July 15, 2008

今こそ新たな一歩を踏み出せ

全国で一斉休漁という、過去に例のない事態となっています。


漁船の燃料費高騰を受けた現在の窮状を訴える、言わば漁業者のストライキです。一斉休漁自体による小売りへの影響は限定的だと言いますが、今後この状態が続けば廃業に追い込まれる漁業者が増え、品薄状態が広がるようであれば、家計への影響も避けられないでしょう。

こうなるもっと前の段階で、魚介類の価格が上昇していてもおかしくないような気がします。しかし、そうなると消費者の買い控えや魚離れがいっそう進むことにもなり、流通業者としても仲買価格を上げられないなどの事情があるのでしょう。日本の漁業の存続を揺るがす事態だと言います。

原油価格高騰は、ここのところ、さまざまな面で私たちの生活に影響を与え始めています。クルマでの外出を控える人が増え、電動アシスト自転車などの販売も好調と言います。自転車ブームで、専門店でのスポーツバイクの売れ行きがいいと言いますが、スーパーなどでも自転車が売れているようです。



ガソリン価格の高騰で販売好調自転車、コメなど京滋で販売好調 ガソリン・食料品値上げ影響?

ガソリンや食料品の値上げが相次ぐ中、京都、滋賀のスーパーで自転車やコメ、調理道具の販売が伸びている。消費者がマイカーでの外出や外食を控えているためとみられる。相次ぐ値上げを受けての節約志向が「特需」を生んでいる。

京滋で83店を展開する平和堂では、自転車の売れ行きが好調だ。6月の電動自転車の売上高は前年同月比70%増、子ども用自転車も同50%増で、自転車全体で同45%の伸びになった。自転車用ヘルメットの販売も同3・8倍という。同社は「3月から4月に売れる自転車が、6月にこんなに売れるのは珍しい。ガソリンの値上がりで、近場は車を使わず自転車で出掛ける人が増えているためでは」(広報担当)と分析する。 (後略) (京都新聞 2008年7月15日)


しかし、自転車の利用が拡大する一方で、犯罪の増加にもつながっているようです。


自転車の盗難急増自転車の盗難急増 ガソリン高騰、車控え 道警「複数施錠を」

道内で今年、自転車盗難が急増し、特にガソリン価格の高騰で自転車利用が増え始めた四月以降に目立っている。街中に自転車が多くなり、車の利用を控えている人が、ちょっとした足代わりの軽い気持ちで自転車を盗むケースも増えているとみられ、道警は複数の錠を使うなどの対策を呼びかけている。

道警によると、六月末現在の盗難届の件数は前年同期比12%増の四千九百二十一件。盗難の多くは地下鉄駅や大型スーパーの駐輪場で発生し、大量に転売されている形跡もないため、大半は一時的な足代わりとして盗み、乗り捨てているとみられる。自分の自転車が盗まれたため、近くにあった自転車を盗むケースも多いという。

盗難届の件数は、四月が前年同期比31%増。五月は一時的に前年を下回ったが、ガソリン価格が百七十円台に突入した六月から再び急増している。この傾向は、ガソリン代を節約しようとする自転車利用者の増加に比例している。自転車小売店でつくる北海道自転車軽自動車商業協同組合(札幌)によると、道内の自転車の年間販売台数は三十万台程度だが、今年は5%程度増える見込みで、「盗まれて買い直す需要が大きい」という。

一方、盗難対策として、鉄製やアルミ製のU字錠、自転車を柱などにつなげるワイヤ錠を買い求める人も増えている。白石区の女性会社員(25)は六月、マンションの駐輪場で、購入したばかりの自転車を盗まれた。備え付けの錠だけで施錠していたといい、「今は備え付け以外に二種類のワイヤ錠を使っている」という。札幌市豊平区のホームセンター「ビバホーム豊平店」は「一度に二種類の錠を買って、備え付けと合わせて三重にしている人も多い」と話している。(07/13 北海道新聞)


クルマの利用を控えて自転車の利用を増やし、温暖化ガスの排出を減らすという点については、言ってみれば原油価格高騰も貢献しているわけですが、こうした犯罪まで増やすのは問題です。軽い気持ちで拝借して乗り捨てる人が増えれば、その後放置される自転車も増え、ゴミ問題や撤去費用の増加にもつながるでしょう。

