原油価格高騰のあおりを受けて、暫定税率の復活した先月に続く大幅値上げに消費者の不満が高まっています。市民の懐を直撃するだけでなく、漁船は燃料の重油の高騰で出漁出来なくなったり、交通や物流をはじめとする企業にも影響が出始めるなど、景気の先行きや物価にも暗い影を投げかけています。
世界的にも原油高は市民生活を脅かし、バイオ燃料の増産を促して穀物価格も押し上げています。途上国では食糧危機が現実となりつつありますし、先進国も含めて景気の後退とインフレが同時に進むスタグフレーションの悪夢も頭をよぎります。穀物と原油価格の高騰は世界経済にとって深刻な事態となっています。
(以下、写真に引用先の記事がリンクされています。)
また値上げ「たまらん」…ガソリン170円台に悲鳴
原油価格高騰でガソリン小売価格が値上げされた1日、各地のガソリンスタンド(GS)やドライバーからは、ガソリン税の暫定税率が復活した先月に続く再度の大幅アップに「もう、いい加減にしてほしい」などと不満が相次いだ。...朝から閑散。「客から『ぼったくりや』といわれ、たまらん。先月の客数は前年比20%ダウンで、さらに買い控えが進むのでは」...「客は普段の半分。廃業する店も出るだろう」...「以前は家族でよく遠出したが、5月以降は近場で遊ぶようになった。今年の夏はエアコンもつけません」...「車通勤をやめ自転車を使うようになった。...(2008年6月2日 読売新聞)
ガソリン高騰 鳥取県内も170円突破
...七月の再値上げもほぼ確実という。県民からは怒りとともに国の抜本的な対策や自治体による公共交通の整備を求める声が相次いだ。...漁協関係者は「今回の値上がりの影響は大きい。...出漁を見合わせる漁船も出てくるのでは。国による直接補助などの対策を早急に実施してほしい」と憤る。...「毎日使うので家計が大変。買い物などは自転車を使うしかない」...(2008/06/03日本海新聞)
中国やインドなどの新興国の需要が旺盛なこともありますが、大量の投機資金が原油市場に流れ込んでいることも価格高騰の要因として指摘されています。欧米各国でもファンドの監視や市場の規制強化などが打ち出され、原油相場が反落する場面もありますが、依然として高値圏にあります。
一方で、石油メジャーはこの原油高で空前の利益をあげ、役員は破格のボーナスを手にし、産油国は更に莫大なオイルマネーで潤っています。税金が無く、教育費も医療費もタダの産油国では、働かなくても生きていけるため、若者の失業率が3割を超える国もあると言います。失業ではなく就業せずに遊んで暮らしているのです。
資源の少ない日本を嘆いたり、産油国を羨んでも仕方ないことですが、先進国から資源国へ大幅な所得移転が起きているのは間違いありません。代替エネルギーの開発や、次世代カーの普及などの対策が求められますが、そう一朝一夕にできるものではありません。市民は当面、ひたすら耐えるしかないのでしょうか。
車離れじわり、スタンドに危機感 ガソリン値上げ
...とどまる気配のないガソリン高は車離れさえ起こしつつある。...「買い物は必ず車だったけど、最近は自転車にする日も多い」...5月の県内ガソリン販売は前年同月比で2−3割減少した。...需要が元の水準に回復する気配がない。...ガソリン利用そのものが落ちるのは避けられない...(2008年6月3日中日新聞)
GS板挟み 値上げ避けられず 客足遠のくばかり
...5月の暫定税率の復活から、わずか1か月での大幅値上げとあって、利用客やGS側は頭を悩ませている。...「値上げしないと会社がもたない。でも客足は遠のいてしまう」と、板挟みに苦しむ。...「値上げの度に、現場が振り回される。通勤に自転車やバイクを使うようになった客も多い」と嘆いていた。...(2008年6月3日 読売新聞)
我々に出来ることと言えば、ガソリンを買わないくらいしかありません。仕事や日々の暮らしの中で、どうしても必要な移動は別にして、不要不急のクルマの利用を避け、極力ガソリンの購入を避けるわけです。実際に、全国でガソリンの需要が減退しています。
多くの人が家計の防衛のため、外出を控えたり、公共交通や自転車を利用するなどして、ガソリン高騰に対抗しているようです。日本だけではありません。こうした動きは各国で顕在化しており、世界的にクルマの利用を減らすなどして、燃料の節約をはかる傾向が強まっています。
