サイクルロード 〜自転車への道
世界の都市で自転車が選ばれ始めている。さまざまな角度から自転車の話題を。
February 04, 2008
時代を飛び越えられる可能性
アジアの国には、旧正月を盛大に祝う国もあります。
かつては日本でも使われていた旧暦ですが、今は沖縄や奄美地方などを除けば、新暦の正月が祝われます。しかし、中国や台湾、韓国にベトナム、モンゴルなどでは、旧正月が今も最も重要な祝祭日として、新暦の正月よりずっと盛大に祝われています。今年は2月の7日です。
実は先週、その旧正月の準備で賑わうベトナムへ行ってきました。夏のベトナムは暑くてかないませんし、雨期なので、悪天候や伝染病、食中毒などの懸念もあります。仕事などの都合で、昨年の夏休みに海外へ出かけられなかったので、どうせなら冬までずらして、夏には行く気になれないベトナムに行くことにしました。
なんと言っても、この時期に休む人は少ないので、チケットが安くてお得です。しかし、意外と飛行機は混んでいて、帰郷するベトナム人だけでなく、日本人の旅行者もいました。学生さんばかりでもなかったので、最近は休みをずらして、空いている時期に出かけようという人も少なくないようです。
個人的にはベトナム料理が以前から好きで、日本ではもちろんですが、他のアジアの国や欧米の都市へ行った際にも、なんとか美味いベトナム料理店を探し出して食べに行くほどです。ただ、なかなか本国へ行く機会がなかったので、今回は本場のベトナム料理を満喫しようというわけです。
日本で食べると、手に入らない香草などがあるためか、味的に物足りない場合もあります。今回は、まさしく本場の料理を、軽い麺類なども含めてですが、一日に4〜5食、食べてきました(笑)。行った場所は、ベトナム最大の都市ホーチミンです。少し足を伸ばして郊外のメコン川流域なども見てきました。
料理だけでなく興味深い国ですが、ここでは、ベトナムのホーチミンおよび周辺の自転車事情について見てきたことを書こうと思います。まず、なんと言っても驚くのは、そのオートバイの多さです。私も話には聞いていましたが、聞きしに勝るすごさに圧倒されます。
ベトナム経済の中心とは言え、ホーチミン市自体は、さほど大きな都市ではありません。人口も6百数十万と言います。しかし、道にはどこからか湧いて来るかのように、後から後から、膨大な量のオートバイが途切れることなく続きます。なんでこんなに移動する人がいるのか不思議な感じがしてきます。
例えば、どこかの大きな工場の操業が終わって、一斉に帰宅する人の列が続く時間帯があったとしたら、さもありなんという感じですが、それが延々と続くのです。しかも、細い道も含め、どの道路にも溢れています。いくら地下鉄や路面電車などの市内の鉄道がないとは言え、ちょっと考えられない多さです。
それも、朝夕のラッシュ時だけではありません。多少は少ないかも知れませんが、朝早くから夜遅くまで、職場で働いてる人が多いはずの昼間の時間帯でも、多数の移動する人で溢れています。ちょっと不思議なのは、夜遅くでも子供連れで乗っている人が多く見られることです。
オートバイは110CCが多いそうですが、二人乗り、三人乗りは当たり前、四人乗り、五人乗りも見ます。基本的に両親二人と子供が家族で乗っている場合には取り締まられないそうです。原則としてみなヘルメットをかぶっていますが、これは僅か2ケ月ほど前からのことで、それまではヘルメットもかぶっていなかったそうです。
そして、よく見るとその中に自転車も混ざって走行しているのです。ベトナムも経済成長に伴って、今はオートバイに乗る人が圧倒的のようで、自転車の割合は数十台か百台に一台くらいの割合ですが、オートバイに混ざって、老若男女が普通に自転車に乗っています。
自転車も車道走行どころか、クルマやオートバイと混然となって走行するのが当たり前のようです。自転車も普通のもので、スピードが出るスポーツバイクではありませんが、渋滞も多く、さほど全体の走行スピードも上がらないこともあってか、問題ないようです。自転車でも平気で二人乗りだったり並走したりしています。
日本では考えられないような状況です。日本でママチャリに乗る多くの人は歩道を走行しており、車道を走るのは怖いと言う人も少なくありません。しかし、ベトナムでは、子供や高齢者でも平気でオートバイに混ざって走行しているのです。結局、慣れの問題なのでしょう。
このオートバイの量にまず驚きますが、交通の混沌ぶり、無法ぶりにも驚きます。赤信号でも右左折するオートバイもいますし、信号が赤になっても交差点に突っ込むオートバイが多く、交差する交通が同時に交差点内で交差しています。ロータリー式の交差点もあるのですが、ちょっと信じられないような状況です。
