先々週始まったモーターショーですが、各メディアでもいろいろと報道されています。高性能なスポーツカーや、派手で未来的なコンセプトカーが話題になっていますが、なかには地味めながらユニークなクルマも出展されているようです。私が注目するのはダイハツ工業の軽自動車、その名も「MUD MASTER-C」です。
頑丈なフレームの車体に660ccのエンジンを載せ、パートタイムの4輪駆動という、言ってみればオフロードも走れる「軽トラ」です。でもただの軽トラではありません。乗車定員は2人ですが、街で見る軽トラのような平ボディではなく、荷台はいわゆる軽のワンボックスカーのような形で自転車を2台詰めるようになっています。
なんと側面もガルウィングで開き、マウンテンバイクの積み下ろしがラクに出来るようになっています。チームブリヂストンアンカー・クロスカントリーの選手で、ダイハツ・ボンシャンス飯田の選手兼任監督でもある鈴木雷太さんがスーパーバイザーとなった、自転車を運搬出来る「マウンテンバイクサポートモデル」なのです。
選手でなくても、週末に各地の里山や林道などのオフロードへ出かけて、マウンテンバイクを楽しむにはもってこいのトランスポーターと言えるでしょう。4WDなので悪路にも強く、軽自動車の小さな車体ですから、狭い山道でも入って行けるというわけです。
マウンテンバイクを楽しむため出かけるような場所は、必ずしもアクセスする道路が舗装されているとは限らないので、これはうってつけのクルマでしょう。荷台部分は、スノーボード仕様などにも変えられるようになっており、出品されたモデルに、ほぼ近い形で市販される可能性もあるのではないかと言われています。
スズキの「X-HEAD」も、搭載されているのはオフロードのオートバイになっていますが、似たようなコンセプトのクルマです。やはり荷台のユニットを変えることで、オートバイ仕様やキャンプ仕様など、いろいろにアレンジすることができます。
最近、ガソリン高などの影響もあって軽自動車の売り上げが好調と言います。これらのクルマ、レジャー向け、特にアウトドアスポーツなどにクルマを使うユーザーにも、もっと軽自動車を使ってもらおうということなのでしょう。しかし、メーカーが意図したかどうか分かりませんが、もっと違う可能性も秘めているように思います。
もちろん、MTBだけでなく、ロードバイクで使う手もあるでしょう。自転車をクルマで運ぶことで、自分の家の前から走り始めるのとは違ったサイクリングを楽しめます。家から離れた場所にあるサイクリングロードへ出かけたり、峠道、海岸線、湖畔、高原、いつもと違う景色の中を走ることも出来るわけです。
ふだん、郊外や都市近郊に住む人が都市中心部へクルマで出かける時にも、渋滞を回避するため、その手前に駐車して自転車に乗り換えるという使い方も出来るでしょう。公共交通を使ってもいいですが、自転車ならではの機動力を使えば、電車やバスより便利な場合も多いはずです。自前のパークアンドライドです。
休みの日に行楽地へ出かける時にも、目的地周辺の渋滞を回避する使い方が出来るはずです。二人乗りなので、大勢の家族では使えませんが、自転車に乗りに行く以外のレジャーにも自転車を積んで行けば、交通手段の発達している都市の中心部以上に移動に便利かも知れません。
通勤に自家用車を使っている人も多いと思いますが、マイカー通勤を自前のパークアンドライドにすることも考えられます。どこかに駐車場所が確保できるなら、渋滞回避や運動不足解消などを兼ねて、途中から自転車通勤に切り替えるわけです。雨が降ったらそのまま行けます。
通勤のマイカーには一人しか乗っていない場合が圧倒的に多いと言われています。大抵、後部座席は無駄になっているわけです。もちろんマイカーを通勤以外にも使う場合もあるでしょうが、二人乗りのクルマでもいいと考える人なら、残ったスペースは座席でなく、自転車を搭載する荷台でもいいかも知れません。
単に自転車を積むだけなら普通の軽トラでも積めますが、それでは身も蓋もありません。雨に濡らさずにすみますし、盗難も防げます。自転車の固定や積み下ろしも楽です。駐車場に置いたクルマを、そのまま自転車の保管場所として使うことも出来て便利とも言えます。
言うまでもなくクルマの機動力は魅力ですが、残念ながら日本の都市部では、渋滞、駐車禁止などの規制、駐車場の不足など、必ずしもそのメリットを充分活かせるとは限りません。クルマの機動力を補完する手段として、自転車の搭載は有効な手段となる可能性があるのではないでしょうか。
日本人に馴染みの深いママチャリのイメージだと、なかなか現実的な交通手段とは思えない人も多いと思いますが、最近のスポーツバイクのブームもあって、そのポテンシャルに気づく人も増えています。こうしたクルマが企画されるのも、そうした背景があるのかも知れません。
今、国内でのクルマの販売が伸び悩む中で軽自動車が人気なのも、人々の環境への意識の高まりや省エネ志向と無縁ではないでしょう。ライフスタイルが変化し、クルマでの移動やクルマの所有に対する考え方も変わりつつある中で、新しいクルマのあり方はメーカーも模索するところだと思います。
生活の中で、クルマの機動力が欠かせないのも確かですが、同時にクルマのもたらす都市の渋滞、大気汚染、ヒートアイランド、交通事故、CO2の削減なども考えなくてはなりません。そこで環境に優しい自転車を見直す動きが各方面で顕著です。自転車とクルマを上手く使い分ける知恵は、大いに意味があると思います。
これらのクルマ、単なるMTB用レジャービークルとしてでなく、クルマ+自転車という新しいカタチ、新しいスタイルとして捉えることも出来ます。それは、自転車を上手く利用することで、より効率的で、かつ環境への負荷の少ない、持続可能な社会におけるクルマの使い方として、一つのヒントになるような気がします。
小沢代表の辞任も驚きましたが、その一連の報道の裏で注目が薄かった感のある、耐火性能の偽装もひどい話ですね。火事になってしまえば、焼けてなくなるので発覚しないと思ったのでしょうか。2社だけではないかも知れません。
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MUD MASTER-C、機能やコンセプトもよいですが、子供の頃見たスタートレックや謎の円盤UFOを彷彿をさせる意匠に萌えますね〜。クルマにはいろいろコストがかかるのでそう簡単に手は出せませんが、現役リタイアしたらこれであちこちでかけるのも楽しそうです。