各地での花火大会のことではなく、その先の宇宙空間の話です。今月は、全国で見ることの出来るものとしては6年半ぶりという皆既月食が28日にあります。11日から15日頃にはペルセウス流星群も見られますし、天体ショーを楽しみにしている子供たちも多いことでしょう。
さらに日本の月探査衛星「
かぐや」が、9月にも打ち上げられる予定ですので、宇宙関連の話題は増えていきそうです。かぐやは、人類が初めて月に降り立った、あのアメリカのアポロ計画以来最大の月探査計画と言われています。一連のアポロ計画以来と言うことは、35年から40年ぶりの探査ということになるわけです。

今回、月を周回しますが無人探査で、月面着陸するわけではありません。しかし、当時と比べれば、観測機器も大きく進歩していますし、将来は月面着陸も視野に入れると言います。月の誕生や地球の起源などに関する謎も解明されるかも知れません。大いに期待されるところです。
しかし、なぜ今、「月」なのかという素朴な疑問を感じる方もあるでしょう。ついこの間までは、スペースシャトルだ、国際宇宙ステーションだと言っていた気もします。宇宙開発が夢とロマンに溢れる一方で、莫大な税金が使われているにもかかわらず、日本の宇宙開発がどうなっているのか、世間の関心は決して高くありません。
関係者は、国際宇宙ステーションが2010年に完成し、人間が常駐するようになれば、次の目標が月というのは当然だと話しています。宇宙ステーションへの関心が薄れる中で、次なるターゲットの正当性を主張しているようにも見えますが、なぜ「月」なのかの理由になっていません。何のために月を探査するのでしょう。
そもそも国際宇宙ステーションは、当初計画から20年以上かかっているのに未だに完成していません。先ごろも「宇宙日本食」を発表するなどして、さかんに注目を集めようとしていますが、あまりパッとしません。宇宙日本食と言っても特別の技術が使われているわけでなく、普通の食品を包んだだけのものもあります。
日本人がシャトルに乗るたび、宇宙航空研究開発機構(
JAXA)は、過去にも大リーガーのサインボールを話題にしたり、地上と通信する様子を中継するなど、盛んに国民の関心を維持しようと腐心しています。でも、宇宙ステーションの目的について知っている人がどれほどいるのでしょうか。

計画当初こそ、宇宙空間での実験室や無重力の工場としての期待が高まりました。しかし、90年代早々には完成する予定が、いつまで経っても完成しないどころか、日本の実験施設はまだ打ち上げすらされていません。日本の実験棟「きぼう」は、ずっと米国で待機を続けているわけですが、打ち上げ前に、すでに老朽化が懸念されています。
アメリカの予算事情などに振り回された感もありますが、もはや国際宇宙ステーションに対する日本の産業界の関心は完全に離れていると言っていいでしょう。わざわざシャトルで人を送らないでも、必要なら衛星を打ち上げて遠隔操作したほうが、よっぽど安くて手っ取り早いはずです。「きぼう」は打ち上げられない可能性も出てきています。
アメリカ自身、月や火星探査計画に目が向いており、金がかかってリスクの高いシャトルを早く退役させたがっているのは明らかです。シャトルの打ち上げを大幅に減らす中で、さまざまな政治的意図やこれまでの経緯から、最低限の約束を果たす形をつくって、取り繕おうとしているに過ぎません。
日本はこの計画だけで既に7千億円もの予算を使い、完成後も、毎年4百億円の運用経費がかかります。宇宙ステーション自体、ここ数年故障やトラブルが目立ってきており、仮に2010年に完成してもアメリカは2015年までの予算しかとっていません。つまり完成後5年で撤退する可能性が高いのです。
シャトルの打ち上げ減もあって計画は大幅に縮小された上、当初30年見込んでいた運用期間が5年です。米国は民間企業への開放を言いだしてしますが、果たして参加する企業があるのでしょうか。JAXAは、計画の成果や費用との見合いなど、具体的には何も説明していません。この検証もせずに、次は「月」、でいいのでしょうか。

