この時期に限ったことではありませんが、天気予報がはずれて雨に降られることがあります。
歩いていても傘を持っていなければ困りますが、自転車に乗っている時に降られると不運です。中には予め覚悟して持って行き、傘をさして乗る人もいますが、予期せぬ雨に濡れながら乗るのは不快なものです。おそらく日本人なら、ほとんどの人がそう感じると思います。
ところが、外国人の中には多少の雨に濡れることを何とも思わない人もいます。そのあたりは生まれ育った土地の気候風土や文化の違いが大きいのだと思います。確かに日本のように高温多湿でなく少雨だったり、雨が降ってもすぐに止んでカラッと晴れあがり、服などはすぐ乾いてしまうような気候の国・地域もあります。
私も、そうした国の遊園地のアトラクションで、池に突っ込んでびしょ濡れになった経験が何度かあります。日本ならクレームものの濡れ方です。さすがにシャレにならないだろうと思って周囲を見れば、現地の人はキャーキャー喜んでいます。
結局、あっと言う間に乾いたので納得しましたが、それにしても気候や文化の違いを感じる場面です。並んで待っている行列に向かって、いきなり霧状の水を浴びせるところもあります。日本人は驚きますが、向こうにしてみれば、暑さを和らげる、ちょっとしたサービスなのでしょう。すぐ蒸発して乾きますし、涼しく感じます。
そんな国に育てば、水に濡れることを不快に思わないのも理解出来ます。しかし、日本のように夏でも多湿な気候の国では、そうは行きません。日本人は極端に水に濡れることを嫌うと一般的に言われていますが、この気候では仕方のないところでしょう。
日本で自転車が歩道を走っているのも、この気候に原因があるのかも知れません。もちろん直接的には、高度成長期の警察の道路行政の結果です。しかし、そこには当然国民の意識の反映もあるはずです。私の勝手な推論ですが、雨の多い日本では、自転車は補助的な交通手段との認識が国民の間にもあったのでしょう。
日本では平均3日に1日は雨が降ることを考えれば、雨が降ったら使えない(使いたくない)自転車は毎日の交通手段としては敬遠されます。必然的に補助的な交通手段として、歩道に追いやられても仕方がないと考える人も多かったのではないでしょうか。他に、全般的に山がちで坂の多い地形も理由かも知れません。
これは現在においても変わらず、多くの国民の意識の中で、自転車を単なる趣味や運動・娯楽のためのアイテムではなく、実用的かつ現実的な都市交通の手段として認める為には、雨天でも走行出来るという大きな課題の克服が必要と言えそうです。
雨天での走行となれば、やはり屋根を付けるしかありません。私も何度か取り上げていますが、ベロモービル、あるいはサイクルカーなどと呼ばれるフェアリング付きの自転車です。ヨーロッパなどでは、実際に通勤などの交通手段として活用する人も増えていると言います。
先月も、ボルボ社など大手自動車メーカーのエンジンの無い車両のレースの話題を取り上げました。空気力学的に優れた車両の設計能力・量産技術や販売網を持つ大手自動車メーカーがベロモービルを開発・販売すれば、普及の面で大きな推進力になるのは間違いありませんが、現時点では単なる期待でしかありません。
ただ、ベロモービルは今だって手に入ります。欧米には、ベロモービルやサイクルカーなど呼び方はいろいろですが、オーダーによって製作販売したり、キットとして販売するメーカーもあります。ほとんどはメジャーとは言えず、比較的小規模な会社や工房のところが多いようですが、優れたデザインをもつものも出てきています。
写真は、ヨーロッパと北米に展開するドイツのBeyss社の「
go−one」というベロモービルです。大手自動車メーカー、ダイムラー・クライスラー社の100%子会社であるSMART社の小型車、「SMART」のデザイナーが手掛けたそうで、その完成度の高さはさすがです。
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車輪ハウジングによって水はねを防いだり、換気のためのインレットが設けられたり、アクリル製の天蓋は、好天時に完全に取り外し可能にするなど、各所に工夫がなされています。もちろんリカンベントがベースですが、三輪なので誰でも乗りやすく、電動アシストを装着することも出来ます。
