July 19, 2013

自転車で救急車をつくる活動

ナミビアと聞いて、その場所がすぐわかる人は少ないでしょう。


ナミビアは南アフリカ共和国の北西に位置する国ですが、そのナミビアで貧困からの脱出と人々の自立を、自転車によって支援しようという活動が行われています。Bicycling Empowerement Network Namibia、略称BEN Namibiaと呼ばれるNPO組織によるボランティアのプロジェクトです。

アフリカと言うと、一般に広大な大地をイメージしますが、サハラ以南のアフリカでは、今のところ自転車による移動が最も適切なテクノロジーであることが、いくつかの研究によって立証されています。BEN Namibiaでは、自転車を貧しい人々に提供し、持続的に使えるようにすることで、その支援を行っています。

(なぜ自転車が貧困からの脱出への支援として必要なのかは、こちらも参照してください。)

Bicycle Ambulance自転車救急車

BEN Namibiaの、いくつかのプロジェクトの中で特徴的なのは、Bicycle Ambulance Projectです。その名の通り、自転車を救急車として活用しようというものです。何も知らない人が聞けば冗談かと耳を疑うような話ですが、もちろん真剣な活動です。

ナミビアという国名は世界最古の砂漠と言われるナミブ砂漠から来ていますが、同国では砂地が多く、未舗装の道路も少なくありません。自転車で走行するのに適した道路状況ではありません。しかし、クルマの救急車を使えるほどの財政的な余裕もありません。

そこで、砂地でも走行できるような幅広のタイヤで、取り外し可能で調節出来る、日よけ付きのトレイラーを連結し、自転車で牽引しようというわけです。この日よけ付きのトレイラーが移動するベッド、ストレッチャー代わりになります。自転車による人力救急車です。生産は、2007年3月から始まりました。

救急自転車ストレッチャー自転車

ナミビアには病院も少ないですが、病院へ行くには遠すぎる地域に住む多くの人々、クルマなど他の交通手段を利用できない大勢の人々にとって、Bicycle Ambulance「救急自転車」は、HIVをはじめとする疾病や保健衛生上の深刻な危機に対する大きな救いとなっているのです。

日本では、あまり馴染みのないトレイラーですが、自転車による輸送手段として、ときに大きな威力を発揮します。この自転車救急車プロジェクト・コーディネーターのAaron Wieler氏は、自身のサイト、Community Bike Cart Designでも、広くトレイラー、自転車カートの果たす役割を説いています。

Community Bike Cart Design先進国でも、有害な排気ガスや温暖化ガスを発するクルマへの過度の依存から抜け出すため、バイクトレイラー、自転車カートは素晴らしい手段です。そして発展途上国にあっては、貧困から抜け出すために農産物などを輸送する手段だったり、病人を運んだり保健衛生を向上させる手段として貴重な手段となっています。

現実問題として、ナミビア以外でも多くのサハラ以南のアフリカ諸国では、コスト上の問題からクルマを利用できない人が大勢います。そうした地域で大きな貢献を果たすのが自転車や自転車カートです。しかし、まだまだ誰にでも手に入る訳ではありません。

アフリカ以外も含めた発展途上国で、なるべく安価にバイクトレイラーを使えるようにする必要があります。アメリカ・ハンプシャーの大学でAppropriate Technology Designを教えているAaron Wieler氏は、誰でも広くトレイラーを利用できるようにすることが重要と考えています。

(Appropriate Technology についてはこちらも参照のこと。)

残念ながら、先進国で製造販売される自転車トレーラーは、途上国の誰もが手に入れられるほど安くありません。そこで、Aaronさんは自身のサイトで、多くの人がトレーラーを自分で製作できるよう、無料のオープンソースデザインとしてその設計図を公開すると共に、その普及の意義を啓発しているのです。

Carry Freedomという会社も、この考えに賛同しています。クルマがあふれるような国において、バイクトレイラーを普及させることの意義を環境面からも強く自覚する会社ですが、途上国におけるニーズとその果たす効果、大きな意義を理解し、やはり無料でバイクトレイラーの製作方法を公開しています。

竹製自転車トレイラーBamboo Bicycle Trailer

その設計がユニークなのは、材料に「竹」を使っていることです。竹は切断や連結などの加工が楽ですし、溶接や金属パイプを湾曲させるような高度な技術は必要ありません。地域によっては無料、または安価で比較的容易に手に入り、強くて軽い素材で衝撃も吸収します。サイズや形の要件にも柔軟に対応できます。

“Carry Freedom”はイギリスのブランドですが、そのカートを愛用するイギリス人ジャーナリストが、ヒマラヤへ自転車旅行に出かけたことが、このBamboo Bicycle Trailer誕生のきっかけとなりました。彼らが旅行の途中で、ヒマラヤのある村に2〜3週間のあいだバイクトレイラーを残して先へ進んだことがありました。

Carry Freedom帰ってきた時、貧しい村人たちはバイクトレイラーを使って、袋に入った米を隣の村へと運んでいました。村人は、その恩恵の大きさに気づいていましたが、軽量なアルミ合金と高度な技術で作られたトレイラーをコピーして製作することは出来ませんでした。もちろん購入することも出来なかったわけです。

このエピソードが、Carry Freedom社に、発展途上国向けの自転車カートの開発を促しました。その後、Aaron Wieler氏の考えに共鳴し、その意義を理解したことで、Bamboo Bicycle Trailerを公開し、トレーラーを作ることと、その意義を広く訴え、協力や参加を呼びかけることにつながったのです。

発展途上国で貧困に苦しむ人々の数は依然として膨大な数に上ります。今日を生きるための食糧や医療の直接的な援助が重要なことは言うまでもありません。一方で、援助を受け続けてそれに依存するのではなく、自立を促すことの重要性も指摘されています。

例えば、仕事のある場所へ通勤できる手段として、農産物を市場へ運んで現金化する手段として、自転車は自立への重要な助けになります。それが先進国では考えられないような悪路の走行、また長時間の走行だったとしても、徒歩しかない人々にとって、飛躍的に効率的な手段となるのです。

日本では馴染みの薄いバイクトレイラーですが、先進国では温暖化対策として使い、途上国では貧困からの自立のために使おうと、その普及に努力している人たちがいます。彼らの思いを知ると、たかが自転車やトレイラー、カートが、案外世界を変えていくのではないかと思えてきます。




大雨、豪雨の一方で渇水の地域もある、いつものことですが、なかなか上手くいかないものですね。


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この記事へのコメント
発展途上国への支援だと
インフラの整備や
高度な先進機器を贈っても
結局「宝の持ち腐れ」になる事例がある中で

差別ではなく
現場に根ざした
現場を理解しているからこその支援ですね
Posted by ロードバイク初心者 at July 25, 2013 00:22
ロードバイク初心者さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
インフラの整備など、政府レベルや公的機関の支援に対して、民間の草の根レベルの支援活動という違いもあると思います。
ただ援助を続けるだけでは、援助に依存するケースもある中で、自立を促す形は重要でしょうね。
Posted by cycleroad at July 26, 2013 23:47
 
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