ご存知の通り、アメリカのゴア元副大統領が、地球温暖化によって瀕死の状態にある地球の現状を訴えた、世界中での講演を元にしたドキュメンタリー映画です。そのジャンルにもかかわらず、全米で公開と同時に記録的なヒットとなり、アカデミー賞候補にもノミネートされるなど評判を呼んでいます。
もはや、地球が温暖化しているという漠然とした将来の不安ではなく、環境変動によって引き起こされる地球規模の現実の危機が迫っていることを訴えています。映画の評判の背景には、多くの人が真剣に考えるべき時に来ていると感じていることもあるのでしょう。
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私達が考えるべきことはたくさんありますが、クルマの排出する温暖化ガスの問題も、当然その一つです。日本の政府もアイドリングストップを呼びかけたり、バイオエタノールの利用を検討したりしていますが、もっと積極的に、不要不急のクルマの使用を控え、クルマの利用そのものを抑制することを考えてもいいはずです。
もちろん、交通や物流の問題もありますし、政府としては規制によって、経済成長や景気に水を差すわけにもいきません。しかし、ただでさえ渋滞でロスの大きい都市交通については、もっとクルマの利用を抑制する手はあります。渋滞による経済損失を減らそうと、いくら道路を拡幅しても追いつかないのは明らかです。
それならば、少なくとも都市部ではクルマの利用を抑制することが、経済的にもプラスに働く可能性は大いにあります。単純な問題ではありませんが、例えばロンドンでは渋滞税の適用地域を今月から拡大しましたし、クルマの流入を制限する方向に進む世界の都市は増えています。
前回、警察庁の道路交通法改正の動きについて書きました。自転車を車道から排除する意図はないと警察庁の担当者が明言したものの、一方で、歩道上に自転車通行ゾーンを作ることによって自転車と歩行者を分離するような流れがあることが危惧されるとも書きました。
歩行者の安全を考えるならば、自転車を歩道へあげるべきではありません。しかし、現実には歩道を走る自転車が圧倒的多数であり、歩道上で歩行者と自転車を分離することによって歩行者の安全が図られ、かつクルマからも安全であるなら、ほとんどの人は納得するでしょう。
(注:実際には交差点などで、かえって事故が増えるのは以前も書いた通りなのですが..。)
現状でも歩道上でのゾーンの分離は、歩道を色分けするなどしても全く機能しておらず、その効果は大いに疑問ではあります。しかし、仮に分離されて歩道上で秩序が保たれていくとしたら、自転車は全て歩道を走ることでコンセンサスが得られる可能性も考えられます。
それでも車道を走りたいと言うのは、サイクリストのエゴでしょうか。自分達が快適に走れなくなるのがイヤだから、自転車を歩道へ上げることに反対するのでしょうか。私は違うと思います。歩道では快適に走れないし、通りたくないのも事実ですが、そればかりではないはずです。
都市部において渋滞を緩和し、温暖化ガス排出を減らし、騒音や大気汚染、それによる喘息などの公害病被害を減らし、ヒートアイランド現象を減らし、交通事故を減らし、もっと安心して歩ける街にするため、クルマの中心部への流入を制限したとします。当然、人々の足は公共交通になるでしょう。
しかし、鉄道やバス路線は限られます。そこで有効な都市交通の手段となるのが自転車です。おそらくママチャリに乗って歩道を走る人には、自転車が都市交通と言ってもピンと来ないかも知れません。しかし、これは私の思いつきや願望ではなく、交通工学の専門家も認める事実です。
歩道を走るべく独自の進化を遂げてきた日本のママチャリは、重くてスピードも出ませんが、本来、自転車はもっとスピードが出て、快適に遠くへも行ける乗り物です。最寄の駅までしか利用しない人には思いもよらないほど遠距離でも移動できます。また今でも渋滞のひどい東京都心などでは、事実上一番速い交通機関です。
しかし、歩道で歩行者と混在し、その迷惑にならない速度しか出せないのでは、現実的な都市交通たりえません。時間もかかるし、遠くまで行く前に疲れてしまいます。つまり、自転車を都市交通の現実的で有効な選択肢とするには、歩道を走らせるわけにはいかないのです。
自転車は誰が見ても地球環境に優しい乗り物です。もちろん温暖化ガスも排出しません。クルマと比べて、その点が気に入っている人も多いでしょう。しかし、環境への貢献という意味から言えば、今までならクルマを使う距離、使う用途の時に、クルマに代えて自転車を使うことで初めて排出ガスの抑制になるわけです。
現状でも自転車を使っている場面で乗っているだけでは、温暖化ガス削減には貢献しません。そして車道の一部を使い、安全で快適に速く遠距離を移動出来る環境が整ってこそ、多くの人がクルマに代えて自転車を選ぶ可能性が出て来ます。強制しなくても、自転車が便利で速いとなれば黙っていても使われるでしょう。
そう考えると、たかが車道走行の問題に思えますが、将来に向けて自転車が車道を走行出来る環境を整備し、多くの人が自転車を活用し始めるよう促すことは、都市問題や地球環境を考える上でも有効な選択肢なのです。決してサイクリストのエゴではありません。ヨーロッパの環境先進都市では当たり前の考え方でもあります。
今般の道路交通法改正論議では、歩道上での歩行者との事故がクローズアップされていることもあって、残念ながら、そうした都市計画や環境からの視点は注目されていません。出来ればそこまで発展すると良かったと思いますが、まず問題が注目されただけでも満足すべきなのでしょう。
今回のことによって、今までより多くの人が都市での自転車のあり方について考える機会になったと思います。従来、自転車が中途半端な立場で、あまり顧みられることもなかったことを思えば、それだけでも有意義と言えるかも知れません。
そんな中で、「本来の」自転車に乗り、
道路交通法で定められた通りに車道を走行している私達サイクリストは、決して我がままを通そうとしているわけではないことを、多くの人に知ってもらいたいですし、そう主張していかなければなりません。
少数派かも知れませんが、自転車の持つ本来のポテンシャルを知る者として、その有効性をアピールしていく必要もあります。そして、地球環境を考え、「不都合な真実」から目をそむけない為にも、我々サイクリストが率先して、自転車の走行環境の改善を訴えていくべきではないでしょうか。
ママチャリに乗っている人がダメだなんて言うつもりは毛頭ないんですが、実際にママチャリにしか乗ったことがないと、なかなか自転車が駅までの交通手段以上のものだということについて実感してもらえないのが残念なところです。もちろんママチャリであったとしても、安全快適に車道を走行出来たら、便利になると思うんですけどね..。
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