August 29, 2007

自転車盗の見過ごせない側面

たまに、自転車盗のニュースが小さく報じられることがあります。


今月18日には、北海道の大学生が大阪へコンサートを見に行った帰りの交通費を浮かそうと、盗んだ自転車で300キロ以上走った静岡県で逮捕されるというニュースが出ていました。40.9度と国内最高気温が74年ぶりに更新された16日をはさんだ猛暑の5日間、1500キロかなたの北海道へ向けて走行していたようです。

一昨日も、和歌山から島根まで600キロ以上走行した末に、53歳の男が逮捕されるというニュースが報じられています。この種の、「盗んだ自転車で何百キロ」というニュースをたまに見かけますが、逆に言うと、そのくらい走行しないとニュースバリューがないくらい、自転車盗がありふれていると言うことも出来るでしょう。

各都道府県警察は、増加傾向にあり、年間数十万件とも言われる自転車の盗難を防ぐべく、さまざまな対策を行っています。徳島県警では、施錠を徹底するため、警告札を作成したそうです。


無施錠自転車「ノー」 県警など、盗難防止へ警告札製作

自転車盗警告札無施錠自転車にレッドカード−。徳島県警と県防犯協会は、自転車の盗難防止を呼び掛ける警告札を作った。多発している自転車盗対策として、施錠の徹底を周知するのが目的。警告札は縦三十センチ、横七センチ。サッカーのレッドカードとイエローカードをイメージした赤と黄色の下地に「盗難防止」などの文字を入れた。無施錠の自転車のハンドル部分に取り付ける。

県警によると、県内で一−六月に起きた街頭犯罪千四百二十一件中、自転車盗は60%近くの八百六件を占める。盗まれた自転車のうち約80%の六百五十七件が鍵をかけていなかったことから、持ち主が注意していれば防げたケースも多い。

警告札は四万五千枚作り、県内各署に配布。署員や地域の防犯ボランティアが駅周辺や大型量販店など被害の多発場所を巡回して取り付ける。中学、高校などにも配布する。県警の竹口哲朗生活安全部長は「継続的に啓発し、施錠を習慣づけてもらいたい」と話している。(2007/08/17 徳島新聞)


福岡県警では、二重の鍵かけと防犯登録を呼びかけています。


自転車盗難75%は施錠 県警調査 狙われる「馬てい形」鍵 二重ロックは敬遠? 被害7.9% 

二重ロックが有効自転車盗難のうち、75%は施錠しているにもかかわらず盗まれていることが福岡県警の調査で分かった。特に狙われているのは後輪部分に取り付ける「馬てい形」の鍵だけで施錠したケース。チェーン式などと組み合わせて鍵を掛けて被害に遭ったのは約8%にとどまっており、県警は「防犯に効果的な二重ロックを心掛けて」と訴えている。

調査は同県内で自転車盗が多い福岡市や北九州市、久留米市などの計十二警察署管内を対象に、県警安全安心まちづくり推進室が7月9日‐同13日に実施した。期間中、盗難届が出されたのは152台で、うち114台(75%)は持ち主が施錠していた。最も被害が集中したのは「馬てい形」の鍵で、施錠していて盗まれた114台のうち92台(81%)。中でも、薄型の鍵を差し込んで解錠するタイプが狙われやすく、被害は84台に上った。

県警は「4けたの暗証番号をボタンで合わせるタイプの鍵などに比べて壊されやすい」ことが原因とみている。一方、二重に鍵を掛けていて盗まれたのは9台(7.9%)で、県警は「二重ロックしてある自転車には犯人が手を出しにくいようだ。チェーン式やワイヤ式の鍵を組み合わせて利用してほしい」と話している。

県警によると、今年に入ってからの県内の自転車盗は6月末現在で7756件。刑法犯が減少傾向であるにもかかわらず、昨年同期比で841件増えた。「犯罪の意識が薄く、軽い気持ちで持っていくケースが多い」(県警)と思われ、盗難自転車のうち約3割は放置されているのが発見されている。県警は「盗まれても手元に戻ってくる可能性があるので、防犯登録を必ずしてほしい」と話している。(2007/08/16 西日本新聞)


