本田宗一郎と言えば、戦後の日本を代表する経営者の一人です。
その宗一郎氏の創業したホンダ(本田技研工業株式会社)は、浜松の町工場で自転車用の補助エンジン製造からスタートしたわけですが、今や自動車とオートバイを世界に展開する国際的な企業であることは言うまでもありません。モータースポーツの世界にも積極的に参戦しています。
ホンダはクルマやオートバイ以外に農機具などの汎用製品も作っていますし、新規分野の開拓にも意欲的です。最近ではロボットやジェット機などの開発を行っていることもよく知られていますが、実は自転車の開発にも取り組み、レースにも参戦しているというのは、あまり知られていません。
アサヒコムの記事を引用します。
モータースポーツのホンダ、なぜ自転車レースに? /2007年06月05日
モータースポーツの世界で数々の栄冠を勝ち取ってきたホンダ(本社・東京)が、自転車レースに参戦している。急斜面のオフロードを下ってタイムを競う「ダウンヒル」レース。独自に開発した「RN01(アールエヌゼロワン)」は斬新なスタイルと性能で注目を集める。なぜホンダが自転車を開発したのか。開発チームに聞いてみた。
急斜面を高速で下るダウンヒルは、マウンテンバイク競技のなかでも最も激しい種目とされる。「落ちていく」ような快感は、恐怖と紙一重だ。乗る人の力量はもちろんだが、自転車の性能が大きくものをいう。 RN01の誕生は99年、本田技術研究所研究員の水田耕司さんが趣味でダウンヒルを始めたことにさかのぼる。
モトクロスバイクのデザイン担当だった水田さんにとって、当時市販されていたダウンヒル用自転車はとても頼りなく見えた。「多くの人に楽しんでもらうにはもっと高性能な自転車が必要だ。ホンダならできる」。水田さんの挑戦が始まった。
競技用自転車の開発はホンダにとって初めて。半年がかりで上司を説得し、長野県内のコースへ連れ出した。市販車と水田さんの手による改造車を乗り比べ、自転車次第で「恐怖」にも「快感」にも変わることを体感してもらった。
00年秋、水田さんら3人で開発チームが立ち上がった。元全日本モトクロス選手権チャンピオン伊田井佐夫(いだ・いさお)さんの協力で、開発は順調に進んだ。プロトタイプに試乗した福井威夫専務(現・社長)は「開発する以上はレースで勝つんだ」と檄(げき)を飛ばし、プロジェクトは大きく前進した。「商品化」に加え「勝利」がチームの目標になった。
02年、社名を伏せて国内レースにスポット参戦。赤く塗装されたプロトタイプは、様々な憶測を呼んだ。03年には本格参戦を正式発表。04年には、海外初参戦でタイトルを獲得する快挙を挙げた。RN01に試乗した海外のプロライダーは、チーム加入の誘いを二つ返事で受けたという。それほどRN01は斬新で高性能な自転車だった。
RN01最大の武器はミッション(変速機)だという。ボックス化したうえで、後輪からフレーム中央に移したことで車体バランスが向上。転倒時の衝撃にも強くなり、チェーンが外れるといったトラブルがなくなった。さらに、ペダルを止めた状態でも変速できる。サスペンションはKYB(本社・東京)、ブレーキは曙ブレーキ工業と、いずれも自動車や二輪車の部品メーカーが開発に加わった。
07年も海外レースに3台、国内レースに2台の体制で参戦している。海外では、最高峰のパーツを使用して勝利を追求。一方、国内では市販化に向けた仕様で参戦し、データの蓄積を図る。「一般の方でも購入していただける価格での市販を目指しています」。水田さんの挑戦は続いている。
パッと見た限りでは気がつきませんが、確かに後輪にスプロケットがついていません。どういう仕組みなのかよく分かりませんが、止まったままでもギアを変えられるなんて、よく考えると画期的な機構です。自転車乗りが、もはや意識しないくらい当たり前になっている常識を裏切っています。
昔と比べれば減りましたが、確かに普通の人が使う場合でも、チェーンが外れるトラブルが無いのは大きなメリットだと思います。ただ、変速については、ふだん乗り慣れている人なら、信号などで停まる前に、減速しながら無意識にでもギアを戻すのが習慣になっているでしょう。必ずしも必要性が高くはないようにも思えます。
ところが、「惰性で進んでいる間にもギアチェンジができるのは、実際に乗ってみると想像以上に快適。」と試乗した記者の方が書いています。おそらく新しい仕組みが出来る時はそんなものなのでしょう。乗るまでは実感できませんが、その快適さに慣れてしまうと元に戻れなくなってしまうのかも知れません。
試乗したプロライダーも、実績のない新チームにも関わらず喜んで移籍するほどですから、魅力的なシステムなのは間違いないでしょう。市販されればMTBはもちろん、他の自転車にも影響を与える可能性がありそうです。シマノなど大手部品メーカーの寡占化が進むコンポーネントパーツの分野にも変化が生じるかも知れません。
今のディレーラーによる変速システムも、パーツや動きを詳細に見てみると、実によく出来ているものだと感心します。昔に比べれば、はるかに進歩し、精密にもなりました。動作の信頼性や操作感なども大きく向上しています。しかし、部品の精度は別として、基本的な仕組みは、ずっと変わっていないのも事実です。
自転車の基本的な部分には、なかなか大きな革新は起きないかも知れません。既に究極に近いと考える人も少なくありません。何もなければ、長い間このままの成熟商品であり続けるでしょう。しかし進歩は、しばしば想像を超えて起きます。何かのきっかけで大きく進化しないとも限りません。そうした面からも、ホンダの参入には意味があります。
異分野の会社、ある意味で異質な主体が開発に参入することは、自転車の未来にとっても悪くないことに違いありません。もちろん、日本ではあまり人気が高くありませんが、技術革新に取り組むモチベーションとして、各種のレースの存在があるのも見逃せません。
本田宗一郎が名経営者だったからと言って、ここで特別にホンダというメーカーを持ち上げるつもりはありません。ただ、自動車メーカーとして、道路上においてドライバー、ライダー、歩行者、自転車、子ども、高齢者など全ての人々がお互いを理解し合える社会の実現という理念を掲げ、運転者への啓発にも取り組んでいる姿勢は評価出来ます。
そして、クルマとオートバイのメーカーが敢えて自転車に挑戦するという自由な発想や、そのチャレンジングな姿勢には好感が持てます。自転車ユーザーとして、今のままの自転車で必ずしも不満なわけではありませんが、その進化を予感させ、ワクワクさせてくれる可能性という意味からも、ホンダには期待したいところです。
ホンダの無料配布する小冊子では、自転車もクルマやバイクと同じ車両で、街を走る「仲間」と強調しています。クルマを運転する人やその家族も自転車利用者になるわけで、自転車を守るのは、交通ルールを知るドライバーやライダーの役目であり、自転車を利用する時の自分や、大切な自分の家族を守ることにつながるとしている主張には共鳴しますね。
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ホンダも参戦しているが、MTBのレースと言っても山の中とは限らない。
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もちろん、クルマメーカーが挑戦するレースはMTBばかりとは限らない。
オモチャか未来の乗りものか
クルマのメーカーが、新しい次世代の自転車を開発しないとも限らない。
Posted by cycleroad at 23:30│
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