August 02, 2007

自転車に道があれば事足れり

この写真、何に見えるでしょうか。


何かの顔か、キャラクターのお面と思った方も多いと思いますが、実はこれ、「Breathe Air」と名付けられた自転車用のヘルメットです。言われてみれば上半分はヘルメットに見えます。下の部分は鼻と口に装着するマスクとフィルターになっており、つまりガスマスク付きのヘルメットなのです。

Breathe Airイギリスはロンドンの西にあるブルネル大学に在学中のLuke Pannellさんという、工業デザインとテクノロジーを学ぶ22歳の学生が設計しました。フィルターで濾過された空気が取り込まれ、プラスチックチューブを通って排出されるようになっており、サイクリストの呼吸を助け、その肺を汚染された空気から守る装置です。

パッと見て、映画のスターウォーズを連想した人が多いに違いありません。実際にネット上では、スターウォーズヘルメットとか、Stormtrooper Helmetと呼ぶ人も多くいます。比べてみれば形は違うのですが、連想させるのは確かです。個人的には、映画プレデターに出てくる異星人もイメージさせる気がします。

スター・ウォーズ ダース・ヴェイダー光と影 (LUCAS BOOKS)先月上旬にプレス向けに発表されましたが、すでにネット上では、海外の多くのメディアやブログなどに取り上げられています。単に一人の学生の作品にも関わらず、と言うと失礼な言い方になってしまいますが、特にメジャーなわけでも発売が決定したわけでもないのに、多くのサイトで取り上げられています。

ガスマスク付きヘルメットというのも充分ユニークではありますが、やはり、これだけの反響があるのは、見た目の持つインパクトの効果が大きいのでしょう。マニアックなスターウォーズ・ファンも少なくないのでしょうが、多くの人の目をひくのも分かる気がします。


プレデター [Blu-ray]詳しい仕組みや仕様が公開されていないので分かりませんが、イメージ的には走行中に息苦しかったりしそうです。でも、水中で使うシュノーケルなどとは違い空気を濾過するだけですから、むしろ高速走行時に息がラクなのかも知れません。必要であれば別々に調達することもできるのでしょうが、ヘルメットと合わせたところがミソです。

以前は一日じゅう幹線道路を走っていたりすると、排気ガスで顔中ススまみれということもありましたが、最近は各都市圏でディーゼル車規制が進み、粒子状物質などはだいぶ減ったと思います。地域によって違うのかも知れませんが、黒煙をもうもうと吐き出しているトラックを見る機会は、かなり減りました。

しかし黒煙は減っても、幹線道路を走行するような状況では、ずっと有害な排気ガスを吸い続けることになりますので、使いたい人は案外多いことも考えられます。もちろん、厳しい花粉症に悩まされている人なら、例え自転車に乗らなかったとしても欲しいアイテムかも知れません。

実は、このヘルメットをデザインしたLuke Pannellさんもひどい花粉症患者なのです。室内ではフィルター付き空気清浄機が利用できても、室外ではそうはいきません。ましてや自転車に乗れば、花粉やチリの風を常に受けることになり、呼吸も速くなるので、余計に花粉症の症状に苦しめられると彼は述べています。

そらまめ君同時に花粉はサイクリストを悩ます空気中の汚染物質や有害浮遊粒子の一つでしかなく、他にも多くのアレルギーや喘息患者がいることに気づいたと言います。また、幸いこれらを発症していないサイクリストにしても、排気ガスや、空気中の有害物質に肺が蝕まれることを防げます。

ルークさんも、かなり花粉症に苦しまれたのでしょう。このBreathe Airは、喘息患者や花粉症患者を充分念頭に設計されており、活性炭を使ったフィルターなどにより、大気中の有害汚染物質を効果的に吸着し、わずか3ミクロンの大きさの粒子でも98.5%除去できると言います。

同校の教師は、このBreathe Air,(The Powered Personal Air Respirator (PPAR))が、従来のような制約や不快さもなく、単純ながら大きな効果を上げることに感動したと述べています。そして、健康な肺を維持する意味で、全てのサイクリストの役に立つと考えています。

大学側の発表なので、多少割り引いたとしても、防塵マスクとしては優れたものがあるようです。海外の多数のサイトに取り上げられていると書きましたが、多くは見た目のインパクトやユニークさ、スターウォーズを連想させることに注目しているだけてす。その外観に注目が集まりすぎて、逆に損をしている面もありそうです。