日本ではほとんど報じられませんでしたが、2005年の9月には、アメリカ航空宇宙局、NASAのグリフィン長官本人が、
「
国際宇宙ステーション計画は、国威発揚以外無意味であり、実質的には全く価値のないもの。」
と明言しています。日本にとっても技術が蓄積するわけでもなく価値のない、そんな計画に、だらだらと資金をつぎ込み続けてきたのが現実なのです。
そもそも国際宇宙ステーション計画は、80年代初期に、レーガン大統領が冷戦下の西側各国の結束力をアピールし、ソビエト連邦に対抗する政治的・軍事的な意図が非常に強いものだったのは周知の事実です。米国や欧州の財政難、スペースシャトルの事故、冷戦終結による政治的必要性の低下もあって、計画は遅れに遅れた事情もあります。
日本だけ途中で放り出すわけにも行かなかったのでしょうが、国際宇宙ステーション計画だけに限らず、日本政府は、宇宙開発に対するビジョンすら持っていないことが問題とする見方は、専門家の間では常識のようです。宇宙開発の意思決定を行えるだけの知識を持った政治家は、ほぼ皆無だと言います。
国民が注目していないだけで、脈略のない計画や中止や無駄もたくさんあります。目的を絞らずに飛ばした衛星だってあります。今年1月には16年の歳月と152億円をかけた「ルナ-A」計画も中止されました。ちぐはぐな計画により、観測機器の開発が遅れ、探査機が老朽化してしまったというお粗末さです。
もちろん最先端の分野ですから、うまくいかないこともあるでしょう。しかし、しっかりとしたビジョンや計画なしに、高速道路や新幹線などと同じような「公共事業」として機械的に予算が消化されているだけの実態があります。莫大な予算を消化して、極端に交通量の少ない高速道路のかわりに、わずかな金属スクラップが残るだけです。

こうした科学研究への予算は、目先の失敗にとらわれず、長期的な投資として見るべきだとの反論もあるでしょう。家計で言うなら、例えば教育費のようなもので、将来に向かっての投資は決して無駄ではないとの考え方、長期的な国益を見据えるべきとの意見に反対するものではありません。
しかし、日本の国家予算は、言わば月々の給料を支出が上回っている上に、膨大な借金を抱えている状態なのに、大した考えもなく、何の足しにもならない道楽に金をつぎ込んでいるようにも見えます。福祉や医療、介護などの負担が増加し、実質的な増税で家計が苦しくなる中、せめて明確で納得のいく説明が欲しいところです。
アメリカや欧州、ロシアばかりか中国やインドがこぞって月探査に乗り出す中で、日本だけ乗り遅れるわけにはいかないとの説明もあります。将来人類が奪い合う月の地下資源について、日本の発言権がなくなってしまうと心配する関係者もいます。
素人考えですが、月で資源が見つかっても地球に輸送するコストに見合うのか非常に疑問です。月に移住して資源を使うにしても、空気も水もなく、宇宙線のふりそそぐ厳しい環境です。他の惑星ならまだしも、移住する意味があるのでしょうか。40年間、見向きもされなかった理由もそこにある気がします。
純粋に学術的な興味は満たされるかも知れませんが、莫大な税金に見合うか疑問です。実際問題として、宇宙開発に膨大な予算をとられれば、相対的に他の重要な研究への予算は減ります。宇宙はウケがよく、アメリカがやると言うと予算が通りやすいそうですが、もっとバランスを考える必要もあるでしょう。
資源と言うなら、例えば海洋資源の開発のほうがよっぽど優先順位が高いはずです。その予算は宇宙開発に比べて圧倒的に少ないですが、日中国境のガス田だけでなく、メタンハイドレートの探査や、我が国の海洋権益を確保するための大陸棚の調査などに、もっと予算を投入すべきとの考え方もあります。

