
今年のゴールデンウィークは、日にちの並びがよくありません。
そのせいで、3日からの4連休には、例年にも増して混雑が集中する見込みで、高速道路は激しい渋滞が予想されています。さらに、長い休みが取りにくいことや、原油高による燃油サーチャージの上昇などもあって、大型連休を海外で過ごす旅行客が減り、そのぶん国内の混雑に拍車をかけそうです。
ゴールデンウィークやお盆、お正月など特別な時期に、高速道路が大渋滞になるのは、ある程度仕方がないと言えるでしょう。暦によって、多くの人の休みが集中するスタイルが続く限り、交通の集中を防ぐのは難しいものがあります。出かける方も混むのは覚悟の上、最初から諦めている部分もあるでしょう。
ところで、大型連休などの「日本人の大移動」に伴う渋滞は仕方がないとしても、都市部の道路は、ふだんでも慢性的に渋滞しています。この慢性的渋滞による時間や燃料のロスなど経済的な損失が、日本全体では莫大な金額になることもわかっています。もう少しどうにかならないものかと思います。
都市交通や都市計画を推進する行政にとっても頭の痛い問題です。道路が拡幅出来れば言うことありませんが、都市部の土地の複雑な権利関係をクリアしながら、計画から開通までには、何十年もかかるのが普通です。そして拡幅した途端、あっと言う間にその道路への交通量が増え、以前に増して渋滞してしまう例も珍しくありません。
ある研究機関が警察と共同で行った、渋滞対策として信号のタイミングを調整する実験のレポートを読んだことがあります。それによれば、信号の間隔を変えてやると、渋滞が劇的に解消する場合が少なくないそうです。タイミングを変えるだけなら、費用もほとんどかかりません。

実体験から考えても、信号の間隔やタイミングが悪いために渋滞するケースは、いろいろ思い浮かびます。右折信号が短かかったり、右折したすぐ次の信号が赤などのために、曲がりきれないクルマの列が伸びてしまうとか、交差する道路は空いているのに、混んでいる方向の信号が短いなど、渋滞を招く様々なケースに遭遇します。
ただ、交通状況は刻々と変化するので、単に調整するだけでは継続的に渋滞を防げるとは限りません。交通の状態に応じて信号の間隔を変えるようなインテリジェンスな信号機が必要であり、また信号機一台一台が単独で対応するのではなく、全体が連動する必要も出てきます。
信号を上手にコントロールすることでスムーズにクルマが流れると、CO2の削減効果が高いこともあって、こうした研究は進んでいるようです。しかし、都市全体の信号機を交換したり、交通量の変化をリアルタイムで監視する装置や、信号の切り替えを最適化するシステムを導入するには莫大な費用がかかります。

渋滞には信号以外の要素も少なくありません。例えば、駐車場への入場待ち行列のように信号機では解決できない要因もあります。結局、都市の道路のキャパシティ以上のクルマが集中する限り、抜本的な解決にはなりません。ロードプライシングなど、都市へのクルマの流入を制限するしかないのかも知れません。
なかなか効果的な渋滞対策が難しい一方で、道路交通に頼らない市民の移動手段、代替の公共交通も必要になります。地下鉄や路面電車などの整備が求められますが、一朝一夕には無理です。そこで、渋滞の回避にも現実的で即効性があり、しかも実用的な公共交通手段として機能する、自転車がクローズアップされるわけです。
バスや路面電車は、スペース的にクルマと道路上でバッティングしますが、自転車は基本的に道路が渋滞していても関係ありません。渋滞している場合はタクシーより速いですし、地下鉄の駅まで歩くより便利なこともあるでしょう。人々が自転車を使うならば、渋滞の緩和効果も期待できます。

しかし、全ての人に家から自転車で来させたり、常に自転車で移動させるわけにもいきません。そこで考えられるのがレンタルです。都市に有機的にレンタサイクルを配置し、必要に応じて使ってもらうことができれば、補完的、代替的交通システムとして有効に利用出来るはずです。
実際、こうした考え方をする都市は増えています。昨年、パリでも導入されましたが、今月からはアメリカの首都ワシントンでも、レンタサイクルによって、自転車を多くの人でシェアする試み“
SmartBike DC” が始まりました。当初は120台と規模は小さいですが、様子を見ながら拡大していく方針と言います。

会員になれば、街角のバイクステーションで、いつでも自転車を借りることが出来、返すのも簡単です。貸し借りは原則として無人で行われますが、ドッキングポイントと呼ばれる駐輪機によって、自転車は、その所在がネットワークで管理されます。場所が偏るなどすれば、必要に応じてスタッフが移動するなどの処理をします。
当然、修理・メンテナンスなどのサービスをするスタッフもおり、使おうと思っても使えないなどの事態を防ぎます。こうした管理面は、都市交通としての信頼性を高め、市民に使ってもらうためにも重要なポイントです。ただ自転車を貸し出せばいいわけではないのです。

日本的な感覚でイメージする「貸自転車」とは似て非なるものと言えるでしょう。あくまで交通システムとして機能させ、ネットワークとして維持される「自転車シェアリング・システム」なのです。日本とは違って、多くの市民が自転車での移動を、十分に実用的な交通手段だと認識していることも背景にあります。
運営するのは民間ですが、ワシントンDC、コロンビア特別区政府の運輸交通部門も共同で参画しています。地方政府の都市交通政策の一環として取り入れられていることにも注目すべきです。住民にどれほど受け入れられるかは別問題としても、州政府の提供する公共サービスとしても位置付けられているのです。

ワシントンDCは、計画都市として特殊な面もありますが、なんと言ってもアメリカの首都です。ヨーロッパだけでなく、世界の都市で自転車が見直されつつあるのは、もはや紛れもない事実です。このニュース、あまり日本では注目されていませんが、特に日本の立法や行政関係者にも注目してほしいものです。
交通政策と言うと、どうしても道路の拡幅や立体交差化、地下鉄や新交通システムの建設、新しい信号機の開発や導入などに目が行きがちですが、そればかりではありません。特に日本では、自転車を「交通」としては見ない傾向も強いですが、先入観や思い込みを捨てて、ワシントンをいいお手本として考えてみてほしいと思います。
今年のGWは渋滞に加え、ガソリン価格が一気に30円も値上げされています。石油元売り会社に勤めていたことのある総理なのに、せめて連休の後に、という業界の願いは聞き入れられませんでした。サーヒースエリアの給油所は割安な所もあったりするようなので、ここでも行列になるのかも知れません。
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フランスの首都パリでも、昨年からレンタル自転車が導入された。
単にレンタサイクルではなく
パリに続きニューヨークでも自転車をシェアする試みが始まった。