トレンドは街をどう変えるか
ロードレースを題材にした映画が9月に公開されます。
ご存じの方も多いと思いますが、先日完成披露された映画、「シャカリキ!」です。350万部のベストセラーコミックを実写映画化したものですが、原作は92年から4年間連載されたと言いますから十年以上前です。ここへ来ての映画化は、やはり近頃の自転車ブームを反映しているのでしょう。
自転車と言うと、多くの人にとっては身近で生活に密着した存在、言わば日用品のようなものだと思います。もちろん放置自転車や、歩道を暴走する自転車といったネガティブなイメージを持つ人もあるでしょうし、ドライバーにとっては、時々歩道から飛び出す危なっかしくて邪魔な存在かも知れません。
人によって、いろいろな感じ方があるのは当然ですが、ここのところ、今まで比較的少なかったスポーツとしてとらえる人が増えてきています。徐々に、いろいろなタイプのスポーツバイクがあることも一般に知られるようになり、ダイエットや健康によく、環境にやさしい乗り物として好感する人も増えています。
最近は、BMXなどの自転車に乗る人を見ることもあります。まだ馴染みの薄い人も多いと思いますが、北京オリンピックでも初めて正式種目に採用されましたし、これを機にバイシクルモトクロス競技も知られるようになるでしょう。街で売られているのも見かけるようになってきました。
今までであれば、あまりにもありふれた存在として、特に意識して描かれることがなかった自転車が、映画やドラマ、ゲームの中などにも登場し、注目され、意識され、興味を持たれる存在になっています。身近なママチャリとは別に、今まで特殊に見られていたスポーツバイクも広く認知され始めていると言えそうです。
趣味の自転車、生活必需品とは違うスポーツバイクに格好良さを感じ、自転車に乗ることをライフスタイルの一部としている人もいます。自転車を「クール」と感じ、ある種の文化としてとらえる人も増えてきました。特に若い世代を中心に、徐々に自転車のイメージが変わりつつあるように思います。
一方、クルマに対する考え方も確実に変わってきています。若者のクルマ離れが言われて久しいですが、ついに日本では、先進諸国の中で初めてクルマの所有台数が減少に転じました。首都圏の20歳代の若者が、お金をかけたいと考えているものの中で、「クルマ」はなんと16位です。
ヒット曲の歌詞から、クルマやドライブなどを連想させる言葉が減っていることも指摘されています。おそらくドラマなどに出てくるドライブシーンも、トータルでは減っているのではないでしょうか。もちろん実用面でクルマが必要な人は多いと思いますが、クルマに求めるものが変化してきているのは間違いなさそうです。
クルマに憧れたり、クルマが趣味という人は、以前より確実に減っているのでしょう。趣味性の高いクルマの販売は減り、軽自動車など燃費のいいクルマ、実用的なクルマが売れています。ある試算によれば、生涯クルマを維持すると平均4千万円の費用がかかると言います。あえて所有する必要はないと考える人も増えています。
その傾向は、あちこちに現れ始めています。最近の原油高も追い打ちをかけていると思いますが、少子高齢化で、クルマを運転する人口は減り続け、特に都市部ではクルマの所有をやめ、公共交通などでの移動に移行する人が少なくありません。実際、今年3月末時点で4か月連続、全国の自動車保有台数は減っています。
以前なら、分譲マンションの全住戸に駐車場がついているのは大きな売り物だったはずです。立体駐車機などを駆使して、駐車可能台数を増やす工夫がなされてきました。ところが、最近東京都心などで販売されるマンションは、駐車台数が戸数の半分以下だったりするそうです。クルマを持つ入居者が少ないから減らしていると言います。
公共交通網の充実していない地方では違うかと思えば、必ずしもそうではありません。特に高齢化の進む地域では、運転を敬遠する人も増えているのだそうです。最近、そうした運転を敬遠する高齢者をターゲットに、移動販売や宅配などの事業が展開され始めています。
自治体も行政経費削減のために、徒歩と公共交通で移動できるコンパクトシティを目指す動きが盛んです。まだまだ食品や生活必需品を買いにいくにもクルマが必要な地域は多く、地域によって程度の差はあると思いますが、クルマ離れは全国的に進んでいると言われています。
流通や外食産業などは、店舗の大型化、郊外化を進めて来ました。いわゆるロードサイド型の店舗の比重を増やしてきたわけです。しかし、その風向きも急激に変わってきていると言います。既に、ロードサイド型店舗を展開してきた企業は、そのことを敏感に察知し、都心へ回帰する出店に意欲を見せています。
先頭に立って道路建設の旗を振ってきた大手ゼネコンも、脱クルマ時代を想定し、公共交通を軸としたコンパクトな街づくりを提言し始めています。今までモータリゼーションと共に拡大してきた、すそ野の広いクルマ産業、クルマ経済に大きく依存してきた日本経済も転換期を迎えているのは間違いないでしょう。
もちろん、クルマの人気が衰え、そのぶん自転車の人気が上がるというような単純な構造だとは言いません。クルマは依然として必要でしょうし、誰もが自転車に乗るようになるということでもありません。しかし、今までとは少し形相が変わり始めています。
アメリカ型のモータリゼーションがずっと世界を席巻してきました。新興国では、まさにこれからクルマの販売が爆発的に伸びていこうとしています。しかし、日本ではクルマ経済が成熟を迎え、それに伴って人々の意識やイメージが確実に変化しつつあります。
今はまだ日本でも道路交通はクルマ中心です。ロードシェアリングとか、自転車の走行空間といった概念がようやく理解されつつあるものの、実際のところは自転車が安全快適に走行できる状況とは言えません。しかし、時代のトレンドが変われば、街も変わっていかざるを得ません。
まだクルマが減り始めたばかりですので、あまり実感は沸きません。でもそのうち、少なくとも都市部では人々がクルマに乗らなくなり、クルマ向けに必要な道路面積も減っていくことになるでしょう。そのぶん、自転車がもっと乗りやすくなり、もっと乗る人が増える日が来るのも、そう遠くないことなのかも知れません。
関東などでは大気が不安定な状態が続いています。自転車で出かける時は当然天気を気にするわけですが、最近は突風、と言うより竜巻にも注意が必要になってきているのかも知れませんね。
関連記事
新しい道路秩序を生みだす力
日本自動車工業会なども最近は自転車との共存を打ち出している。
本当に有効な行動がとれるか
クルマメーカーがクルマ離れを危惧するのもわからないではないが。
多くの人から期待される企業
クルマ離れと言っても、そのブランド力や技術力は大きなものがある。
Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。
Posted by cycleroad at 23:30│
Comments(6)│
TrackBack(0)
この記事へのトラックバックURL
今日の新聞にもクルマ離れのことが書かれていましたね。
新聞には、電気自動車はいつ発売になるの?
