大多数の人が過小に評価する
先日、よく通る道で引っ越し作業をしているのに行き会いました。
この暑い時期の引っ越し作業はたいへんです。玉のような汗をかきながら作業しています。それを見て、ふと私が学生の頃、やはり暑い日に友人の引越しを手伝ったのを思い出しました。その当時でも引っ越し業者はありましたが、学生でお金がないのでレンタカーを借り、友達を集めて引っ越しをしようというのです。
私も頼まれて手伝いに行ったのですが、その時は、なんとトラックではなくリヤカーで引っ越すと言います。話を聞けば、引っ越し先は同じ沿線の一駅先、直線距離では1キロもありません。たまたまその友人は、最寄りの商店街にリヤカーを貸すという看板が出ているのをいつも見ていたので、リヤカーにしたのだそうです。
当時でもリヤカーは身近なものではありません。でも、レンタカーを借りるのと比べると破格の安さですし、燃料代もかかりません。距離も短いので確かにリヤカーでも済みそうです。中学や高校の体育倉庫にはリヤカーがあったような気がしますが、まともに扱った経験もなく、暑い中で引っ張るのは大変だなと思ったのを覚えています。
学生の一人暮らしでしたが、部屋には実家で使っていたというタンスやベッド、冷蔵庫にテーブル、机や洗濯機などけっこう大きな家具があります。これに本を詰めたダンポールなども満載して、果たしてリヤカーが動くだろうかとも思ったのですが、全くの杞憂でした。かなり重い荷物を満載にしても、意外にスムースに動きました。
リヤカーには車軸が一つしかありませんので、その軸の前後のバランスをとるのがコツです。前後どちらかに重量が偏って、リヤカーを地面と平行に保つ為に力を使うようだと、運搬はつらいものになります。しかし、荷物をバランス良く積めば、重さはタイヤが支えてくれるので、ほとんど横方向に移動させる力だけですみます。
いわゆる慣性の法則も働きますので、最初の動き出しこそ力を入れますが、動き出してしまえば小さな力でも動きます。リヤカー上の荷物を合わせれば、到底一人では持ち上げられないほどの重量があるわけですが、一人でも曳くことが出来ます。あらためてリヤカーの威力を実感しました。
幅も狭く小回りが利くので、すぐ近くまで入って行けますし、クルマが入れない商店街や公園を突っ切っていくことも出来ます。暑い日でしたので、積み下ろしには汗をかきましたが、思いのほかリヤカーでの運搬はラクでした。何往復かしましたが、友人たちとワイワイ言いながら、楽しいくらいでした。
ところで、私は、そんな経験があるので、
Bikes At Work 社 の考えには共感出来ます。すなわち、世の中の大部分の人は、自分自身の筋力を使ってモノを輸送するということに関して、きわめて過小に評価しているという主張です。適切な機材を使えば、普通クルマで運ぶような大きな荷物でも、人間の力だけで簡単に運べると言うのです。
例えば、リヤカーを使って荷物を運ぶと言うと、多くの人は歯を食いしばって引っ張るようなイメージがあるのではないでしょうか。ドラマや映画などに出てくるような場面では、重い荷物を人間の力だけで苦労しながら運ぶ象徴的なシーンであることが多く、重くてなかなか進まないように描かれたりします。
ところが、実際は拍子抜けするほど軽く引っ張れるものです。まあ、映画やドラマなどの演出のせいかどうかは別としても、大きな荷物を運ぶのはクルマが当たり前で、人力で運ぶなんて思いもよらない人、最初から無理、あるいは現実的でないと思っている人は多いのではないでしょうか。
Bikes At Work 社は、アメリカアイオワ州に本拠を構える「トレイラー」の会社です。日本ではなじみが薄いですが、ここでのトレイラーは、自転車の後ろに連結して使う荷車、荷物を運ぶためのカーゴのことを指します。形はスマートですが、要するにリヤカーと同じです。
私がリヤカーで経験したのと同じで、適切なトレイラーに適切に荷物を積めば、100kgを超えるような荷物でもワケなく運搬出来てしまうことを指摘しています。私も、ここの製品ではありませんが、トレイラーを自転車で牽引して走ったことがあります。思ったよりずっと軽快に走行できるものです。
でも、クルマを使えば汗もかかないし、わざわざ自転車で引っ張って運ぶこともないじゃないかと思う人も多いに違いありません。確かにクルマの機動力にはかないませんし、長距離や大量に運ぶ場合に適した方法ではありません。でも、自転車+トレイラーならではの利点もあります。
まず何と言っても、車両や機材の値段の安さです。燃料代もかかりません。駐車場代も不要ですし、自動車保険や税金や、その他諸々を考えれば、大幅にコストを低く抑えられます。そして無公害です。排気ガスも温暖化ガスも出しません。製造時のCO2排出量も小さく、環境にやさしいのは言うまでもありません。
