March 23, 2008

センスもなければ知恵もない

日銀の総裁が戦後初の空席となっています。


この由々しき事態に、新聞各紙は一斉に与野党の対応を非難しています。全国紙は、どちらかと言うと民主党を非難しているものが多いようです。確かに、民主党が政府の人事案に同意しなかったのが直接の原因であり、党利党略をもって日銀総裁人事を弄ぶなという主張は理解できます。

例えば読売新聞は、社説で民主党の政府案否決について、「日銀総裁人事、『財金分離』は理由にならない」と主張しています。「財金分離」は、本来、旧大蔵省から銀行監督など金融行政を切り離す時に使われた言葉であり、それを民主党は違う意味で使っていると述べています。

民主が不同意この言葉尻をとったような言い方はともかく、「財金分離」と言うより、元財務官僚が総裁の座につくことで、日銀の独立性が損なわれるという意見には一理あると思います。そもそも財金分離が言われたのは、旧大蔵省のいわゆる護送船団方式の金融行政が国益を大きく損なってきたからにほかなりません。

この反省を元に金融ビックバンを断行し、大蔵省を解体して財務省と金融庁を分離したときに言われた財金分離の原則ですが、同時に日銀の大蔵官僚への過剰接待を改める意味もあったはずです。その原則を貫くために、日銀幹部から旧大蔵省OBを一掃したのではなかったでしょうか。

新日銀法が制定され、大蔵省と日銀から交互に総裁を輩出する、いわゆるたすきがけ人事の慣行が廃止されることになったのも、中央銀行の独立性の確保の為だったはずです。その考え方からすれば、財金分離という言い方はともかく、日銀の総裁に元財務官僚を登用する人事に疑問を持つのは何ら不思議なことではありません。

副総裁が代行中央銀行の独立性がいかに大切か、我々国民にとっても非常に重要な意味をもつかについては、長くなるのでここでは書きません。国民としては、いつの間にか当たり前のように元財務官僚を総裁に据えようというする政府の方針こそ問題なのであって、その意味でも財金分離の原則は重要だと思います。

読売新聞は、財政当局の出身者が中央銀行のトップに就くのは世界でも珍しいことではない、とも述べています。だから民主党が同意しないのはおかしいと言うわけですが、これも理屈になっていません。日本でも過去にはあったわけですが、諸外国の例より、中央銀行の独立性が損なわれる可能性があるか否かが問題でしょう。

ましてや、最初に提示された元財務次官の武藤敏郎氏は、一連の大蔵・日銀スキャンダル、いわゆる「ノーパンしゃぶしゃぶ」での過剰接待疑惑のときに人事を司る立場にいた人物です。なのに真相究明どころか、身内をかばって国会で虚偽の答弁までしたとされています。

武藤氏言ってみれば、骨の髄まで財務官僚であるお手本のような人物に、財政と金融の分離、日銀の独立性を期待する方が無理です。もちろん、心を入れ替えていい仕事をするかも知れませんが、こうした過去があるだけで総裁候補になる資格はないでしょう。首相も知らん顔して候補にする神経が信じられません。

一連のスキャンダルで、次々と大蔵省の幹部が辞職に追い込まれる中、異例の降格をされても一人居残り、ほとぼりがさめるのを待って次官まで上り詰めたのが武藤氏です。結局、国民の関心は長く続かないし、昔のことなど覚えてないだろうと言うのでしょうか。国民を舐めた態度です。

確かに、実際にはそんなことを忘れている人が大半なのは事実です。酒の席などで、時節柄この話題になる時がありますが、同意せずに空席にしたと民主党を非難する人はいても、武藤氏の適性について問題にする人が少ないのは確かでしょう。

田波氏だからと言って、こんな人事がまかり通るのはいただけません。民主党が党利党略で同意しなかったのか、さまざまな見方があると思います。民主党にも説明不足の部分がありますが、いろいろ事情や考えもあるのでしょう。別に私は民主党の肩を持つつもりはありませんが、この人事に同意しなかったことは評価します。

この事態に世界中のメディアも高い関心を示しています。金融市場の混乱が続く中、経済大国である日本の中央銀行のトップの不在は大いに批判されています。海外に対しても迷惑をかける事態であり、折しも世界が金融システムの危機などへの対応に追われる中というタイミングも悪すぎます。

野党が受け入れられない人物を二度も推薦した、福田康夫首相に明確な責任があるとの論調も少なくありません。あのフィナンシャル・タイムズは、確かに財務省からの横滑りは金融政策の独立性をそぐと、民主党の選択を正しいと評価しています。

福井氏私も、むしろこの人事案を出した政府与党のほうが問題だと思います。武藤氏を評価する人がいるのは事実でしょうが、他にも少なからず候補はいるはずです。同意されないであろうことは、事前に大方予想されていましたし、極端に言えば昨年の7月にすでにわかっていたことです。

それにも関わらず、不同意となった次の候補まで、同じ元財務次官の田波耕治氏を出してくるに至っては、与党内部からも疑問の声が上がるのも当然です。もちろん福井氏続投も同じです。福井氏も一連のスキャンダルで日銀を追われた人物であることには変わりありません。

さらに福井氏が、村上ファンドで私腹を肥やそうとしていたことは、その売買のタイミングと言い、限りなく疑わしいのも記憶に新しいところです。政府は、よほど日銀の独立した金融政策が困るのでしょうか。福田総理の真意が疑われます。某前首相に続いて、KY(空気が読めない)と言われ始めています。聞く耳もないのでしょう。

