誰のために禁止しているのか

日本に3人乗り自転車が普及することになりそうです。
ただし、大人1人と幼児2人の3人乗りです。今でも幼児を自転車の前後に乗せて走っている人はいますが、道路交通法上は違反でした。これまで事実上黙認されてきましたが、自転車と歩行者の事故の急増を受け、その対策の必要性から警察庁の方針が昨年末に変わりました。
警察庁は交通の方法に関する教則を約30年ぶりに改正し、同乗幼児は1人までという原則の徹底を図る方針を表明したわけです。携帯電話を使いながらや傘を差しながらの運転、ヘッドホンで音楽を聴くなど外部の音が聞こえない状態での乗車などと共に、三人乗りの禁止の徹底が図られる予定でした。
ところが、この方針に複数の幼児をもつ母親から反発の声が上がっています。少子化対策が求められる中、子育て支援に逆行する規制だというのです。確かに場合によっては、幼児を一人だけ家に置いて出かけなければならないわけで、何かあった場合のことを考えると、子を持つ親ならそう簡単に受け入れられる話ではないでしょう。

この問題はさまざまなメディアでも報じられていますが、「2〜3歳の子供は歩くより、自転車に乗せたほうが安全」「少子化対策に逆行して、子供が2人以上になったら自転車にも乗れないなんて…」「代替手段も無いのに一方的に禁止するのは如何なものか」「ガソリンの値上げより困る」といった声があがっているようです。
「保育園はどこも定員いっぱい。兄弟が一緒の保育園に入れず、自転車に二人乗せられなければ、どうやって保育園に連れていくのか」「規制の対象を間違えている」「罰金覚悟で乗り続ける」「子育ての現場を知らない人が作った法律だ」「頭が固すぎる」といった怒りに近い声も少なくありません。
もちろん、「三人乗りは危ない。幼児にも危険が及ぶ」「早起きすればいい。歩いて送迎すれば子供の体力もつく」「父親が育児参加を」といった賛成意見もあります。ただ、何らかの事情で一人で子育てする人もいますし、議論は待機児童の問題から父親の育児参加への企業の支援、女性の社会進出支援の議論にまで拡大しています。
こうした声を受けて警察庁では、3人乗りでも安定した走行が確保できる自転車の開発を前提に許容する方向で検討に入りました。自転車業界に対しても安全な「3人乗り用自転車」の開発・普及への協力を要請しています。これにより、合法的な3人乗り自転車が発売される見込みが出てきたわけです。

幼児を抱える家庭にとって切実な問題でもあり、法律で決まっているとは言え、3人乗りの禁止徹底は難しい問題を抱えています。実際に杓子定規な法の執行を行うと大きな反発も予想されたことから、警察としても妥協せざるを得なかったのでしょう。
子供を2人乗せて安定して走行できる自転車と言えば、中国や東南アジアで見られるような前に2人乗せる自転車も考えられます。デンマーク製などにも似た自転車があります。また、既に製品として売られていますが、キッズトレーラーをけん引するような形も考えられるでしょう。
しかし、こうした自転車は現在の道路交通法で、「長さ190cm以内・幅60cm以内で側車などが連結されていない」などと決められている「普通自転車」に当てはまらなくなります。普通自転車として認められないと、例え歩道走行が認められた道路でも歩道走行は禁止になります。
車道走行すればいいわけですが、一般的なママチャリに乗る人のほとんどが歩道走行している現状からすると現実的ではないでしょう。どんな自転車が登場するかまだわかりませんが、おそらく現状で走行しているママチャリの前後に幼児用座席を備えたものに近い形状になる可能性が高いと思われます。

ただ、そうすると、今後開発されるであろう合法的な3人乗り自転車と、普通のママチャリにシートを取り付けたものと、見かけ上、大差が無い可能性もあります。そうなれば、なし崩し的に現行の自転車で乗り続ける人も出るでしょうし、わざわざ買い替えさせられることに対する不満も予想されます。
一方、あまりに特殊で、幼児2人を乗せる必要がなくなった時に使い続けにくいものであれば、やはり買い替えの強制に反発が起きる可能性があります。まだ予断を許しませんが、警察の打ち出す事故防止の緊急対策としての側面と、移行に伴う猶予期間の長さとのバランスも焦点になるかも知れません。
警察としては無条件で3人乗りを認めるわけにもいかないでしょうし、法律の趣旨からすれば、安全をある程度担保した上での現実的な対応として、このような条件付きでの譲歩は妥当な判断だったのではないかと思います。乗るほうとしても、今後も3人乗り出来る見込みが出てきたことで良しとすべきなのではないでしょうか。
少子化に逆行し、現実に即していない規制だという主張はよくわかります。しかし、実際に危険なのも間違いありません。幼児と言っても、かなりの重量があります。特に遅い速度ではハンドルがとられてフラつき、とっさの危険を回避するにも、機敏に反応するのが難しくなります。

