2008年、平成20年はどんな年になるのでしょうか。
自転車に関してだけ言うなら、後から振り返った時、もしかしたら今年は「自転車道元年」として評価される年になるのかも知れません。昨年からそれを予期させる出来事はありましたが、ようやく今年くらいから、自転車の通行空間としての自転車道と、その必要性が徐々に認知されていくことになりそうです。
そうした動きを反映して、年初から自転車道についてのニュースが相次いでいます。新潟市内を信濃川沿いに通っていた鉄道、新潟交通電車線が廃止になったのは1999年のことですが、その鉄道跡地を新潟市が取得し、自転車道にすると
新潟日報が報じています。廃線跡の細長い土地ですから、自転車道にするには最適でしょう。
電鉄線跡地を新潟市が取得へ
新潟市は8日までに、西区青山から同区大野町までの旧新潟交通電車線跡地を取得し、自転車道として整備する方針を決めた。同市は2008年度中にも、跡地を所有する新潟交通と具体的な取得金額について交渉を始めたい考え。早ければ13年ごろには、完成する予定だ。
同線は1999年4月に東関屋―月潟間が廃止となり、66年の歴史に幕を下ろした。跡地の一部は南区月潟地区などで遊歩道として活用されている。
同市が取得を検討しているのは、関屋大橋西詰から旧新大野駅までの約6キロ。同市の「自転車道主要幹線ネットワーク構想」の一部として整備し、1日1000人の利用を見込む。整備済みの自転車道との連続性や用地の確保のしやすさなどを考慮した。
同市では同区間の整備について、自転車だけでなく歩行者の利用も想定。市道路計画課は「自転車は環境や健康増進の面からも見直されている。歩行者と自転車が安全に通行できる手法を検討したい」としている。(後略)(新潟日報2008年1月9日)
(注:写真と本文は直接関係ありません。)
自治体としても、決して財政的に余裕があるわけではない中、わざわざ用地を取得して行う重要な交通政策・都市政策です。従来多かったような、市民のレクリエーション目的と言うより、「自転車道主要幹線ネットワーク構想」として、整備済みの自転車道と接続しようというわけです。
神奈川新聞にも似たような構想が載っています。
自転車利用促進へネットワーク化/神奈川県
県は二〇〇八年度から、自転車が走行しやすい道路のネットワーク化に乗り出す。サイクリングロードと、幅員に余裕のある歩道や車道を合わせ、自転車の利便性を高めるのが目的。当面はモデル地区での試行や自転車マップの作成などが候補に上がっている。県によるネットワーク化への取り組みは全国的に珍しく、温暖化防止対策としても注目を集めそうだ。
ネットワーク化は、河川沿いに総延長で約八十キロ整備されているサイクリングロードと、道路幅がある車道や歩道を組み合わせて実現を図る。該当する車道や歩道には自転車の走行部分をカラー舗装化するなどして区分けを明確にする。「これから道路全体の幅を広げ、自転車の専用レーンを確保するのは難しい」(県都市計画課)ためだ。
〇八年度に県内道路の現状把握や自転車走行空間を確保するための課題整理を進め、〇九年度から具体的な施策を展開する。まず自転車のニーズが高く、走行空間を確保しやすいモデル地区を選び、地元自治体と共同で取り組みを進める方針。併せて、自転車が走りやすい道路や危険個所などを載せた「自転車マップ」、自転車による観光ツアーなどが検討される見込み。(後略)(神奈川新聞2008/01/04 )
私も何度か書いてきましたが、自転車専用道が有機的につながりネットワークになってこそ、交通手段・交通網としての機能が発揮されます。川沿いなどにあるサイクリングロードも、走行するには快適ですが、交通手段としての自転車を考えたとき、それ単独では必ずしも有効とは言えません。
せっかくある既存の自転車道を活かすためにも、そのネットワーク化が望まれるのは当然のことですが、残念ながらこれまで公に検討されることは、ほとんどありませんでした。ようやく、コマギレにしておいたのでは宝の持ち腐れであることに気づき、地方自治体の交通政策、道路整備の俎上に上るようになってきたわけです。
もちろん、今だってサイクリングロードは一般道に接していますし、普通の車道だって走れないわけではありません。ただ、ママチャリで歩道を走行する日本人の大多数にとって、車道は走りにくく、危険に感じる場所です。かと言って歩道で歩行者と混在して走行するのでは、スピードも出せません。
歩行者との事故を防ぐ上でも、また実用的な交通手段としての自転車を考える上でも、歩行者と混在しての歩道走行はナンセンスです。誰でも快適かつ安全に、ある程度のスピードで移動できてこそ交通手段としての価値が出ます。渋滞しているクルマより速い代替手段となる余地も出てくるでしょう。
つまり自転車で速く、安全快適に移動するために、車道でも歩道でもない、自転車専用の通行空間として自転車レーンやサイクリングロードを整備・接続した自転車道網を構築しようというわけです。多少遠回りとなっても、信号待ちなどが少ない河川沿いのサイクリングロード経由のほうが速い場合もあるはずです。
こうした傾向は地方自治体だけではありません。なんと国も本腰を入れると
報道されています。
自転車道建設、国が本腰 全国100カ所
歩道を走る自転車が歩行者とぶつかる事故の急増を受け、国土交通省と警察庁は08年から、自転車道など国による自転車通行ゾーンの本格整備に乗り出す。これまで地方自治体が中心に整備してきたが、道路の総延長120万キロのうち自転車専用は2500キロにとどまる。このため、全国で10都市程度を選び、地域ごとに「自転車道ネットワーク」を造るなどして10年間で1万キロ程度を整備する考えだ。