クルマでは通れない場所でも通ることが出来ます。私たちが、引っ越しでリヤカーを曳いて商店街や公園を横切ったように、クルマより便利に使えるかも知れません。大きな公園や施設の構内などで、クルマが使えない場所でも活躍します。排気ガスを出さないので屋内でも使えます。
幅が狭く小回りも利きますし、使わない時も場所をとりません。立てかけたり分解したりして収納出来ます。もちろん充電も給油も不要なので、いつでもスタンバイオーケーです。そして、乗り手の健康にも貢献します。恒常的に自転車で荷物を運んでいる人に、滅多に肥満の人はいないのではないかと同社は指摘しています。
渋滞などで、場合によってはクルマより速いでしょうし、仕事で使うのならば、環境への配慮をアピールして、顧客に対するイメージアップにもつながります。今どきなら、これは見過ごせない点です。なんとなくイメージ的に、クルマで運んで来るより感謝されるかも知れません。
地球環境への配慮が求められる昨今、世界的な原油高も手伝って、今までクルマを使っていた企業が自転車を活用しようとする事例が増えています。ただ、営業などに使うならともかく、荷物を運ぶのに自転車は使えないと思いこんでいる企業関係者も多いのではないでしょうか。
都市部では最近、駐車違反の取り締まり強化もあって、宅配便業者が自転車とそれに連結するトレイラーを使っているのを見ることがあります。でも、小さな荷物ならともかく、うちの商品は無理だと最初からあきらめている商店主も多いかも知れません。
しかし、冷蔵庫とか家具などの大きくて重い荷物であっても、意外にトレイラーで運べるものです。近所に一台ずつ配送するくらいなら、実用上も問題ないでしょう。もちろん、クルマのニーズ全てを自転車とトレイラーで置き換えられるとは言いませんが、意外に利用範囲は広いと思います。
Bikes At Work 社のサイトには、勾配や自転車のギアとの関係で、どのくらいの重さが運べるものかなど、いろいろなデータが掲載されていて参考になります。日本にはまだ展開していないのが残念ですが、トレイラーのポテンシャルについて知ることが出来ます。
残念ながら日本では、自転車に連結するトレイラーがあまり普及していません。普通の自転車単体では、そう大きな荷物は運べませんから、運搬に自転車を使うという発想も沸かないでしょう。さらに、重い荷物を自転車で牽引するなんて困難だという先入観が多くの人にあるはずです。
実際は、同社が主張するように、人々が考えるよりずっと重い荷物が軽々と運べるわけです。このことは意外に盲点となっていて、自転車を運搬用に使うなんて考えもしない企業や商店なども多いでしょう。街で見かけるクルマも、もっと自転車に置き換え可能なのかも知れません。
4年もの間の苦労を思えば、勝っても負けても万感の思いがあるに違いありません。涙も流れるでしょう。インタビュアーも悪気はないんでしょうけど、また次、ロンドンを期待してます、なんて軽く言われても..というのはあるでしょうね。
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自転車で運べる物運べない物
リヤカーは中国などで多数見かけるが、実は日本生まれである。
昔からの自転車が活躍する街
日本独特の、言わばトレイラー付き自転車が昔は活躍していた。
自転車でもいいなら自転車を
政府は、もっと自転車とトレイラーを使う人を優遇すべきだと思う。
何が出来て何が出来ないのか
自転車とトレイラーを使えば、引っ越し荷物だって運べるわけだ。
Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。
Posted by cycleroad at 23:30│
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むかしはリヤカーを自転車で
ひくおじさんは
たくさんいましたよね。
やればふつうにできるんですよね。
坂がきつければ
電動自転車も重宝するはずです。
こうなると、自転車で運べない小荷物は
なくなってくる。
けっこうすごいかも、自転車は。
nob06さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、リヤカーはもっと使われていましたね。さお竹屋とか、豆腐屋なんかもリヤカーで売りに来ていましたし、焼き芋屋、屋台のラーメン屋とかおでん屋なんかもリヤカーを改造したものでした。今も一部は残っていると思いますが..。
