December 11, 2006

何故それでも横車を押すのか

スポーツ型自転車が人気という記事12月7日のTBSラジオの番組「アクセス」は、ふだんより大きな反響があったそうです。


先日から取り上げている「自転車の車道走行禁止」をテーマにしたリスナー参加のトーク番組で、疋田さんが出演した番組です。テレビに比べればラジオの影響力は圧倒的に小さいものの、一般への認知を広げることに貢献したと思われます。

ちなみに、私もしっかり録音して聞きましたが、聞き逃した方、放送エリア外の方は、11日の22時以降、番組のサイトからインターネット放送で聴けるようです。

12月8日の読売新聞夕刊では、「とれんど」というコラムで論説委員がこの問題を取り上げています。「自転車は危ないか」という題ですが、問題の焦点となる部分には全く触れられておらず、多くの人が自転車は危ないとの実感を持っているはずとの意見が展開されています。

人生の確率―数字でみるとリアルにわかるただ、このコラムでは、歩行中に交通事故で死ぬ確率は、100万分の16なのに対し、自転車に乗っての死亡確率は、100万分の7であることが「人生の確率」という本に載っていること、警察庁の統計でも昨年の交通事故死者のうち、歩行者は約2千百人、自転車は約850人ということを紹介しています。

これはこれで興味深い話です。しかし、自転車乗車中の負傷者が増加傾向にあり、健康にもいいということで自転車人口が増えているわりには、政府の対策が変わっていないことが一因と分析した上で、警察庁が自転車の安全性向上対策に乗り出すそうなので期待したいと書かれているのみです。

今回の提言が出されたことは、各メディアでも小さく扱われましたが、その後このことを扱うマスコミは多くないと思います。やはり広く世間的には関心が薄いと言えるでしょう。ただ、疋田さんは東京のテレビのキー局のディレクターで、彼のテレビ局の一番組で調査中であることをメルマガでも明らかにしています。今後さらに関心が広がることを期待したいところです。

自転車乗りの方の関心の高さという点では、このブログの12月5日付の「自転車を歩道に封じ込めるな」という記事に、5日もたってなお、いろいろな方がコメントして下さっています。自転車系ブログや掲示板などで話題になることも増え、徐々に波紋が広がりつつあるようです。

疋田さんも理事を務めるNPO「自転車活用推進研究会」を主催する小林成基さんにもコメントいただいたと書きましたが、同会が運営するエコサイクルマイレージのトップページでは、12月8日、自転車の歩道通行拡大に反対する声を国会に届けるための「全国歩道連絡会」、全歩連の創設がアナウンスされています。

エコサイクル・マイレージ

週間ツーキニストのメルマガも連日のように発行されています。この問題に関心のある方は是非バックナンバーをご覧いただくとして、少しでも多くの人に知ってもらうため、その中から一つ興味深い指摘を紹介しておきます。それは、安全と思われている歩道走行が、実は自転車にとっても危険だという事実です。

欧米では既に共通認識ですが、自転車が歩道を通行するとクルマとの衝突事故が増えるのです。車道を走っている自転車はクルマから見えていますが、これが歩道を走っていると、街路樹や生垣、ガードレールに遮音壁、駐車車両、電柱、看板、歩行者、バス停、その他あらゆるものが邪魔をして視認しにくいのが原因です。

クルマは、自転車が並走していても気づかずに、交差点を左折する時などに出会い頭の衝突となるわけです。このことは、今回の警察庁の提言に添付された資料(8)にも書かれています。自転車の歩道走行を認めている日本が、先進国の中で自転車乗車中の事故率が圧倒的に多い理由と見られています。

そもそも、歩道上での自転車と歩行者の事故が増えているのに、自転車を歩道へ上げようとすること自体、完全に矛盾しています。更に自転車にとっても歩道走行するほうが事故に遭いやすくて危険なのに、それでも車道走行を禁止しようとする警察の考えの裏にあるものは何なのでしょうか。

ドライバーの立場からすれば、自転車が邪魔だと感じるのは容易に想像できます。しかし、警察にとってのメリットは何でしょう。これが実現すれば、現場の警察官の負担である交通事故処理は増えることも予想されます。少なくとも歩道での歩行者の負傷事故が大幅に増える可能性があります。

