帰りに近くを通ったので、取手競輪場に立ち寄ってみました。考えてみると、私は今まで車券を買ったこともありませんし、競輪場にはほとんど入ったことがありません。競輪場の場外を使って開かれたバザーをのぞいたことはありますが、いわゆるバンクも実際にはほとんど見たことがありませんでした。
外から見ても、かなり傾斜がついているのが分かります。おそらく中に入ったら、すり鉢の底にいるような感覚になるのでしょう。競技をやっていない限り、こうしたトラックを走行する機会はなかなかないと思われますが、ちょっと走ってみたい気もします。

私に限らず、趣味で自転車に乗っている人であっても、競輪というと、ちょっと別のカテゴリーという気がする人が多いのではないでしょうか。同じ自転車であっても、どうしてもギャンブルというイメージが先行してしまいます。一般の人の認識としても、競輪は趣味で観戦するスポーツというより賭け事でしょう。
ただ、サイクルジャージで走っているのは、競輪選手だと思っている人もあるようです(笑)ので、一般の人から見れば、スポーツバイクと競輪選手は同じに見えるのかも知れません。普通の人なら、こんな高さまで自転車で登るか?と思うような峠で見かけるのは、競輪選手のトレーニングだと思っている人も多いのでしょう。
そんな人に、私たちが路上で乗る自転車と違って、競輪の自転車にはブレーキがないことを説明すると驚くことも少なくありません。「ブレーキがないなんて、なんと危険な。」と感じる人が多いようですが、競輪選手にしてみれば、逆にブレーキがついていたら、危険この上ないことだと言います。

時速70キロにも及ぶスピードで、かつあれだけ密集して走行している時、誰かがブレーキでもかけようものなら、とてもよけきれないことは間違いありません。そもそも不要ということもありますが、ブレーキの装着なんて、むしろ考えられないことだという話を聞いたことがあります。なるほど、その通りでしょう。
トラックレーサー、もしくはピストレーサーなどと呼ばれる競技用の自転車が固定ギアで一速しかないことは、説明しても普通の人には、なかなかピンと来ないようです。確かにママチャリだって一速しかないものも一般的です。そもそも、フリーホイールでない自転車の存在を知らない人は少なくありません。
蛇足ながら説明しておきますと、ペダルをこぐのをやめても、そのまま車輪が回転し続けるのがフリーホイールと呼ばれる機構です。この発明によって画期的に自転車が乗りやすくなったわけで、今やスポーツバイクを含め、ほとんどの自転車についています。
フリーホイールでない固定ギアだと、自転車が走行している間、ペダルは回転し続けます。つまりペダルを止めてもギアが空回りしてくれないわけです。ですから、ペダルを逆向きにこげば、後退することだって出来ます。知らない人には、ここまで説明すると、競輪用の自転車が特殊なギアであることを、やっと理解してくれます。

ちなみにヨーロッパでは、伝統的なダッヂバイクなど、フリーホイールでない自転車も結構存在します。街中で普通に乗る自転車ですから、最近、前輪にはブレーキがある場合も多いですが、後輪はペダル逆回しで止めます。慣れないと乗りにくいですが、都市によっては普通にレンタルされていて、知らずに乗って驚く日本人もいます。
取手競輪場の話に戻りますが、来場者には女性が少なく、若い人も少ない感じです。当たり前と言えば当たり前ですが、競馬や競艇、オートレース場などと同じで、やはりギャンブルが目的の人が大部分という雰囲気です。よく知れば、競技としての面白さもあるわけですが、あまりスポーツとしての人気が高くないのは間違いなさそうです。
ついでに取手の駅前にも行ってみました。JRと私鉄も乗り入れる比較的大きな駅です。茨城県の県庁所在地である水戸駅を超える、一日平均3万4千人を超える利用者がある駅にもかかわらず、駅前の放置自転車は、かなり少ない感じがしました。土曜日だったせいがあるのかも知れません。
ただ、看板などを見ると、駅周辺に多数の駐輪場が整備されているようです。写真の駐輪場は、駅前のロータリーに面し、ペデストリアンデッキにも直結した、改札口まですぐのビルに設置されています。室内で雨にも濡れず、好立地なのに、なんと最初の2時間は無料です。こんな駐輪場があるなら、わさわざ放置する必要もないのでしょう。

その取手駅前のロータリー内にあって、ちょっと目をひくのが、写真のようなオブジェです。駐輪機を縦型にするのも面白いし、場所をとらなくていいと思うのですが、これは駐輪機ではありません。グラデーションをつけてありますが、自転車を使ったアートなのです。
後で調べてみると、取手はアートの街を標榜しているようです。駅の東西を結ぶ地下通路にもアートギャラリーが設けられ、絵画が飾られています。普通なら暗くて無機質な空間になりがちな地下通路ですが、明るい雰囲気になっています。住人がどう思っているかは知りませんが、駐輪場と言い、アートと言い、なかなかいい印象です。

実は、競輪場もしくは自転車競技場(競輪は開催されない)は各都道府県に必ず一箇所以上あります。これは、国体に自転車競技のトラックレースがあるからです。敗戦の翌年、沈む日本の国を明るくするために生まれた国民体育大会ですが、経費のかかる自転車競技場建設には、当初各自治体も難色を示していました。
その建設費や、地方自治体の戦後復興費用を捻出し、自転車産業の発展を目的に制定されたのが自転車競技法です。いわば競輪は、日本の戦後復興のために生まれたわけです。同じように地方自治体の財政を助ける宝くじに比べて、やや良くない印象を持たれる傾向がありますが、社会に貢献してきたのは間違いありません。

日本発祥のギャンブルであると共に、日本独自の自転車競技、プロスポーツとして育ってきた競輪は、今やオリンピックをはじめ、世界で国際種目として正式に採用され「ケイリン」となっています。あと5ヵ月に迫った北京オリンピックにも自転車のトラック競技の種目として、ちゃんと「ケイリン」があります。
ヨーロッパでは、自転車のロードレースがとてもメジャーなスポーツであり、独自の文化が築かれています。日本で一般にはあまり知られていませんが、国や地域によってサッカーとも並ぶ人気を誇り、熱狂的なファンや多くの観衆を集めています。
一方、国際的な競技でもある日本生まれの「ケイリン」は、その母国日本ですら、国民的な人気スポーツとはなっていません。独特の性格を持ち、ギャンブルとしての側面もあることで好き嫌いはあるにしても、もう少しプロスポーツとして見る部分があってもいいような気がします。
ぐんと暖かくなって、サイクリング日和だったところも多いようです。冬の間は封印していた方も、そろそろ出かけてもいい頃かも知れません。
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