これまでの原油価格高騰の折には、結果として世界的な需要の減退を招いて価格は落ち着くのが常でした。今回は今までと違う構造が指摘されており、果たして価格下落するかは予断をゆるしません。しかし、いずれにせよ、世界的に市民の間では、自転車に置き換えるなどクルマの利用を抑制する動きが加速しているのは確かです。
ガソリン急騰で米警官が節約、パトロールは自転車で
...原油の高騰で米国内のガソリン価格が値上がり続ける中、各地の警官が決められた予算を節約するため、パトカーではなく自転車や徒歩でパトロールし始めている。 ...警察向けに自転車を販売するステファン・ダウニングさんによれば、ここ3年間の出荷台数は上昇を続けており、燃料価格の上昇がその一因と見ている。 ...自転車や徒歩によるパトロールには、車を使った容疑者の追跡や、カーチェイスには対応できないという問題がある。それでも、自転車に乗ったり歩いてパトロールすることで警官の健康にも役立つとの声も上がっており、自転車の導入はまだまだ広がりそうだ。 ...(2008.05.27 CNN)
車社会の米国に変化 ガソリン高騰でバス、地下鉄にシフト
...原油価格高騰で車社会の米国に変化が起きている。1ガロン=4ドルのガソリン高にドライバーは自家用車からバス・地下鉄へとシフト。出勤日の削減を検討する自治体も現れた。急激な物価高に国民の生活不安は強く、主要大統領候補者は夏季限定のガソリン免税を訴えている。...米紙ワシントン・タイムズの最新世論調査によると、71%が「夏の終わりには5ドルを突破する」と予想。69%が車の運転を減らすようになった。...同州の会社員カルロス・ボンギアニさん(46)は2台の自家用車を売却、家族全員が自転車を利用し、「月300ドルの節約で、体重も減った」と話す。...ヒューレット・パッカードは、在宅勤務の増加に備えテレビ会議設備を増強する一方、社員に会社の定期往復バスや自転車、自家用車の共用を呼びかけた。...
もはや、アイドリングストップや急加速をやめての僅かな節約では追い付きません。日々の暮らしの中で使うクルマを自転車に置き換えられれば、その分全ての燃料が浮きます。自転車を活用できる余地があるなら、これを利用しない手はありません。パリ、ロンドン、ベルリン、ニューヨーク、当然のように自転車に乗る人が増えています。
日本でも自転車を使うという人は増えていますが、国内に8千万台もある世界有数の自転車大国のわりには、その活用が進んでいません。ママチャリが大多数を占め、自転車が歩道を走るという世界的にみれば非常識とも言える道路政策、そんな日本独特の事情のせいで、人々に自転車がクルマの代替になるとの実感がないのです。
一般的にママチャリは重くてスピードが遅く、長い時間運転しにくいので、会社まで直接自転車通勤するには向いていません。時間もかかります。更に歩道走行を前提とした日本の道路事情で、歩行者を縫いながらではスピードも出せず、疲れてしまいます。マイカー通勤の代わりになるとは思えない人が多いのです。
県内180円台 「限界」
...利用客は「もう限界」と悲鳴を上げ、GSも「お客さんに申し訳ない。店側も厳しいんです」と頭を下げながら苦しい胸のうちを明かした。...「このまま値上がりし続ければ、客足が遠のき、廃業する小売店も出てくるだろう」と厳しい現状を訴える。...隣町へのドライブがてらの買い物はやめ、近場の店へ自転車で行きます...「ここ数か月のガソリン価格の上昇は急すぎ。交通手段が少ないので生活するには車を使うしかない。国は緊急に税率を下げるとか何かしらの対策をしてほしい」と憤っていた。...(2008年6月3日 読売新聞)
こうした誤解を解く必要もありますが、日本政府は原油高騰に対する政策として、もっと自転車の活用を進めてもいいのではないでしょうか。例えば、「
朝夕の通勤の時間帯に、都市とその周辺地区の幹線道路の外側1車線をまるごと自転車専用レーンにする。」なんていうのはどうでしょう。
これならラクに速く移動出来ます。今まで車道の端を通るのは怖いと敬遠していた人でも安全に乗れ、歩道を通っていたのでは時間がかかって仕方がないと諦めていた人でも会社まで自転車通勤する気になるかも知れません。クルマの渋滞は増すでしょうが、自転車の方が速くて安いと、クルマをやめて自転車にする人も増えるでしょう。
現在もバスレーンとして、朝の時間帯にバス専用レーンを設ける道路があります。バスの定時運行を確保するためです。同じ発想で自転車レーンにするのも、そう突飛なことではないでしょう。なんならバスと兼用でもかまいません。この原油高で自転車に乗り換える人が増えているなら、その支援として理解も得られそうです。
