人の力だけで走らせる以上、なるべく軽いほうがいいのは間違いありません。そのため、極力無駄な部分を省いたシンプルで機能的な構造をしています。サイクリストなら、その形を美しいと感じる人も多いのではないでしょうか。パーツの一個一個に至るまで、無駄な部分はありません。
と、言いたいところですが、無駄な部分が全く無いわけではありません。駆動や制御、制動系のメカニズム、言わば自転車に不可欠なパーツ以外にも、乗り手の安全性を高めるための装備や、ライダーをサポートしたり、その快適性を向上させる部品などもありますが、そのどれにも属さない部品があります。
そんな数少ないパーツの一つが、「ヘッドバッジ」です。いや、もしかしたら唯一かも知れません。別の意味で重要なパーツと考えている人もいますので、無駄と言ってしまうのは語弊がありますが、少なくとも、走行のために無いと困るパーツではありません。
フレームのヘッドチューブの部分に付けられているプレート状のパーツがヘッドバッジです。ヘッドマークとか、ヘッドプレート、あるいはエンブレムなどと呼ぶ人もいます。多くはメーカーのマーク、あるいはロゴなどをモチーフにした紋章が取り付けられています。
古い自転車の多く、例えば戦後の復興期に使われた実用車などには、立派なヘッドバッジが誇らしげに取り付けられていました。自転車の価格が相対的に高く、今とは違って貴重品だったこともあり、メーカー名の刻印されたネームプレート、看板のような役割もあったのでしょう。
鉄道マニアの人がヘッドマークと言うと、電車の前面などに取り付けられている、「あさかぜ」とか「銀河」といった列車の名前が入っている、いわゆる愛称板のことです。自転車のヘッドバッジも似たような感じで、その自転車の顔のような部分でもあったのでしょう。
今はダウンチューブなどにも、メーカーのネームやロゴを派手にペイントすることが出来ます。そのぶん相対的にヘッドバッジの存在感が薄れた部分があるのかも知れません。最近は形骸化、簡素化する傾向もあるようです。とは言え、もちろん今でも立派にヘッドバッヂは健在です。
サイクリストに人気のブランドの多くには、オリジナルのヘッドバッジが取り付けられています。メーカーごと、モデルごと、あるいは仕様ごとに違うものが取り付けられていたりします。そのブランドが好きで乗っているサイクリストにとっては、無駄なパーツどころか、ブランドの象徴、無くてはならない存在である場合もあります。
通常は金属やプラスチックなどの素材で出来ており、決まってヘッドチューブの前面に取り付けられています。ただ、最近のモデルは、最初からフレームにペイントされていたり、ヘッドチューブ自体が成型されてヘッドバッヂの代わりになっているものなどもあります。単にシールが貼られているだけのものもあるかも知れません。
自転車も今は全体的なデザインが洗練されていく傾向にあります。ヘッドバッジも、あまり大げさな紋章タイプよりも、スタイリッシュなものが増えているようです。そのため昔の凝ったデザインのヘッドバッジが人気なのか、ネットオークションに出品され売買されていることもあります。
当然、コレクションとして収集している人もいます。自分が歴代乗り継いできた愛車のヘッドバッジを保存している人もいるでしょう。また、今はあまり見られなくなったデザインが、昭和の昔を思い起こさせ懐かしいアイテムとして、当時の実用車のヘッドバッジなどをコレクションする人もいます。
一方、サイクリストの中には、とにかく自転車の車体を軽量化することにこだわる人もいます。僅かな重量を削るため、小さなネジ一つでも、より軽量な素材のものに変えるほどのこだわりです。そんな人なら、真っ先に外すパーツかも知れません。ただ、無いと少し寂しい感じがするのは、私だけではないでしょう。
ヘッドバッジは、こだわる人もいれば、自分の自転車にもついているか知らないくらい、あまり意識していない人もいます。その差が極端な部品と言えるかも知れません。そんなヘッドバッジですが、中には人と同じでは飽き足らずに、自分だけのオリジナルのヘッドバッジが欲しいと考える人もいます。
そんな人のために、オリジナルのヘッドバッジを製作してくれるのが、ペンシルベニア州はフィラデルフィアに店を構える“
Revolution Cycle Jewelry”です。素材は純銀です。オリジナルのペンダントヘッドとか、ブローチなどを作るのと同じ感じでしょうか。つまり、自転車を飾るアクセサリーとの感覚なのでしょう。
一部自転車のパーツをかたどった人間用のアクセサリーやイヌ用タグも作っていますが、ジュエリーデザイナーでもある、アクセサリー製作の職人が、依頼主と相談しながら、オリジナルのデザインの、こだわりの純銀製ヘッドバッジを製作してくれるというサービスです。オンラインでも注文できます。
アメリカでは、古くなった自転車のフレームを自分で塗りなおしたりする人もいます。また、いらなくなったパーツを組み合わせるなどして、いわゆるDIYで自作の自転車を作ったりします。当然、ヘッドバッジはオリジナルのものが欲しくなったりもするでしょう。
何か別の製品からプレートをとってきたり、ビールの王冠をつぶしたり、珍しい缶ビールのロゴをくりぬいたりして、自作のヘッドバッヂを取り付ける人もいます。オリジナル・ヘッドバッジのオーダーメイドという行為も、そんなに変わったことではないのでしょう。
日本でもフレームビルダーやショップオリジナルのヘッドバッジの製作はありますが、個人で作るという人はあまり聞きません。ただ、市販のスポーツバイクに乗る人でも、人と同じモデルに乗るのに飽きたらず、カスタマイズする人もいます。そんな方なら、ヘッドバッジに凝ってみても面白いかも知れません。
量販店のママチャリだから、ヘッドバッジもついていないし関係ないわ、という方でも、もし、「近所の量販店の全く同じママチャリが最寄駅の駐輪場にズラリと並ぶ」という状況があるなら、自分の自転車を素早く見つける方法として使えるかも知れません。純銀でなくても、自作してみる手はありそうです。
今どきの若い女性は、「デコ電」などと言って、派手にオリジナルの装飾を施したケータイを持っていたりしますが、毎日使う自転車にも、ヘッドバッジを「オリジナル・アクセ」として、一つ、デコレーションしてみてはどうでしょう。(なかなか、やる人はいないと思いますけど...笑。)
もちろん、スポーツバイクに乗るサイクリストが取り入れてもいいでしょう。ふだん、他の人が乗っている自転車を見ても、あまりヘッドバッジに目が行くことは少ないと思います。おそらく、オリジナルのヘッドバッジを付けていても、あまり気づかないのではないでしょうか。さりげないお洒落とも言えそうです。
ヘッドバッジをオリジナルにするだけで、市販のありふれたモデルが、世界に一台しかない自分だけのオリジナルモデルになります。不思議と愛着も増すに違いありません。人間のアクセサリーも必要と思わない人には無用ですが、自転車にも、走行には直接関係のない、一見無駄なアクセサリーがあってもいいのかも知れません。
中国四川省の大地震、時間が経つにつれて被害の大きさが明らかになってきています。学校なども多く崩落しているようで、何とか少しでも多くの人に助かってほしいと思いますが、日本でもいつ起きるか分からないことを思えば、ほんとに他人事ではありません。
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さり気ないけどすぐにわかる
自転車にも何か目印となるようなアクセサリーをつけてもいい。