私も動画を撮ってきましたが、すでに投稿している方がいたので、それをご覧ください。この交差点が特別なのではありません。普通の十字路や小さな交差点、T字路なども似たような感じです。よく事故が起きないものだと感心します。実際には多いらしいですが、滞在中には目にしませんでした。
見ていると、今すぐにでも事故が起きてもおかしくないように見えます。この動画のような状況の中を、歩行者も横断しています。実際にホーチミンでは、旅行者であっても、このような状況の中を横断せざるを得ません。オートバイが途切れるのを待っていては、夜中になるまで渡れないでしょう。
歩行者用信号が青でも、オートバイが突っ込んでくるのは当たり前です。むこうが避けてくれるので、オートバイに乗る人がよそ見をしていないか確認しながら、ゆっくり渡れば問題なく渡れるのです。ただ、焦って走ったりすると、オートバイの避けるのと重なって、かえって危ないこともあります。
地元の人は老若男女、何の躊躇もなく渡っています。私も最初は驚きましたが、慣れれば渡れるようになりました。ただ、クルマは原則として止まってくれないことが多いので、横断の途中でも交差点の中で止まってやり過ごすなど、気をつける必要があります。
自転車も車道走行と書きましたが、歩行者にとって歩道が安全かと言えば、そんなことはありません。なんと、オートバイでも歩道を走行しています。歩道は段差があったり、障害物が置いてあったりもしますので、普通は車道を走行しますが、通れると見るや、通行するオートバイは少なくありません。
特に渋滞している場所で、歩道が通れるとなれば、濁流のように歩道にオートバイが溢れることになります。もちろんその中には自転車も含まれます。一応歩行者を避けてくれますが、日本では考えられない、とんでもない状況です。仮に通れる場所ならば、クルマだって歩道を通るのも目撃しました。
それから、クラクションがすごいです。みなガンガン鳴らしながら走行しています。もちろん一台一台が鳴らしっぱなしではありませんが、全体としては3秒と途切れません。クルマもオートバイもです。聞くところによれば、ベトナムで一番最初に壊れるのは、普通ホーンだそうです。
とにかく凄いオートバイの量ですから、排気ガスも半端ではありません。道を歩いていると、気持ち悪くなります。オートバイに乗っている人は、マスクをしている人も少なくありません。道端でも売られていますが、マスクをつけたくらいでは、防げるレベルではないでしょう。半日もすると喉が痛くなります。
自転車店にはスポーツバイクも見ますが、街で走っているのは見かけませんでした。電動アシスト自転車も売っています。
自転車には二人乗り用のシートがついているものも多いようです。オートバイも含め、シート屋もあります。
ホーチミンから郊外へ出ると、さすがにオートバイも減り、自転車の割合が高くなる感じがします。
手でペダルを回したり、ハンドルを倒すことで進むハンドサイクルも数台見かけました。足の不自由な方向けでしょうが、結構普及しているようです。
ハンドサイクルも車いすも、当たり前のように車道を通っています。
ベトナムの伝統的な民族衣装アオザイを着て自転車に乗っている人は、ほとんど見かけませんでした。長い裾がチェーンに絡まないよう、後ろはサドルに敷き、前はハンドルに乗せて、その上から握るとった昔からのコツがあると聞きます。
市民のアシは完全にオートバイ、一部自転車の人も残っているという感じでしょうか。歩いているのは、ごく周辺の人か、観光客だけといった感じです。道端で何かを買う間や、何かを見物するような間でもオートバイに乗ったままの人も多く、まさにアシになっているような感じです。
観光客も行くような有名な市場は建物の中にありますが、街外れの地元の人が集まるような市場は、オートバイに乗ったまま中まで入ってきます。なるべく止めて歩くことをしたくないようです。道端に止めて座っていたり、その上で昼寝をしていたりと、まさに服装の一部か何かのような感じなのかも知れません。
中庭や半地下にオートバイ用の駐車場がある建物もありますが、これだけオートバイが多いので、歩道はまさにオートバイの駐車場と化しています。なんだか、そこら中にバイクショップがあるようにも見えてしまいます。歩道に一列だけは許可されているそうですが、足りずに二列になっていたり、店の中まで止めてあったりもします。
