January 08, 2008

不便な事をそのままにしない

この時期、太平洋側では空気が乾燥した日々が続きます。


乾燥は、お肌の敵ということもあるでしょうけど、なんと言っても怖いのは火事です。悲惨な火事のニュースも後を絶ちません。冬でなくても火事は怖いですが、やはり乾燥していると火が回るのが速いので、火の元には十分な注意が必要です。火の用心を呼びかける見廻りをしている地域もあると思います。

私の家の近くでも何年か前、「火の用心」の掛け声と拍子木の音が聞こえていた時期がありましたが、いつの間にか聞かれなくなってしまいました。寒い中、町内を歩いて廻るだけでも大変ですし、単調で退屈な上に報われないということもあるでしょう。

岐阜県高山市の森下さんは、この大変で退屈な作業を、自転車を使ってラクで面白くする工夫をしました。岐阜新聞から引用します。


ペダルこげば防犯の鐘 見守りおじさん巡回

夜回り自転車「見守りおじさん」として地域の子どもたちに親しまれている高山市森下町のクリーニング業森下操さん(63)が、自転車を走らせれば鐘が鳴る装置を考案し、火の用心や防犯を呼び掛ける夜回りに活用している。

森下さんは3年前から県の安全・安心まちづくり委員、2年前から高山署の地域安全指導員に委嘱され、夜回りと小中学生らの登校時の見守りを続けている。

夜回りは週2回以上、重さ約2キロの鐘を打ち鳴らしながら町内約1キロを30分かけて歩いていたが「もっと楽にできないか」と、自転車の荷台に取り付ける装置を考案。ペダルをこげば約7メートル進むごとに鐘が1回鳴る仕組みで、赤色灯も取り付けた。

今では隣の片野町にまで足を伸ばして、地域の安全に目を配っている。この装置のほかにも、手押し車型や、三輪車型の“夜回り便利車”を製作。森下さんは「装置を使うと面白くて、たくさん回れる。希望があればほかの地域の人たちにも利用してもらいたい」と話している。 (2008年01月07日)


確かに自転車なら、素早く広範囲を廻れます。寒い中を延々と歩くのに比べ、毎日の見廻りもラクになるでしょう。森下さんは、楽しくなって隣町まで足をのばしています。このアイディアを導入すれば、運動不足解消にもなるので夜廻りに協力しようという人が探しやすくなるかも知れません。

空気が乾燥する太平洋側とは反対に、日本海側には雪があります。湿度は高くなりますが、歩くにしてもクルマにしても邪魔ですし、雪かきも大変です。なかには、スパイクタイヤなどを装着して雪道でも走行する猛者もいますが、雪のある期間は滑ってしまって自転車にも乗れません。

北海道深川市の前田さんは、この滑って危ない雪道の自転車に、転倒を防ぐ仕組みを加えました。北海道新聞から引用します。


補助スキーで自転車冬道も 深川・前田さん考案

補助スキー自転車補助輪ならぬ「補助スキー」を装着した自転車で冬道もスイスイ−。深川市の無職前田正太郎さん(79)が自転車後部の左右に二本の短いスキーを取り付けて転倒を防ぐ仕組みを考案、自らさっそうと乗り回している。

前田さんは「冬道を自転車で走れたら、お年寄りが外出する機会が増えるのではないか」と、十年ほど前から補助スキーの開発に着手。同市内の車庫工場に勤める、おいに鉄骨を溶接してもらい製作した。

二○○一年には特許庁の実用新案に登録された。車体を挟むように逆V字形に固定された鉄骨の両端に、長さ約四十センチに切ったスキーを装着。車体の傾きに応じて、ばね仕掛けで路面に密着するようにスキーの角度が変わるようになっており、前田さんはこれまで一度も転倒したことがないという。

前田さんは「市内を走っているとドライバーの注目の的です」と笑いながら話す。複数の自転車メーカーからも問い合わせが来ているといい、前田さんは「材料をアルミにすればより軽くなり、実用的になる」と今後も改良を重ねていく考えだ。(12/30)


実用新案に登録されたということは、補助輪の代わりにスキーをつけるというアイディア、ありそうで無かったわけです。これまで一度も転倒したことがないという効果もすごいですが、「冬道を自転車で走れたら、お年寄りが外出する機会が増えるのではないか」というのも、高齢化社会に向けて意義のある動機です。

同じように補助輪をつけて、畳むと手押し車のように使える新発想の折り畳み自転車を開発したのは、静岡県牧之原市のメーカーと、東京の坂さんです。中日新聞から引用します。


障害女性の願い実現 デザイナーの坂さんらが新発想の自転車開発

tattero(タッテロ)!畳むと手押し車のように使える新発想の折り畳み自転車が、今年夏にも発売される。足が不自由な女性が手紙で寄せた「引いて歩ける自転車を」の願いをヒントに、東京のデザイナーと、牧之原市のアルミ製品会社が共同開発した。出先で駐輪場を探す手間が省けたり、車や電車への積み込みが楽になったりと利点は多く、サイクリングファンやお年寄りにも歓迎されそうだ。