事故処理は、クルマとの事故より簡単かもしれませんが、自転車にひき逃げでもされようものなら、ナンバーもついていませんし、所有者の特定が困難など捜査も大変です。制度改正で逆に事故の急増やひき逃げなどが問題となれば警察幹部だって世論の突き上げを食うに違いありません。どう考えても不思議です。

考えられる理由は、近い将来予定されているクルマの速度制限の見直しです。つい最近でも、「43年前と同じ車の速度制限を警察庁がようやく見直しに着手」などと報じられています。その露払いとして、車道でスピードを出せるよう、言ってみれば車道を綺麗にしておこうというわけです。民間委託によって駐車違反の摘発を強化したのにも通じる流れです。

では、果たしてクルマの速度制限見直し、もちろん制限速度の引き上げということですが、警察のメリットになるのでしょうか。この議論は、制限速度見直しの是非も含めて、いろいろな要素を含んでいます。組織論の原理から言えば、規制の強化は警察の権限強化であり、権限は警察という組織の存在基盤そのものです。

警察に限らず、あらゆる役所は組織として宿命的に権限の増大を指向するのは間違いありません。組織としての生存であり構造的なものです。内部の人間も当然そうなります。ただ、単純に権限強化と言えるかという問題もあり、議論は分かれるかも知れません。でも何となく全体像が見えてくる気もします。

一方、国内の自動車販売は低迷を続けています。好調な軽自動車を含んだ新車販売台数でも、先月まで8ヶ月連続の前年割れです。世界では好調が伝えられるトヨタ自動車ですら国内は苦戦しています。戦後最長の景気拡大が伝えられる中で、原因はいろいろ言われているようです。

もちろん、過去の景気拡大と比べて所得が増えていないので、ある意味当然なのかも知れません。薄型テレビなどデジタル家電や携帯電話の通話料などに可処分所得を取られていることもあるでしょう。ガソリン高騰もありました。そもそも耐久性が上がって、買い替えサイクルも伸びていることもあります。

私が自動車業界の人間であれば、そろそろ自動車需要を上向きに転換させるカンフル剤として、何かキッカケが欲しいところです。特に高価で馬力のある車種が売れるようになれば言うことありません。日本経済ということを考えれば、あながち自動車メーカーだけの話でもありません。

販売不振の原因は、消費者の考え方が変わってきていることにもありそうです。地球温暖化が言われて久しいわけですが、クルマの無駄な利用は、どう考えても地球に優しくありません。クルマの製造も環境負荷を増やすわけですから、なるべく長く使ったほうがいいですし、頻繁に買い替えるのは「モッタイナイ」です。

スポーツ型自転車が人気という記事かたや、自転車が昨今見直されつつあります。ブームの部分もあるでしょう。しかし歩道を歩行者と混在しながら走行している分には、ちっとも速くありませんし、楽しくありません。でも、私も何度か書いていますが、今までママチャリに乗っていた人が、スポーツバイクに乗ったら違います。

その速さや楽しさを体感したら、目からウロコが落ちるでしょう。会社まで自転車通勤する人など、都市交通として現実的な手段と認識する人も増えます。ただ車道走行しないと、特に都市部では、そのポテンシャルが発揮されず、有用性に気づきにくい部分もあります。

自転車を活用する人口は増えているようですが、このまま自転車に目覚める人が増えていけば、全体としてみればクルマの販売にはマイナスです。免許関係や信号機などの道路付属設備の整備に対する需要も小さくなってしまいます。利権云々とは言いませんが、経済成長にとっても好ましくありません。

自転車の可能性に目覚め、自転車を活用する人が増えることを良く思わない人もいるわけで、そのためには、歩道走行を多数派にしておかなければなりません。事故とか市民の安全なんて本人の注意やマナーの問題で、二の次と考える人がいても不思議ではありません。そもそも歩道なんか歩かない人もいるでしょうし..。

私の考え過ぎもあるでしょう。誰もが日本経済に少なからず影響を受けることを考えれば、クルマが売れなくていいとも一概には言えません。そもそも環境と経済成長の両立には難しい問題があります。自転車の車道走行禁止問題にも、単純に警察の横暴などと片付けられない、さまざまな背景がありそうです。



今回も長い記事になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。この問題に関心のある方が、他のブログの取り上げ方をご覧になろうとして、下の「人気blogランキングへ」をクリックされるのか、最近順位も上がっています(笑)。もちろん、それとは別にクリックして下さる方もいらっしゃいます。いつもありがとうございます。