食堂の前だけでなく、あらゆる場所で低いイスに座って食事をしている人が、飯時以外でもたくさんいます。路上へも出前してくれるようです。歩道上で商売している人、単に座っている人もいます。歩道上の床屋や、耳かき屋まであります。オートバイ以外にも歩道が占拠され、歩行者も車道を歩かざるを得ない場所も多いです。
こうしてベトナムを歩いていると、日本の状況が恵まれて見えてきます。確かに歩道を暴走する自転車は問題ですが、「自転車だけ」です。交差点は安心して渡れますし、歩行者優先の原則があります。クラクションが鳴らされることも少なく静かです。排気ガスも規制が厳しい分、ベトナムほどひどくはありません。
大部分がオートバイに置き換わってしまい、その分自転車の台数が少ないので、放置自転車は少ないですが、オートバイの迷惑駐車は街全体に広がり、まさにオートバイに埋め尽くされている感じです。むしろ歩行者のほうが、歩道を通るのが迷惑な感じさえしてきます(笑)。
実際に日本へ帰って来たら、空気が澄んでいるように感じました。オートバイは寂しいほど少なく、街も静かですし、クルマやオートバイが秩序正しく通行しています。ベトナムでは、本当に止まってくれないことを実感しましたので、当たり前ですが、クルマが信号で止まり、歩行者優先の有難さを感じます。
街もきれいに感じ、外国人が日本は清潔だと言うのもわかる気がします。歩道を占拠する違法駐輪も、歩道を走行する自転車もかわいく見えてしまいます。決してそれらを肯定するつもりはありませんが、相対的には秩序があるように感じるのも確かです。ベトナムと比較して、日本のいい部分も見えた気がします。
人件費が中国より更に低いベトナムは、今後も経済発展を続けるのでしょう。それに伴って、オートバイがクルマに代わり、渋滞や大気汚染などの公害もさらに悪化していくと思われます。もし仮に、今オートバイをもう一度、自転車に代えることが出来たらいいのにと思います。
クルマになる前、オートバイから自転車のほうがはるかに抵抗感は低いはずです。現状でも、さほどスピードは出せませんから、自転車でも全く問題ないように思えます。原油高にも対抗でき、空気もきれいになって、今後増えるであろう呼吸器系疾患の患者を抑制できるはずです。地球温暖化防止にも大きく貢献します。
よく途上国には後発のメリットがあると言われます。例えば電話なら、固定電話を飛び越して携帯電話網を築くことが出来て、固定電話のためのインフラを整備しないですみます。同じように、クルマの時代を飛び越えて自転車に出来ないものでしょうか。
きっと、このままでは公害が拡大し、交通事故死者は増え、渋滞が増加し、肥満が増えるなど、先進国の辿った道を進むでしょう。もちろん、途上国に環境負荷が高いからクルマに乗るなどとは言えません。先進国は、むしろクルマを売り込むほうに回るのも間違いないでしょう。
もし、ベトナム政府が英知をもって先を見通し、工業化とモータリゼーションばかりが採るべき道ではないと考えるならば、ベトナム国民にとっても幸いな気がします。ただ、日本もモータリゼーションの先にある交通や都市の形を示せていない以上、そんなことを言う資格も説得力もないのが残念です。
タイマーで自動で更新されるはずが、うまく機能していなかったようです。ご迷惑をおかけしました。
ところで、ここ2年ほどで、贔屓にしていたベトナム料理屋が2軒も閉店してしまいました。東京や近郊で、ベトナム料理のおいしいところをご存じの方がいらっしゃったら、是非教えてください。
関連記事
きっかけになる自転車の形は
参考までにハンドサイクルの記事を。この記事とこの前日にも。
ニューヨークを行き交う乗り物
海外の都市の自転車事情、アメリカニューヨーク編の第一日目。
より強い者が優先という構造
海外の都市の自転車事情、中国は上海編の第一日目はこちら。
北京の自転車事情とその背景
海外の都市の自転車事情、中国は北京編の第一日目はこちら。
Tweet
Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。
「旅先の光景」カテゴリの最新記事
Posted by cycleroad at 23:30│
Comments(0)
│
TrackBack(0)
Tag:
ベトナム
ホーチミン
オートバイ
交通事情
自転車事情
│
このBlogのトップへ
│
前の記事
│
次の記事
この記事へのトラックバックURL
名前:
メール:
URL:
情報を記憶:
コメント:
※全角800字を越える場合は2回以上に分けて下さい。(書込ボタンを押す前に念のためコピーを)
このページの上へ▲