはずですし、もっと人間中心に考え、自転車もまた優遇されていいのではないでしょうか。

こうした議論になると、クルマ対歩行者、クルマ対自転車という構図になりがちですが、クルマに乗る人だって自転車にも乗れば、歩行者にもなります。クルマが負担するからということではなく、環境から交通事故、都市政策まで総合的に考えて道路整備を考え直すべき時代に来ているのではないでしょうか。

自転車道と歩道を分離して車道と共存させるため道路の構造を変える、なんて一朝一夕には出来ないと考えがちです。しかし、やろうと思えば、実験で行われたように車道に簡単なポールを設置するだけで自転車レーンに出来ます。曜日や時間帯を区切って自転車レーンにする手もあるでしょう。

滋賀県甲賀市で行われた「サイクルトレイン&スタンプラリー」では、参加者が工事中の第2名神を走行するという貴重な体験が出来たようです。開通したら二度と自転車で通れないのはほぼ確実です。さすがに開通後に交通の大動脈となる高速道路を自転車に開放しろと言うのは無理があります。

でも交通量の少ない高速道路なら、地元の観光振興やPRも兼ねて、開通後でもこうしたイベントが行われてもいいかも知れません。さすがに高速道路は無理だとするなら、例えば土日に交通量の少ない一般道を自転車に開放するなんて、もっと当たり前のように行われてもいいのではないでしょうか。

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© Photo by Wildcat Dunny
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© Photo by Wildcat Dunny

上の写真はアメリカはシカゴの道路です。もちろんイベントでの光景であり、いつも自転車に開放されているわけではありません。でも自転車に乗る人なら、たまにはこんな風に車道を広々と使って、安全で自由に走行できたらいいなと思いませんか。

急速なモータリゼーションの進展の結果、いつの間にか道路がクルマに占有されていることに反発するムーブメントも世界各地で徐々に起きてきています。道路の大部分はクルマのもの、クルマが中心という既成事実、既成概念をまず打ち破る必要があるのかも知れません。



今度は「必修逃れ」ですか。教育現場では、いろんなことが起きているようですね。

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この記事へのコメント
今月の初めから、私が住んでいる街の中心部では、パーキングメーターで路上駐車する部分の一部を駐輪場にする実験を行っています。目的は、歩道上に駐輪する自転車を除去して、歩きやすい歩道を確保する事らしいのですが、今度は、歩道上に乗り上げて停める車が出てくる始末で、困った物です。
Posted by maksim727 at October 31, 2006 14:38
maksim727さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
歩道駐輪のマナー問題への対策が、クルマの駐輪マナー違反を呼び、やっぱり歩道へしわ寄せが来ているわけですね。結局は、マナーに頼らず物理的に分けなければ解消されないのでしょうか。
車道をより広く開けるべく歩道に乗り上げるのは、歩行者より他のクルマに遠慮するからでしょうが、これもクルマ優先という固定観念から来ていると言えるのかも知れませんね。
Posted by cycleroad at October 31, 2006 23:26
大変参考になるご意見、すごいですね。
私も自転車乗りの置かれたあまりにも中途半端な立場に戸惑っている一人です。
マナーの悪い自転車乗りも確かにたくさんいます。
中高生のマナーの悪さは半端じゃないと思います。
マナーに加え、法規にしてももっと広く普及させる努力が国や自治体も含め、必要ではないかと感じます。
車、自転車、歩行者全てが認識を新たにする必要がありますよね。
今後も参考にさせていただきます。
私の稚拙なブログのお気に入りに入れることをお許しください。
Posted by ぶ〜 at November 07, 2006 22:52
ぶ〜さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自転車乗りの方に共感していただけて素直に嬉しいです。
自転車好きの方は、自転車を取り巻く環境についても真面目に考えてらっしゃる方が多いですが、自転車に乗る人はそんな人ばかりではありません。おっしゃる通り、身勝手な乗り方をしている人も多いですね。
出来れば気持ちよく街を走りたいですし、安全にも関わります。誰でも影響を受ける問題ですから、たかがマナーの問題とか他人事と片付けるわけにも行きません。
国や自治体に期待せざるを得ない部分も多いわけですが、なかなか法制化は難しい面もあります。簡単には動かない政治を動かすには、まず人々の意識が変わらなければ始まらないような気もします。
稚拙とはご謙遜ですが、ご丁寧に恐縮です。よろしければ、ご興味のある話題に、またご意見をお聞かせ下さい。
Posted by cycleroad at November 08, 2006 23:50
 
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