Breathe Air Helmetルークさんは、現在このBreathe Airを製品化してくれる会社を探しているそうです。ちなみに、発売されたら100ポンド、今のレートで2万4千円くらいになると見積もっています。花粉症がもはや国民病と言えるほどの状態になっている日本でも、近い将来発売されることになるかも知れません。

ただ花粉症の季節に、このヘルメットをかぶってまで自転車に乗る人が、果たして日本ではどのくらいいるだろうという疑問はあります。そもそもヘルメットをかぶる人も日本では少数です。それでも、ある日、後ろを振り返ったら、いきなりこのヘルメットが迫ってくるかも知れませんので、驚いて落車しないように注意しましょう(笑)。

花粉症はともかくとして、日本では高度成長期の大気汚染のひどい時代、各地で喘息などの公害病が問題になったような時期に比べれば、大気汚染は大きく改善してきたのも事実でしょう。しかし、ここへきて気になる現象が起きています。1970年代がピークだった光化学スモッグが、最近また増加し始めていると言うのです。

光化学スモッグは、クルマや工場などから出る窒素酸化物等の大気汚染物質が日光を浴びるなどして起きると言われています。その光化学スモッグ注意報の発令が西日本を中心に増え、クルマも工場もむしろ減っている県に、観測開始以来初めて注意報が出される例も出ているというのです。

越境汚染これは中国との関係が強く疑われ、多くの人が越境汚染と指摘しています。経済成長著しい中国の大気汚染は本当に深刻です。その中国で大気中に大量に放出される有害物資が気流に乗って日本を直撃していると言うのです。また、中国内陸部で木材の伐採などにより砂漠化が進み、「黄砂」の被害も深刻化しています。

この黄砂が日本で観測されることも増えているそうですが、黄砂にも有害物質が付着して運ばれてきているのを指摘する研究者もいます。中国の大気汚染の更なる進行も懸念されていますが、それにつれて日本での喘息や肺がんといった被害が拡大していく可能性も考えられます。

サイクリストは自ら排気ガスは出さないのに、ドライバーも浴びないクルマの排気ガスをかぶる損な立場にあります。同じように、自らの排出は減っているのに、中国の出す有害ガスをかぶる歯がゆい立場に日本が立たされるのかも知れません。ただ、この場合は中国自身も被害を受けるので、改善を促す上では、せめてもの救いでしょうか。

自分たちの国で起きていることなら、まだ対処も出来ます。決して平坦な道のりではなく、大きな犠牲を払いながらも、日本はなんとか公害を克服してきました。しかしほかの国で起きていることには直接手を下すことも出来ません。変えていくことは非常に困難です。

深刻な中国の大気汚染中国に対する公害対策などの技術支援を行う必要があるのでしょうが、実行するのは中国です。そう簡単に解決する課題とも思えません。その前に中国との外交関係も好転させなければなりませんし、困難な道です。支援に多額の費用もかかるわけで、我々も税金として負担することになるでしょう。

サイクリストが自転車を楽しむためには、お気に入りの自転車と走りやすい道だけでなく、当たり前ですが、安全な空気も必須なことを忘れがちです。普段は意識することも少ないですが、安全な空気に対するコストは、また大きくなっていくのかも知れません。

中国の大気汚染と、日本への影響を警告する報道の増加に不安を覚える人は多いでしょう。なんとか状況が好転してもらいたいものだと祈らずにはいられません。ルークさんには悪いですが、日本中、それこそスターウォーズの映画さながらに、マスクを被った人で溢れる事態は見たくないですから..。



英国の専門家は、深刻な大気汚染で競技に影響が出て、北京五輪では世界記録樹立は不可能との予測をたてているそうです。中国の大気汚染対策にも悲観的で、英国や豪州は五輪直前まで現地入りしない、短時間の競技なら日本から日帰りした方がいい、など真剣に検討されていると言うのもスゴイですね。

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いかに危なっかしく見せるか
自転車に乗る時、ヘルメットをかぶった方が危険という説がある。

あらためて気づかされる危険
もちろん、ヘルメットをかぶっていたお陰で命拾いする人もいる。

ヘルメットは自らかぶらせる
こちらも、ある程度インパクトがあるけど楽しげなヘルメットだ。



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