February 10, 2008

印象と感情で決めていないか

中国製冷凍ギョーザの問題が連日報道されています。


今まで聞いたこともなかった、メタミドホスとかジクロルポスといった有機リン系殺虫剤の名前を、ここのところニュースで見聞きしない日はありません。食卓に直結することだけに、誰しも無関心ではいられないところですが、まだ農薬混入の原因は謎に包まれています。

販売店や食品メーカーは関連商品の撤去回収に追われ、JTと日清食品は冷凍事業統合を解消し、学校給食や飲食店、もちろん家庭にも影響が広がっています。一時重体にまでなった被害者も回復に向かっているそうで何よりでしたが、誰でも被害者になる可能性があったと考えれば、決して他人事ではありません。

農薬検査死亡する危険のある食品が流通するというのは深刻な事態です。早急な解決と改善が望まれます。これについては今後の展開を注視するとして、事件以来、中国からの輸入食料品を敬遠する傾向が加速しています。そして、そのことは日本の食卓がいかに中国産の食材に依存しているかも浮き彫りにしました。

なるべく中国産を敬遠したくても、全ての加工食品を他で代替出来るとは限りません。国産に切り替えようにも、そもそも自給率が低い原材料があります。食品によっては、現実問題として中国産の原材料を一切使用しないのは困難と言います。あらためて、中国への依存度の高さと日本の食料自給率の低さを思い知らされます。

中国アレルギーは別にしても、食料自給率については、なるべくならその改善が望まれるのは言うまでもありません。貿易立国の日本は、自由貿易体制を強化し、調達先を多角化すればいいと言う人もいますが、今後想定される気候変動や大規模な災害などで世界的に食料需給がひっ迫する事態となれば、自由貿易などと言ってられません。

冷凍食品売り上げ減昨年来の食料品の値上げの動きを見ても明らかなように、ものによっては、その輸入価格が上昇しつつあります。いつまでも敬遠などと贅沢を言っていられるとは限りません。そして、当然のことながら、輸入が困難になってから対策したのでは間に合わないわけです。

例えば農家にとって、日本向けの遺伝子組換えでない作物を作るのは非効率です。要求レベルの非常に高い日本向けの作物や農水畜産製品などは、市況によっては逆に敬遠されても当然でしょう。バイオ燃料と競合して穀物価格が高騰していますし、途上国の食糧輸入量も増大し、食糧需給そのものもタイトになりつつあります。

そもそも日本での自給率の低い食品・原材料も少なくない中、世界中での日本食人気もあり、ドル以外に対して円安傾向でもあることから、ものによっては、いわゆる日本が買い負ける事態も頻発しています。食料の安定供給のためにも、食品に国産の占める割合を増やしたいところです。

公表遅れもちろん、だからと言って国内で食糧の増産が簡単に出来るとは思っていません。農業従事者の高齢化や後継ぎ不足など、その事情には深刻なものがありますし、農業政策についても簡単な議論ではありません。しかし、長期的な食糧安全保障の観点からも、自給率アップへの具体的な対策への着手が望まれます。

確かに、世界的な自由貿易の流れの中での国内の農産品の保護は容易ではないでしょう。今は国産志向が高まっていても、騒動が収まれば、その内外価格差から外国産の安い食材の需要が高まるはずです。非関税障壁を作れと言うつもりはありませんが、国産農産品を育てるような消費者の購買行動も必要なのかも知れません。

一朝一夕に食料自給率は上げられず、当面輸入原材料の使用が不可避ならば、食品メーカーは、原料の検査の厳格化と共に、生産は管理の行き届く国内で行い、安全性を高めるなどの対応も求められます。消費者も注意深くそうしたメーカーを選ぶことが、食の安全性の向上につながっていくでしょう。

殺虫剤検出このあたりは、グローバル化の進む世界の動きに反すると言われるかも知れません。しかし、昔のように生産者の論理ではなく、消費者の意向が市場の動向を決め、メーカーを動かす時代です。国の政策への世論の影響も含め、我々消費者が意識的に行動することが求められているのではないでしょうか。そのことを十分自覚すべきです。

消費行動そのものについても、多くの食品が食卓や流通の段階、場合によっては畑で収穫放棄され、無駄に捨てられている現状は変えていかなければなりません。我々の食生活そのものを見つめる視点も必要です。旬でない食材を通年流通させるため輸入せざるを得ないものもあるはずです。

日本人と日本の気候風土に合った食材を使う「和食」を見直し、その割合を高めていくことも有効でしょう。その意味でも食育は重要ですし、過度に冷凍食品や加工食品に依存しないことも考えるべきです。飢餓状態を経験したことのない世代としては想像しにくいですが、食糧不足のリスクとその備えも戦略的に考える必要があります。

事件解明に協力国産品を買いたいから、とりあえず原材料についても逐一原産国を表示すべきとの声もあります。しかし、食品によっては難しいと思われます。原料の調達先も固定されているとは限りませんし、調味料や、二次・三次の加工品もあるでしょうから、全ての加工・流通経路の調査・表記は非現実的でしょう。

