今年は、飲酒運転やシートベルト着用と並んで、自転車の安全利用の促進に重点がおかれています。ここのところ全国的にも、自転車と歩行者の事故の増加が顕著となっているようで、各メディアでも一斉に自転車の安全について取り上げています。いくつか例をリンクしておきます。
●自転車の人身事故 県内で急増 /神戸新聞ニュース、5月11日
●春の全国交通安全運動スタート マナー向上呼び掛け /静岡新聞、5月11日
●自転車事故 県下ワースト2に /神奈川タウンニュース、5月11日
●高校生の違反自転車にイエローカード・郡山 /福島放送、5月11日
●チラシなどで自転車の安全運転呼び掛け−高松市 /四国新聞、5月12日
警視庁は、都内主要駅周辺などで、初の「自転車限定の一斉取締り」を実施し、7人が「赤切符」、すなわち刑事処分を受けたことも報道されています。もはや歩道を暴走するなど、交通ルールを無視した自転車を野放しには出来ないとの認識が警察にも広がっているようです。
しかし、いくら取締りを強化しても、膨大な自転車の数の前には焼け石に水で、抜本的な対策が不可欠なのも明らかです。警察庁と国土交通省は、歩行者と自転車を物理的に分離する自転車道の整備を進める方針を明らかにしました。5月13日の
朝日新聞の記事から引用します。
自転車道、造り方を指南 事故減狙い警察庁・国交省/2007年05月13日
自転車がからむ交通事故が増えていることから、警察庁と国土交通省は自転車の通行ゾーンの整備指針を共同でまとめる方針を固めた。従来の自動車・歩行者中心の道路行政を見直し、車線を削ったり歩道を区分したりして、自転車の通行空間を確保し、事故を減らそうという新たな試みだ。道路の形状ごとに類型化した通行ゾーンの設置方法を都道府県に示し、自転車のための空間拡充を進める。
国民3人に2台が普及している自転車は道路交通法上、車道通行が原則で、歩道は例外的に「通行可」指定がある場所しか走れない。にもかかわらず、自動車と分離された通行空間が十分に確保されていないことから、歩道走行が事実上黙認されている。自転車と歩行者の事故は、95〜05年で4.6倍に増加し、自転車がからむ事故全体も1.3倍に増えた。
警察庁は3月、歩道を走る自転車に対する取り締まりを強化するよう全国の警察本部に通達。今国会には、車道通行の原則を維持しつつ、自転車が歩道を走れる要件を約30年ぶりによりきめ細かく定める道交法の改正案を提出し、ソフト面から自転車と歩行者・自動車の分離を進めている。
指針は、自転車の道路上での位置づけをハード面からも明確化するのが狙い。車線が多い道路では、車線を削って車道左端に自転車レーンを設ける▽幅員が広い歩道は、自転車通行ゾーンを工作物やカラー舗装で区分する――などで、具体的な内容は専門家らの意見を聞きながら詰める。
都道府県は指針をもとに、緊急性や必要性の高い路線から順次、自転車通行ゾーンの整備を進める。予算措置が必要なうえ、限られた道路空間のなかで再編が難しいケースも予想されるが、警察庁などは長期的展望に立って整備を求めていく。
国交省は今年度、道路のハード面を定めた政令「道路構造令」での自転車の位置づけについて、検討作業に着手。あわせて各自治体や警察と連携した自転車道・レーン整備推進の組織づくりに乗り出す。
同省によると、道路総延長に占める自転車道の割合は0.6%。環境保護対策などから国を挙げた利用促進に取り組む先進地のオランダ(8.6%)、ドイツ(4.7%)などと比べて小さい。都市単位の比較でも、ドイツ・ミュンヘン市(面積312平方キロ)が延長284.3キロなのに対し、比較的整備が進んでいる名古屋市(同326平方キロ)でも36.3キロにすぎない。
(注:下線は私が引きました。)
自転車道については、私もさんざん取り上げてきましたが、とうとう本格的な自転車道の整備が現実のものとなる可能性が出てきたわけです。つい1〜2年前までは、一部のサイクリングコースは別として、普通の道路に自転車レーンの整備なんて話題にも上らなかったことを思えば、隔世の感があります。
サイクリストの中には、自転車レーンなんて窮屈だと考える人もあると思いますが、自転車が歩道しか走れなくなるかも知れないと危惧されたのに比べれば、よっぽどましです。普通の人でも安心して車道を走れるようにして、「自転車は車道走行」という本来の姿に戻すためには、現実的な選択肢だとも言えます。
自転車の通るスペースが考えられていないような車道、違法駐車車両などによって走りにくい道路は少なくありません。道路の構造が見直されて自転車レーンが検討されることによって、自転車の車道走行が認知され、ドライバーの理解も進んで、より安全に走行できる効果も期待できそうです。むしろ積極的に、自転車道の整備を支持するのが建設的ではないでしょうか。
まだ検討作業に着手という段階ですから過度の期待は時期尚早です。でも一方で、この段階から、どんな自転車レーンが出来ようとしているのか注目していく必要もあると思います。なにせ、今まで歩道に色を塗っただけで、これぞ自転車レーンと誇るかのような記述が国交省のサイトに踊っていたのも間違いのない事実です。
この図を見る限りでは、期待できそうに見えます。「自転車のための空間拡充」「長期的展望に立った整備」といった魅力的な語句も並んでいます。しかし、カラー舗装などの言葉もあって、従来型の歩道に色を塗った自転車通行帯が増えるだけではないかとの懸念もぬぐいきれません。
当然のことながら、歩道上に設置するのではなく、セパレートした上で高さも車道のレベルに設置するべきです。そして、道路の両側への設置を原則にし、レーン内を一方通行にすることで、左側通行が自然と厳守されるようにして欲しいと思います。
従来、自転車を歩道に上げることを前提に道路整備を進めてきた結果、通行量の割に広くなりすぎた歩道もたくさんあります。そのため、歩道に完全に乗り上げた状態で違法駐車されていたり、沿道の店舗の看板や陳列台などに占拠されていたりもします。
場合によっては歩道を削ってでも、十分な幅を確保して欲しいとも思います。もちろん、放置駐輪されて、自転車レーンとしての機能が果たせなくなる恐れもあります。駐輪場が必要なのは駅前だけとは限りません。駐輪場とセットでレーンを整備することも考えるべきでしょう。
今まで一部で整備されてきた、歩道に色を塗った自転車通行帯が使い物にならないのは明らかです。自転車に乗らない人の考えた自転車レーンは無駄になるだけです。意見を聞くのは、学者や研究者だけでなく、ぜひ実際に自転車に乗っているサイクリストを入れるべきです。
まだ、検討に着手という記事が出ただけの段階で、いろいろ言うのは早すぎですが(笑)、どうしようもないレーンが出来始めてから文句を言っても遅すぎます。恐らくパブリックコメントの公募などの機会もあるでしょうし、我々利用者は機会を捉えて主張すると共に、注意深く見守っていく必要があるのではないでしょうか。
そういうわけで、自転車をターゲットにした取り締まりが行われている可能性があります。もちろん、このブログをご覧になっている方は問題ないとは思いますが、よりによって、うっかり信号を見落としたりなさらぬよう(笑)、ご注意を。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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