「自立して役立つ自転車になれ」との願いから「tattero(タッテロ)!」と名付けられた新製品。特徴は後輪両側の補助輪だ。畳んだ時だけ地面に接して自立し、軽々と押して歩ける。折り畳み時の高さは70センチで、体を支えるのにも良い。重量も7キロ台に抑え、既存の折り畳み自転車(10キロ前後)より扱いやすくする予定だ。

開発を手掛けたのは、ヤマハ発動機のヒットバイク「パッソル」を手掛けたデザイナー坂紘一郎さん(66)=東京都練馬区。2005年5月、力量を頼って寄せられた手紙に背中を押された。生まれつき足に障害がある女性が「歩行は大変ですが自転車には乗れます」とし、既存の製品の重さを残念がり「引いて歩けたらどこでも行けるのに」とつづっていた。

一番の難関は軽量化だったが、翌年秋に都内で開かれた展示会で、軽量アルミはしごに出合って道が開けた。製造元の「ナガノ」(牧之原市)の永野芳男社長(62)も手紙の逸話に感動し、折り畳み式リヤカーなどで培ってきた技術を投入した。

「デパートにも行ったことがない」という女性のため、坂さんらは試作品の最終改良に励んでいる。ほぼ手作りのため、20万円前後と高くなりそうなのが悩みの種だが、記念すべき市販車第一号の試乗は、その女性にお願いするつもりだ。(2008年1月6日)


持ち歩くのではなく、引いて歩ける折りたたみ自転車です。お年寄りの使う手押し車のようにも使えます。歩行は大変だが自転車には乗れるというのは、この方だけではないでしょう。今後は、健常者や若者向けだけではない自転車の開発も求められていくのかも知れません。

この三つの話題に共通するのは、「工夫」、あるいは「改良」です。今ある自転車に飽き足らず、あるいは必要に迫られて、工夫をこらして自ら作り出した自転車です。不便を解消したい、少しでも便利にしたい、より使いやすくしたい、といった創意工夫の精神によって生まれた自転車とも言えるでしょう。

よく年配の方に話を聞いたりすると、昔は何でも自分で作ったものだ、などと言う人がいます。当時は今ほど、何でも手に入らなかったのは確かでしょうし、今ほどモノが豊かな時代でもありませんでした。モノが溢れ、何でもある今とは違い、自分で作らざるを得なかったのもあるでしょう。

今どきなら、壊れれば捨ててしまうようなものでも、何度も修理して使い続けた時代でした。誰もが、そうした修理を通じて熟練し、自分が使いやすいように器用に改造して使っていたのも事実だと思います。この三つ記事で、工夫をしたのが、どなたも60歳以上というのも偶然ではないのかも知れません。

最近のモノは、素材や技術が進歩し、製品も高度化していて自分では直せないものも多いでしょう。また、壊れて修理に出そうものなら、新しく買うより高くなってしまったりします。そんな傾向もあってか、自転車のように交換部品が簡単に手に入って、直そうと思えばいくらでも直せるものでも、簡単に捨ててしまう風潮があります。

極端な話、パンクしただけで放置して、新しい自転車を買う人までいると言います。もちろん背景にはママチャリなどの自転車の値段が驚くほど安くなっていることがあるでしょう。駅前などにとめて撤去された自転車を受け取りに行き、数千円の保管料を払って古い自転車に乗るくらいなら、新しく買うという人もいると聞きます。

資源やエネルギーの無駄ですし、放置自転車の問題を引き起こします。修理ですらこの状態ですから、ましてや改良や改造なんて手が届きません。何でも手作りがいいとは言いませんし、誰でも出来ることではありません。しかし、最初から工夫しようという精神すら失われつつあるような気がします。

いくら多様な製品が流通している現代とは言え、個々の事情や使い勝手にあった商品が手に入るとは限りません。身近な道具を改良することで、自ら便利になるばかりか、生活が豊かになったり、地域のコミュニケーションに貢献したり、福祉の向上に寄与したりもするでしょう。

日本の戦後の経済成長は、ものづくりが支えてきたと言っても過言ではありません。その「ものづくり」で、中国などに移転してしまったものも少なくありませんが、創意工夫の精神や、新しいものを生み出す力は失いたくありません。「無ければ作る」くらいの気持ちも持ち続けたいものです。



福岡の幼い3兄弟の死亡事故の判決、裁判所の判断は法的に間違っていないのでしょうけど、「酒に酔っていたが、正常な運転が困難な状態だったとは認められない」なんて飲酒運転撲滅を求める国民感情と乖離しています。酒を飲んで100キロ出して3人も『殺した』この悪質な事件が危険運転でなければ、何が危険運転なのでしょうか..。

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