August 02, 2008

自転車に対する見方を変える

今年の夏休みは、旅行先として韓国などに人気が集まっているそうです。


オリンピックで北京に行く人が多いのかと思えば、人気種目のチケット不足で観戦ツアーは不振と言います。ギョーザ中毒事件やチベット騒動などのイメージダウンに加え、四川大地震もあって、逆に中国への旅行者は4割弱という大幅な減少になる見込みと報道されています。

北京五輪観戦ツアーが不振ここのところの大幅な原油高で、いわゆる燃油サーチャージが高騰しているのが響き、全体でも、今年の夏休み期間中に海外へ出かける人は7%ほど落ち込む見通しです。そんな中で旅行者の人気は近場へ集中しており、韓国やグアム・サイパンなどは、前年を上回る見込みだそうです。

さてその韓国ですが、一般に自転車に乗る人が少ない国として知られています。韓国では自転車の台数よりクルマの保有台数が多いくらいです。ソウルなどへ行っても、街中ではほとんど自転車を見かけません。そもそも韓国は山がちの地形が多く、ソウルなどでも坂が多く自転車が不便だからという理由はあるでしょう。

道路も自転車向きになっていません。それだけモータリゼーションが進んでいるとも言えますが、韓国人はクルマの所有をステータスとして見る傾向が強く、自転車に乗ること自体を軽蔑するような雰囲気があり、「子供の乗りもの」などとして見下すような傾向が強いという話もよく聞きます。

燃油サーチャージが..日本と比べてクルマの運転が非常に荒いともよく言われます。渋滞も激しく、ドライバーのマナーもいいとは言えません。何より交通事故が非常に多い国で、交通事故の死亡者は人口当たりで世界一です。実際問題として、自転車には厳しい交通事情から、自転車に乗ろうとする人が少ないのも、安全面からすれば無理からぬ話のようです。

都市部に限らず、郊外でも同じような状況で、若者が公園などでBMXなどの自転車に乗っているほかは、一部観光用や河川沿いのサイクリングロードなどに限られています。通勤に使うことも稀で、通学は安全面から禁止されているところが多いと言います。ちょっと自転車で買い物に行くということもないようです。

このあたりの事情は、韓国中央日報の記事を見ても明らかです。少し長いですが引用します。


乗れば悪口を言われる自転車…道路の構造が問題

「市内で30分ほど自転車に乗ってみてください。自動車の運転手は悪口を言い、指を差し、自動車は割りこんでくる。自転車道路は段差と積置物でとうてい利用することができない」―−。

23日、ソウル貞洞フランシスコ会館。社団法人エネルギー分かち合いと平和」が主催した「ソウルの道路、自転車出退勤活性化は可能か」というシンポジウムでイ・ジョンサン緑環境運動委員長はこのように現実を皮肉った。この日シンポジウムは「どのようにすればソウル市を自転車で通うことができる都市にすることができるか」をめぐり、専門家たちが頭を突き合わせた場だった。

統計庁の2005年の調査資料によるとソウル市通勤・通学人口のうち、自転車利用人口は0.86%だ。全国平均割合(1.2%)より低い。オランダは27%、隣国日本も14%の人口が自転車で行っている。ヤン・ビョンイソウル大環境大学院教授は「自動車依存都市であるソウルはエネルギー難と二酸化炭素増加のため重大な岐路に立っている。自転車活性化対策で頭を悩ませなければならない時」と話した。

交通事故など危険を甘受
(会社員たちが自転車に乗ってソウル漢江路を通っている。ソウルは自転車専用道路が不足し、自転車で出退勤するためには交通事故など危険を甘受しなければならない。)

◇ソウル市自転車道路、本来の機能果たせず=シンポジウムではソウルの自転車に乗るための環境は最悪だという専門家たちの指摘が挙がった。ペク・ナムチョル韓国建設技術研究院博士は「ソウル市が建設中の自転車専用道路は問題だらけだ」と言った。「歩道に不法駐車の車が並び、市民たちは自転車道路から押されはみ出して歩いている。交差点に来ると自転車専用道路がなくなってどこに行けばいいのか困る。車・歩行者との衝突を阻む装置もなかった」と述べた。そして「道路の表面はデコボコで、自転車置き場には商人たちが品物を積んでおいていた」と付け加えた。

