完成させなければ効果は薄い
国土交通省は、全国で98箇所の自転車通行環境整備のモデル地区を指定したと発表しました。
ここ一週間くらいの間にも、全国の新聞やテレビで取り上げられましたので、ご覧になった方も多いでしょう。地域によって、早いところではこの3月にも供用を開始する道路もあるようですから、ひょっとしたら、お近くの道路でも、既に工事が始まっているのではないでしょうか。
昨年末から断続的に関連するニュースが報じられ、なんだかスピーディーな展開です。国土交通省のサイトには、かなり昔から整備の意向が表明されていましたが、遅々として具体化しなかったことを思えば、ここへ来て急展開している感じです。
読売新聞の記事から引用します。
「自転車道」200キロ新設へ、モデル地区98か所を指定
自転車と歩行者の衝突事故が急増していることを受け、国土交通省と警察庁は17日、車道や歩道と区分した「自転車専用路」の整備を進めるモデル地区に、全国98か所を指定した。国や自治体、警察が協力し、今年春から2年間で計約200キロにわたって専用路を新設する予定で、安心して自転車が走れる走行空間を広げていく考えだ。
モデル地区は、自転車と歩行者の通行量が多い駅、繁華街、学校などの周辺地域から、都道府県ごとに1〜5か所選ばれた。東京都庁など新宿方面に近い渋谷区幡ヶ谷地区、JR亀戸駅(江東区)、JR宇都宮駅(宇都宮市)などの周辺地区が含まれている。
自転車専用路は、車道の端に設け、〈1〉ガードレールや街路樹で仕切る自転車道〈2〉カラー舗装し、通行場所を明示した自転車走行レーン――の2タイプ。国と自治体が費用を分担し、各地区でいずれかのタイプを2キロ前後新設する。
警察庁によると、自転車と歩行者の衝突事故は急増しており、2006年は10年前の約4・8倍にあたる2767件に上った。国交省は「モデル地区を拠点に、自転車と歩行者が『共存』できるような道路のネットワークを作っていきたい」と話している。(2008年1月17日 読売新聞)
ちなみに各地域の報道も、ざっと調べただけでもこんなにあります。しばらくするとリンク切れになってしまうと思いますが、各地域のニュースもリンクのみ掲載しておきます。お住まいの地域があれば、ご参考まで。日本商工会議所も取り上げています。
全国(日経・時事・朝日・商工会議所)/東京/北海道/岩手/秋田/山形/栃木/埼玉/神奈川/静岡/富山/愛知/岐阜/三重/和歌山/京都/岡山/香川/徳島/愛媛/佐賀/長崎/大分
国土交通省のサイトを見ると、自転車交通を取り巻く課題として、自転車と歩行者の事故が10年で5倍も増加していること、一方で地球温暖化対策としても大いに期待するべき交通手段であるにも関わらず、歩行者と分離された自転車走行空間がわずか3%にとどまっていると書かれています。
今回は、全国98箇所のモデル地区に自転車道や自転車専用通行帯(自転車レーン)など「分離」された走行空間を概ね2年間で戦略的に整備することを発表しています。さらに欧米並みの自転車先進都市の形成を目指し、都市レベルの自転車道ネットワークを目標にすることを明らかにしています。
私も再三にわたって書いてきましたが、整備の考え方として、歩行者と分離することや、細切れではなくネットワークとして整備すること、2年と期限を区切っていることなど、基本的な考え方は悪くありません。ただよく見てみると、気になる点があります。
今回整備されるのは全国で200キロ程度、一箇所あたりでは数百メートルずつ何本か、足して2キロ程度にとどまります。短いですが、まず最初ということで仕方ないのでしょう。住宅街と駅や学校を結ぶ道路を優先するのは、地区でも利用者の多い道路になるでしょうから、妥当なところです。
しかし、あまりに一部なので、全体としては事故防止の効果は見えにくいことも考えられます。駅や学校に向かわない人がその道路を通りがかった場合、ほんの数百メートル自転車レーンがあっても戸惑うだけかも知れません。まして、各地で構造も体裁も違うようですから、なおさらです。気付かずに使われないこともあるでしょう。
今後、遅滞なく広げていくことが出来ず、このまま、あまりにも短いままでは、そのうち駐輪場と化すようなことも十分考えられます。もちろん、駅や学校までだけでなく、より広範に自転車の活用を促す点でも全く不十分です。整備の効果が見られなければ市民の評価も得られず、失敗の烙印を押されかねません。
一箇所2キロ程度のモデルだけ作って、「将来的にはネットワークを目指すが、今はこれだけ。」では、どれも中途半端で、その効果も見えにくく、使い勝手も極めて限定的なものになる可能性が濃厚です。ネットワーク化ができてこその自転車道です。全体像とその完成へ向けての具体的な整備計画を示す必要があるでしょう。
また、地域によって整備する自転車レーンの形状は異なり、大きく分けて「ガードレールや街路樹で仕切る自転車道タイプ」と、「カラー舗装し通行場所を明示した自転車走行レーン」の2タイプに分かれます。いまある資産を有効活用するのも大切ですが、構造や体裁が違うと後々、混乱の元になることが危惧されます。
