今年は夏の土用の丑の日が2度ある年ですが、産地偽装問題が発覚したウナギに対する消費者の不信感が高まっています。昨年も中国産ウナギの安全性が問題になって売上が激減しましたが、今年もうなぎを敬遠する人は増えているのかも知れません。
仕入れ値の安い外国産うなぎを高値で売るため、産地を偽り消費者を騙すとは許せない行為です。産地証明書まで偽造し、架空の会社を騙るなどの隠蔽工作も行われており悪質です。当初、中国産の在庫がさばけず資金繰りが苦しくてつい、などと弁明していたのも嘘で、最初から暴利を狙った詐欺的な商売だったようです。
うなぎに限らず、最近は牛肉や豚肉、鳥、アジ、フグ、米など食品偽装が後を絶ちません。産地偽装だけでなく、消費期限を改ざんしたり、無許可の食品添加物を使ったり、売れ残った古い食材を再利用するなど、消費者を欺く行為は枚挙にいとまがありません。
雪印や日本ハム、ミスタードーナツ、不二家、日本マクドナルドなど、大企業も例外ではありません。赤福や白い恋人、比内地鶏や飛騨牛など老舗や有名なお土産、地域の名産など誰でも知っているようなブランドも、偽装により一夜にしてその評判が地に落ちています。
個人的には、こうした偽装を行って、どうせ気付かないだろうと消費者を陰で嘲笑うような行為をしていた会社の製品は買わないようにしています。しかし、これだけ多いと、どこの会社が偽装していたのか、覚えているのも大変です。ほとぼりが覚めると、何事もなかったかのように販売されたり、営業しています。
不祥事があったから、かえって安全性が高まるだろうと考える人もいます。反省しているようだからと許す人もいるでしょう。考え方はそれぞれですので、そうした人を非難するつもりはありません。でも、消費者が寛容なのを甘く見て、不祥事を繰り返したり、中には開き直る会社まであります。
船場吉兆は廃業しましたが、料理の使い回しが明らかにならず、産地偽装だけだったら存続していたでしょう。不祥事があっても、既に以前と変わらない人気を取り戻している会社もあります。必ずしも反省し、再出発するのを否定するものではありませんが、「偽装しても売上が一時的に落ち込むだけ」になっているのも事実です。
発覚さえしなければ儲かると、今後も偽装に手を染める会社は無くならないでしょう。むしろ、正直にやるほうがバカを見ると、増えていくかも知れません。運悪く発覚したら反省のポーズをとり、多少の我慢が必要なだけで、偽装しない手はないと考えても不思議ではありません。手口が巧妙化していく可能性もあります。
消費者が安心な国産を求める傾向が強まれば、食料自給率の改善につながるはずですが、産地偽装によって、それも妨げられます。これは食の安全保障という意味で、国家の根幹にかかわる問題です。もし、このまま自給率が低いまま食料が入って来なくなれば、まさに国民が飢える事態に直面しかねません。
実際に世界では食糧不足が深刻になっており、穀物などの価格も高騰しています。不測の事態ということも充分起こり得ます。国としても食糧自給率の向上に取り組むべき時に、こうした産地偽装は大きな障害として、将来にわたる食料の安定確保を脅かす犯罪と言っても過言ではないでしょう。
これだけ多いと、今まで発覚したものは氷山の一角ではないかと疑いたくもなります。食品全般に対する信頼が低下する事態です。一部では、こうした消費者の不信をうけてトレーサビリティの強化を打ち出す動きも出ています。パッケージに生産者の写真を貼ったりして、産地や生産者を表示するものも出てきました。
ICタグなどを取り付け、携帯などを使って流通履歴を確認できるようにするなど、その安全性をアピールしているものもあります。生産者や流通履歴を見えるようにしたので、その安全性は万全だと強調するような商品も出てきていますが、根本的な部分で間違っています。
いくら生産者の顔写真が貼ってあっても、それが嘘でない証拠はありません。なんとなく生産者の顔が見えると安心な気がするのは確かですが、何の根拠もありません。途中ですり替わっているかも知れませんし、その生産者が存在していない可能性すらあります。
本来であれば、その生産・流通履歴が間違いないことを保証する第三者機関の認証が必要です。しかし、その機関が偽装がないか追跡・検査するだけでも膨大なコストがかかります。検査をすり抜けて偽装しようとする業者もあるでしょう。そのコストを商品代に上乗せするのは困難ですし、そもそもその機関の信頼性の確立が問題です。
ICタグなど新しい技術を使っているから大丈夫とアピールする業者もありますが、万全を強調すればするほど、その見識の低さを笑わずにはいられません。いくらICタグであろうと、そのデータを改ざんすることはいくらでも出来ます。極端に言えば、子供だましに過ぎません。
例えば、牛の耳に、生まれた時から一頭一頭全てに電子タグをつけて管理していたとしても、そのタグに対応する情報を格納してあるデータベースのデータが正しいとは限りません。食肉へ加工する過程や流通の過程で、情報が書き換えられたり、商品がすり替えられる可能性もあるわけで、現にそうした事例も起きています。
つまり、トレーサビリティーもそれを構築する会社や担当者、生産や流通などの過程で信頼性を担保する人たちのモラルや人間性に依存しているわけです。その中に一人でも不正直な人間や欲に目がくらむ人間がいれば、成り立たないわけです。その信頼性が証明できない以上、いくら追跡可能性があると言っても無意味です。