諸外国に後れを取るというのが殺し文句ですが、遅れをとってもいいのではないでしょうか。なぜなら、他の先進国と日本は決定的な違いがあります。宇宙開発における技術開発は、そのまま軍事技術の開発と言っても過言ではありませんが、今のところ日本は、その成果を武器輸出で元をとれない(とらない)唯一の先進国でもあるわけです。
他国と違って資金を投入するだけの宇宙開発に、意地を張って正面から勝負するより、もっと他の分野に力を入れる手もあるでしょう。欧米もロシアも中印も月を目指すなら、例えば地球の内部の開発を目指すなんていうのはどうでしょう。地震のメカニズムの解明につながれば、災害対策にもなります。
実際問題として、月の探査を行っても、日本はその次には進めません。有人飛行の技術がないからです。頼みのアメリカにも共同開発をキッパリ断られました。みんなが何かの行列に競って並んでいるので、自分も並んでみたものの、入口まで来たら、他の人は持っているチケットを自分だけ持っていなかったようなものです。
あるいは、政治的にそのあたりは解決できるかも知れません。しかし、アメリカの政策はまさに政治的な面で大きく変化します。宇宙ステーションで懲りずに、また彼の国の都合に振り回されなければいけないのでしょうか。いずれにせよ、宇宙開発の専門家や関係者の言うことに惑わされてはいけません。彼らはやるべきと言うに決まっています。
2004年にブッシュ大統領が「月に再び人類を送る」と宣言したのを機に、月探査に急速に注目が集まりました。中国などに、アメリカを意識している部分がないはずはありません。国際協力で月探査を進めようとする動きもありますが、すでにアメリカに振り回されつつあると言えそうです。

メリットどころか、あるかすら分からない新大陸を求めてコロンブスが出航しなければ、アメリカ大陸の発見はなかったのも事実でしょう。今、何ら利益をもたらす見込みがないからと宇宙開発を断念するのは、あまりに近視眼的であり、何があるか分からないけど、踏み出さなければ何もないのが、長期的な投資とするのも理解できます。
そんな長期的な国益もあるでしょうが、そのわりには、あまりにビジョンや計画に説得力が乏しい気がします。研究開発だからと損失を垂れ流すのでなく、効率を上げるためにも、過去の検証や反省、改善も必要でしょう。また、長期的投資にしても、日本が世界に先行できる可能性のある分野を選択し、集中する必要性もあるのではないでしょうか。
当然、JAXAとして統合された旧宇宙3機関がJAXA内部で争っている場合ではありません。無駄な計画を反省し、軌道修正するのも当然です。世界の状況の変化に対応出来ない硬直した組織、効率を考えず損失も防がない役所的体質、戦略もなく対米追従するだけしかない無能さなど外部の指摘に行動で答えて欲しいものです。
来年は日本人の宇宙飛行士が長期滞在することになっていますが、日本人飛行士だけ和食を食す必要もありません。日本食を食べると飛行士がホッとするなどと、くだらないアピールで巨額投資の失敗から国民の目をそらすのではなく、もっと真に期待が持てるようなビジョンを打ち出し、シフトする決断が求められます。
国民もハリウッド映画のイメージそのままに、宇宙開発を漫然と捉えるべきではありませんが、政府も宇宙開発の華やかさや、夢とロマンにかまけて、国民への説明も怠るべきではありません。宇宙開発の本質とその必要性への理解を得る努力をしなければ、いつか国民の怒りを買い、宇宙への期待も支持も失うに違いありません。
そんなことより、この季節は月を見上げながらビアガーデンでしょうか..(笑)。個人的には興味があって、期待するぶん辛口になってしまいましたが、政府のビジョンのなさが問題で、「きぼう」はともかく、「かぐや」には期待する部分もあります。宇宙飛行士にあこがれるチビッ子も多いので、なんとか有効に予算を使って、子どもたちの夢を壊さないためにも頑張って欲しいものです。
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