これは同時に、地球温暖化対策にもなります。自転車に乗る人が増えれば、アイドリングストップやノーカーデーより、よっぽど強力な対策になるのは自明です。新たな施設設置の必要もなく、費用対効果も小さくありません。京都議定書の約束期間に入った今、CO2の削減にも貢献します。充分に現実的な選択肢ではないでしょうか。
さらに、いわゆるメタボ検診が始まり、スポーツバイクを購入する人が増えていると言います。原油高対策、CO2削減にメタボリック対策と、一石三鳥になる施策というのは、なかなかありません。パリでもニューヨークでも自転車活用へのインフラ整備を進めている折り、なぜ日本でもこうした議論が起きないのか不思議なくらいです。
原油高騰にしても、二酸化炭素削減にしても、メタボ対策にしても、対策を進めなければならない厄介な課題です。ただ、別の見方をすれば、自転車にとって、あるいは自転車の走行環境の整備にとっては追い風とも言えます。このチャンスにもっと自転車を活用できる環境を整えたいものです。
今、自転車ブームと言われています。確かにその通りでしょう。しかし、これらの要因が重なる時代背景を考えると、単なる流行と言うより、自転車がブームになるのも必然のような気がします。逆に日本では独特の部分があって、必ずしも世界の流れと軌を一にしていないので、単なるブームに終わらせてはいけないのではないでしょうか。
日本では、あまり評価されていませんが、来たるべき低炭素社会の実現において、自転車はある一定の位置を占めることに疑いの余地はありません。例え電気自動車や燃料電池車が実現したとしても、その動力たる電気や水素の供給は、当面化石燃料に頼らざるを得ないのも確かです。
当然、全ての移動や輸送を自転車にするわけにはいきませんが、自転車でもいい部分は自転車にすべきでしょう。すなわち、将来においても自転車の活用の必要性が減ることはありません。ならば、原油高騰のこのときを捉えて、その活用環境の整備を進めるのは大いに意味があります。
ガソリン高で生活防衛に知恵
ガソリン価格や光熱費の値上がりを受け、消費者が省エネ商品などを購入し、生活防衛に走っている。...自転車店では、マイカー通勤からの乗り換えで自転車の販売が伸び、市中心部の駐輪場ではキャンセル待ちが急増。...スポーツタイプの自転車が今年は5月までに前年の50%増の勢いで売れている。...市内25カ所の市営駐輪場の自転車の登録利用のキャンセル待ちは、4月末時点で1188人。前年同期より35%増え、初めて1000人を超えた。...オフィス街に近い駐輪場でキャンセル待ちが急増している。...('08/6/2中国新聞)
多くの人が一時的にでも自転車にシフトし、原油需要が減れば、少なくとも投機的な部分くらいは価格が下落する可能性が出てくるでしょう。必ず下がるかどうかはわかりませんが、もし下がれば、原油価格高騰が引きおこす深刻な事態の解消につながり、世界経済にとっては朗報です。
すると、クルマに回帰する人も出てくるでしょうが、いったん自転車の快適さ、楽しさ、そのポテンシャルを感じ取ったならば、そのまま自転車に乗る人も少なくないに違いありません。仮に、すぐに原油価格の下落につながらなくても脱石油に向けた取り組みとして意味がありますし、その価値は充分あるのではないでしょうか。
本文とは関係ありませんが、事故の瞬間のショッキングな写真がサンスポに載っていました。メキシコの高速道路上で開かれた自転車レースで、自転車の列に酒と麻薬による酩酊状態のクルマが突っ込んだそうです。市の職員が事故の瞬間を撮影したと言います。クルマより交通弱者な自転車の立場を改めて思い知らされます。
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クルマに突っ込まれては防ぎようがありませんが、ふだんの道路でも、右折車とか、平気で突っ込んでくるクルマはあります。気をつけたいものです。
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手軽にハイブリッド自転車を
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ブログ:サイクルロード〜自転車という道 June 03, 2008
「原油価格高騰に策はないのか」
http://blog.cycleroad.com/archives/51290087.html
の中で、以下の提言をしています。
”もはや、アイドリングストップや急加速をやめての僅かな節約では追い付きません。日々の暮...