幼児2人分の体重が加算されることで、一人の時よりもブレーキをかけて止まるまでの制動距離は確実に長くなります。重い分、運動エネルギーも比例して大きくなりますので、人に衝突した場合の衝撃力が増え、事故を起こした時には、より大きな被害を与えることになります。
警察の規制強化による被害者として感情的な反発も見受けられますが、事故が発生すれば歩行者に対する加害者になりうることも忘れるべきではありません。高齢者や子供もいるわけですし、歩行者の保護の立場から言えば、3人乗りは重大な事故要因になりえます。実際に事故も起きています。
歩行者の立場から見れば、ふらふらと危なっかしく、重量も重くてなかなか止まれない、しかも法律違反の歩道上の凶器であることも間違いありません。育児に大変なお母さんを責めるつもりはありませんが、こうした側面も決して忘れるべきではないと思います。
実際に危険だからこそ法律で禁止されているわけで、今まで大目に見られてきたからと言って、それを少子化を理由に正当化するのはおかしな話なのではないでしょうか。例えば、公共交通機関がないから飲酒運転も仕方がないといった身勝手な論理と、極端に言えば同じになってしまいます。

家にゴミを置きたくないからゴミの日以外でもゴミを出す人、駐輪場が遠いのが悪いと迷惑駐輪する人、税金を払っているのだからと言って、救急車をタクシー代わりにする人、図書館の本を切り抜く人、学校の先生に常識外の要求をする人などと、何ら変わりがないことにならないでしょうか。
育児が大変なのはよくわかります。社会としても支援すべきだし、少子化対策も重要です。しかし、だからと言って、法律が悪いから守らないというのは行き過ぎです。実際に事故が急増していますし、3人乗りをしていたが為に事故の加害者となってしまう可能性だって間違いなくあるわけです。
事故を起こして重過失致死傷にでも問われれば、収監され保育園の送迎どころではありません。民事的にも損害賠償が請求され、多額の負債を負う可能性もあります。自らや子供の安全もありますし、そうしたリスクと、3人乗りするメリット、あるいは必要性を比べるべきかも知れません。
二人の幼児を抱えるお母さんの非を責めたいわけではありません。しかし、「3人乗り禁止なんて冗談じゃない、禁止するほうが悪いんだ。」といった気持ちでいるのは危ないと思います。少なくとも法律で禁止されるくらい危険性が高いことも十分自覚しながら乗ったほうがいいのではないでしょうか。
アメリカの大統領選、民主党の指名争いでオバマ対クリントンのせめぎ合いはまだ続きそうですね。他国の事とは言え、こう接戦が報じられると気になるものです。世界に影響を及ぼすことから言えば、日本人にも選挙権が欲しいくらいですね。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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単に補助輪をつけたのではダメなんでしょうか?
SGWさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
なるほど、意表をつくアイディアですね。いい大人が補助輪つけてたら笑ってしまいそうですが、案外有効かもしれません。なんと言っても安価で、いらなくなったら外せるのは大きなメリットです。
ただ、ハンドルがふらつくのにはあまり有効でなさそうな気もします。自転車に乗れるのに補助輪がついていると走りにくいのもあるでしょうし、歩道上なら補助輪を歩行者にひっかけそうで邪魔な気もしますが、どうでしょう。逆にスピードが出しづらい分、安全には貢献するかも知れませんね。
3人乗りは絶対に認めるべきではない。
考え方が可笑しいですよ。なにも前後に乗せなくても現行法では3人乗りは可能でしょ。
一人は紐でおぶれば運転者の一部として人数には数えられないわけですから。かっこ悪いからしたくないだけじゃないですか?
例え前後に乗せて良いとした場合でも、送迎や移動以外での利用しか出来ないですよね。買い物は出来ませんよ、ハンドルに荷物を付ければ、安定した自転車が開発されたとしてもハンドルを荷台として想定しませんから、ふらついてしまいます。結局、事故になり兼ねないし、そうなればメーカーにも責任が出てきますよ。
安全なら良いなら、2人乗りのタンデム車は一般道の解禁をすべきです。
この問題を解決するのはとっても簡単なんですよ。今話題の道路特定財源を使って、全ての道路に自転車専用路を造ればいいんですよ。車線を1本削ったり、駐車違反が出来ないよう、無駄な幅員を狭くしたりして、専用路を造れば解決。しかも駐車違反がなくなり、自民党や道路族議員や地方も道路特定財源も残せるし皆万々歳じゃないですか。
自転車ツーキニストさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
「おんぶひも」で背負う1人についは、東京都の道路交通規則では、運転者を含め計3人まで乗せることができますが、例えば京都府の同規則では、「おんぶひも」を使っても3人乗りは禁止だそうです。道路交通法の施行細則が都道府県によって違うわけですが、東京で言えば、確かに「おんぶひも」で乗れるなら法律上問題なくなるわけです。まあ、年齢によっては背負うのも大変ということなのでしょう。