今後2年間は、東京都江東区、仙台、名古屋、岡山、高松、大分各市など全国100地区をモデル地区に指定。300億円を投じて約200キロを整備する。モデル地区の多くは駅前で、歩道が自転車や歩行者でごった返す。
そこで、一般道の車線を減らして左端を自転車道や自転車レーンにしたり、歩道を植え込みで区切って自転車専用スペースを設けたりする。警察庁は自転車レーンの設置や、モデル地区での自転車の取り締まり強化を全国の警察本部に指示する。
モデル地区の東京都江東区・JR亀戸駅前では、国道の片側4車線のうち1車線を防護さくで区切り、約1.2キロにわたって自転車道に切り替える計画。この国道に沿う歩道では、自転車通行量は昼間の12時間の調査で約5000台に達し、歩行者の7700人に迫る。99〜05年には、約120件の自転車と歩行者の衝突事故が発生している。
全国では、06年の自転車と歩行者の衝突事故は2767件。この10年で4.8倍に増え、死亡事故も起きている。道路交通法は、「自転車は原則として車道を走らねばならない」と定めるが、自転車道が未整備だったことも、歩道走行を黙認・助長してきた。
事故防止を狙う警察庁は昨年6月、道交法を改正。今年6月までに自転車の通行区分を明確にする。自転車道の整備もこの流れを受けた施策だ。モデル地区1カ所の整備費は数千万〜2億円で、地方道の整備には地方自治体に補助金や交付金を出す。ただ、自転車道設置のため車道が減ると、交通渋滞が起きたり買い物客の流れが変わったりして、別の問題が生じる可能性もある。 (朝日新聞2008年01月09日)
今のように、スピードの出せないママチャリで歩道を走行している分には、単に最寄駅までのアシ以上のものにはなりえないでしょう。自転車道ネットワークの整備によって、実際にその便利さや実用性が実感されてこそ、自転車の本当の価値や交通手段としての有用性が多くの人に理解されるに違いありません。
自転車道網が整備され、誰でも自転車の機動力を活かすことが出来るようになれば、都市部では渋滞するクルマより速いことや、意外と遠くまで簡単に行けることも実感出来るはずです。乗り換えや駅までの徒歩を考えれば、電車を利用するより自転車で直接目的地へ向かったほうが速くて便利なこともあります。
もちろん中には、自転車道なんてかえって邪魔だと言う人もあるでしょう。私も単に趣味の範囲で言うならば、自転車道の整備が必ずしも必要なわけではありません。個人的には今まで通りでも、車道を通ってどこでも行けます。しかし、誰もが安全快適に自転車を活用できてこそ、社会的に大きな意味を持つはずです。
ごく一部のサイクリストが今まで通り自転車を活用するのではなく、多くの人が利用して初めて、温暖化ガス削減や、渋滞・大気汚染・ヒートアイランド対策などにも効果があがります。事故も減少し、本来の自転車のポテンシャルが多くの国民にも理解され、走行環境が改善されれば、サイクリスト全ての利益にもなります。
ここへ来て、こうした動きが出てきたのは、昨今の自転車ブームや、歩行者との事故の急増、地球環境への意識の高まり、メタボリックなど健康への関心など、いくつかの要因が重なっての結果のような気がします。いずれにせよ、自転車道推進には絶好の機会であることは間違いありません。
そもそも日本に8千万台もあると言われる自転車なのに、今まであいまいな位置づけだったことがおかしいのです。クルマは車道、人は歩道、自転車は自転車道と分けることで恩恵を受けるのは、自転車に乗る人だけではありません。欧米諸国から野蛮と見られている歩道の自転車走行も、いい加減解消すべきでしょう。
ただ、安易に進めるべきではありません。単に歩道に色を塗っただけでは歩行者と分離できないのも、さんざん思い知らされてきたはずです。歩道を分割して自転車を走らせるなら、きちんと歩道を削って車道と同じレベルにして段差もなくすべきでしょう。せっかく整備するのに、使えない自転車道を作るべきではありません。
同時に駐輪場の設置なども必要になると思われます。自転車道を整備し、その利用を推奨しておいて駐輪するなというのは矛盾です。駅などに人が集まってくるのも必然で、どこにでも止めていいものではありませんが、どこでも気軽に立ち寄れる自転車の良さにも配慮すべきです。
都市と道路の発達やその歴史、連綿と続いてきた道路政策、独自の自転車市場や自転車文化、どの面から考えても、理想的な自転車道ネットワークが簡単に実現しないのは明らかです。それでも、21世紀の新しい都市のあり方を考え、環境負荷を軽減し、持続可能な社会の実現への第一歩を踏み出す年にしたいものです。
今年は郵便局で、なんと今月18日まで年賀状を売っているそうです。サービス向上で例年より10日ほど延長したと言いますが、これから書く人なんているんでしょうか。さすが民営化で商魂たくましいのか、寒中見舞いに切り替える常識もないのか、単なる間抜けなのか、微妙なところですね。
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自転車レーンを整備する動きも少しずつ広がっていきつつある。
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全国のサイクリングロードをつなぎ、一周出来たら素晴らしい。