施錠の徹底など、盗難防止が必要なのは当然として、自転車の活用について、もっと積極的に考えてはどうでしょう。原油価格高騰を歓迎するつもりはありませんが、その影響が各方面で深刻になる中、せめて温暖化ガスの排出削減策を進める追い風とすべきではないでしょうか。

例えば、上の記事のように、クルマの利用を控えて電車を利用する人は増えるでしょう。でも、そのことによって、駅から目的地まで歩くのが面倒だと自転車盗が増えるのだとしたら、パリで好評の「ヴェリブ(Velib)」のようなレンタサイクルを導入するのも一つの手かも知れません。

Velibパリ全域で1400か所、2万台以上の自転車が配置されるという大規模なレンタル自転車システムです。無人のステーションにカードをかざすだけで、いつでも自由に借りられ、どこでも返せます。クルマを使うより快適に移動できると大好評になっています。

よく、放置自転車の処分費用も浮かせられて一石二鳥だと、無料の貸自転車を配置する自治体があります。しかし、それがうまくいった試しはありません。無料だと、結局都合のいいように乗り捨てられ、散逸して継続しないか、多額の費用をかけて回収し、維持することになります。

廃物利用で、壊れていたり、錆び付いているのでは快適に利用出来ず、ぞんざいに扱われて壊れる悪循環です。しかし、最初からきちんと都市交通として導入する、ヴェリブのようなレンタサイクルは、それらとは全くの別物です。電車やバスなどの公共交通と組み合わせた新しい都市交通システムと言えます。

短い距離ならば、電車を使わず、直接目的地まで自転車で行ってしまったほうが速いこともあります。しかし、やはり遠い場合は、電車などを利用する人が大半だと思います。降りた駅からのアシとして、どこでもレンタサイクルが使えれば、便利に利用できる場面は少なくないでしょう。

パリのレンタサイクルただ従来のように、借りる手続きが面倒で、自由に乗り捨てられないのでは利用も進みません。単に自転車を貸す拠点を設けるという考え方ではなく、パリのように市内全域を網羅する新しい都市交通として捉え、ネットワークとして、あるいは全体のシステムとして導入する必要があります。(関連記事参照)

今、自治体にそんな予算はないと言う人もあるでしょう。しかし、パリでは一切税金を投入していません。このレンタサイクルは、広告代理店と契約して広告媒体としても活用することにより、その収益で運営しているのです。もちろん利用者から利用料もとりますが、自治体や市民の負担が軽減されているのです。

今以上に街に自転車が溢れ、放置自転車が増えると心配する人もあると思います。確かに一時的には増えるかも知れません。でも、レンタルシステムの利用者が増えれば、その地域での個人所有の自転車は必要なくなるわけで、必ずしも重複して台数が増えるとは言えないでしょう。

もし定着するならば、今まで駅に集中していた自転車の駐輪が、直接目的地へ向かうなどして分散する可能性もあります。どこでも自在に借りたり返したり出来るのであれば、自転車一台当たりの稼働率は上がります。まさに何人かでシェアする形になるので、そのぶん自転車台数が減ることも十分期待できるでしょう。

ガソリン高で自転車一人勝ち今までだったら分かりませんが、原油高が猛威をふるっている今なら市民の支持も得られ、一挙に定着するかも知れません。そう短期間に原油価格が下がることも期待できませんし、温暖化ガス削減に対する市民の意識の高まりもあります。利用意向などの調査は必要でしょうが、さほど大きなハードルは見当たらないのではないでしょうか。

以前は、こうしたレンタサイクルシステムは、クルマより便利でないと利用されないと思われていました。自転車通行空間などの整備で、クルマを利用するより速く、快適に移動できるなどの前提条件が揃わなければ、クルマから移行しないと考えられていました。しかし、この原油高で前提条件が変わり、自転車が求められている状況です。

温暖化対策であると共に、原油高騰で交通費の上昇に苦しむ市民への支援策でもあります。渋滞や排気ガス、騒音なども軽減するでしょう。パリやワシントンなど、いくつかお手本もあることですし、こんな優れた政策はないと思うのですが、いかがでしょう。国も自治体へ補助を出すなどして後押しすることが望まれます。

首長の決断一つだと思うのですが、前例がないことに挑戦しようとする自治体は、なかなか現れないので、国が推奨すれば一気に導入が進むことも考えられます。原油高を逆手にとって利用出来る、数少ない例だと思います。原油高が進む今こそ、まさに千載一遇の好機ではないでしょうか。