関連記事

再び現れた悪夢へのシナリオ
今月2日、最初にこの問題について取り上げ状況を記した記事。

自転車を歩道に封じ込めるな
5日に私なりの考えを書いた記事。多くのコメントをいただいた。



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この記事へのコメント
疋田さんのラジオ出演は反響あったのですね.これで終わることなく話が広がっていくといいのですが,声をひとつにしてアピールする手段を持っていない状況は歯がゆいばかりです.ラジオはネットで早速聴いてみます.
最後の経済の関連した自動車の話についてです.
自動車にまつわる税金や自動車メーカーや関連企業が納めている税金は,国や自治体にとって無視できないはずですし,自動車業界がおかしくなれば,日本の経済も沈んでしまいます.このことを望んでいる人はいないはずです.(続く)
Posted by yanz at December 11, 2006 11:16
(続き)でも,それと今回の法改悪の話は別です.自転車専用帯を作れば,自動車は売れなくなるかといったらそんなことはないでしょう.そもそも,行動範囲が違いますし,移動手段としての自転車が自動車のそれにとってかわれるのは,ごくわずかだと思います.
そこことをわかった上のことなのか,また,自動車業界からの圧力があるのかどうかは知りませんが,先の税金のことも絡んで特定の団体の利益を優先すしているような警察の動き(少なくとも,自転車業界や自転車乗りの方へは向いていない)は,横暴以外の何物でもありません.
最後になりましたが,関連記事をトラックバックさせてもらいました.
Posted by yanz at December 11, 2006 11:16
yanzさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
いつもよりメールやFAXが多かったことを、疋田さん自身がメルマガで報告されています。番組的はリスナー参加なので、言いたかったことの何分の一かしか話せなかったとも書いてありました。
ええ、私も自動車産業の陰謀(笑)と言うつもりはありません。ただ、クルマが快適に走行するためには、自転車が車道をチョロチョロしては邪魔だと考える人がいるのは確かなのではないでしょうか。そして、邪魔な自転車を歩道へ追いやるために行動する人は、やはり何らかの利害関係があるとしか思えないわけです。関係なければどうでもいい話なわけですし..。
(続く)
Posted by cycleroad at December 11, 2006 21:24
(続き)
都市部の道路では渋滞が激しく、クルマの便利さや快適性が著しく損なわれています。当然販売台数にも影響しているでしょう。こうした状態では、少なくともクルマの所有をやめて、ふだんは自転車や公共交通等を使う判断もあるはずです。都市部の人口は多いですし、環境への意識などと相まって、そうした動きが加速する可能性を考えれば、私は無視できないのでは、と考えます。ただ、おっしゃるように、自転車がクルマの代替足りえると考える人は微々たるものなのかも知れません。
自転車に乗り換える人が増えると言うより、むしろ都市部の住人にとってクルマが魅力的であるための道路状況を維持、向上させるには、自転車が邪魔だということでしょう。渋滞の原因にもなりますし、運転にも神経を使うので、少なくとも自転車を排除したいということではないでしょうか。
Posted by cycleroad at December 11, 2006 21:25
自転車道を行政が作ると「険道」になってしまうだけなら百歩譲って笑い話で済ませるとして、自転車を車道からも歩道からも締め出すというのは断じて許されない。
自転車を不便にして自動車がもっと便利になるのでは環境負荷を増大させる社会になってしまう。

環境省にcoolbizの次の地球温暖化物質削減対策として「自転車を利用したくなるような生活道路の整備」をして欲しいと思うのは私だけでしょうか


Posted by jota at December 11, 2006 22:07
jotaさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も、環境面を強調することに大いに同感です。この件も結局は環境面の議論に行き着くのかも知れませんし、何らかの形で、環境面を押し出して世論に訴えるのが効果的なのかもしれないとも思っています。
以前記事に書いたことがありますが、環境省のクールビズも偏っていますよね。アイドリングストップも悪いわけではありませんが、不要なクルマの利用を極力やめて、歩いたり自転車を使おうと単純明快に呼びかけるべきだと思います。環境省は世論を味方につけて、国土交通省に迫って欲しいところですね。
Posted by cycleroad at December 11, 2006 22:39
 
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