確かにトレーサビリティーが強化されることで、偽装がしにくくなる部分もあるでしょう。しかし、産地証明書を偽造するような連中にとっては関係ありません。偽造が難しくなるかと言えば、デジタル化して手間が省けるだけかも知れません。逆にうまく偽装すれば発覚しにくくなるくらいのものでしょう。
疑いだしたらキリがないわけで、そこまで言ったら何も買えないことになると言われるかも知れません。確かにそうですが、トレーサビリティーだとか、ICタグだとか、生産者表示に騙されてはいけません。最悪の場合、全く無駄なトレーサビリティーのコストを上乗せされるだけになります。
「嘘つきは泥棒の始まり」という言葉があります。最近はあまり使われないのかも知れませんが、食品偽装という嘘つき達は、消費者から不当に金を奪い、健康を奪い、食の安全を奪う泥棒です。それにとどまらず、社会の成り立ちに欠かせない大切な信頼を奪い、社会のモラルを奪う泥棒でもあります。
大人たちがウソばかりついているのを見せられて、子供たちにウソをつくなというほうが無理です。こうした傾向が続くことで、社会全体のモラルも低下します。嘘をつけば簡単に儲かるのに、正直に商売するなんてバカバカしいと感じる人が増えてきてもおかしくありません。
食品偽装が横行すれば、その摘発や再発防止にもコストがかかります。流通の仕組みやルールなどが見直され、そのぶんコストが増え、最終的には消費者が負担することになるでしょう。食品偽装の嘘つき達は、我々から何重にも奪う泥棒と言えるでしょう。
食品偽装だけではありません。再生紙を偽装していた大手製紙メーカーは記憶に新しいところです。不当に省エネ効果をうたった商品もあります。消費者の苦情をうけ、(財)日本消費者協会が行った商品テストで、検査した冷蔵庫すべての消費電力量がカタログ表示の約2〜4倍になったという事例も報告されています。
カタログ値に付加機能の消費電力が加算されていなかったり、家庭での使用実態に合わない測定方法などが原因だったそうですが、大手家電メーカーですら、偽装まがいの売り方をしていると言われても仕方ありません。いろいろ「言い訳」はあるでしょうが、消費者にとって紛らわしい表示で売っていたのは間違いないでしょう。
地球にいいと思って買っていた消費者こそ、いい面の皮です。今後は、CO2削減量やフードマイレージなどを記載した商品も増えてくるでしょうが、そうした表示も素直に信用はできません。他にも不当に効果をうたった健康食品とか、器具とか、偽装、あるいは偽装に近いような例はいくらでもあるでしょう。
自分さえ良ければいいと手段を問わない企業が増えれば、個人のモラルも悪化します。世の中に不正直な例が多いのに、自分だけバカ正直にしていては損をするというわけです。ゴミの日じゃなくてもゴミを出し、タクシー代わりに救急車を使い、診療費を踏み倒し、給食代を支払わない人が増えてくることとも全く無縁ではないでしょう。
そう考えると、食品偽装をはじめとする企業の違法行為を許すべきではないのは当然として、根絶にまで持っていく必要があります。偽装が発覚した企業の商品は、当面排除されるでしょうし、その後もある程度消費者に選別され、報いを受けるかも知れません。しかし、それでは不十分です。偽装が後を絶たないのを見ても明らかです。
かと言って、規制を強化するのはコストがかかります。ならば、やはり罰則を強化すべきです。現在のJAS法とか不正競争禁止法などでは歯止めになりません。福田政権は消費者庁をつくろうとしていますが、偽装をした企業に対する罰則の強化こそが是非とも必要なのではないでしょうか。
不心得者が偽装を出来ないようにするのは容易ではありません。事実上不可能でしょう。しかし、もし偽装をして発覚すれば、相当に重い罰則を喰うというのであれば、そのリスクを考えざるを得ません。そこまでのリスクは取れないと考えるくらい罰則を重くする必要があるのではないでしょうか。
罰則を重くするだけでなく、その商売は二度と出来なくするくらいのことがあってもいいでしょう。偽装を行った連中は、消費者を騙した罪で、詐欺として刑事罰も科されるべきです。騙された消費者をはじめ、ブランドを傷つけられた産地の人や同業者などへ損害を賠償するための追徴金があってもいいくらいです。
こうした偽装に対して厳罰を求める声も起き始めていますが、個人的にはJAS法の強化くらいでは足りないと思います。我々の食の安全が損なわれ、食に対する信頼が奪われることに危機感を感じる人も少なくありません。しかし、失われるのは食への信頼だけにとどまりません。
単なる産地偽装と侮っていると、やがて市場の信頼を蝕み、モラルを低下させ、コスト上昇や社会不安など、さまざまな形ではね返ってくるのは間違いありません。厳罰化などにより一刻も早くこうした現象に歯止めをかけ、信頼とモラルの崩壊を食い止めなければなりません。偽装企業を甘やかし、犯罪者になめられたままではダメです。
我々消費者も、「またか」くらいに考え、この問題に無関心でいるべきではありません。一人ひとりが偽装を許さないという断固とした態度をとるべきです。それが偽装を防ぐ第一歩であり、世論を形成して厳罰化が実現することにもつながるでしょう。嘘をつく人が結局は損をする社会をつくっていくことにもなると思います。
別にウナギが悪いわけでもなし、敬遠しているわけではないのですが、食べそびれてます。まあ、考えてみれば、みんなが一斉に食べる必要もないわけで、時期にこだわらなくてもいいですね。
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