
この週末は、各地で自転車の市民レースが開催されました。
三重県の鈴鹿サーキットでは、国内最大級の「シマノ鈴鹿ロードレース」に全国から集まった1万2千人もの市民レーサーがしのぎを削りました。シマノ広報によれば、「健康ブームで自転車に乗る人が増えている」ため、幼児からお年寄りまで、史上最多の出場者数を記録したそうです。

茨城県の筑波サーキットでは「筑波8時間耐久レース」が行われ、小学4年生以上で構成されたチームによる真夏の耐久レースが繰り広げられました。宮城県の仙台ハイランドレースウェイでも、文字通りママチャリで競う「MAMAチャリ4時間耐久レース」が開かれています。
最近、こうした市民レースや、その参加者数は確実に増えていると言います。徐々に趣味やスポーツとして自転車に乗る人が増えているのは間違いないでしょう。10年前、あるいは、つい2、3年前と比べても、ずいぶん増えたと感じさせる事例が少なくありません。
先日の読売新聞の夕刊で、女優の
吉野紗香さんがクロスバイクにまたがった4段抜きの大きな写真を目にした方も多いと思います。東京中日スポーツや日刊スポーツには、俳優の
鶴見辰吾さんの記事も載っています。芸能人の間でも自転車好きが広がり、プライベートでレースやライドイベントにエントリーする人も増えていると言います。
別に、芸能人の自転車乗りが増えたからどう、ということではありませんが、こうした記事もよく見るようになりました。芸能人が乗っているクルマならともかく、乗っている自転車の記事が、自転車雑誌以外の一般のメディアに載るなんて、以前なら、まずなかったと思います。

当然のことながら、メディアでこうした記事が扱われるのは、読者・視聴者の自転車に対する関心の高まりを反映しています。日本では、元々自転車に乗る人が少ないわけではなく、圧倒的にママチャリが多いわけですが、スポーツバイクへの関心が高まっているわけです。もちろんスポーツバイクとママチャリの間には大きな差があります。
ママチャリも近所へのアシとしては便利ですが、いかんせん重くて軽快には走れません。ちょっとした坂でも降りて押さなければなりませんし、スピードも出ないし、遠距離も乗れず、あまり楽しくもないでしょう。しかしスポーツバイクの自転車本来の能力を体験し、その楽しさに触れると、「本当の自転車」に目覚めるはずです。
ロードバイクやクロスバイクだけでなく、最近増えている軽快なシティサイクルも含め、タイヤが細めで、車体が軽く、ギアを多段に切り替えられる自転車に乗ると、ママチャリしか乗ったことがない人は目からウロコが落ちると思います。そんな人もジワジワ増えているのかも知れません。

つまり、自転車に乗る人が増えたと言うより、ママチャリからスポーツバイクに乗り換えるような、自転車の魅力や本来のポテンシャルに気づく人が増えているという感じでしょうか。そんな人が増えていることが、昨今、自転車ブームと言われる所以なのでしょう。
自転車は免許のない未成年用か主婦の買い物、あるいは最寄り駅までの通勤のアシであり、クルマに乗る人には全く関係ない、むしろ邪魔なものに過ぎないと思っている人は、相変わらず多いかも知れません。それでも、レースやツーリングだけでなく、街中でも好んで自転車に乗り、楽しむ人は着実に増えています。
サイクルジャージやレーパン姿でロードバイクなどに乗る人は、単なる自転車オタクか競輪選手の練習だと思っていた人(笑)も確実に減り、逆に、お洒落だと感じる人、乗ってみたいと考える人が増えているのです。自転車など、まるで眼中になかった人の間にも、徐々に変化が広がっているのかも知れません。
こうした傾向は、以前からのサイクリストにとっても歓迎すべきことのように思います。自転車に興味を持てば、自ずと交通ルールやマナーも自覚し、単にアシとして自転車に乗っている人に比べてモラルも向上するはずです。そうした人が増えれば増えるほど、右側通行や無灯火などの無法な行為が減り、路上の安全も向上するはずです。