表示されていたとしても、昨年来偽装が多発しているように、それが本当だとは限りません。消費者があまりに原産国にこだわると、かえって産地の偽装を促すようなことにもなりかねません。国産品にこだわっても、実際問題として自給率39%なので、家庭レベルですら輸入品を全て排除するのは不可能です。

安全性を考えて国産にしたいと考える人も多いと思いますが、国産が必ずしも安全とは限りません。食品衛生法やJAS法によれば、例えば水産物の場合、インド洋で獲れた魚であっても、漁船の船籍が日本であれば日本産として売っていいことになっています。原産国の表示だけを求めても仕方ありません。

食の安全過去にも野菜の残留農薬など、中国産に対する品質の不信を増大させる事件はありました。世界では中国製のペットフードや健康食品、おもちゃに含まれる鉛の問題も起きています。しかし、一方で日本への輸入に関しては、中国より他の国のほうが、実は安全基準に適合していない食品の割合が多いという事実もあります。

今回の製品が中国産ということで、中国の工場での薬物の混入が疑われていますが、まだ真相が解明されていない以上、憶測に基づいて軽々に断定的なことを言うべきではないでしょう。一部インターネットでは、日中の市民による批判合戦になっていると言いますが、詳細が不明な現時点で過敏な反応や、不毛な中傷は厳につつしむべきです。

確かに現在の中国では、農民も食品加工会社も利益の確保に躍起になっており、一部には、食品の安全性に頓着しない人がいるのも事実なのでしょう。中国国内での農薬中毒も異常なほど多いと聞きます。中国国民でさえ自国産の食品の安全に大きな懸念をいだき、値段は高いが安全性の高い日本産の食品を買う人も増えていると言います。

異臭を放置しかし、だからと言って中国産をただ感情的に排除するのではなく、あくまで冷静に対応すべきです。工業製品と同じように、日本のメーカーの製品は、日本側がきちんとその安全性を管理できる体制にするべきであり、日本の食品メーカーや輸入商社の責任をさしおいて、中国ばかり批判するのも考えものです。

すでにアメリカを抜いて、中国は日本の最大の貿易相手国であり、農産品だけでなく、工業製品からレアメタルまで輸入しなければなりません。ハイテク製品の素材として欠かせない希少金属、特にレアアースなどは、中国が世界の産出量の90%以上を占めており、日本はほぼ100%中国に依存しているのが現状です。

もちろん輸出先としても中国市場は外せません。感情的な軋轢から政治問題へ発展させることは避けた方が賢明です。別に中国の肩を持つつもりはありませんが、感情的な行動は両国にとって利益になりません。日本人もいたずらに騒ぐことによって中国政府や中国企業、中国国民を刺激しない方が得策のように思います。

対応の甘さなるべく中国産の農産品ではなく、国産品の利用を進めるとしても、中国の食品の安全性や、中国の体制の不備を理由にするより、例えばフードマイレージの考え方から国産の農産品の利用を推奨するならば、結果的に中国からの輸入が減っても、相手のメンツを潰さずに済みます。

日本は世界中から食料を輸入していることから、世界一、フードマイレージが高いと言われています。フードマイレージは、食品の重さと輸送距離を掛けた指標ですが、食材を遠くから持ってくれば持ってくるほど、その数字が高くなり、輸送によって排出されるCO2が増えるというわけです。

そのフードマイレージを元にCO2の排出量を計算すると、手元の資料によれば、例えば小麦100gあたり、北海道産のCO2排出量14gに対して米国産は58g、アスパラ30gあたり、長野産の1gに対して豪州産は341gもあります。

中国製ギョーザ事件イチゴ100gあたり、栃木産2gに対し米国産1348g、ブルーベリー200gあたり、長野産6gに対し米国産は2780gもあります。中国は比較的近いとは言え、イカ300gあたり、青森産29gに対し中国産は53gとなります。地球温暖化防止のためにも国内産の消費、地産地消を進めるへきなのは間違いありません。

いずれにせよ、昨年来の食品偽装や穀物価格の高騰、食品の値上がり傾向、そして今回の事件と、食の安全や、食料自給率、食生活など、日本の食について考えるべき時に来ています。国内の農業政策も、われわれの食卓に直結するテーマとして、もっと国民的な議論の俎上にのせるべき話題だと思います。

さらに、安全面だけでなく温暖化対策面からも、なるべく食材を身近から調達するようにしていきたいものです。直接購入する農産物だけでなく加工食品に対しても、私たち消費者が冷静かつ賢明な選択をするならば、市場の構造に変化を促していくことが出来るのではないでしょうか。



最近は原産地表示確認のため、買い物に時間がかかる人も多いようです。たまには時事問題を、ということで、最近の一番気になる話題についてペダルをこぎながら考えたことを書いてみました。

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