場所によって車道の隅を走行したり、歩道に上がったりとバラバラで、通った人が戸惑うようなものでは、せっかくの自転車レーンも威力を発揮しません。歩道にカラー舗装をしたところは以前からもありますが、全く歩行者と分離出来ておらず、自転車通行部分が駐輪ゾーンになっている場所も少なくありません。
私は、全国で「ガードレールや街路樹で仕切る自転車道タイプ」に統一すべきだと思うのです。そして何より、原則歩道走行禁止へ、早く持っていくべきです。中途半端に色のついた歩道を通る場所があるのでは、結局歩行者と混在・混交してしまいます。歩道から自転車を排除しなければ事故は減らず、自転車レーンを整備する意味も半減します。
車道を減らす余地がなく歩道を分割する場合でも、歩道を削り車道の高さにするべきです。街路樹などをガードレールがわりにし、残った歩道の一部の路面を下げるだけなら、色を塗るのと比べても、そう大きな費用はかからないはずです。もともと用地代は不要ですし、毎年度末ごとに行われる(ように見える)道路工事に少し足すだけです。
無駄なようですが、通行する場所が明示的に歩道でなくなれば大きく違ってきます。自転車は歩道を通らないこと、逆に歩行者も自転車レーンに降りないことを徹底しなくては、5倍にも増えた自転車・歩行者事故も減らせないでしょう。それでやっと本来の普通の姿なのです。世界的な常識にもかないます。
自転車の原則車道走行を徹底するため、車道に走行レーンをつくり、構造や仕様も統一すべきです。せっかくですから、最初から、本来あるべき姿を明確に掲げ、そこへ向かって整備していくべきなのです。それで初めて、歩行者との事故防止にもなり、自転車のポテンシャルを発揮させることにもつながります。
歩道への進入禁止が徹底されれば、駅前の歩道にも侵入しなくなっていくでしょうから、駅前の違法駐輪の防止にも効果が期待できます。もちろん駐輪場の設置も求められますが、今は歩道でも車道でも、商店街や、下手をすると駅内の通路まで、どこでも走行できるから無秩序となって、混沌状態になっている面は否めません。
たまに、片側一車線の道路の車道部分を自転車が走っていて、後ろのクルマが抜くに抜けずに数珠つなぎになっていることがあります。車道走行の原則から言えば間違っていませんが、クルマも迷惑でしょうし、無理に抜かれれば、自転車も危険になります。
これは、車道の路肩部分があまりに狭いからです。でも、その横の歩道は広々していたりします。今まで、自転車を歩道に上げる前提で道路整備がなされていたので、そんな道路は少なくないのでしょう。もちろん歩道整備も重要ですが、駅などが近くない限り、ほとんど歩行者はおらず、下手をすると違法駐車に占領されていたりします。
こうした道路も歩道を削り、その分広がった車道をセパレートして自転車レーンを作るべきです。例外を作っては、歩道走行禁止が徹底されません。自転車としても、歩道の段差や障害物がないほうが快適です。それで安全で高速に走行出来るようになれば、自転車の活用範囲は大きく広がるはずです。
ついでに言えば、車道の路肩部分にペイントしただけのレーンも好ましくありません。きちんと柵などでセパレートしないと、違法駐車を誘発しますし、原付バイクや自動二輪が侵入しますので、自転車との事故が懸念されます。やはりクルマとも分離するべきです。
今回のモデル地区指定は、それを自転車レーンの整備モデル地区と捉える地区と、事故減少のため検証実験として捉える地区があるなど温度差も感じられます。予算の都合などもあるのでしょうが、本格的なレーン整備を目指すところと、歩道に色を塗ってごまかそうとするところには、意識の差も大きいようです。
欧米並みの自転車先進都市を目指すとうたうならば、もっと明確なイニシアチブが欲しいところです。中途半端なら、あまり事故も減らず、結果、効果が見えずに挫折し、うやむやになって自然消滅して欲しくはありません。速いテンポでの実施は歓迎ですが、拙速は避けなければなりません。
せっかく自転車環境改善に動き始めたのに、ケチをつけるようですが、決して贅沢を言っているのではありません。ただでさえ、道路財源が問題になっていますし、財政的に苦しいのに我がままを言うつもりもないのです。しかし、せっかく整備するなら、そのほうがコストパフォーマンスも良く、結果的に得するはずだと思うのです。
自転車専用レーンの整備に関しては個人的にも興味があって、このブログ「サイクルロード」としては外せない話題なのですが、あまり興味ない方もおられるでしょうね。ただ、結果は我々に、様々な形で跳ね返る可能性があるので、私たちも注意していく必要があるのではないでしょうか。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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「中野浩一記念自転車専用レーンの建設を!」について
トラックの運転手さんから、話を聞けるとは思ってませんでした。それで聞きかじりの話を書いてみました。江東区亀戸のように車道を鉄柵で仕切り自転車専用道を確保してくれないと、安心できない。普段から、自転車を追...
