January 29, 2008

市民参加がもたらす街の将来

日経新聞の一面下段に「春秋」というコラムがあります。


毎日読んでいる方も多いと思いますが、その春秋に先日、自転車道の話題が載りました。法律上、自転車は車道走行が原則なのに、現実には歩道を猛スピードで走る危険な光景が目につくことに触れ、警察庁と国土交通省が、全国で自転車専用路の整備を進める方針を発表したことに言及しています。

まずは全国百箇所弱のモデル地区からなどと言わず、状況が許せばどんどん延ばせばいいとする一方で、自転車道は一朝一夕には完成しないので、譲り合いの精神が必要だと書いています。かねてから自転車が街に溶け込んでいるヨーロッパだけでなく、クルマ大国アメリカでも自転車への注目が高まっていることも指摘しています。

そこで例として挙げていたのが、カリフォルニア州デービス市です。民間による環境共生型の住宅開発として世界的に有名な“Village Homes”があることでも知られ、エネルギー政策なども注目されますが、同時に自転車の街でもあります。アメリカのサイクリスト連盟によれば、全米で最も自転車にフレンドリーな街とされています。

デービス市の自転車道環境先進都市デービス

人口6万5千の小さな市ですが、アメリカの「自転車首都」とまで呼ばれるほど、自転車の活用が進んでいます。人口よりも自転車台数が多く、その普及率は全米屈指です。日常の移動全体に自転車が占める割合も高く、自転車レーンは幹線道路の9割に設置され、専用道と合わせ総延長は160キロ以上に及びます。

長さだけでなく、自転車を利用しやすく、事故を起きにくくするために、自転車道を立体交差やバイクサークルと呼ばれるロータリー型の交差点にするなどの配慮もなされています。信号機のないロータリー交差点もクルマ用のものは見ることがありますが、自転車用のロータリー型交差点は珍しいと思います。

バイクサークル立体交差

もちろん、街のあちこちに駐輪スペースが設けられ、タイヤに空気を補充するポンプまで街角に整備されています。市全体を自転車フレンドリーにすることによって、アメリカの都市でありながらカーフリー、すなわちクルマを所有しない生活を提案、奨励、あらゆる面で支援しているのです。

自転車重視は、市の政策や都市計画の一部でしかありませんが、環境負荷が小さく、市民の健康増進にも役立ち、省エネルギーであることから、デービス市の政策の言わば象徴のようにもなっています。おかげで、街全体が公園のようになって、サイクリストでなくてもうらやましくなる環境です。

駐輪場も完備Davis, California

デービス市の動画はここをクリック

また、デービス市は市街地を大きくしないよう規制し、コンパクトシティを指向しています。職住を接近させ、自転車で全ての生活の用が足りる街を目指しているわけです。自転車道も、市内全域に均一に張り巡らせるのではなく、コンパクトな市街地部分に集中して整備出来ます。

最近、日本でも青森市や富山市など、コンパクトシティ構想を打ち出すところが増えています。さまざまな社会資本への投資を集中させ、より小さな予算で効率的な街づくりが出来るのは大きな利点です。デービス市は学園都市であることや、気候や地形、立地などに恵まれている部分もありますが、参考になる点は少なくありません。

右のポールがポンプ空気入れ

人口の少ない町にとって、広範な面積にあまねく自転車道を整備するのは、財政負担が軽くありません。メンテナンスや管理も大変になります。大都市とは違って中心部に集中して自転車道ネットワークを整備し、居住地域をコンパクトにして、クルマが使えない高齢者にも住みやすくしていく方向性は当然考えられると思います。

日本でもモータリゼーションが進み、商業施設が郊外化して中心部が衰退し、いわゆるシャッター通りとなっているところも少なくありません。市街中心部に道路があっても、通過するクルマばかりで、かえって街の振興にならないこともあります。欧州などには、市の中心部からクルマを締め出そうと考える街も出てきています。

極端な話、既存の道路に新しく自転車レーンを設置するのではなく、クルマはバイパスで周辺部を迂回させ、中心部は車道を自転車道として使うなんて方法も考えられないことはありません。既存のまま転用するなら、建設費はほとんどかかりません。時間で区切って、例えば夜間だけクルマを通すことだって考えられます。

緑も多い自転車専用道が充実

自転車の利用や自転車道の設置一つとっても、住民の間にはさまざまな意見があるでしょうが、いたずらに従来の常識にとらわれて、どこでも同じような町にするのではなく、デービス市のように自転車や歩行者中心のネットワークを形成していこうとする街が、日本にも出現したっておかしくはないと思います。

もう一つ、デービス市の特徴に、市民参加のまちづくりが挙げられます。環境先進都市デービスも、一朝一夕に出来たわけではありません。住民自身が中心となって、1970年代から地域コミュニティの中で、街づくりにコンセンサスをとりながら進んできた歴史があります。

ファーマーズマーケット学生も多い

例えば、デービス市の中心部の駐車場は住民の合意によって公園に改造され、ファーマーズマーケットとなって賑わっています。日本の街でも、単に便利とか、事故を防ぐためだけに自転車道を整備するのではなく、どのような街をつくっていくのか、本当に住民の為になるのは何かなど、いろいろな視点や構想が考えられるはずです。

その為にも、まず住民自らが街づくりに参加することが求められるのでしょう。地域コミュニティを通じた意見のすり合わせや、実現への取り組みも必要になるはずです。簡単な道ではありませんが、そうした地域コミュニティが形成されてこそ、「春秋」の言うような、公共空間での譲り合いの精神も生まれてくるかも知れません。



デービス市のことは、以前から取り上げようと思っていたので、ちょうど良かったのですが、今回記事に出来たのは一部で、紙幅の関係で書けなかったこともあります。いろいろと興味深い街です。

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そろそろ有無ではなく内容を
自転車道の整備と言っても、いろいろな視点から考える必要がある。

どの新聞のどこの面に載るか
新聞と言えばウォールストリートジャーナルにもこんな記事が載った。

自転車にも便利な駅がほしい
デービスだけでなく、一般にカリフォルニア州は自転車に関心が高い。



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