豆腐屋なんて、今は滅多に売りに来ませんが、来ても軽トラックなどになってしまっていますね。
都市部で宅配便がリヤカーをひいている自転車も電動アシストのようです。昔の重い実用車に比べれば、曳くのもラクになったものです。
ええ、けっこうスゴイと思いますよ、自転車は。
ブログ村から着ました。
宅配業者が都市部で電動アシスト+リアカーで宅配を行っているのは以前TVで見ました。
自分の祖父は、煙突掃除の仕事でリアカーを実用自転車で引っ張っていたんですが、子供の頃に試しに自転車で引っ張ってみたら重くて重くて10mも走らないうちにギブアップしました(笑)
でも、電動アシストならなんとかなるかな。
ちなみに自分の住む街にはリアカーの専門店があります。タウンページには自転車店で登録されていますけど(苦笑)
ではでは。
Mr.ポテトヘッドさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も小さい頃の記憶には、大人の乗る実用車は大きくて重かった印象がありますね。実際、大人が乗っても、自転車自体も重く、今よりもずっと脚力が必要だったのだと思います。
今の自転車は、電動アシストはもちろんのこと、普通のものでも軽くなったり部品の精度なども向上して、かなり乗りやすくなっているのは間違いないところでしょう。
リヤカーの専門店ですか。それは今どき珍しいですね。リヤカーも最近はアルミ製など、軽くて良くなっているようですが、それでも使う人は限られるでしょう。地区で何か特別に需要でもあるのでしょうか。
確かにリヤカー専門なら、自転車店に分類せざるを得ないんでしょうね。
cycleroadさんこんにちは、fumimaro029と申します。
トレーラーでいろいろ牽いてます。
普段の外出から、スーパーやホームセンターへの買い物など、
妻と荷物を乗せてあちこち出かけています。
先日は事務所の引越しもトレーラーで行いました。
(初回は車で運び、残ったものをトレーラーで運んだので、全てではありませんでしたが)
昔はリアカーを牽いてる人がたくさんいた、
とのお話がありましたが、最近のは軽くて丈夫で
回転抵抗や空気抵抗も少ないですね。
自分の使っているシステムですと、計測はしたことは
ありませんが、総重量180kgで200ワットで20km/hくらい
で走れます。自転車側の技術の向上に加え、
舗装の技術の進歩なども目覚しく、これらも
後押ししていると思います。
fumimaro029さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おお、トレーラー牽いてらっしゃいますか!
HP拝見しましたが、荷物もたくさん積めるし、やはり便利そうですね。いろいろと工夫もなさっていて、牽いて走るのが楽しそうな様子も伝わってきます。トレーラーがあると、いろいろ活用も出来そうですね。
昔のリヤカーと、今の専用に設計されたトレーラーとでは、実際の牽き心地でも雲泥の差があるでしょう。それにしても180キロの重量でも時速20キロですか。思ったよりスピードが出ますね。速度的にも十分実用的だと思います。
確かに、最近のパーツの品質向上は、トレーラーの速さや乗り心地も確実にアップさせているのは間違いありません。なるほど、舗装の状態なんかも影響してくるでしょうね。
古い記事にコメントすいません。
私もリヤカーを使い始めたのですが、その有用性を実感しました。
環境問題にうるさい割に、結局は新しい車(エコカー)ばかりが注目されていますが、自転車ももっと見直されるべきでしょう。自転車に配慮した道路の整備や、法制度の整備がもっと進んでほしいものです。
パーツの取り扱いなどももっと増えてほしいと思います。連結器などが入手しにくく、結局自作しました。
http://calendarfilmsblg.o-oi.net/Entry/167/
Ankhbayarさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
リヤカーを牽引ですか。自作の連結器とはすごいですね。
エコカーの買い替え促進は経済政策です。本来の意味からは、自転車の活用がもっと検討されていいと私も思います。
道路の整備や法整備が追いついていないのもその通りで、先進国の中でも遅れていると思います。過去の経緯や自転車に対する間違った理解なども影響していますね。
古い記事でも、いっこうに構いませんので、お気軽にどうぞ。
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