大型車から見た自転車専用レーン【ロードバイク買っちゃいました悠々バイシクルライド】at May 30, 2008 23:02
この話題は別の場所でもさかんに取り沙汰(議論というより
宣伝に近いと思いますが)されておりますが、「歩行者との
事故」という表向きの建前と、「車道の高速走行」という業
界・スポーツバイクファン達の本音とがない交ぜになってい
るので中々解決は難しいように思います。
実際問題として車道を高速走行するスポーツバイクによる事
故(対車ないし単独)の事例にも悲惨なものはいくらでもあるように思われますが、「スポーツ」と称して公道でレースの真似事をする事にも大きな問題があると思います。
いずれにせよ全てをルールで解決しようとする性悪説一辺倒の方法論にはそれ自身問題があると思われますし、そういう意味で「先進の」欧米の社会構造を真似する必要もないのではないでしょうか(政治的には色々あるのかも知れませんが)。
初めまして、いつも楽しく拝見しております。
日々、なるべく歩道にあがらずに済むコース取りを心がけておりますが、工作物により物理的に分離、私は反対です。
方向は決して間違ってはいないと思います。憶測でものを言うことは慎むべきでしょうが、これは現在検討が進められているという一般公道における車の速度規制緩和が眼目ではないでしょうか。すなわち「路肩を自転車にウロチョロされてはスピードが出せない」。概念図を断面で示しているのにも欺瞞めいたものを感じます、仕切ったところで交差点で寸断される筈ですから。自転車レーンがそこからどこへ行くのか、明快な説明は寡聞にして聞きません。ガードレールはしばしば車のウィンカーを隠しますし、街路樹は出会い頭の視界を妨げる危険な罠です。
続きです。
これまた憶測ですが、この問題は「車の通行を確保した上で」自転車の走路を別にねじ込もうとしているところから発生しているのではないでしょうか?全ての路に当てはまるわけではありませんが、クルマを減らさない限り自転車レーンなど確保できません。ただ規則で制限するのではなく、貴Blogで再三指摘されているように「不要不急のクルマには乗らずに済む」包括的施策、生活・ビジネス体系が求められることでしょう、またご意見を賜りたいところです。
福祉の世界では(コストダウンの隠れ蓑ではあるが)「ニーズとデマンドは別物」という考え方が徐々に広まりつつあります。これは道路・クルマ事情にも当てはまると思います。
鉄下駄さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、道路を利用する全ての関係者、クルマのドライバーから歩行者まで立場の違いによって、また個人個人にもいろいろな考え方があるでしょうね。
それこそ財政の問題もありますから、無駄な道路工事をするべきでないとの意見もあるでしょう。沿道住民の意見もあると思います。
おっしゃるように、事故の発生にもいろいろなケースがあるでしょうし、原因も様々です。それぞれ良し悪しがあって、そう簡単にこうすべき、と割り切れない部分があることは間違いないでしょうね。
私も、欧米の自転車先進都市の事例をそのまま見習って、実際に果たして上手くいくかという点には疑問があると思います。
ママチャリの普及や自転車に対する認識も決定的に違いますから、やはり独自のものになっていかざるを得ないでしょうね。
alaris540さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
一般道の速度制限を上げようとしているという話は私も聞きます。おそらく事実なのでしょう。そのために自転車を封じ込めるという考え方には、私も反発を覚えます。
矛盾するようですが、個人的には柵など邪魔だと感じる面もあります。しかし、社会的な観点から考えると、今のように自転車が歩道を通るのは、やはり是正されるべきと常々感じているのも事実です。
ママチャリを使う大多数の人でも車道走行出来るようにするため、自転車レーンが必要になるのは仕方ありません。一時話題になった、スポーツバイクでも歩道の走行を義務付けられるよりはマシです。
自転車レーンは、歩道を色分けしたのでは解決にならないと思うので車道に設置すべきですが、慣れない人でも車道上のレーンを通るため、誰でも安全に通るためには柵が必要になるのも仕方ないかなと思うのです。