ところで、この二つの記事、よく読むと不思議なことに気が付きます。徳島県警では盗まれた自転車の8割が無施錠だったとしています。一方、福岡県警は盗難被害の75%が施錠されたものだったと言います。都道府県によって、これほど違うものなのでしょうか。

ちょっと調べてみたのですが、徳島と福岡で、こんなにも傾向が分かれる原因は見当たりませんでした。福岡の方は5日間の調査ですので、サンプルが少なかったことが極端に結果が分かれた要因かも知れません。防犯への取り組みや統計の取り方、自転車盗被害の届け出率も違ったりするのでしょう。

都市部の方が、施錠していても盗難に遭う割合が高い傾向はありそうです。土地柄や、盗難の発生頻度の違いなどによって、施錠する人の割合も違うのかも知れません。いずれにせよ、盗む方の犯罪の意識が薄く、無施錠だったり、施錠しても簡単なカギ1つだけだったり、盗まれる方の防犯意識も高くないのは間違いなさそうです。
馬蹄型錠いわゆる前輪錠
都道府県によって率は違っても、無施錠というのは防犯の面からすれば論外です。しかし、決して少なくないのも事実のようです。長時間駐輪する場合の駅前の駐輪場などでは少なくても、比較的駐輪時間が短い、商店の店先などでは無施錠だったりもするでしょう。

おそらく、盗まれる可能性はあっても、実際に盗難にあう確率は低いと考える人が多いと推測されます。鍵をかけるとキーを失くした時に面倒だとか、盗むならもっと他のきれいなものを選ぶだろう、などと考えるのかも知れません。何より、盗まれたとしても、自転車の価格が安いのが大きく影響していそうです。

せっかく錠前がついていても、施錠しないのでは仕方ありません。鍵をなくした時困ると言うなら、カギなしの番号式ロックも売っていますが、付け替えも期待できません。盗まれて困るのは当人ですから、強制するわけにもいきませんし、今まで、それで盗まれなかった人なら、なかなか施錠の習慣はつかないでしょう。

ダイヤル式もある
ワイヤー錠
そう考えると、無施錠の人にカギをかけさせるのは難しいものがありそうです。止まってスタンドを立てたら自動的に施錠されるカギを開発することも技術的には可能でしょうが、構造が複雑化したり、値段がネックになりそうです。施錠したくない人は購入しないでしょうから、全てのシティサイクルに導入しなければ意味がなくなります。

また、新しい機構の採用はリスクもあります。ハンドル錠の不具合から宮田工業製の自転車で重傷事故が発生し、リコールされていたことが、今月17日に経済産業省から発表されました。これも防犯機能を高め、一度で2つのロックがかかる商品ですが、構造によっては事故に至ったり、リコールに発展する恐れも無視できません。

自転車の輸入は自由化されていますから、海外から流入する安い自転車にまで、こうしたロックの装備を強制するのも困難だと思われます。さすがに、鍵をかけない人やかけ忘れにまで配慮するのは現実的ではありませんが、一方で施錠したのに盗難が起きている現実もあるわけです。

U字型ロック



キャリアを兼ねるU字錠

最近は、いわゆる前輪錠と呼ばれる簡単なロックは減りつつあるようですが、後輪をロックする馬蹄型錠などでも、簡単に壊されて盗まれてしまうようです。私はありませんが、カギを無くして、壊した経験のある人も少なくないと思われます。

慣れれば、ドライバーなどで簡単に開くと言いますから、錠前としての効果が薄いのは間違いなさそうです。また、一説には合鍵が簡単に作れるとの話もあります。流通している馬蹄型錠のカギは、ほとんど同じタイプなので、キーにある加工を施すと、同じタイプのカギはどれでも開くと言います。