と聞いてくる人が増えた、という記事も出ていました。
ここ数年で大きく時代が動いてきたようです。
昨年のモーターショーでは、
GT-Rのような趣味のスポーツカーにも人だかりが
ありましたが、
多くの人はエコカーのブースの周りに集まっていました。
おっしゃるように、
直接関連することではないでしょうが、
自転車がもっと走りやすい道になるのは
そう遠くない未来のような気がします。
僕が毎日走ってる都心では
若い女性がロードバイクに乗る姿が
爆発的に増えています。
この現象は、加速していくでしょう。
自転車のりとしては歓迎すべきことが増えてますね
来年あたりツールドフランスなど国際的なレースにも
日本人が参加していくようになるはずです。
たぶんそうなります。いや、勘ですが。
。
車離れの方向は間違いないでしょうね。
しかし一方で天気に左右されないという利点があることも否めません。
特にこの季節、炎天下の場合は自転車で移動することをためらう方も多いものと思います。
薄着には限界がありますし、紫外線のダメージも受けますし・・やはり車のエアコンは魅力です・・・
というか涼しく自転車に乗れるアイテムがあればいいのですが。
世の中には「空調服」というものがありますが、これって自転車でも有効なのでしょうかね?
冬は防寒着、雨はカッパ、夏は空調服 これなら車はいらないかも(笑)
(思うままに書き込んでしまいました。脈絡がなくすいません)
nob06さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、何か変わりつつある気がしますね。今まで通り、クルマ社会が続くのであれば、ロードシェアリングとか、クルマ優先の道路を考え直そうとか言っても、そう簡単に変わるものではないと思います。
が、環境問題や原油高、少子高齢化などを背景に、クルマ離れの兆候があちこちに見えてくると、案外変わっていくのではないかと思わせる部分があります。おっしゃるように、以前と比べれば女性サイクリストの割合も増えた気がします。
ロードレースがブレークする素地も整いつつあるのかも知れません。日本人選手が活躍するようになれば、可能性は高いでしょうね。
(投稿間違いのようですので、1つ削除させていただきました。)
蹴球芯さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね。天候、特に風雨に弱いという自転車の弱点は否めません。日本のように1年の3分の1が雨というような気候では、ネックになるのは間違いないと思います。酷暑もそうでしょう。
なるほど空調服ですか。天候に対応した自転車が出来るか、乗る人間が対応するようなアイテムが売り出されるのか、あるいは街自体に激しい気象現象を緩和するような工夫がなされるのかは分かりませんが、そのへんを打破するような進化、発明を期待したいところです。多分に楽観がありますが、必要は発明の母と言いますし、進化していく可能性はあると思います。
あるいは、移動するのに、あまりに楽に、労力を使わず、その分エネルギーを使いすぎていることこそ問題なのであり、温暖化の原因だとするならば、多少暑いのも仕方がないと、人々の意識のほうが変化していくのかも知れません。
最近、自転車漫画もかなり増えましたね〜。
サクリファイス(これは小説の漫画家)とか弱虫ペダルとか。
他にもアオバ自転車、Odds、色々な意味で話題になったOverDrive等など……。
車の維持費は、やはりデカイです。加えて止まる気配を見せないガソリン高(原油は下がりつつあるみたいですが)
「車は減ったか?」という事に関していうと、都会では随分減ったという話を聞きますが、こちらド田舎では正直、「殆ど減ってない」という実感です。
恥ずかしながら(?)我が家も全員が車を所持しています。
一応クロスバイクや電動自転車は増え、市街地にサイクルロードの敷設実験が始まりつつありますが、まだまだといった感があります。
というかそもそも車道を走っている自転車がロードバイク以外存在しないという状態だったり。
densukeさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、今後そうした漫画を読んで育った世代が増えていくことを考えると、自転車のイメージから、自転車競技の人気、極端に言えば自転車文化まで、だんだんと変わっていくのは間違いないでしょう。
いえいえ、クルマの所有を恥じることはありません。私も所有しています。家庭の事情などもあって、やはりどうしても必要なものですから..。
物流なども含め、社会としてまだまだクルマが必要なのは事実ですし、地域差もあります。クルマを全て否定するのはナンセンスだと思います。使わなくて済む人は使わなければいいですし、使うからと言って批難されるものでもないでしょう。
ただ、無用なクルマの利用を控え、環境負荷を減らすために、自転車で済む移動を自転車にするのは好ましいと思います。環境を考え、使い方を考える、そんな人が増えつつあるのは確かなようですね。
※全角800字を越える場合は2回以上に分けて下さい。(書込ボタンを押す前に念のためコピーを)