紀元前2千5百年頃のバビロニアのものとする説、それ以前に出土した壺やマンモスの牙に刻まれていた線画が最古の地図だとする説、北イタリアで見つかった壁画にあるものだとする説、アナトリア(現在のトルコ)の人類最古の定住遺跡から見つかった村落図だとする説などあって、素人には判断がつきません。
フランス南西部のラスコー洞窟で見つかった有名な壁画が、実は地図の一種とする見方もあります。小学校か中学の教科書にこの壁画の写真が載っていたような記憶がありますが、こちらは、クロマニョン人が描いたとされるものですから、およそ3〜4万年前くらいのもので、上記の説に比べると圧倒的に古いことになります。
壁画には、当時のクロマニョン人の狩りの対象であったと思われる動物の絵が描かれていますが、その動物を仕留めた位置や数が記録されていると考えられるそうです。その当時から人類は土地と位置、つまり地図を意識していたのでしょう。いずれにせよ、地図のほうが文字よりずっと古かったことは間違いありません。
それから長いこと、人類の使う地図は壁や紙などに描かれたものだったわけですが、ここへ来て地図は大きく進化しています。今や地図はネットなどでも配信される時代であり、単なる静止画の地図だけでなく、電子地図として属性情報を持って必要に応じた地図を表示したり、ルートを検索したり、さまざまなことが出来るようになりました。
ただ眺めるだけであれば、紙の地図が見やすいこともありますが、電子地図ならではの機能も便利です。沿道の情報だけでなく、ルートの探索やその距離が簡単に計算出来たりします。距離から所要時間を推定出来るので、ツーリングの計画を立てるのにも役立ちます。カロリー計算してくれるものまであります。
私は自転車で出かける時、例えよく知っている場所へ行く場合でも、じっくり地図を眺めてから出かけることがあります。いつも通る道でなく、多少遠回りでも違う道を通ってみようとか、そう言えばこの店に最近行っていないから寄ってみようとか、いろいろ地図を見ながら考えるのが好きなのです。
すると、同じ目的地であっても、いくつもコースの候補が出来ます。距離は長くなるけど、信号が少ないのでかえって速い道とか、クルマの通りが少なくて走りやすい道、景色がよくて気持ちのいい道、ゆっくり沿道を眺めたり、寄り道するのにいい道など、ルートとその特徴が頭に入っている道もあります。
自転車の場合、必ずしも地図上の最短距離が速いとは限りません。アップダウンのきついルートもありますし、繁華街を抜けるようなコースは走りにくかったり、かえって時間がかかったりもするでしょう。多少時間が余計にかかっても、安全で快適に走れる道を選びたい人も多いと思います。
ただ、当然ながら、いくら住んでいる都市だったとしても、全ての道に通じているわけではありません。長年通っていても、気付かなかった快適な道が一本裏に走っているかも知れません。そんな時でも、サイクリスト向けの地図サービス、“
Ride The City”を使えば、自転車に最適な道が示されるはずです。
まだニューヨークだけしか検索出来ませんが、出発地と目的地を指定すると、安全性が高くてなるべく速い、お勧めのコースを提案してくれます。早速試してみましたが、私がニューヨークを自転車で走った、少ない経験から見る限りでは、きわめて妥当なルートに思えます。
この“Ride The City”、グーグルマップに、いわゆるマッシュアップされた形で実現しています。実は、このルート情報、3人のサイクリストによって提供されています。純粋にコンピュータが距離などのデータだけを元に計算したルートではないわけです。
最寄駅までなど、決まった範囲でしか自転車に乗らない人は別として、こうした情報は、サイクリストにとって非常にありがたいものではないでしょうか。日本でも是非、同様のサービスが出て来て欲しいものです。一部のサイクリストの善意を期待するわけにはいきませんが、データとしては自治体や警察が提供してもいい情報です。
クルマや歩行者との事故の起きやすい場所を回避させたり、交通量の多い場所を迂回させたり出来れば、事故の減少にも貢献するでしょう。クルマ、自転車、歩行者を同じ道の中で分離するのはスペース的に困難な場合でも、通行を幾つかの道に分散させることで分離すれば安全に、結果として速く通行できる可能性もあります。
事故防止以外に、自転車の活用を促す上でも有効な情報です。自転車の活用を支援し、不要なクルマの利用を減らすことは、温暖化ガス排出削減する上で、アイドリングストップなどよりよっぽど大きな効果が期待できるはずです。政府が推進してもいいくらいかも知れません。
もちろん、あらかじめ地図で最適なルートを確認してから出かける人ばかりではないと思います。出来れば走行中にも確認できればベターです。GPSを利用した自転車用のナビゲーションにデータを搭載出来れば役に立つでしょう。必要な場合に携帯でも確認できたら便利です。
もっと原始的ですが、街角に地図を掲示してもいいのではないでしょうか。例えば、信号で停止する停止線の脇くらいに、車道側に向けて、その交差点から各方向への、お勧めルートを簡潔に記載した地図を設置したらどうでしょう。前もって地図を見てルートを覚えなくても、現場で確認できれば便利だと思います。
いずれにせよ、自転車向けの安全で快適、速く走れるルートの情報をサイクリストに提供し、あるいはサイクリストが共有しあうことの意義は小さくありません。この“RideTheCity”のような考え方のサイト、もしくは公共サービスの充実を願いたいものです。
ラスコーの洞窟壁画も、もしかしたら、わざわざ壁に地図と獲物の情報を描く必要はなかったのかも知れません。自分の頭に入っていればいいことで、獲物の情報を独占しても良かったはずです。それでも地図に描いたのは、“Ride The City”と同じく、情報を共有しようとの思いからだったのかも知れません。
地図を見るのは好きなんですが、一方で方向感覚にはわりと自信があるので、知らない場所でも地図を持たずに出かけたりもします。さすがに途中で、方向がそれていくのに上手い道が見つけられず、コンビニで地図立ち読みしたりしてますけど..(笑)。
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