自転車に乗るようになって運動不足が解消し、健康になる人は少なくありません。乗っていなかった場合と比較するのは困難ですが、結果として生活習慣病などのリスクが減り、大病を回避して医療費の負担が減ったり、寝たきりを防ぐなど、介護費用も大幅に低減したことになっている可能性があります。
一人頭の年間の金額はたいしたことはないかも知れません。しかし、積み重なれば大きな金額になります。日本全体の医療費や介護などの福祉や社会保障関係の予算レベルで考えれば、決して馬鹿にならないはずです。他人の健康と言えども、こうした歳出の削減効果は国民全体に恩恵が及ぶことは言うまでもありません。
多くの人が関心を持つようになれば、環境に対する負荷を減らし、生活環境を改善する上でも、もっと自転車の走行環境の向上を求める声が大きくなっていくでしょう。道路整備を進める行政に対して民意として影響を与え、欧州の自転車先進都市に見られるような自転車レーンの整備が都市部で進む可能性もあります。

香川県では、「
自転車の楽園」を目指す提言がまとめられたようです。地方自治体による都市基盤整備の方針にも自転車の活用が視野に入るようになって来ました。今後、着実に自転車愛用者が増えていけば、こうした傾向は、他の都道府県でも見られるようになり、あるいは国レベルへと波及していくかも知れません。
今のように、歩道を歩行者の邪魔にならないよう走行していたのでは、スピードも出ず、効率よく移動することは出来ません。しかし、自転車レーンが整備されるなど、走行環境が整備されれば、誰でも快適かつ安全に、今より自転車を有効に活用できるようになります。都市の交通手段として大いに貢献するでしょう。
自転車の活用が進むことで、クルマが制限出来れば、排気ガスによる健康被害、騒音、事故、ヒートアイランド対策にもなります。渋滞が減り、クルマに乗る人にとっても恩恵をもたらすでしょう。都市に生活する全ての人にとって、ホコリっぽい都市の生活空間が改善され、環境の向上が見込めることになります。
こうした事柄は、決して机上の空論ではありません。欧州全てではないですが、実際に大きな成果を上げている都市もあります。今まで、経済成長重視の大量消費型社会を突き進んできた日本も、環境負荷に配慮した持続可能な社会への大きな転換が迫られています。
「自転車からクルマへ」と向かってきた流れに、「クルマから自転車へ」と向かう流れを増やすことで、社会の転換にも大きな役割を果たす可能性があります。地球温暖化など人類の未来にも影響するかも知れません。その意味でも、昨今の日本での自転車ブームが、単なるブームで終わらないことを願うばかりです。
ところで、香川県の「自転車の『楽園』」というのも、ずいぶん思い切った表現です。ニュースで見る限りでは、何が「楽園」なのか明らかではありません。具体的な内容も分かりませんが、「楽園」とまで言うからには、他にはないような大胆な方針を示して欲しいところです。名前倒れにならないよう..。
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鶴見辰吾さんの記事良いですねー。環境問題への関心か、石油の高騰か、貧困層の拡大か、自動車の売上も鈍ってきてることですし、ここらで、都市内での移動手段のメインを自転車にするぐらいの勢いで自転車が広まればいいんですが。
最近、スポーツ自転車増えたのはせいでしょうか。
私も去年から乗り始めたばかりですが(笑)
こんばんは。スポーツ系自転車が振興するのは大歓迎ですが、やはりスポーツ系に乗るからといって即マナー意識が向上する訳でもなく、ママチャリ意識のままロード等へ横流れをされる方が依然多いと感じています。
今晩も、赤信号で停まっている横を、危険な猛速でロードが駆け抜けていきましたし、ほぼ毎夕、大阪ドーム横の交差道路をロードに乗った男性が(赤で)堂々駆け抜けて行きます。
これらの暴走行為で事故が増え、目に余るようになれば、再び自転車に対する規制が表面化しないか、また、仮にそこまで行かなくても、車のドライバーから白い目で観られる怖れがあるのではと危惧せずにはいられません。
吉野紗香さんがインタビューで乗っていた白いクロスバイクは、MARINっていうメーカーです。多分2006年モデル。熊のロゴが見えたので直ぐにわかりました。MARIN乗りなら多分だれでもわかるかもです。
このメーカー、有名どころではテレビドラマ「野ブタをプロデュース」の中で主人公の修二が乗っていたクロスバイクが2007年のMARIN製でした。
MARINは元々MTBバイク専門のメーカーなのでロード系のラインナップは少ないけど、
作りもしっかりしていて良いバイクだと思います。