December 30, 2007

秩序と安全を取り戻すために

自転車教則が30年ぶりに改正されます。



新聞などにも載りましたので、ご存じの方も多いと思いますが、東京新聞から記事を引用しておきます。



携帯、ヘッドホン自転車も『ダメ』 交通安全ルール明記へ

警察庁の「自転車の安全な通行方法等に関する検討懇談会」(座長・吉田章筑波大大学院教授)は二十七日、「携帯電話を使用しての片手運転を禁止事項として周知すべきだ」などとする報告書をまとめた。同庁はこれを踏まえ、安全教育の基本となる「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)の自転車に関する内容をほぼ三十年ぶりに抜本的に見直す。来年の改正道路交通法の施行を前に、自転車の走行実態に対応した安全ルールを普及させる目的だ。

報告書は、携帯電話の使用や傘を差しての片手運転、ヘッドホンで音楽を聴くなど外部の音が聞こえない状態での運転などの禁止事項や、ベルは見通しのきかない交差点の通過時など危険防止のために使い、歩道などでみだりに鳴らさないといった注意事項を周知させるべきだとしている。

また、雨天での走行では「雨がっぱ等を着用すること」とし、傘をハンドル部分などに固定しての運転は、道交法の「安全運転義務」違反に当たる可能性も高く危険と明示すべきだと指摘。さらに、自転車の前後に幼児二人を乗せて運転するのは「違反で危険」として「一人まで」と明示するよう求めた。(後略)/2007年12月27日 夕刊


朝日新聞の記事今どきは、携帯電話で話しながら自転車に乗っている人を見るのは珍しいことではありません。なかには器用にメールを打ちながら乗っている人だっています。それも最近は若い人ばかりとは限りません。年配の方でも携帯に目をやりながら乗っていて、危なっかしかったりします。

ネットで音楽をダウンロードして購入するスタイルが一般的になり、iPodなどの携帯音楽プレーヤーも、もはや当たり前のように普及しています。電車の中や街角でもごく普通に見かけますし、当然のことながら、イヤホンで音楽を聴きながら自転車に乗っている人も少なくないでしょう。

雨が多い日本では、傘をさして乗る人もまた珍しくありません。雨でも乗って帰ったほうが面倒がないのでしょう。これが海外であれば、たぶん雨合羽が多いのでしょうけど、べったり腰をかけて乗るママチャリが大部分を占めるという日本独特のスタイルがなせる技なのかも知れません。

もはや日常のようになっている、これらの行為が危険であることは論を待たないでしょう。自転車に乗っている側は、あまり危険と感じないかも知れませんが、試しに歩いてみると怖さを実感するのではないでしょうか。実際に死亡事故まで起きているわけで、歩行者にすれば大きな脅威であることは間違いありません。

TBSニュース←(TBSニュース。クリックすると動画が再生されます。)

傘をさせば、どうしても視界が狭まり、事故のリスクは高まります。歩行者が高齢者や子供でなく、成人だったとしても、いつもうまく避けられるとは限りません。ぶつかるとは思っていなくても、結果として歩行者との衝突を回避出来ない可能性が高い状態で歩道を走る自転車は、周囲から見れば無謀で無責任な行為です。

携帯電話も、脇見運転となって事故を誘発しています。例え会話だけだったとしても、クルマの運転時に禁止されていることからも明らかなように、見えていても注意散漫となって事故になる例があります。でも、一番危険と感じないのは、イヤホンやヘッドフォンかも知れません。



音楽などを聞いていても、目では見えているので危険はないと考える人も多いでしょう。確かに視覚による情報量が多いので大丈夫そうに感じますが、実は思った以上に聴力を使っています。当然ながら、人間の眼は、周囲360度をカバーすることが出来ません。

後方や物陰などからの物体の接近を耳で聞いて、反射的にそちらを見ることで危険を回避していることも多いわけです。相手はベルを鳴らしたので大丈夫だと思っているかも知れません。自転車ではないですが、先日、駅のホームを歩きながらイヤホンで音楽を聴いていた人が、列車の接近に気付かずに接触して死亡する事故も起きています。

警察庁は来年の春頃、これらの行為を明確に禁止とする方針のようです。個人的に、どれもやらないから言うわけではありませんが、私は賛成です。主に自転車に乗る立場であっても、自転車同士で危ない場面に遭うこともありますし、歩くことだってあります。自転車の自由を縛るようですが、事故防止のためには必要なことでしょう。