漁業の方は深刻ですが、漁獲割り当てを早い者勝ちでなく船ごとにするとか、複雑な流通形態を見直すとか、まだ出来ることはあるようです。1匹あたりにすれば大きな金額ではないでしょうし、もっと私たちが魚を食べることも重要なことでしょうね。

関連記事

新たなパリの名物が生まれる
パリで導入されたレンタサイクルは、都市交通システムと言える。

眠れる資産をいかに活かすか
ワシントンのレンタサイクルも、広告メディアとして利用するもの。

渋滞と環境対策としての帰結
レンタサイクルは、都市の渋滞対策として道路交通に代わるもの。

単にレンタサイクルではなく
クルマの利用が控えられ、今までとは前提条件が大きく変わった。


このエントリーをはてなブックマークに追加

 デル株式会社


Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。



 楽天トラベル






この記事へのトラックバックURL

この記事へのコメント
初めまして。最近自転車に興味を持つようになり、時々おじゃまして勉強させていただいています。
興味を持ったきっかけは、ママチャリの右乗りなものでスタンドや駐輪場の片側通行が不便で「サイクリストの方々はどうされているのだろう?」と調べ始めたことです。
調べるほど、サイクリストとママチャリの意識の違いを感じます。
自転車が注目されるのは環境や健康問題の解決からとてもいいことだと思うので、両者の意識の違いを埋めていくのが一つの課題な気がします。
レンタサイクルについては、普及する際に右乗り仕様も考慮してほしいです。ママチャリ特有の問題かもしれませんが。

Posted by ガボちゃん at July 16, 2008 14:10
こんばんは。先日はレスありがとうございました。一層身を引き締めて安全運転をしています(ダッシュは控えました)。さて、丁度私も同じような問題を考えていたところで、いつもサイクルロードさんとは波長が近いのか(笑)、うなすぎながら記事を読ませて頂きました。ということで私の周囲でも、車を控えて自転車へという人が増えてきています。盗難自転車についてもママチャリでも盗られるんですから、ロードなどスポーツ系の危機管理はかなり気をつけないといけませんよね。先日、初めて盗難掲示板なるものを知ったのですが、我が大阪市内を含め大都市での盗難が多い事に驚きとショックを受けております。最近、4年ぶりにロードを新調し1台目も改造をしているところですので、社内の駐輪場(屋内)から会社の屋上で鍵を4つと警報機をつけて保管する有様です。ちょっと過剰でしょうか。
Posted by nori at July 16, 2008 21:44
(補足)一気に書いてしまった為、変な文章になりましてどうもすみません。最後の部分は「社内駐輪場を中止し、屋上で保管形式に変更」という意味でした。
Posted by nori at July 16, 2008 21:47
ガボちゃんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
右乗りですか。今まであまり気にしたことはありませんでしたが、スポーツバイクの場合は、車体が非常に軽いので、逆の側に支えても、さほど苦にならないのかも知れません。
実際、私は欧米など右側通行の国でも乗ったことがあります。慣れない右側通行ということで、違和感はありますが、慣れれば普通に出来ます。
また、スポーツバイクの場合、止まる時にはサドルの前に降ります。どちらの足であれ、片足乗りのようなことはしないのが普通なのです。「スタンド」は通常ついていません。周りに何もなければ、倒しておくしかないのです。結局慣れの問題のような気がします。
乗っている自転車が何かというより、どれだけ自転車について関心を持っているかの違いなのかも知れませんね。
Posted by cycleroad at July 17, 2008 00:10
noriさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
波長が合いましたか(笑)。確かに自転車に乗る人が増えていますね。
盗難についてはおっしゃる通りだと思いますが、ママチャリをアシ代わりに拝借するのと、スポーツバイクを盗むのとでは、動機や覚悟、その後の扱いについても大いに違うような気がします。
つまり、偶然目についたのでなく、確信犯でしょう。バラしてパーツをネットなどで売りさばくなどの犯行もあるようですから、価格の高い車体を物色していると思われます。その意味で、人目に付く駐輪場から場所を変えたのは大いに意味がありそうな気がします。
鍵や警報機が過剰かどうかは、その場の状況がわかりませんのでなんとも言えませんが、面倒でなければ用心するに越したことはないでしょうね。
Posted by cycleroad at July 17, 2008 00:24
 
※全角800字を越える場合は2回以上に分けて下さい。(書込ボタンを押す前に念のためコピーを)