ただ、いずれにせよ、ふらついて危険であることには間違いありません。その意味では、私も3人乗り禁止については妥当な規制だと感じます。確かに、さらに荷物満載している場合も少なくないですから、3人乗りで安全を確保するのは難しいと言えるかも知れません。
ぱっぱら王子さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
2人乗りのタンデム車の規制も都道府県によって多少違いますが、私も解禁に賛成です。ただ、どうしても趣味の自転車と見られるので、規制緩和の俎上には上らないような気がします。
自転車専用レーンも、そうなれば理想ですね。環境対策から言っても自転車の走行空間はもっと整備されてしかるべきです。ただ実際問題として、全ての道路にと言うのは現実的ではないでしょう。国道であっても狭い2車線もありますし、用地確保だけでも莫大な費用がかかってしまいます。
道路特定財源については、いろいろな議論があると思いますが、道路がまだまだ必要、10年で59兆の予算と言っている人たちは、自転車専用レーンをつくるくらいの雑工事じゃ満足しないことは間違いないでしょうね。
本文中の「2〜3歳の子供は歩くより、自転車に乗せたほうが安全」というところに引っかかりました。
これは、暗に歩道は縦横無尽に自転車が行き交っているため子供と手をつないで歩くことが危険ということだと思いました。実際自転車が狭い歩道で鮨詰めになって走る光景など当たり前のようにありますからね。
道路構造の欠陥、歩道走行の恒常化が問題をややこしくしている気がします。
sさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
メディアなどで報道されている意見を参考にしたのですが、「好奇心でいっぱいの子供が急に駈け出したり、道へ飛び出したり、なかなか落ち着かないことが多いから。」というのが主な理由のようでした。しかし、なるほどおっしゃるように、他の自転車の脅威ということもあるでしょうね。
歩道走行の問題、つまりは今までの交通行政や道路整備政策なども遠因になっていることは間違いないでしょう。
あるいは、他の3人乗りの自転車も含まれるのかも知れません。他の人もやっているから、ということでしょうか。
後ろに2人乗れる3輪自転車にすればいいんじゃないの?
3輪なら絶対転ばないし、遅くてもフラフラしないし。
幅は多少でかくなるけど絶対安全。
+αで、電動アシスト付なら2人乗せててもラク。
今も売ってる、年寄り用の3輪自転車の後ろのデカイかごの部分を2席にして、モーターつけるだけなら新しい開発とかなくてもスグに作れる。
パパさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、その手もありますね。ただ、幅が60cm以内でないと法令で定められている「普通自転車」として認められず、自転車通行可の歩道でも車道を通らなければならなくなります。60cmというとかなり狭く、子供とは言え2人並ぶのは難しそうです。縦に並ぶと、今度は長さの制限にかかりそうです。
車道走行を前提とするなら問題ありませんが、歩道を全く走れないママチャリは実際問題として売れないのではないでしょうか。メーカーもつくらないと思います。
3輪にして安定させるのは有力な選択肢だと思いますが、やはり子供は前後に分散させざるを得ない気がします。
はじめまして。少し出遅れましたが。
この報道を見た時、一方的だなぁと思いました。確かにあの3人乗りは危険ですよね。でも警察の思考というのは危険→禁止という短絡的な構図が多すぎる気がします。やるならやるで代替案を用意しておかなければいけないんじゃないでしょうか。だったらいっそうのこと、法令を少し改正していただいたら良いのではと思います。もちろん道路の問題もありますが、そちらを整備していたら何時終わるかいくらかかるかわかりません。(もちろん自転車道整備はしたほうが良いですけど)だから自転車の規定に関し例えば、幅を少し広くするとか、リヤカーに人を乗せて走れませんが、規定を満たしたチャイルドトレーラーならOKにするとか、オランダ乗りのような自転車もOKにするとかetc
やれることまだまだあると思いますがね。
おかしいなぁおかしいなぁ。
hiroさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
今まで黙認されていたのが、急に見直されることになった背景には、事故の急増という理由はともかく、どこからか圧力がかかったんでしょうね。
でも、それが報じられて世論の反発を買った途端、腰砕けで方針変更ですから、場当たり的な措置と言われても仕方ないでしょう。
おっしゃるように、やるなら、まず3人乗りの安全性を高める必要があることをアピールし、業界の協力を得て新しい安全対策の見込みがたってから、充分な浸透期間を経て、その安全対策の義務化を図るというような手順が必要だったと思います。
クルマの場合のシートベルトとかチャイルドシートの義務化と違って、施策があまり計画性を持って進られてはいないのは、やはり従来とられてきた自転車に対する交通行政(すなわち自転車を歩道に上げること)が、破たんしていることと無関係ではないと思います。
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