現代人は忙しく、例えばエスカレーターでも歩く人は少なくありません。いつの間にか時間節約のため、何かを同時にするのに慣れています。しかしこれは習慣や考え方の問題ではないでしょうか。止まって電話したり、家に帰ってからメールしたって、そんなに大した違いではないでしょう。習慣になれば、苦にならなくなると思います。

自転車に乗っている間も音楽を聴きたいという気持ちも理解できますが、若年層を中心に難聴が増えているとの話もあります。耳を休める時間をつくったほうがいいのも事実でしょう。聴くのは自転車を降りてからにする、これも習慣の問題です。事故を起こし、深刻な事態に陥ってから後悔しても遅いのだけは間違いありません。

あまり規制が多くなると社会が窮屈になります。出来ればマナーとして皆が守るレベルで済めば言うことはないのですが、現実の自転車の交通マナーは悪化しています。ルールもあまりに守られなくなっています。車道の右側通行や、無灯火、二人乗り、並走、歩道の暴走、迷惑駐輪など、多くの人が感じていることでしょう。



こうしたマナーの悪化による損失は、事故による損害や取締り、広報の経費、違法駐輪の撤去費用などの直接的なものだけではありません。自転車の有効活用を妨げることだけでも大きな社会的損失です。これだけルールが守られず、事故も激増しているのですから、規制強化も致し方ないと言えるのではないでしょうか。

ただ、教則本の書き換えで、どれほど実効性が上がるかという点は疑問に思わざるを得ません。子供の教育や市民への啓蒙も重要ですが、ルールの理解が進んだとしても、それが守られるとは限りません。そう考えると、もっと直接的に自転車交通の秩序を維持するための方策も必要なのではないでしょうか。

よく自転車を免許制にしないと反則金制度が成立しないという議論がありますが、他にも方法はあるはずです。例えば、警察官がイヤホンを見とがめたら携帯音楽プレーヤーを反則金納付書と交換に預かり、後日警察署に出頭して反則金を支払えば返却してもらえるなんてやり方もあるでしょう。



免許制度がなくても、自転車の防犯登録の名義宛てに反則金納付書を交付することは出来ます。もちろん、違反現場において、名義人の名前と本人かどうかを確認するわけですが、仮に名義になっている名前が答えられなければ窃盗で調べられることになります。

今までの刑法の枠内の刑事罰としての罰金では、書類送検が必要となって手間もかかりますし、前科となりますので摘発も慎重になります。街角での軽微な違反に反則金を課す方法なら、交通ルールの徹底に低コストで実効もあがるはずです。警察の手間は増えますが、免許制度導入などの大きな費用をかけずに抑止力が得られるでしょう。

自転車に限らず、社会のモラル低下はここのところ著しいものがあります。支払えるのに税金を滞納したり、病院の治療費を踏み倒したり、給食費を滞納したりします。家庭ゴミを不法に投棄したり、救急車をタクシー代わりに使ったりするなど、なるべく払わず、権利はとことん利用するべきと考える風潮が一部にあるようです。



こうした一部の自分勝手な人たちの為に多くの人が迷惑し、結果としてその分のコストを負担しなければならない状態は問題です。正直者がバカを見るようだと、馬鹿らしく思う人が増えて、更にモラルは下がっていくでしょう。これを放置すれば、さまざまなシステムが破綻の危機に瀕します。

出来れば警察の取り締まりばかり強化して、警察国家のようになっていくのを避けたいのは言うまでもありません。しかし、もはやモラルで解決できなくなってきている以上、強制や抑止力でもって秩序を維持するしかありません。社会的なコストも低く、仕組みもシンプルで即効性があり、理解の得られやすい方法です。

法律と取締りの強化で、自転車の交通秩序が日本より理想的な国は少なくありません。もちろん、それは法や罰則以外の部分、すなわち自転車文化の違いや、歴史的経緯、人々の生活習慣や都市と道路の構造、信仰やモラルなどの要素も少なくないのですが、その秩序によって得られるものは小さくありません。

それは、エネルギーをより使わない暮らしであり、人々の健康であり、きれいな空気と環境であり、悲惨な交通事故の少なさであり、渋滞の軽減や経済効果であったりします。そうした意味からも、自転車の交通秩序を保つ実効性の高い手段を考えるべき時期に来ているのではないでしょうか。



やはり年の瀬の慌ただしさも手伝ってか、昨日もケータイで怒鳴りながら走行している人を見ました。ケータイで会話している時って、視線が落ちて、すぐ前の路面ばかり見て走っている人が多いような気がしませんか。慌ただしい時こそ事故を起こさないよう気をつけたいものですね。

いよいよ暮れも押し迫ってまいりました。年内の更新は、これで終わりにします。皆さま、今年も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは、よいお年をお迎えください。来年もよろしく。