確かに、衆参のねじれ現象が招いた事態と言えます。衆議院に優越がない制度の欠陥と言えばそうかも知れません。民主党の判断には、いろいろ意見があるでしょうが、現在の状況が選挙によって、民意によって実現しているのも事実です。日銀総裁の空席は困りますが、民主主義の結果でもあります。

福田首相民主党だって、全員不同意にしているわけではありません。どうしても首相が元財務官僚にこだわるのでなければ、とっくに決まっているはずです。その意味で、むしろ、福田首相がこの失態を招いたと言えます。こんな異例の状態にしてまで、金融と財政を一体化させたいのでしょうか。

国民は財政規律を求めています。歳出が無駄な公共投資や非効率な官僚組織によって浪費され、利権と談合にまみれた関連団体へ流れ、天下りした官僚OBの私腹を肥やしている現状にNOと言っているのです。このまま、国の借金が積み上がっていけばどうなるかも、わかっています。

目先のことにとらわれていると、後々膨大な国の借金や年金財源の不足といった抜き差しならない事態に陥いることも自明です。そして、その時だれも責任をとらないことも目に見えています。ならば、日銀の独立した金融政策によって、政府の失政や放漫な財政運営に歯止めをかけなければなりません。

だからこそ日銀の独立性は重要ですが、福田首相の頭には日銀の独立性や中立という考えがないことが大問題なわけです。そのことを白日の下にさらし財務官僚に固執するあまり、日銀総裁空席という事態にした責任は重大です。政権の求心力も急速に失われていくことでしょう。

もともと何をやりたいのか不明で、その判断力や決断力、政治センスにも疑問の声が上がる福田首相ですが、この迷走ぶりに与党からも批判が噴出し、もはやその指導力不足は明らかです。日銀総裁空席も困りますが、この時期に、こんな人が総理に居座っているほうが国民にとっては困ったことなのかも知れません。



たまには、ということで時事問題を取り上げてみました。しかし、例の大連立騒動以後、読売新聞の社説が妙に感情的で、説得力のないものが見受けられるように思うのは、私の思いすごしでしょうか。

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この記事へのコメント
アメリカ金融界の崩壊の危機にあたり、アメリカ政府から米国債の大量購入を頼まれるのを防ぐため、福田首相と小沢民主党党首が談合して、意図的に日銀総裁を決められない状態にしている、との説があります。

この説の真偽のほどは別として、今、アメリカ国債を買わされるのは、国益に反することは間違いないと思います。

翻って考えると、日銀総裁の空席ってそんなに問題なのでしょうか。何が問題なのでしょう?

Posted by Dr. K at March 24, 2008 09:24
Dr. Kさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
米国債購入拒否のためだけに、いつまでも空席を続けられるとも思えませんし、今だけ米国の圧力を避ければいい話でもないと思うので、あまり説得力がない説のように聞こえますが、いかがでしょうか。
確かにドル建て外貨準備を米国債ばかりで運用するのは問題もあるでしょう。しかし、その価格の下落が資産の目減りになるばかりか、国際的な長期金利にも大きな影響を及ぼすなど、単純に米国債の購入をしなければいいとも言いきれないのではないでしょうか。
すでに膨大な残高があるのも事実で、買わないことで価格が暴落すれば、かえって損失が膨らみます。日本ほど米国債を持っていると、身動きがとれないとも言えますが、米国債に関しては、政治的な判断もありますし、少なくとも日銀の総裁の問題だけではないように思います。(続く)
Posted by cycleroad at March 24, 2008 12:43
(続き)
日銀総裁の空席は、すぐ日銀の日常業務に支障をきたすものではないと思いますが、日本経済にとっては船長不在のままの船のようなものです。一応舵はとれますが、どこへ向かうかもわからず漂流してしまいます。
日銀は公定歩合だけでなく、さまざまな手法で金融政策を実施したり、通貨供給量を調整して物価や国民経済を安定させています。そのリーダーシップが失われるのは、今すぐ問題が明らかにはならずとも、大きなリスクではないでしょうか。
金融市場の混乱も招きますし、投資家の心理も冷やします。物価や金利、景気だけでなく、経済にとって間接的にもいろいろ悪い影響が及ぶでしょう。不在という事実だけで海外からの信用は失墜し、日本売りにもつながります。
ましてこのタイミング、海外では日銀そのものの危機と評されています。国民経済にとっても非常に重要なポストなので、やはり不在は考えられない異常事態ではないでしょうか。
Posted by cycleroad at March 24, 2008 12:44
> 日本ほど米国債を持っていると、身動きがとれない ‥‥

ご指摘の通りだと思います。

> 米国債に関しては、政治的な判断も ‥‥

ドル崩壊の近いことを見越して、ドル建て資産についてはすでに損切りを覚悟、せめてさらなる損失の拡大を防ごうという「政治的な判断」のもと、姑息な防衛策を弄している、と、見えなくもありません。

かなり穿った見方であることは承知していますが、大恐慌前夜のような様相が深まってきていることを考えると ‥‥。
Posted by Dr. K at March 26, 2008 11:57
Dr. Kさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、表面的にはわからない、一般の人の知りえないような政治の裏側の話もあるでしょうね。今までだって、新聞などには載らないようなやり取りが、さんざん行われてきたのは間違いないでしょう。
実際のところ、ドルの信認が揺らぐような事態になってきているのは事実ですね。国際基軸通貨としてのドルのポジションが崩れるような事態となれば、ドル建て外貨準備のみならず、日本の対外投資、海外資産も大きく毀損するでしょう。
そして、国際金融市場のみならず、世界中の市場が混乱し、世界経済にダメージを与えるのも間違いないでしょうね。
Posted by cycleroad at March 27, 2008 12:31
 
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