イ・ジョンサン緑環境運動委員長は「道路に出ることができない自転車は、レジャー・運動用になるほかない」と批判した。提案者キム・ギルナム・ソウル市緑交通チーム長は「これまでソウル市の自転車政策は施設の構築に合わせられてきた」と述べた。ソウル市の自転車道路は715キロで全道路延長の8%に達する。自転車が保管される約2500カ所で7万5500台の自転車を収容することができる。キムチーム長は「しかしこれまで自転車施設が主に河川と公園周辺に集中され、出退勤など実生活に利用しにくかった」と明らかにした。「昨年から“生活圏中心の自転車利用活性化施策”を推進し、住居密集地域に自転車施設を大幅に拡充し、車道を減らし、自転車専用道路を拡充している」と話した。

◇「自転車専用高架道路建設すべき」=ペク・ナムチョル博士は「自転車革命が必要だ」と言った。「パリも1980〜90年代、自転車道路建設を始めたが、ソウルのように多くの問題を抱えていた。しかし、2002年、市が自転車道路を“文明人の空間”と指称して大々的に車道に自転車道路を建設すると市民たちが自動車運行をあきらめ始めた」と説明した。ペク博士は「統計的に市民たちが自転車にたくさん乗るほど自転車事故が減った」と付け加えた。

このほか自転車専用高架道路開設を提案した。ソウル江南と江北住宅街で市内中心部を連結する自転車専用高架道路を作れば市内まで30〜40分なら自転車出退勤が可能だというのだ。米国ボストンのように女性が自転車に乗った後で利用することができる公衆シャワー室を作る必要があるという意見も出た。

キム・チャンミン・ソウル環境運動連合幹事は「外国のようにバスレーンを自転車も一緒に利用する案を検討しなければならない」と話す。また自転車がいちばん後に押されている道路交通法上、通行優先順位を変えて都心自動車進入制限区域を拡大しなければならないと主張した。 (中央日報 2008.07.24 )


ソウル市で、通学を含めた通勤に自転車を利用する人が0.86%という低さには驚きます。全国平均でも1.2%です。いかに韓国人が自転車に乗らないかがわかります。日本は14%とのことですが、通勤通学に限らなければ、もっと多くの人が使っているでしょう。

自転車保有台数で比べても、日本は人口の7割程度の台数があるのに対し、韓国の場合は人口の1割程度のレベルです。道路事情はあっても、ちょっとそこまで乗れば便利なこともあると思うのですが、日本に比べて利用率がかなり低くとどまっているのは間違いなさそうです。

記事にはありませんが、やはり両班意識などと呼ばれる韓国独特の伝統があって、自転車に乗るのを潔しとしない部分もあるのでしょう。ところが、そんな韓国でもここのところ、自転車事情を憂慮する声だけでなく、実際に自転車を見直す動きが広がっているようです。毎日新聞に載った記事から引用します。


原油高の自転車ブーム

「原油高時代の省エネ対策として、みんなで自転車通勤をしよう」

柳仁村(ユインチョン)文化体育観光相がこう呼びかけ、今月10日から自転車通勤を始めた。政府や公共機関が車のナンバー末尾による使用日の制限制度を導入したのに伴い、閣僚も専用公用車を使えない日が生じたのがきっかけ。

高級車所有がステータスとなりがちな韓国で、「閣僚の自転車通勤」は権威主義的価値がひっくり返るニュース。しかも俳優出身の柳氏は、格好もサマになっている。スポーツバイクに青い手袋、短パンで走る姿は、ポスターから出てきたみたいだ。乗っていた自転車が20万円近い「高級車」だったと判明し、インターネット掲示板で「やっぱり金持ち」と批判も出たが、自転車愛好家から「自転車はダサいというイメージを一新した」と評価する声が相次ぎ、論争は沈静化した。

韓国では自転車で通勤する人たちを「自出族(チャチュルジョク)」と呼び、03年から同好会活動が活発化した。現在、会員は15万人超。原油高を受け、ロッテのネットショッピングでは5月の自転車販売額が前年比の5倍にのぼるほど、自出族は急増しつつある。

私も自転車通勤をしようと赴任の時、日本から買い物カゴ付きの「ママチャリ」を持ってきたが、何度か挑戦して挫折した。自転車は車道を走ることになっているが、車は自転車に配慮なく走るので結構怖い。仕方なく歩道をゆっくり走ろうとしたが、歩行者はよけてくれないし、道路がデコボコだし、結局は自転車を引いて歩く時間がほとんど。日本留学経験者からも「自転車は危ない」と助言された。