(続く)
(続き)
あるいは、柵は無くていいのかも知れません。ただ、路駐の問題もありますし、クルマやオートバイが進入するのでは安心して通れず、一般の人に利用されにくいとの懸念もあります。そのあたりは、一長一短かも知れません。
ガードレールや街路樹が危険なのは、現状の歩道走行が自転車とクルマの事故を誘発する理由でもあり、私も記事にしたことがありますが、上の写真のような「車道を仕切るタイプ」のような「柵」であれば、かなり軽減されるのではないでしょうか。交差点の仕組みも含め、仕様を検討する必要がありそうです。
おっしゃることは私もよくわかりますし、共感する面も多いです。いろいろな面から考えると、結局、全ての点を満足させる解決策は難しいということなのでしょう。
なるほど、「ニーズとデマンドは別物」ですか。まさにそうですね。全般的な視点も含めて、もっと議論されるべき問題なのは間違いないようです。
いつもご覧いただきありがとうございます。
素人ではとても気づかない専門的で、とても勉強になりました。自転車に乗って交通事故に会いたくありません。そんな折、サイクルロードさんのウェブサイトにたどり着けたのも何かの縁だと思いますが、この記事をみんながどんどん読んでくれることを念じています。自転車専用レーンの安心安全と充実を願って、ありがとうございました。
hachibicさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
お褒めにあずかり光栄です。とかく交通行政については、個々人ではどうにも出来ない問題であり、無関心になりがちです。でも、自転車に乗りもしない人の決める「間違った」交通政策が行われることも、ままあります。
もっと多くの人に関心を持ってもらい、市民による監視や要望の反映によって、よりよい環境が実現するといいですね。
歩道を狭めると、それはそれで黙っていない人達がいます。普段通行することはなくとも権利を主張する人がいます。
雨水処理の観点からは自転車道と車道はフラットにしない方がいいと思いますよ。フラットにした結果が亀戸の自転車道の例になります。
あと、問題はバス停をどうするかです。ドイツではバス停のあるところでは、自転車専用レーンを歩道に乗り上げさせ、バス停の裏に回していますが、日本ではこれは自転車専用レーンとしては認められませんし、そもそもそこまで歩道は広くありません。
自転車通行帯を作るというのはかくも厄介です。
tessyさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに反発する人はあるでしょうね。ただ、今まで行政が自転車を歩道に上げることを目的に歩道の拡張を進めてきました。結果として、歩行者と自転車の事故が激増したわけで、自転車走行部と歩行部を物理的にセパレートするというのは非常に分かりやすい道理のような気がするのですが..。
歩道を広げた結果、沿道の商店の看板やら出前バイクやらワゴンセールのワゴンの置場になっているほうが不法なわけですし、なんとか狭い土地をうまく有効利用できないものかと思ってしまいます。
亀戸はまだ走ったことがないのですが、不評なんですか。なるほど、簡単にはいきませんね。
オランダの都市部では、バス停が車道上に島のように作られており、バスに乗る客は自転車レーンを横断してバス停島に渡るようになっていたりしますが、やはり日本では現実的ではありませんね。(続く)
(続き)
朝夕に、バス専用レーンを実施する場所がありますが、いっそのこと自転車レーンとバスレーン兼用にしてもいいのではと思います。実際に、そういう実験をしている県もあります。
日本ではママチャリが大多数を占め、歩道を走るものと考えている人が大勢います。そのため車道では邪魔もの扱いされてきました。
クルマは車道、歩行者は歩道、そして自転車は自転車道(あるいは通行レーン)という当たり前の形が実現してこなかった為、今から自転車通行帯を一般化しようというのは、おっしゃるように相当の困難が伴うのは間違いありません。
多くの人に、まず、もっといろいろ知ってもらわなくてはなりません。ただ、今回の一連の動きもそうですが、少しずつ動き始めているのも確かなのではないでしょうか。
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