デザインがユニークこのウワサの真偽は分かりませんが、仮に事実であれば、この合鍵一本あれば、どこの駅で降りてもタダで自転車は使い放題になります。鍵を壊して乗っていればともかく、鍵が付いていれば警察官の職務質問も受けにくいのかも知れません。窃盗で逮捕されるリスクを犯すつもりなら、カギ1本で便利に移動出来ることになります。

もちろん、仮に数千円相当であっても立派な犯罪ですし、わりに合わないと考えるのが普通です。ただ、中高生などで判断力がまだ未熟な場合、実行に移す可能性は充分にあります。こうした手口がクチコミで広がれば、特定の地域の特定の時期に、施錠された自転車の盗難が多発しても不思議ではないでしょう。

やはり、ママチャリなどに標準装備のカギでは防犯的に不十分なのは間違いありません。100%盗まれないロックはないでしょうし、重さや大きさ、施錠の面倒さなどとの兼ね合いもありますが、さまざまなタイプの自転車用ロックが別途売られていますので、出来れば頑丈なロックの購入・使用が求められます。





ちなみに、日本とは違って欧米の都市での防犯意識は高いものがあります。太い鎖などで厳重に施錠されているのをよく見ますが、部品だけ盗まれているのもまたよく見ます。このサドルのロックは、まだ商品にはなっていませんが、サドルの盗難も同時に防いで、U字型ロックの収納にもなるユニークなアイデアです。

サドルを折って施錠するサドルの盗難も防げるU字錠

頑丈なワイヤー錠やU字型ロックで、固定物につなげて施錠するのが防犯上好ましいと思いますが、日本の駐輪場は、スタンド付きの自立式の自転車向けに出来ていることが多く、施錠出来る固定物が全くないこともあります。私もよく困るのですが、鍵だけでなく、駐輪環境の整備も必要だと思います。

収納場所がオリジナルサドル盗難の防止用

自転車盗は、あまり深い罪の意識もなく、あるいはちょっとしたスリルを求めて盗む未成年も多いはずです。たかが自転車盗と考える人も少なくないでしょう。しかし、自転車盗が非行の入り口となるのも間違いありません。軽く考えて、あるいは無施錠で放置したために、有為の青少年の進路を誤らせるのは、社会的にも大きな損失です。

盗んで再放置されるので、駅前などの放置自転車が増加する一因にもなり、撤去に莫大な税金が投入されています。川などに不法投棄されて、ゴミ問題にもなります。自転車を生産する資源や、製造、輸送のエネルギーも無駄になりますし、警察や行政、司法などの手間も余計にかかります。

photo by random dude自転車盗など小さな犯罪を放置すると、他の路上犯罪を誘発し、治安悪化につながると言われています。かと言って凶悪犯罪も増加する中、警察に過大な成果を求めるのも難しいものがあります。たかが自転車盗とは言え、件数も膨大ですし、社会に大きな損失を与えていることも、もっと認識されるべきではないでしょうか。

必ずしも規制を強化しろとは言いませんが、U字型ロックやワイヤー錠を普及させたり、標準装備のカギを強化するなど、業界の協力も求めていくべきでしょう。防犯効果の高い駐輪場の整備も進めて欲しいものです。犯罪として自転車盗が如何にわりに合わないものか、もっと啓発を進める必要もあるでしょう。

クルマのように免許がないので、無施錠に罰則を設けるのは容易ではありませんが、施錠や防犯登録へのインセンティブを与えるなどの工夫も考えられます。様々な状況からしても、そろそろ抜本的な対策を考えるべき時期に来ているのではないでしょうか。



しかし、元農相の経費の五重計上は酷いですね。ミスであるはずがなく、犯罪と言ってもいいでしょう。「数字合わせをしたのでしょう」と人事のように答えるのにもあきれます。しかも政倫審の会長とは..。役職を辞すだけでいいのでしょうか。

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