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この記事へのコメント
いつも拝読させてもらってます。ありがとうございます。

私も今回の記事を興味深く読んだのですが、以下の記事にすごく違和感を感じました。

このほか、歩道上で自転車同士が対面してすれ違う場合には互いにハンドルを左に切ってよけるようにすべきなど細かいルールも言及している
(毎日新聞 2007年12月27日)

これは自転車の原則車道通行を無視していますし、仮に例外的に通行している場合だとしても、自転車の左側通行からも外れています。
ルールを作り、守らせる側がそれを十分把握しないまま運用しようとしている点に不安を感じます。

そもそも今回の改正の趣旨が「自転車が関与する事故を削減する」点にあるならば、新たにルールを追加するよりも現在のルールを徹底させることのほうがより効果的に思うのです。
そういった意味で、各メディアが携帯や音楽プレーヤーの禁止ばかりに焦点を当てた報道に大部分を費やしたのは残念でした。
Posted by aka at December 30, 2007 13:23
akaさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
車道の右側を平気で通行する人もいるほど、自転車の通行がデタラメになっていることは間違いないですね。ましてや歩道上は両方向への自転車が行き交っている状態です。
そもそも自転車の左側通行を知らない人も多いのでしょう。おそらく毎日新聞が報じているのは、自転車同士が対面した場合に左側通行すべしという原則について述べているのではないでしょうか。実際に、サイクリングロードなどで対向した場合でも右側通行しようとする人がいます。
しかし、自転車の原則車道通行を知ってか知らずか、歩道に上がるよう注意する警察官もいますし、道路行政を進める国交省の官僚が歩道走行を前提にしていたりと、おっしゃるように、本来の原理原則が無視され、混乱に拍車をかけている面は否めませんね。
メディアはどうしてもインパクトの強い部分にスポットを当てるのでしょうれど、マスコミもどれほど法や原則を理解しているか怪しいところです。
こちらこそ、いつもご覧いただきありがとうございます。
Posted by cycleroad at December 31, 2007 21:54
あけましておめでとうございます。今回の教則改正は歓迎していますが、もう一歩踏み込んでも良かったのではないかと思いますね。内容は当然といえば当然の部分ですが、反則金については一律ではなく警告が殆どで、幼児のヘルメット着用も先行している京都と同じく義務付けではないようですね。個人的には、スポーツ自転車の免許制導入があっても良いと思いました。しかしそこまですると自由さがなく肩身の狭い社会になってしまうので実際無理でしょうね。さて、私が憂慮するのは、原則車道走行として大量の自転車が車道に溢れ出した際の状況です。これはこれで我々には走りにくく、大変恐ろしい予感がします。

では、本年も宜しくお願い致します。
Posted by nori at January 01, 2008 20:12
noriさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
そうですね、自転車の場合は現状、クルマと違って反則金の制度がないため、違反を摘発する場合には、いきなりクルマの場合の赤キップにあたる刑事罰としての罰金が科せられ、いわゆる前科となってしまいます。すると、クルマの交通違反と比べて厳しくなってしまい、著しい不公平感が拭えないため、どうしても警告にとどまっているようです。そのため、実効性に欠ける点は否めませんね。
原則車道通行が徹底されるのは、歩道も多少削って自転車レーンの幅がある程度確保されるなど、環境がよほど変わらない限り難しいでしょうね。もしそうなったら、駅周辺などでは走りにくくなるのは間違いないでしょう。ただ一部に留まるのではないでしょうか。
Posted by cycleroad at January 02, 2008 09:32
> これが海外であれば、たぶん雨合羽が多いのでしょうけど、

海外ではハンドルまですっぽり被るやつをよくみかけ、あれいいなぁと思ってました。
で、探してみると国内でも手に入るんですね。商品名「ちゃりポン」だそうです。
なかなか優れもののようですので皆に広まるといいですね。
自動車・自転車・歩行者みんなのために。
Posted by けたましん at January 08, 2008 12:52
けたましんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も上海などに旅行した際に目撃した雨合羽の写真を載せて記事にしたことがありますが、全く同感です。おっしゃるようにハンドルまで隠れて、優れものですよね。国内では見かけないなと思ったら、売ってるんですか。形も同じですね。情報、ありがとうございます。
しかし、売っているにも関わらず使っている人を見ないということは、やはり日本人は雨合羽より傘を選ぶのでしょうか。周囲と本人の安全のためにもカッパのほうがいいのは間違いないと思いますけどね。
Posted by cycleroad at January 08, 2008 23:45
 
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