普通には、まず目に留まらないような小さなニュースですが、読売新聞の記事から引用します。
危険な歩道自転車、取り締まり強化へ…警察庁通達
歩道を暴走する自転車の批判の高まりなどを受け、警察庁は20日、歩道を危険走行する自転車に対し、指導取り締まりを強化するよう全国の警察本部に通達を出した。同庁によると、昨年1年間の、自転車に対する指導警告は145万1353件(前年比28・7%増)、信号無視や一時不停止などの検挙件数は585件(同79・4%増)に上った。
しかし、昨年4月以降の取り締まり強化にもかかわらず、歩行者絡みの事故は2767件と、前年比7・4%増加。死者は4人から6人に、重傷者も261人から329人に増えている。 悪質な違反行為には引き続き積極的に指導取り締まりを行い、歩行者を転倒させた場合には交通切符で検挙するなどする。(2007年3月20日 読売新聞)
取り立てて騒ぎ立てるような内容でないと思う人が大半だと思いますが、事情を知る人にとっては多少意味があります。今まで車道を自転車で走行している人に歩道へ上がるように注意する警察官はよく見ますが、逆に車道へ降りろと注意するお巡りさんは、いまだかつて見たことがありません。
もちろん歩道を危険走行していれば注意されますが、車道を走るようにとは言わないはずです。この記事には触れられていませんが、必要に応じて車道走行を指導するように通達されていると言います。今後は、危ないから車道へ降りなさいと指示することも想定しています。
世界の常識に逆らって、日本特有の道路行政は一貫して自転車を歩道に上げようとして来ました。自転車は歩道を走らなければならないと信じている人も少なくありません。今までも危険な歩道走行への指導はありましたが、車道へ降ろす指示はありませんでした。そう考えると見方によっては、従来の流れから180度転換した方針とも取れる通達です。
同じ日のニュースで、佐賀県の佐賀駅構内では、歩道どころか駅のコンコースまで自転車を降りずに通り抜け、通行客と接触しても謝りもせずに逃げ去る悪質なマナー違反が見られるため、佐賀総体を控え、特大の三角コーンがお目見えしたと佐賀新聞が伝えています。佐賀に限りませんがモラルの低下も、とどまるところを知りません。
自転車がクルマと交通事故を起こす件数は5%ほど減っているにもかかわらず、歩行者との事故は26%増えています。警察も指導警告を強化し、昨年の「歩行者に対して危険を及ぼす違反」で指導警告された自転車は、22%増の12万件を越えていますが、全く歯止めがかからない状況です。
つまり、指導警告では歩行者との事故を防げないことは明らかで、こうした事故を減らす根本的な対策は、自転車に車道を通らせる以外ないでしょう。警察がこれ以上自転車の歩道走行を進めるならば、世論から総スカンを食うことになっても不思議ではありません。
この通達が分岐点となって交通行政が転換され、車道を走行する人が増えるかどうかまでは、現時点ではわかりません。いきなり車道走行する人が増えると混乱も予想されます。今でも時々いますが、「車道の右側を通行する」迷惑な自転車が増える可能性もあります。
歩道を走行しているぶんには、車両は左側通行という交通の大原則を意識する必要はありません。自転車も左側通行だと思っていない人も多いでしょう。左右意識せずに走行している人も多いでしょうが、意識していないと、およそ半分は道の右側を走行することになります。
つまり右折する時、意識して交差点で2段階右折をしなければ左側通行は維持出来ません。無意識なら、わざわざ2回信号を横断しないでしょうから右側通行になってしまうわけです。次に右折してもそのままです。左折すれば左側通行に戻りますが、右折のたびに右側を走行している人も多いはずです。
今までのように歩道走行なら、それでも問題は起こりませんが、車道を同じ感覚で走行するのは周囲にも危険を及ぼす行為です。他の自転車や原付バイクなどと正面から交錯することになります。私も今でも常々迷惑に感じていますが、「車道を右側通行する」自転車の急増は悪夢です。そうした交通ルールの徹底とその啓発も求められます。
自転車で誤って高速道路に侵入してしまう事故も時々報じられます。認知症などほかの要因もあるかも知れませんが、車道を右側通行すると、こうした事例も誘発しかねません。左側通行を厳守していれば、間違っても料金所がありますので、進入は防げると思います。
また現状では、どこでも誰でも車道走行できる状態とは言えないのも確かです。道路整備のほうにも工夫がほしいところです。石川県の金沢では、歩道を走る自転車と歩行者が接触する危険な状態の解消を目指す実験として、バス専用レーンの隅に「自転車走行指導帯」を設けたそうです。ベストでないにしても有効なスペースの共有でしょう。
他にも例えば、片側2.5車線くらいの幅のある道路が、0.5車線は駐車車両に占領されているとします。最近の取り締まり強化によって違法駐車は激減しましたが、一台二台でも残っていれば、クルマもバイクも通れず、違反者に独占させているようなものです。この0.5車線を思い切って自転車レーンにする手もあるでしょう。
片側2車線のうち外側の車線はパーキングメーターが設置されていて0.5車線は事実上無駄になっている場合もあります。都市部の市街地でも、鉄道の駅から離れるとほとんど歩行者のいない歩道もあります。歩道も一律の幅でなくてもいいのではないでしょうか。場所にもよりますが、よく見ればまだまだ活用できるスペースはありそうです。
歩行者と分離した上で、多くの人に安全に車道を走行してもらうためには、車道上に自転車レーンの整備などが必要です。警察だけでなく、道路を管轄する自治体や省庁など関係者が連携して対策を推進するために、縦割り行政を克服するべく、政治のリーダーシップも期待したいところです。
通達は別としても、三十年以上前、暫定的措置と言われながら歩道に追いやられた自転車が、ようやく本来あるべき姿に戻る時期に来ているのかも知れません。こうした、何らかのきっかけによって車道走行する人が増えれば、世間的にも自転車が車道走行するものとのコンセンサスが進むでしょう。
危険な道路での車道走行を強要するつもりはありませんが、ふだん歩道を利用している方々も車道を通ってみてはいかがでしょう。その走りやすさに、歩道で歩行者を縫うように通るのが嫌になってしまうかも知れません。自転車の更なる可能性や、車道の共有の必要性も実感できるのではないでしょうか。
能登半島ではまだ余震も続き、大変な思いをされている方もいらっしゃるようです。日本中どこでも明日は我が身、他人事ではありません。
再び現れた悪夢へのシナリオ
今回の話題に関連して、自転車車道通行禁止法案を書いた記事。
自転車を歩道に封じ込めるな
続編として、自転車車道禁止法案について書いた2番目の記事。
何故それでも横車を押すのか
さらに、懲りずに自転車車道禁止法案を扱った3番目の記事。
なぜ疑惑が解消出来ないのか
先月の21日、改めて自転車車道禁止法案を扱った4番目の記事。
Posted by cycleroad at 23:30│
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