ただ、今回の自出族ブームは、省エネ対策に動員された公務員も加わっているので、道路事情が変わる可能性がある。柳氏は自転車通勤初日「ソウル市内には、自転車走行が危ない場所もあった」と指摘した。地方自治体やソウル市内の区役所では、自転車専用道路整備の議論がさかんだ。大田(テジョン)市(韓国中西部)は最近、パリで昨年から始まった大規模な自転車レンタル制「ベリブ」を模範に、3年後に2万台の自転車レンタルを始めると発表。「自転車に優しい街づくり」を目指す動きも出ている。

自転車通勤を促す役所では、服装もカジュアルに変わった。原油高は韓国経済を苦しめているが、風通しのいい職場の雰囲気をつくる追い風になるかもしれない。(ソウル支局=堀山明子 毎日新聞 2008年7月28日 東京夕刊)


原油高もあって自転車通勤する人、「自出族」がブームになっているようです。自転車に乗るには非常に厳しい道路事情であるばかりか、自転車に対するネガティブなイメージも非常に強いという、日本に比べてはるかに不利な環境の中でも、自転車を活用しようという動きは大きくなってきているわけです。

海外旅行が敬遠されている今年の夏休み省エネのために、閣僚も公用車を使えない日をつくるというのは思い切った政策です。閣僚自ら自転車通勤を呼びかけるというのも、日本では考えにくいことですが、韓国でも原油価格高騰の中での省エネ対策、温暖化対策の一環としての意義が認められはじめているのでしょう。

原油高で自転車と言うと、なにか一時的にガソリンを節約するだけの話に聞こえますが、省エネ対策、温暖化対策は一時のことではありません。日本でも、自転車の活用を図る人が増えているのは、単なる原油高に対する生活防衛の手段のように考えている人が、まだ少なくありません。

しかし、世界の潮流として、温暖化対策として真剣に自転車を都市交通として活用する動きが拡大し始めています。全て代替できるとは言いませんが、自転車の利用が拡大する分、環境に貢献するのは間違いありません。市民に自転車の活用を促すために、いかに自転車に乗りやすい街にしていくかが問われています。

先進国では、なるべくクルマをやめて自転車にしようという動きが出て来ている中で、韓国と日本は遅れています。その理由の一つとして、どちらも、必ずしも自転車に対するイメージが良くないという点が共通しています。日本でも自転車ブームですが、まだまだ自転車に乗ることをネガティブに考える人は少なくありません。

復活する韓国の自転車産業日本の場合ママチャリが大部分ですが、ママチャリしか乗ったことがない人は、自転車の能力を低く見ていると思います。最寄り駅までならともかく、クルマに代わる都市交通になりえるとは思ってもみない人は少なくありません。クルマに乗るのが格好良く、自転車なんて貧乏くさいと考えるような風潮も残っています。

まず、自転車のイメージをもっと向上させることが必要なのかも知れません。クルマに乗りたいのを自転車で我慢するのではなく、クルマに乗るよりも自転車に乗りたいと考える人は実際増えていますが、もっと増えていかなければならないのでしょう。

ママチャリも実用的で悪くありませんが、どうしても「ダサい」と感じる人は少なくないと思います。その意味で、最近のブームで、街をスポーツバイクで颯爽と走行する人が増えているのはいい傾向です。特に若い世代にとっては、格好の良さは重要な要素です。スポーツバイクの魅力がもっと知られるといいと思います。

別に韓国の動向を見てどうこう言うわけではありませんが、あの韓国ですら変化が起こりつつあると見ることは出来ます。日本でも徐々に自転車を取り巻く環境に変化が起こりつつありますが、温暖化対策も含め、具体的な政策として、自転車に乗りやすい街を目指すべき時期に来ています。

そうした政策が実現するためにも、まず有権者の意識が変化していかなければなりません。クルマに乗るのを一律に悪いと言うつもりはありません。クルマも必要です。ただ、環境のことを考えて、自転車で済む移動は自転車にする人こそ格好がいいと感じる人を、もっと増やしていく必要がありそうです。



福田改造内閣人事では、谷垣禎一氏が国土交通大臣になりました。知る人ぞ知るサイクリストです。ちょっと期待したいところですね。

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