手で合図は出来ませんので、ヘッドライト以外にバックライトや方向指示機も備えています。フェアリングを含む重さは30キロ程度と重くなりますが、そのぶん空気抵抗が少ないので決してスピードが出ないわけではありません。リカンベント・スタイルで力が伝わりやすいのも速度的には有利です。
最近、ハイブリットカーや燃料電池車、電気自動車など、地球にやさしいと言われる次世代のクルマが開発され、環境を意識する人も増えていますが、クルマは相変わらず化石燃料を消費します。日本ですら、まだ半数は火力発電所なのが現実ですから、電気自動車だったとしても発電所では温暖化ガスが発生しているわけです。
そんな中で、なぜ何トンもあるようなクルマを使わなければならないのか、とこの「go−one」のサイトは問いかけます。環境を意識するなら、いっそのこと、はるかに軽くて環境への負荷の小さいベロモービルを自力で漕ぎ、燃料代、保険料、税金をわざわざ払うのを止めるという選択肢もあるはずです。
もちろん、クルマのように冷暖房完備ではありません。しかし、雨には濡れず、冬は暖かく夏は風を切って走ることも出来ます。トレーニングジムでエアロバイクを漕ぐなら、そのぶんの費用と時間が節約出来るという考え方もあります。ガソリンの代わりに脂肪を燃やせば一石二鳥です。
燃料代などを含めてどう考えるかですが、ベロモービルの軽自動車が買えるような価格はネックと言えばネックです。日本でもブレイクして、大量生産されるようになれば値段も下がるでしょうが、まだまだ馴染みが薄いのも確かです。果たして日本で普及する見込みはあるのでしょうか。
残念ながらベロモービルの存在はあまり知られていません。3輪の自転車、トライクも馴染みが薄く、リカンベントの認知度も決して高くありません。日本の道路事情がヨーロッパと比べて必ずしも劣るわけではありませんが、日本独特のママチャリがあまりに普及しているのが仇となっている面もあるでしょう。
リカンベントがロードバイクよりスピードが出るので、競技で禁止されるほどなのを知る人も少なく、足踏み式のゴーカートのように思う人も多いと思います。フェアリングが速度を出す上で空気抵抗を減らす大きな要素であることも、さほど理解されていません。おそらくオモチャのように見られることも普及への大きなハードルです。
最近、環境や健康の面から、改めて自転車が注目されています。もちろんベロモービル・サイクルカーである必要はありませんし、全てを自転車で置き換えるべきだと言うつもりも毛頭ありません。でも、自転車で行けるところは、もっと自転車にしてもいいはずです。
この「go−one」のサイトでは、その普及を促す仕組みを「SPY」プログラムと名付けています。その内容はともかく、SPYは、「Start Pedaling Yourself」の頭文字です。日本流に言えば「自分の足で漕ぎだそう」という感じでしょうか。
ベロモービルの知名度はまだまだ低いものの、その一種であるベロタクシーが走る街なども増えています。速くてお尻の痛くならないラクな姿勢で乗れる自転車、実用性が高く、そして何より雨にも濡れない自転車がもっと普及すれば、自分で漕ぎ出す人も増えるのではないでしょうか。
避けたいけど雨に降られたら仕方がないと、めげずに雨の中自転車通勤・通学されている方もたくさんいらっしゃることでしょう。当たり前のように全天候型自転車が普及する日、来ないものですかねぇ。
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3輪の自転車も日本で見るのは少ないが、国によっては珍しくない。
Posted by cycleroad at 23:30│
Comments(10)
お返事、有り難うございます。確かにリカンベントはスピードは出るものの、上り坂には弱いと聞いております。だから本当は、普通の自転車にフードをつけたタイプ(どこかのHPで見たことがあります)の方が、私の使い方には向いているのかもしれません。
ベロタクシーが正式名称でしたか。やはり港の周辺で、主に観光客を乗せてのんびりと走っていますが、地元の人がタクシー代わりに使うケースもあるようです。
お邪魔します。はじめまして私はベロモと言います。このたびGo-Oneを購入しました。まだ完成してませんが、洗練されたデザインに日々見とれています(笑)cycleroadさんがおっしゃるように日本でもひとつの選択肢としてこのような乗り物が増えればいいなあと感じます。